医療情報メディアのHubSpot活用|読者データの育成と広告主の営業管理

医療情報メディアのHubSpot活用|読者データの育成と広告主の営業管理
この記事の結論

医療情報メディアでは、読者の育成と広告主の営業を同じCRMで扱えます。ただし健康に関わる情報の扱いには注意が要ります。設計の考え方を解説します。

ブログ目次

記事の内容を、そのまま実務に落とし込みたい方向け

HubSpotゴールドパートナーのStartLinkが、HubSpot導入・AI活用・CRM整備・業務効率化までをまとめて支援しています。記事で気になったテーマを、そのまま相談ベースで整理できます。


医療情報メディアは、読者データの育成と広告主の営業という2つの業務を、同じCRMで扱えるのが強みですが、読者の健康に関わる情報の扱いだけは、最初に線を引いておく必要があります。 HubSpotで管理できるのは読者の属性別配信と広告主の商談で、記事の入稿や配信の管理は、CMS・編集システムの領域です。

この記事では、読者に医療・健康の情報を届け、製薬企業や医療関連企業から広告収入を得るメディアが、HubSpotで読者と広告主を管理するときの考え方を整理します。読者側の設計、広告主側の設計、情報の扱いの注意点の順に説明し、最後にHubSpotでは扱わない領域を表にします。

読者データがあるのに活用できていない、広告主への提案が担当者任せになっている、という運営会社に向けた内容です。


医療情報メディアの2つの顧客

医療情報メディアには、性質の違う2種類の顧客がいます。読者と、広告主です。

読者は「関心」と「立場」で見る

読者には、医師・看護師・薬剤師といった医療従事者、一般の生活者、患者やその家族など、さまざまな立場の人がいます。同じ記事を読んでも、知りたいことは立場によって違います。メディア側が読者を理解するうえでは、立場(職種)と関心領域の2つが基本の軸になります。

広告主は、読者の接点に価値を見出している

広告主は、製薬企業、医療機器メーカー、医療関連のサービス企業などです。広告主が求めているのは、「特定の立場の読者に、特定のテーマで接点を持つこと」です。そのため、メディア側が、どんな読者がどのテーマに関心を持っているかを説明できるほど、広告の提案は強くなります。

2つを別々に管理すると、強みが活かせない

読者のデータは配信ツール、広告主の商談は営業用の表計算、と分けていると、「この領域に関心のある読者は何人いるのか」という、広告の提案に必要な数字を、毎回手作業で集めることになります。読者の側のデータと広告主の側のデータを、同じCRMに置くことが、提案の質を高める近道です。


読者データの育成を設計する

まず、読者側の設計から整理します。

読者に持たせるプロパティー

プロパティー 型 使い道
職種・立場 選択(医師/看護師/薬剤師/その他の医療従事者/一般) 配信内容の出し分けの基本の軸
関心領域 選択(複数可) テーマ別の配信、広告主への説明
登録経路 選択 どの入口の読者が定着するかの分析
購読の種類 購読タイプ 連絡の種類ごとの受け取りの選択
最終の閲覧日 日付 休眠の読者の把握

プロパティーの作り方は、HubSpotプロパティ設計のベストプラクティスにまとめています。

登録の時点で聞く情報は、最小限にする

登録フォームで多くの項目を聞くと、離脱が増えます。登録時に聞くのは、職種・立場と関心領域の2つにとどめ、そのほかは、利用が進んでから段階的に聞くのが現実的です。HubSpotのフォームには、すでに回答済みの項目を次回から省略する「プログレッシブフィールド」があります(Professional以上で、従来型フォームが対象です。出典: HubSpotナレッジ「Use progressive fields in forms (legacy)」)。設計の考え方はHubSpotフォームの最適化ガイドで説明しています。

読者レコードに反映される、職種・関心領域などの項目(登録時に聞くのは、職種・立場と関心領域の2つ)

セグメントとワークフローで、配信を出し分ける

HubSpotのセグメント(リスト)は、条件に合う記録が自動で出入りする「アクティブ」と、保存時点の記録を固定する「スタティック」の2種類があり、全プランで利用できます(出典: HubSpotナレッジ「セグメントの作成」)。

「職種が看護師」かつ「関心領域が糖尿病」のような条件でアクティブなセグメントを作れば、その条件の読者に向けた配信の対象を、自動で保てます。ワークフローで、新規登録の読者に段階的にメールを届ける流れも組めます。ワークフローの利用にはProfessional以上が必要です(出典: HubSpotナレッジ「ワークフローの作成」)。配信の設計はHubSpotのEメール配信を完全攻略も参考になります。

配信の許可と、購読タイプの設計

マーケティングメールは、「マーケティングコンタクト」に設定したコンタクトにだけ送れます(出典: HubSpotナレッジ「マーケティングコンタクト」)。また、購読タイプを分けて作れば、「新着記事のお知らせ」「セミナー・イベントの案内」「パートナー企業からの情報」といった連絡の種類ごとに、読者が受け取るかどうかを選べます(出典: HubSpotナレッジ「Set up email subscription types」)。

特に、広告主の情報を読者に届けるタイプは、他の配信と分けておくことをおすすめします。読者にとって、編集の記事と広告主の情報は、受け取る意味が違うためです。特定電子メール法などの配信のルールは、特定電子メール法とはで整理しています。


健康に関わる情報の扱いに注意する

医療情報メディアの設計で、一般のメディアと決定的に違うのが、この部分です。

閲覧の履歴が、健康状態を示すことがある

「がんの治療に関する記事を繰り返し読んでいる」読者の閲覧履歴は、その人自身または身近な人の健康状態を推測させる情報です。個人情報保護法では、病歴などの個人情報は「要配慮個人情報」とされ、あらかじめ本人の同意を得ずに取得することは、原則として認められていません(出典: 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」)。

閲覧の履歴が、そのまま要配慮個人情報に当たるかどうかは、取得の目的や内容によって判断が分かれうるため、判断に迷う場合は専門家に確認してください。設計の上では、「疾患名」や「治療の状況」を、読者のプロパティーとして推測して持たないという方針が、安全側の選択です。関心領域は「領域(例: 生活習慣、メンタルヘルス)」の粒度にとどめ、特定の疾患を読者に紐づけない設計が現実的です。

HubSpotの「機密データ」機能の位置づけ

HubSpotには、健康・医療の情報などを保存するための「機密データ」の機能があります。利用できるのは、Marketing Hub、Sales Hub、Service Hub、Data Hub、Content Hub、Smart CRMのいずれかのEnterpriseで、いったん有効にすると無効にできません。さらに、機密データのプロパティーは、パーソナライゼーショントークンなど一部のツールで使えません(出典: HubSpotナレッジ「機密データの保存」)。

つまり、機密データにすると、配信への差し込みや出し分けには使えなくなるということです。メディアの目的である「読者の関心に合わせた配信」とは両立しにくいため、そもそも、配信に使う情報に健康状態を持ち込まないという設計が基本になります。個人情報の保護全般は、HubSpotのセキュリティ・個人情報保護法/GDPR対応ガイドにもまとめています。


広告主の営業管理を設計する

次に、広告主側の営業をHubSpotで管理する設計です。

広告主は会社、広告の案件は取引で持つ

広告主の企業は、HubSpotの会社(Company)で管理します。広告の掲載やタイアップ記事、セミナーの協賛といった個別の案件は、取引(Deal)として管理します。取引のパイプラインの設計は、HubSpotパイプラインの設計方法にまとめています。

取引のステージ案

ステージ 完了条件 記録しておくこと
引合 広告の目的と対象の読者を聞き取った 広告主の目的、狙う読者の立場・関心領域
企画・提案 メニューと提案を提示した 提案したメニュー、想定の掲載時期
社内確認(広告主側) 広告主の社内確認を待っている 確認の担当部署、確認の期限
内容の調整 掲載の内容と条件を詰めた 掲載内容の確認状況
成約 / 失注 申し込み、または見送りが決まった 失注理由
掲載後のフォロー 掲載結果を報告した 報告の日、次回の提案

「掲載後のフォロー」を、取引の最後のステージとして置いておくのがポイントです。掲載の結果を報告し、次の提案につなげる動きが、広告営業の継続に直結するためです。

広告のメニューは、商品として持つ

広告枠やタイアップの種類は、HubSpotの商品(Product)として登録しておくと、取引に明細として紐づけられます。メニューごとの成約件数を集計できるため、どのメニューが選ばれているかを把握できます。

読者データを、広告主への提案に活かす

読者側のプロパティーを活用すれば、「看護師で、糖尿病領域に関心のある読者」のセグメントの件数を、提案のたびにすぐ確認できます。これは、広告主に「どんな読者と接点を持てるか」を説明する、強い材料になります。

ただし、広告主に提供するのは、読者の個人を特定しない集計の数字にとどめます。読者の個人情報を広告主に渡すことは、別途、本人の同意を得た上でなければできません。同意の考え方は、個人情報保護委員会のQ&Aで、提供先を1社ずつ示すことまでは求められないが、想定される提供先の範囲や属性を示すことが望ましいとされています(出典: 個人情報保護委員会 Q&A)。

広告内容の審査は、HubSpotの外で行う

医薬品や医療機器の広告には、薬機法にもとづく規制があります。医薬品等の名称・効能・効果などについて虚偽・誇大な広告が禁止されているほか、承認前の医薬品等の広告も禁止されています。インターネット上の広告に当たるかどうかは個別の判断になるため、必ず薬事の担当者や専門家に確認してください(出典: 厚生労働省「医薬品医療機器等法に係る医薬品広告の規制と適正使用に関する注意喚起について」)。

広告の内容が基準に適合しているかの審査は、薬事の観点を持つ担当者や外部の確認の仕組みで行う領域です。HubSpotの取引には、「審査の状況(未提出/確認中/承認/要修正)」を記録するプロパティーを持たせ、進捗の見える化にとどめるのが現実的です。審査の判断そのものを、CRMに持たせることはできません。

広告主の取引ステージ|引合から掲載後のフォローまで(掲載後のフォローを最後のステージに置く)


HubSpotでできること・専用システムに任せること

医療情報メディアの事業は、編集と配信の仕組みが中核にあります。HubSpotは、読者と広告主の「関係」を管理するものとして位置づけます。

領域 HubSpotで管理できる 専用システムに任せる
読者の育成 職種・関心領域の管理、セグメント配信、購読タイプの管理 ―
広告主の営業 広告案件の取引、メニューの商品管理、掲載後のフォロー ―
読者データの集計 関心領域別・職種別の読者数、配信の反応 ―
審査の進捗 審査の状況の記録(見える化のみ) 薬事の確認・審査の仕組み(判断そのもの)
記事の入稿 ― CMS・編集システム(原稿の入稿、校正、承認の流れ)
記事の配信管理 ― CMS・編集システム(公開の予約、掲載面の管理)
広告の配信・計測 ― 広告配信システム(掲載面への配信、表示回数の計測)

線引きの考え方は、「人との関係をHubSpot、コンテンツの制作と配信を編集システム」です。広告の表示回数など、掲載の結果は、広告配信システムから数字を取り出し、取引のメモや報告書にまとめて管理する形が現実的です。


運用で見るべき数字

仕組みを整えたら、次の指標を確認します。レポートの作り方はHubSpotレポート完全ガイドに整理しています。

  • 職種別・関心領域別の読者数 ― 広告主への提案の基礎データです
  • 配信ごとの開封・クリックの傾向 ― どの領域の配信が読まれているかを見ます
  • 広告案件のステージ別の件数と、成約までの期間 ― 営業の停滞を探します
  • メニュー別の成約件数 ― 売れているメニューを把握します
  • 掲載後のフォローから次回の成約につながった割合 ― 継続の営業の効果を見ます

よくある質問

Q1. 読者の疾患名を、プロパティーに持たせてもよいですか

おすすめしません。疾患名や治療の状況は、要配慮個人情報に当たりうる情報で、取得には本人の同意が原則として必要になります。関心領域は「領域」の粒度にとどめ、特定の疾患を個人に紐づけない設計が、安全側の選択です。

Q2. 医療従事者かどうかを、どう確認しますか

登録時の自己申告で職種を選んでもらう方法が一般的です。資格の確認を厳密に行う場合は、専用の会員確認の仕組みが必要になります。HubSpotは、確認の結果を職種のプロパティーとして受け取り、配信の出し分けに使う役割になります。

Q3. 広告主に、読者のリストを渡せますか

読者の個人情報を渡すことは、本人の同意がなければできません。多くの場合、広告主への提供は、個人を特定しない集計の数字にとどめるのが現実的です。同意にもとづく提供を行う場合は、同意の内容と範囲を、プロパティーで記録してください。

Q4. 最初に整えるものは何ですか

読者側は職種と関心領域の2つのプロパティー、広告主側は取引のステージと失注理由です。この2つの側から整えると、読者の数字を広告の提案に使う流れが、早い段階で作れます。


まとめ

医療情報メディアでは、読者の育成と広告主の営業を同じCRMで扱うことで、提案の質を高められます。

  • 読者は、職種と関心領域を軸に管理します。 特定の疾患を個人に紐づけない設計が安全です
  • 購読タイプを分けます。 広告主の情報を届ける配信は、編集の配信と分けます
  • 広告主の営業は、掲載後のフォローまでを取引に含めます。 継続の提案につなげます
  • 記事の入稿・配信の管理、広告の審査の判断は、HubSpotに持ち込みません。 専用の仕組みに任せ、進捗だけを記録します

最初の一歩としては、読者の職種と関心領域のプロパティーを作り、既存の読者に値を入れていくことをおすすめします。

業界別の考え方は業界別HubSpot活用ガイドにまとめています。医療・ヘルスケア分野の活用はヘルスケア業界のHubSpot活用も参考になります。自社のメディアに合わせた設計を相談したい場合は、StartLinkの無料相談をご利用ください。


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著者情報

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今枝 拓海 / Takumi Imaeda

株式会社StartLink 代表取締役。累計150社以上のHubSpotプロジェクト支援実績を持ち、Claude CodeやHubSpotを軸にしたAI活用支援・経営基盤AXのコンサルティング事業を展開。
HubSpotのトップパートナー企業や大手人材グループにて、エンタープライズCRM戦略策定・AI戦略ディレクションを経験した後、StartLinkを創業。現在はCRM×AIエージェントによる経営管理支援を専門とする。