CRMを活用したデータドリブン経営|HubSpotで経営指標を可視化し意思決定を加速

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「売上データはあるが、経営判断に活かせていない」「各部門がバラバラのツールでデータを管理していて、全社の数字を横断的に見られない」——経営層やマネジメント層がこうした課題を抱えるケースは少なくありません。データは蓄積されているのに、意思決定のスピードと精度が上がらないというジレンマです。

データドリブン経営とは、勘や経験だけに頼らず、CRMをはじめとするシステムに蓄積されたデータを根拠に経営判断を行うマネジメント手法です。HubSpotのようなCRMを「経営情報基盤(Single Source of Truth)」として活用することで、営業・マーケティング・カスタマーサクセスの横断データをリアルタイムで可視化し、迅速な意思決定を実現できます。

この記事では、CRMを活用したデータドリブン経営の実践方法を解説します。なぜ今データドリブン経営が求められているのか、CRMが果たすべき役割、経営層が追うべきKPIの設計、HubSpotで経営ダッシュボードを構築する方法まで、管理者視点で必要な知識を体系的にお伝えします。

この記事でわかること

  • データドリブン経営の定義と従来型経営との違い
  • CRMが「経営のSingle Source of Truth」になる理由
  • 経営層が追うべき主要KPI・指標の体系
  • HubSpotで経営ダッシュボードを構築する具体的手順
  • 営業・マーケ・CS横断データの統合と活用方法
  • データに基づく意思決定フレームワーク

データドリブン経営とは何か

定義と従来型経営との違い

データドリブン経営とは、事業運営のあらゆる意思決定プロセスにおいて、定量データを根拠として判断を下すマネジメントアプローチです。「なんとなく調子がいい」「ベテラン社員の感覚では」といった定性的・属人的な判断ではなく、「数字が何を示しているか」に基づいて行動を決めます。

項目 従来型(経験・勘ベース) データドリブン経営
意思決定の根拠 経営者・管理者の経験や直感 CRM等に蓄積されたデータ
判断のスピード 会議での合意形成に時間がかかる リアルタイムデータで即時判断
再現性 属人的(判断者が変わると結果が変わる) プロセス化・標準化が可能
振り返り 結果の因果関係が曖昧 データで因果関係を検証可能
スケーラビリティ 組織拡大に伴い限界が来る 仕組みで拡張可能

誤解されがちですが、データドリブン経営は「人間の判断を排除する」ことではありません。データが示す事実をベースに、最終的な判断は経営者が行うのは変わりません。ただし、判断の前提となる「事実の把握」をデータで行うことで、判断のスピードと精度が向上します。

なぜ今、データドリブン経営が必要なのか

データドリブン経営が求められる背景には、ビジネス環境の変化があります。

1. 市場変化のスピードが加速している

デジタル化の進展により、顧客の行動パターンや競合環境が以前よりはるかに速く変化しています。四半期や半期に一度のレビューでは変化への対応が間に合わず、月次・週次・場合によっては日次でのデータ確認が求められます。

2. リモートワークの定着で「現場の肌感覚」が得にくくなった

同じオフィスにいれば、営業担当の表情や会話から組織の状況を感じ取れました。しかし、リモートワークが普及した現在、定量データなしに組織の状態を把握することは困難です。CRMのデータが、かつての「フロアの空気感」に代わる情報源になっています。

3. 人材の流動性が高まっている

特定の人物の記憶や経験に依存した経営は、その人物が退職するとノウハウが失われるリスクを孕んでいます。データとプロセスに基づく経営は、人材の入れ替わりに対する耐性が高く、組織としての継続性を担保します。

4. 投資家・ステークホルダーからの説明責任が求められている

資金調達やM&Aの場面では、「感覚的にうまくいっている」では通用しません。KPIの推移、ユニットエコノミクス、フォーキャストの精度といった定量データに基づいた説明が求められます。

CRMが「経営のSingle Source of Truth」になる理由

Single Source of Truth(SSOT)とは

Single Source of Truth(SSOT)とは、「組織内のすべての関係者が参照すべき唯一の正しいデータソース」を意味する概念です。営業がExcelで管理している数字、マーケティングがGoogleスプレッドシートで集計している数字、経理が会計ソフトから出力している数字——これらが微妙に食い違っている状態は、多くの企業で発生しています。

SSOTの不在がもたらす問題は深刻です。

  • 数字の照合に時間がかかる: 会議の度に「どの数字が正しいのか」を確認する作業が発生する
  • 意思決定が遅れる: 正しいデータの確認に時間を要するため、判断のタイミングを逸する
  • 部門間の信頼が損なわれる: 部門ごとに異なる数字を主張すると、協力関係が崩れる
  • 経営判断の精度が下がる: 不正確なデータに基づく判断は、当然ながら精度が低い

CRMがSSOTに適している理由

CRM(Customer Relationship Management)がSSOTの中心になる理由は、CRMが「顧客とのすべての接点」を記録するプラットフォームだからです。BtoB企業のビジネスプロセスは、突き詰めると「見込み顧客の獲得 → 商談 → 受注 → サービス提供 → 継続・拡大」という顧客ライフサイクルに集約されます。このライフサイクル全体のデータを一元管理するのがCRMの役割です。

HubSpotのようなオールインワンCRMは、以下のデータを統合的に管理します。

データカテゴリ 具体的な内容
マーケティングデータ リード獲得チャネル、コンテンツのエンゲージメント、キャンペーンのROI
営業データ パイプラインの金額・ステージ、商談の進捗、受注/失注の理由
カスタマーサクセスデータ チケットの発生状況、CSAT/NPS、チャーン率
活動データ メール、電話、ミーティングなど各担当者の活動履歴
収益データ MRR/ARR、LTV、顧客別の収益推移

これらのデータが1つのプラットフォームに集約されることで、経営層は「マーケティングがリードを何件獲得し、営業がそのうち何件を商談化し、何件を受注し、CSが何件を維持しているか」というレベニューファネル全体の流れを、1つのダッシュボードで確認できます。

CRMデータだけでは不十分な領域

CRMが万能なわけではありません。経営に必要なデータの中で、CRM単体ではカバーしきれない領域もあります。

  • 財務データ: P/L、B/S、キャッシュフローは会計ソフト(freee、マネーフォワードなど)で管理
  • 人事データ: 従業員の稼働状況、採用、評価は人事システムで管理
  • プロダクトデータ: 製品の利用状況、エラー率は分析ツール(Mixpanel、Amplitudeなど)で管理

これらのデータとCRMを連携させることで、より包括的なデータドリブン経営が実現します。HubSpotはAPI連携やData Hub機能を通じて外部システムとのデータ連携が可能であり、CRMを中心としたデータエコシステムを構築できます。

経営層が追うべき主要KPI・指標の体系

データドリブン経営を実践するには、「何のデータを追うか」の設計が重要です。すべてのデータを見ようとすると情報過多になり、逆に意思決定が遅くなります。経営層が注視すべき指標を体系的に整理しましょう。

レベニュー指標(売上・収益)

最も基本的な経営指標です。CRMの取引データから算出します。

指標 定義 HubSpotでの算出方法
月間売上(MRR) 月間の経常収益 取引のクローズ金額を月別に集計
年間売上(ARR) 年間の経常収益 MRR × 12(サブスクの場合)
新規売上 新規顧客からの売上 コンタクトのライフサイクルが「顧客」になった取引の金額
既存売上(拡大) 既存顧客からのアップセル・クロスセル 既存顧客に紐づく追加取引の金額
粗利率 売上に対する粗利の割合 カスタムプロパティで原価を入力し、計算フィールドで算出

パイプライン指標(将来の売上見通し)

パイプラインの健全性は、将来の売上を予測する上で欠かせない指標です。

指標 定義 目安
パイプライン総額 進行中の取引の合計金額 月間目標の3〜4倍以上
加重パイプライン 各取引の金額 × 受注確度の合計 月間目標の1.5倍以上
パイプライン速度 商談の進行スピード(日数) 短いほど良い
ステージ別転換率 各ステージの次ステージへの移行率 ステージごとに基準を設定
平均取引サイクル 商談開始から受注までの平均日数 業種による

パイプライン速度(Pipeline Velocity) は特に重要な指標です。以下の計算式で算出します。

パイプライン速度 = (商談数 × 平均取引単価 × 成約率)÷ 平均取引サイクル日数

この数値は「1日あたりどの程度の収益が見込めるか」を示す指標であり、パイプラインの健全性を総合的に評価できます。

マーケティング指標

マーケティング部門のパフォーマンスを測定する指標です。

指標 定義
リード獲得数 新規に獲得したコンタクト数
MQL数 マーケティング部門が認定した質の高いリード数
MQL→SQL転換率 MQLが営業認定リード(SQL)に転換した割合
CPL(Cost Per Lead) リード1件あたりの獲得コスト
CAC(Customer Acquisition Cost) 顧客1社あたりの獲得コスト
チャネル別ROI 各マーケティング施策の投資対効果

カスタマーサクセス指標

既存顧客の維持・拡大を測定する指標です。SaaS企業やサブスクリプションモデルの企業では特に重要です。

指標 定義
チャーン率(解約率) 一定期間内に解約した顧客の割合
NPS(Net Promoter Score) 顧客の推奨度
LTV(顧客生涯価値) 顧客が生涯にわたってもたらす収益の総額
LTV/CAC比率 顧客生涯価値 ÷ 獲得コスト。3倍以上が健全
CSAT(顧客満足度) 個別のインタラクションに対する満足度

ユニットエコノミクス

ビジネスモデルの持続可能性を判断するための指標群です。経営判断や投資判断の場面で特に重視されます。

  • LTV/CAC比率: 顧客から得られる収益が獲得コストの何倍かを示す。3倍以上が健全な基準
  • CACの回収期間: 顧客獲得にかけたコストを何か月で回収できるか。12か月以内が目安
  • NDR(Net Dollar Retention): 既存顧客からの収益の純増減率。100%以上なら、解約を上回るアップセルが発生している

HubSpotで経営ダッシュボードを構築する

ダッシュボード設計の原則

経営ダッシュボードの設計で重要なのは、「情報の優先順位」を明確にすることです。すべての指標を1画面に詰め込むのではなく、レイヤーに分けて構成します。

レイヤー1: エグゼクティブサマリー(経営会議用)

最重要のKPIを5〜7個に絞り込み、ひと目で事業の状態がわかるダッシュボード。月間売上、パイプライン総額、新規リード数、成約率、チャーン率など。

レイヤー2: 部門別ダッシュボード(部門長用)

各部門の詳細KPIを表示するダッシュボード。マーケティング、営業、CSの各部門に1つずつ作成。

レイヤー3: 個人別ダッシュボード(担当者用)

個人の目標達成状況と活動量を表示するダッシュボード。日常業務のセルフモニタリングに使用。

エグゼクティブダッシュボードの構成例

HubSpotのレポート機能を使って、経営層向けのダッシュボードを構築する際の推奨構成を紹介します。

上段(最重要指標):

レポート タイプ 内容
月間売上(目標vs実績) 数値 + 棒グラフ 当月の売上目標と実績の比較
パイプライン総額 数値 進行中の全取引の合計金額
フォーキャスト 数値 AI予測または手動フォーキャストの着地予測

中段(ファネル指標):

レポート タイプ 内容
リード→MQL→SQL→受注ファネル ファネルチャート 各ステージの転換率を可視化
パイプラインステージ別金額 横棒グラフ 各ステージに滞留している金額の分布
新規商談の推移 折れ線グラフ 週別・月別の新規商談数の推移

下段(効率・品質指標):

レポート タイプ 内容
成約率の推移 折れ線グラフ 月別の成約率(受注数 ÷ 商談数)
平均取引単価 数値 受注1件あたりの平均金額
チャーン率 数値 当月の顧客解約率

ダッシュボード作成の具体的手順

HubSpotでダッシュボードを作成する手順を解説します。

ステップ1: ダッシュボードの作成

  1. HubSpotアカウントから 「レポート」>「ダッシュボード」 にアクセスします
  2. 右上の 「ダッシュボードを作成」 をクリックします
  3. テンプレートから選択するか、「空のダッシュボード」を選択します
  4. ダッシュボード名を入力します(例: 「経営ダッシュボード」)
  5. アクセス権限を設定します(経営層のみ、全社公開など)

ステップ2: レポートの作成と追加

  1. ダッシュボード上の 「レポートを追加」 をクリックします
  2. 「カスタムレポートビルダー」 を選択します
  3. データソース(コンタクト、取引、チケットなど)を選択します
  4. 表示する指標(金額の合計、件数、平均値など)を設定します
  5. フィルター条件(期間、パイプライン、チーム等)を設定します
  6. グラフの種類を選択して保存します

ステップ3: レイアウトの調整

  1. レポートのサイズをドラッグで調整します
  2. 重要度の高いレポートを上部に配置します
  3. 関連するレポートをグルーピングします

カスタムレポートの活用

標準レポートだけでは表現できない指標は、カスタムレポートビルダーで作成します。

よく使うカスタムレポートの例:

1. チャネル別のパイプライン貢献レポート:

マーケティング施策ごとに、生成されたパイプライン金額と受注金額を集計するレポート。「どのチャネルが最も売上に貢献しているか」を可視化します。データソースとして取引とコンタクトを結合し、コンタクトの「元のソース」プロパティでグルーピングします。

2. 営業担当別のアクティビティ効率レポート:

各営業担当の活動量(メール、電話、ミーティング)と成果(受注件数、受注金額)を対比するレポート。「効率よく成果を上げている担当者」と「活動量は多いが成果に結びついていない担当者」を識別できます。

3. 顧客コホート分析レポート:

顧客を獲得月ごとにグルーピングし、時間の経過に伴う収益変化やチャーン率を分析するレポート。「どの時期に獲得した顧客が最もLTVが高いか」を把握できます。

営業・マーケ・CS横断データの統合と活用

部門間データの分断が意思決定を遅らせる

多くの企業では、営業がSFA、マーケティングがMAツール、カスタマーサクセスがチケット管理ツールを個別に運用しています。この状態では、以下のような問題が発生します。

  • マーケティングが獲得したリードが営業で商談化したかどうかがわからない
  • 営業の失注理由がマーケティングのコンテンツ改善に活かされない
  • カスタマーサクセスが対応している顧客の問題が営業のアップセル活動に反映されない
  • 経営層がレベニューファネル全体を俯瞰できない

HubSpotによる統合の仕組み

HubSpotはCRM・MA・SFA・サービスデスクが一体化したプラットフォームであるため、部門横断のデータ統合が構造的に実現されています。

コンタクトレコードの一元管理:

1人のコンタクトに対して、マーケティングの接触履歴(メール開封、コンテンツダウンロード)、営業の商談履歴(メール、電話、ミーティング)、CSのサポート履歴(チケット、チャット)がすべて1つのレコードに集約されます。

アトリビューションレポート:

「最初にブログ記事を読んで → ウェビナーに参加して → 営業と商談して → 受注に至った」というジャーニー全体を通じて、どのタッチポイントが最も受注に貢献したかを分析できます。マーケティング施策の真のROIを把握するために不可欠な機能です。

レベニューファネルの可視化:

リード → MQL → SQL → 商談 → 受注 → 継続/拡大という一連のファネルを、部門の壁を越えて可視化できます。各ステージの転換率を改善することで、ファネル全体の効率を向上させるアプローチが可能です。

部門横断データの活用例

例1: マーケティングROIの正確な測定

従来のマーケティングROI測定は「リード獲得数」や「MQL数」で止まりがちでした。しかし、CRMで営業データと連携することで、「マーケティング施策Aから獲得したリードは、最終的に1,200万円の受注につながった」という追跡が可能になります。CPL(リード獲得単価)だけでなく、パイプライン貢献額や受注貢献額でマーケティングを評価できるようになります。

例2: チャーン予兆の早期検出

カスタマーサクセスのチケットデータと営業データを組み合わせることで、チャーンの予兆を早期に検出できます。「サポートチケットの発行頻度が増加している」「利用頻度が低下している」「契約更新のミーティングが設定されていない」といったシグナルを総合的に判断し、リスクのある顧客を特定します。

例3: アップセル・クロスセルの機会発見

CSのサポートデータから「この顧客は上位プランの機能について問い合わせている」というインサイトを営業に共有し、アップセルのタイミングを逃さない仕組みを作ることができます。HubSpotのワークフローで「特定のチケットカテゴリが発生した場合に営業担当に通知」という自動化を設定すれば、人手をかけずにこの連携が実現します。

データに基づく意思決定フレームワーク

OODAループ——データドリブン経営の意思決定モデル

データドリブン経営における意思決定は、OODAループ(Observe-Orient-Decide-Act)のフレームワークで整理できます。

Observe(観察):

CRMのダッシュボードでリアルタイムのデータを確認する。「今月の売上進捗は目標の60%」「パイプラインが先月比で20%減少」といった事実を把握する段階。

Orient(状況判断):

観察したデータの意味を解釈する。「パイプラインの減少は、新規リード獲得の鈍化が原因。マーケティングのウェビナー施策が一時中断していた影響」というように、データの因果関係を分析する段階。

Decide(意思決定):

分析に基づいて具体的なアクションを決定する。「来月に臨時ウェビナーを2回開催し、リード獲得を加速。同時に、営業チームにパイプライン追加のための短期集中コール施策を実施」という判断を下す段階。

Act(実行):

決定したアクションを実行し、その結果を再びデータとして観察する。OODAの最初に戻り、サイクルを回し続ける。

このサイクルを高速で回すことがデータドリブン経営の本質です。CRMのダッシュボードがリアルタイムで更新されることにより、OODAループのスピードが格段に上がります。

経営会議でのデータ活用——「数字で語る」文化の醸成

データドリブン経営を実践するには、経営会議のあり方を変える必要があります。

従来の経営会議:

  • 各部門が独自のExcel資料を準備し、プレゼン形式で報告
  • 資料の準備に時間がかかり、報告時点でデータが古くなっている
  • 「先月は頑張りました」「来月は大丈夫だと思います」といった定性的な報告が中心
  • 質疑応答で「その数字はどこから来ているのか」の確認に時間を取られる

データドリブンな経営会議:

  • HubSpotのダッシュボードを画面共有し、リアルタイムデータをベースに議論
  • 資料準備は不要(ダッシュボードが常に最新のデータを反映)
  • 「成約率が前月比5%低下しています。原因は提案ステージでの滞留日数が30%増加していることです」といった定量的な報告
  • 「ではどうするか」のアクション議論に時間を集中できる

この変革は一朝一夕には実現しません。段階的に「数字で語る」文化を醸成していく必要があります。

ステップ1: まずは経営ダッシュボードを構築し、経営会議の冒頭5分で確認する習慣を作る

ステップ2: 各部門の報告をダッシュボードベースに切り替え、定性報告は補足情報とする

ステップ3: KPIの異常値を検出するアラートを設定し、会議を待たずに対応する仕組みを整える

ステップ4: データに基づくアクション → 結果の検証 → 次のアクション、というサイクルを組織文化として定着させる

意思決定のバイアスとデータによる補正

人間の意思決定にはさまざまなバイアスが潜んでいます。データドリブン経営は、こうしたバイアスを可視化し、補正する役割も果たします。

確証バイアス:

自分の仮説を支持する情報ばかりを探し、反証する情報を無視する傾向。「この施策はうまくいくはずだ」と思い込み、不都合なデータを見て見ぬふりをするケースです。ダッシュボードで客観的なデータを全員が閲覧できる環境を作ることで、このバイアスを軽減できます。

楽観バイアス:

将来の見通しを実際より楽観的に見積もる傾向。営業のフォーキャストでよく見られます。AI売上予測を併用することで、人間の楽観バイアスを客観データで補正できます。

アンカリングバイアス:

最初に提示された情報に引きずられる傾向。「前年同月比」に過度にアンカリングされ、市場環境の変化を見逃すケースがあります。複数の指標をダッシュボードに並べて表示することで、1つの数字だけに囚われない判断を促せます。

データドリブン経営を定着させるための組織づくり

データリテラシーの向上

経営ダッシュボードを構築しても、組織のメンバーがデータを「読める」ようにならなければ意味がありません。

データリテラシー向上のための施策:

  • HubSpotの基本操作トレーニング(レポートの閲覧方法、フィルターの使い方)
  • KPIの定義書の整備(各指標の計算式、参照すべきデータソース、基準値)
  • 週次ミーティングでのダッシュボードレビュー(OJTとしての効果)
  • データの読み方に関するナレッジ共有(「この数字が下がったら何を疑うべきか」)

データガバナンスの整備

データの品質を組織的に維持するためのルールと体制を整備します。

データ入力ルール:

  • 必須プロパティの定義(取引の場合: 金額、クローズ日、パイプライン、ステージは必須)
  • 入力タイミングの規定(商談後24時間以内にCRM更新)
  • 値の統一(業種名、ステージ名などのドロップダウン値を統一)

データクレンジングの定期実施:

  • 月次: 重複コンタクトのマージ、未更新の取引のレビュー
  • 四半期: プロパティの入力率チェック、不要なプロパティの整理
  • 年次: データ全体の棚卸し、プロパティ体系の見直し

アクセス権限の設定:

HubSpotのチーム機能とアクセス権限設定を活用し、各ユーザーが適切な範囲のデータにアクセスできるよう制御します。経営ダッシュボードは経営層のみ、部門別ダッシュボードは各部門のメンバーに限定するといった設計です。

段階的な推進ロードマップ

データドリブン経営の実現は、一気に完成させるものではなく、段階的に進めるプロジェクトです。

Phase 1(1-3か月): 基盤構築

  • CRMのデータ整備(プロパティ設計、既存データの移行・クレンジング)
  • 基本的なダッシュボード(売上、パイプライン、リード数)の構築
  • 主要KPIの定義と目標値の設定

Phase 2(3-6か月): 運用定着

  • 経営会議でのダッシュボード活用の開始
  • 部門別ダッシュボードの構築と各部門での活用
  • データ入力ルールの徹底とモニタリング

Phase 3(6-12か月): 高度化

  • AI予測分析機能の活用開始
  • 部門横断レポートの充実(アトリビューション、ファネル分析)
  • 外部システムとのデータ連携

Phase 4(12か月以降): 文化定着

  • データに基づく意思決定が組織文化として定着
  • KPIの自動アラートと迅速な対応サイクルの確立
  • 高度な分析(コホート分析、予測モデル)の活用

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まとめ

CRMを活用したデータドリブン経営は、単なるツール導入ではなく、組織の意思決定プロセスそのものを変革する取り組みです。本記事の要点を整理します。

  • データドリブン経営は、勘や経験ではなくデータを根拠に経営判断を行うアプローチ。市場変化の加速やリモートワークの定着により、その重要性が増している
  • CRMをSingle Source of Truthとして位置づけ、営業・マーケ・CSの横断データを一元管理することが出発点
  • 経営層が追うべきKPIは、レベニュー指標、パイプライン指標、マーケティング指標、CS指標、ユニットエコノミクスの5つの体系で整理する
  • HubSpotの経営ダッシュボードは、エグゼクティブサマリー → 部門別 → 個人別の3レイヤーで設計し、情報の優先順位を明確にする
  • 意思決定フレームワーク(OODAループ) を高速で回すことがデータドリブン経営の本質であり、CRMのリアルタイムデータがそれを支える
  • 組織文化の変革が不可欠。データリテラシーの向上、データガバナンスの整備、段階的な推進ロードマップに沿った実行が成功の鍵

まずは経営会議で使用するダッシュボードを1つ構築するところから始め、「数字で語る」文化を段階的に醸成していくことをおすすめします。

よくある質問(FAQ)

Q1: データドリブン経営にはHubSpotのどのプランが必要ですか?

基本的なダッシュボードとレポートは無料CRMプランでも作成できます。ただし、カスタムレポートビルダー(複数オブジェクトの結合レポート)、アトリビューションレポート、フォーキャスト機能などを活用するには、Sales Hub Professional以上またはMarketing Hub Professional以上が必要です。経営ダッシュボードの本格的な活用を目指す場合は、Professional以上のプランをおすすめします。

Q2: CRMのデータが正確でない場合、ダッシュボードの信頼性はどう担保しますか?

データの正確性はダッシュボードの信頼性の前提条件です。まずはデータ入力のルールを明文化し、必須プロパティをワークフローで制御する仕組みを整えます。加えて、月次でデータクレンジング(重複排除、入力率チェック、未更新レコードの洗い出し)を実施します。最初から完璧なデータを目指すのではなく、「入力率80%以上」など現実的な基準を設け、段階的に改善していくアプローチが有効です。

Q3: 小規模な企業(従業員10名未満)でもデータドリブン経営は実践できますか?

はい、むしろ小規模企業のほうがデータドリブン経営の導入ハードルは低いと言えます。関係者が少ないためデータ入力ルールの徹底が容易で、経営者自身がダッシュボードを直接確認して意思決定できます。HubSpotの無料CRMから始めて、売上推移、パイプライン状況、リード獲得数の3つの指標を追跡するだけでも、勘に頼った経営からの脱却が可能です。

Q4: 経営ダッシュボードに表示するKPIが多すぎてかえって見づらいです。どう絞り込めばいいですか?

経営ダッシュボードのKPIは5〜7個に絞ることを推奨します。絞り込みの基準は「このKPIが悪化したら、経営として即座にアクションが必要か」です。Yes なら採用、No なら部門別ダッシュボードに移します。また、ダッシュボードをレイヤー分けし、経営層向け(最重要KPI)、部門長向け(部門KPI)、担当者向け(個人KPI)と階層化することで、情報の洪水を防げます。

Q5: 他のBIツール(Tableau、Looker Studioなど)とHubSpotのダッシュボード、どちらを使うべきですか?

両者は補完関係にあります。HubSpotのダッシュボードは、CRMデータの分析に最適化されており、設定が容易で日常的なモニタリングに適しています。一方、Tableau等のBIツールは、HubSpot以外のデータソース(会計ソフト、人事システム、プロダクト分析ツールなど)を統合した高度なクロスデータ分析に強みがあります。CRMデータの分析はHubSpot内で完結させ、全社横断の経営分析が必要な場合にBIツールを併用する、という使い分けが現実的です。


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著者情報

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今枝 拓海 / Takumi Imaeda

株式会社StartLinkの代表取締役。
HubSpotのトップパートナーである株式会社H&Kにて、HubSpotのCRM戦略/設計/構築を軸として、 国内・外資系エンタープライズ企業へコンサルティング支援を実施。 パーソルホールティングス株式会社にて、大規模CRM/SFA戦略の策定・PERSOLグループ横断のグループAI戦略/企画/開発ディレクションの業務を遂行経験あり。
株式会社StartLinkでは、累計100社以上のHubSpotプロジェクト実績を元にHubSpot×AIを軸にした経営基盤DXのコンサルティング事業を展開。