M&A仲介のHubSpot構築ガイド|買い手候補オブジェクトで案件×買い手の進捗を管理する

  • 2026年10月20日
  • 最終更新: 2026年10月20日
M&A仲介のHubSpot構築ガイド:売り案件・買い手候補・買い手企業の構成
この記事の結論

HubSpot業界別ナレッジ|M&A仲介・FA M&A仲介のHubSpotは、「売り案件」と「買い手企業」のあいだに、組み合わせごとの進捗を持つ「買い手候補」を置いて設計します。NDA・IM開示・意向表明を、案件ごと・買い手ごとに取りこぼさず追える形が中心です。 4つ中心になるオブジェクト(取引・会社・コンタクト・買い手候補) 8段階売り手側の案件パイプライン(受託から最終契約まで。ほかに失注・中止) 10段階買い手候補ごとの進捗ステータス(ロングリストから最終契約まで。ほかに見送り) この記事でわかること 買い手候補を取引ではなくカスタムオブジェクトで持つ理由金額の重複を避け、NDAや意向表明を「案件×買い手」ごとに記録する考え方 買い手候補に持たせるプロパティと、売り案件の8段階のパイプライン関門ごとに「状態」と「日付」を組で持たせる設計 デモ環境に組んだ実際の画面と、関門で動くワークフローロングリストのカード、買い手候補のレコード、NDA締結時の自動処理 HubSpotに任せる範囲と、導入の進め方企業価値の算定・DDの資料・契約書との線引き、5つの工程での要点 M&A仲介・FAの事業責任者と、案件管理の仕組みを見直す担当者に向けて、そのまま設計に使える形でまとめています。 業務の流れ オブジェクト構成 プロパティ パイプライン 実際の画面 自動化とレポート メリットと範囲 導入の進め方 01 M&A仲介の業務の流れと、各段階で記録すべき情報 M&A仲介の営業管理が一般的なBtoB営業と違うのは、1つの売り案件に対して数十社から数百社の買い手候補が並行して動く点です。売り手との関係は1本の案件として進み、買い手との関係は候補の数だけ別々に進みます。HubSpotの設計は、この「1対多」をそのまま表せるかどうかで決まります。 ソーシング・受託譲渡の相談を受け、アドバイザリー契約を結ぶ記録:相談経路・売主の意向・契約日 企業評価・資料作成譲渡価額の目線を合わせ、IM(企業概要書)とノンネームシートを作る記録:想定譲渡価額・資料の版 買い手探索ロングリストを作り、売主の承認を得た先にノンネームで打診する記録:候補ごとの打診状況・売主の連絡可否 交渉・意向表明NDA締結後にIMを開示し、トップ面談を経て意向表明を受ける記録:NDA・IM開示日・意向表明額 基本合意・DD・最終契約基本合意のあと買い手がデューデリジェンスを行い、最終契約で成約する記録:各合意日・DDの論点・成約日 売り手との関係は「取引」1件で、買い手との関係は「買い手候補」の件数分で管理します。この分け方が、以降のすべての設計の前提です。 02 オブジェクト構成|取引と会社のあいだに「買い手候補」を置く 標準の取引・会社・コンタクトに、カスタムオブジェクト「買い手候補」を1つ足します。買い手候補は「この売り案件 × この買い手企業」という組み合わせ1件を表し、NDAやIM開示といった組み合わせごとに異なる状態をここに持たせます。 1多 1多 多1 関連付け 売主企業会社(標準) 業種・従業員数・所在地譲渡の意向・相談経路 売り案件取引(標準) 案件コード名・想定譲渡価額パイプライン「M&A仲介(売り手)」受託日・成約日・手数料見込み コンタクトコンタクト(標準) 売主の経営者買い手の窓口担当者 買い手候補カスタムオブジェクト 進捗ステータス(10段階)売主の連絡可否・NDA・IM開示意向表明額・マッチ度・次アクション 買い手企業会社(標準) 買収ニーズ(業種・地域)予算規模・過去の検討歴 1多1多多1売主企業会社(標準)業種・従業員数・所在地譲渡の意向・相談経路売り案件取引(標準)案件コード名・想定譲渡価額パイプライン「M&A仲介(売り手)」受託日・成約日・手数料見込み買い手候補カスタムオブジェクト進捗ステータス(10段階)売主の連絡可否・NDA・IM開示意向表明額・マッチ度・次アクション買い手企業会社(標準)買収ニーズ(業種・地域)予算規模・過去の検討歴コンタクト(売主の経営者・買い手の窓口)は、売り案件と会社の両方に関連付けます 標準オブジェクト カスタムオブジェクト 線の端の三叉は「多」、縦線は「1」 買い手を取引で持たない買い手ごとに取引を作ると、売り案件の金額が候補の数だけ重複し、パイプラインの金額が意味を失います。 買い手企業は会社で持つ同じ買い手は複数の売り案件で候補になります。会社1件に買収ニーズを集約すると、次の案件の候補探しに使えます。 状態は組み合わせに持つNDAは「案件×買い手」ごとに結びます。会社にNDA締結日を持たせると、別の案件の状態と混ざります。 03 プロパティ設計|買い手候補に持たせる項目 買い手候補のプロパティは、打診から最終契約までの関門(売主の承認・NDA・IM開示・意向表明)を、それぞれ「状態」と「日付」の組で持たせるのが基本です。状態は絞り込みと自動化に、日付は所要日数の分析に使います。 プロパティ 型 選択肢・値の例 使い道 進捗ステータス 選択(単一) ロングリスト、ショートリスト、ノンネーム打診、NDA締結、IM開示、Q&A・面談、意向表明受領、基本合意、DD、最終契約、見送り 案件ごとの買い手ファネルの集計、カードでの絞り込み 連絡可否(売主回答) 選択(単一) 未回答、連絡可、連絡不可 売主が承認した先だけに打診する。連絡不可は自動で見送りに 連絡可否の回答期限 日付 2026/05/15 売主への確認の催促と、打診開始の遅れの把握 打診状況 選択(単一) 未打診、打診中、関心あり、検討中、見送り ノンネーム打診への反応の管理 NDA締結・NDA締結日 選択+日付 未締結、締結済、2026/04/28 IM開示の前提条件。締結で次の工程を自動で起こす IM・詳細資料開示・IM開示日 選択+日付 未開示、開示済、2026/04/21 どの版の資料を誰にいつ渡したかの記録 意向表明(LOI)・意向表明額・意向表明日 選択+数値+日付 受領済、2,000(百万円)、2026/06/01 複数の意向表明の条件比較 マッチ度・優先度 数値+選択 4.5、高、中、低 ロングリストからショートリストへの絞り込み 推薦理由・買収ニーズ 複数行テキスト 同業の地域補完、技術者の確保 など 売主への候補説明と、打診時のトーク 次アクション・期日 テキスト+日付 トップ面談の日程調整、2026/06/10 担当者のタスク一覧と滞留の検知 売り案件(取引)の側には、案件コード名・想定譲渡価額・業種区分・受託日を持たせます。売主の社名は案件名に入れず、コード名で扱うのが情報管理の基本です。 04 パイプライン設計|売り案件は8段階で進める 取引のパイプラインは売り手側の進み方に合わせ、買い手側の細かな状態は買い手候補の進捗ステータスに任せます。パイプラインに買い手側の段階まで詰め込むと、どの買い手の話なのかが見えなくなります。 受託(アドバイザリー契約締結)契約日と手数料の条件が入っている 企業評価・IM作成想定譲渡価額が売主と合意できている ロングリスト作成・買い手選定買い手候補が登録され、売主に連絡可否を確認中 買い手打診・マッチングノンネーム打診が始まり、NDA締結先が出ている トップ面談・条件交渉IMを開示した候補とトップ面談を実施した 意向表明(LOI)・基本合意意向表明を受領し、基本合意の締結に進む デューデリジェンス(DD)買い手の調査が始まり、論点を記録している 最終契約・クロージング(成約)最終契約を締結し、成約日が入っている 失注・中止中止の理由を選択肢で記録する 各ステージに進む条件は、必須プロパティで画面に出します。たとえば「企業評価・IM作成」から先へ進めるときに、想定譲渡価額の入力を求めます。 05 実際の画面|デモ環境に組んだM&A仲介の構成 ここまでの設計を、StartLinkのデモ環境に実際に組んだ画面です。社名・人名・金額はすべて架空のデモデータです。 画面1パイプライン「M&A仲介(売り手)」のボード。案件名は「【業種】業態 譲渡案件 No.」のコード名で、売主の社名を出していません。列の下には段階ごとの金額と平均滞留期間が出ます。 画面2売り案件の取引レコードに、買い手候補155件のロングリストをタブとして置いた画面(タブ名はデモ環境のもの)。上部に進捗ステータス別の件数(ロングリスト77件・NDA締結8件・意向表明受領2件など)が出て、案件の買い手ファネルが一目で分かります。ステータスは一覧のまま変更できます。 画面3買い手候補1件のレコード。IM開示日・意向表明額などの関門の記録と、関連する買い手企業(会社)・売り案件(取引)が1画面にまとまります。 06 自動化とレポート|関門を越えたら、次の工程を自動で起こす M&A仲介の自動化は、メールを自動で送ることよりも、関門を越えたときに状態をそろえて担当者に次の作業を知らせることに効きます。買い手候補を対象にしたワークフローの例です。 きっかけ 条件 動作 きっかけNDA締結が「締結済」になった 条件対象は買い手候補。再登録はしない 動作進捗ステータスを「NDA締結」に更新し、担当者にIM開示の準備(売主の承認と開示日の記録)を通知する きっかけ意向表明(LOI)が「受領済」になった 条件対象は買い手候補 動作進捗ステータスを「意向表明受領」に更新し、意向表明額の記録と、売主との条件比較の面談設定を担当者に通知する きっかけ売主の連絡可否が「連絡不可」になった 条件対象は買い手候補 動作進捗ステータスを「見送り」、打診状況を「見送り」に更新する。売主が断った先への打診を、仕組みで防ぎやすくする 設定はワークフローの画面で、対象を「買い手候補」にして作ります。きっかけはプロパティの値の変化で、動作は「レコードを編集」と「内部Eメール通知を送信」の2つです。担当者は通知から買い手候補のレコードを開き、そのまま次の関門の準備に入れます。 同じ形で、意向表明の受領や売主の回答にも対応させます。自動化の対象を関門に絞ると、運用の途中で例外が増えにくくなります。 画面4買い手候補を対象にしたワークフロー。NDA締結を「締結済」にすると、進捗ステータスが更新され、担当者にIM開示の準備が通知されます。 カスタムオブジェクトの作成はEnterpriseプランの機能です。ワークフローで対象にできるオブジェクトの範囲は製品とプランで異なるため、契約中のプランで確認してから設計します。カスタムオブジェクトの条件はHubSpotのナレッジベースにあります。 レポートとダッシュボード|経営と現場がそれぞれ見る指標 レポートは「案件の進み」と「買い手の反応」の2つに分けて作ります。前者は取引、後者は買い手候補が集計の起点です。 見る人 指標 集計の起点 作り方 経営 ステージ別の案件数と想定譲渡価額 取引 パイプライン「M&A仲介(売り手)」の取引をステージ別に合計する 経営 受託から成約までの期間 取引 受託日と成約日の差を計算プロパティで持ち、四半期ごとの平均を出す 経営 アドバイザー別の受託数と成約数 取引 取引担当者ごとに、受託と成約のステージに入った件数を数える 現場 案件ごとの買い手ファネル 買い手候補 売り案件ごとに、進捗ステータス別の件数を並べる(画面2の上部と同じ内訳) 現場 NDAからIM開示、IM開示から意向表明までの日数 買い手候補 NDA締結日・IM開示日・意向表明日の差を計算プロパティにする 現場 売主の回答待ちと期限切れ 買い手候補 連絡可否が「未回答」で、回答期限が過ぎた候補を一覧にする 07 この構成にするメリットと、HubSpotに任せる範囲 表計算ソフトで案件と買い手リストを管理している場合と比べると、違いは「同じ買い手を横断して見られるか」と「関門の記録が後から追えるか」に出ます。 表計算ソフトで管理している場合 案件ごとに買い手リストのファイルが分かれ、同じ買い手への打診状況を横断して見られない NDAの締結やIMの開示を、担当者の記憶とメールの履歴で確認している 売主が連絡不可とした先が、別のリストに残って打診される危険がある 経営が全案件の進みを知るには、担当者に聞いて集計し直す必要がある HubSpotでこの構成にした場合 買い手企業1社に、過去にどの案件で候補になり、どこまで進んだかが残る 関門の状態と日付が買い手候補に揃い、開示の記録を後から追える 連絡不可は自動で見送りになり、打診の対象から外れる ステージ別の案件数と買い手ファネルを、ダッシュボードでいつでも最新の状態で確認できる HubSpotでできること・別のシステムに任せること HubSpotで管理する 案件と買い手候補の進捗 パイプラインと進捗ステータス、関門ごとの日付 打診の連絡とやり取りの履歴 メール・通話・面談の記録を買い手候補と会社に紐づける 買い手の買収ニーズの蓄積 会社に業種・地域・規模の希望を持たせ、次の案件の候補探しに使う ノンネームシートの一斉送付 売主が承認した候補だけを対象に、マーケティングEメールやシーケンスで送る 別のシステムに任せる 企業価値の算定 算定の計算は専用のモデルで行い、HubSpotには結果の想定譲渡価額だけを持たせる DDの資料の授受 資料の閲覧権限とログはバーチャルデータルームで管理し、HubSpotには開示の事実と日付を残す 契約書の作成と締結 電子契約サービスで締結し、締結日と状態をHubSpotに戻す 売主の情報を扱う範囲は、チームとプロパティの権限で絞ります。権限の考え方はHubSpotパーミッション設計ガイドにまとめています。 08 導入の進め方|StartLinkの5工程に当てはめた要点 現状の整理・要件定義案件と買い手リストが今どこに、どの粒度で残っているかを棚卸しし、買い手候補に持たせる関門を決めます。あわせて、中小企業庁の中小M&Aガイドラインを参照し、売主への説明や業務の記録として残したい事項を洗い出して、プロパティと活動の記録に割り当てます。 設計・構築カスタムオブジェクト「買い手候補」と関連付け、取引パイプライン、権限を作ります。案件名のコード名の付け方もここで決めます。 データ移行買い手企業を会社として名寄せしてから、案件ごとのリストを買い手候補として取り込みます。名寄せを先にしないと、同じ買い手が別の会社として増えます。 テスト・検証1つの案件で、ロングリストから意向表明までを実際に動かし、ワークフローと件数の集計が合うかを確かめます。 定着・運用改善週次の案件会議を、ダッシュボードと画面2のロングリストを見ながら行う形に切り替えます。滞留の多い関門から運用を直します。 09 よくある質問 買い手候補を、カスタムオブジェクトではなく取引で管理してはいけませんか。 小規模なら取引でも始められますが、買い手ごとに取引を作ると、売り案件の金額が候補の数だけ重なり、パイプラインの金額と件数が経営の判断に使えなくなります。候補が数十社を超える運用なら、買い手候補をカスタムオブジェクトに分ける構成をおすすめします。 カスタムオブジェクトを使うには、どのプランが必要ですか。 カスタムオブジェクトは、各製品のEnterpriseプランで使える機能です。対象のプランはHubSpotのナレッジベース「カスタムオブジェクトを作成する」で確認できます。Professionalプランの範囲では、取引と会社の関連付けラベルで「候補」であることだけを示す簡易な形はありますが、NDAや意向表明の状態を組み合わせごとに持てないため、関門の管理には向きません。 買い手側のFA(買収の支援)も同じ構成で管理できますか。 できます。買い手側の支援は、買い手企業を起点にした別の取引パイプライン(買収ニーズの確認・候補企業の探索・打診・交渉)を作り、検討する売り案件を同じく買い手候補で結びます。売り手側と同じ部品を使うので、両方の支援を1つの画面で見られます。 売主の社名を担当者以外に見せない設定はできますか。 案件名をコード名にしたうえで、売主企業の会社レコードと機密性の高いプロパティを、チーム単位の閲覧権限とプロパティの編集制限で絞ります。誰が何を見られるかは、要件定義の段階で表にして決めます。 すでに表計算ソフトにある買い手リストは移行できますか。 できます。先に買い手企業を会社として名寄せし、その後に案件ごとのリストを買い手候補として、売り案件と買い手企業の両方に関連付けながら取り込みます。移行後の件数の照合までを1つの工程として行います。 10 まとめ|最初の一歩は、1つの案件で関門を通してみること M&A仲介のHubSpotは、売り案件を取引、買い手企業を会社で持ち、そのあいだに「買い手候補」を置く構成が土台です。NDA・IM開示・意向表明といった関門を、組み合わせごとに「状態」と「日付」で記録すると、案件の買い手ファネルと、買い手を横断した履歴の両方が見えるようになります。 はじめから全案件を移す必要はありません。進行中の案件を1つ選び、ロングリストの登録から意向表明までを実際に動かして、関門の定義と画面の使い勝手を確かめるところから始めるのが確実です。 あわせて読みたい設計の記事 HubSpotカスタムオブジェクトの設計判断|標準で足りない時に何をどう作るか HubSpotパイプラインの設計方法|取引ステージ・必須プロパティの考え方 HubSpotプロパティ設計のベストプラクティス|命名規則・データ型選択 HubSpotパーミッション設計ガイド|チーム・役割別の権限管理 HubSpotレポート完全ガイド|ダッシュボード作成・カスタムレポート 人材紹介CRMのデータ設計|求職者・求人・求人企業を3層でどう持つか 自社の案件の進め方に合わせた構成を、一緒に設計します。 買い手候補の持たせ方、関門の定義、権限の範囲は、取り扱う案件の規模と体制で変わります。StartLinkはHubSpotのゴールドパートナーとして、要件定義から構築・データ移行・定着まで一貫して支援します。 構成について相談する業界別ナレッジの一覧へ 出典:中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」(2024年8月改訂) 出典:中小企業庁「M&A支援機関登録制度の創設について」(2021年8月) 出典:HubSpot ナレッジベース「Create custom objects」

ブログ目次

HubSpot業界別ナレッジ|M&A仲介・FA

M&A仲介のHubSpotは、「売り案件」と「買い手企業」のあいだに、組み合わせごとの進捗を持つ「買い手候補」を置いて設計します。NDA・IM開示・意向表明を、案件ごと・買い手ごとに取りこぼさず追える形が中心です。

  • 4つ中心になるオブジェクト(取引・会社・コンタクト・買い手候補)
  • 8段階売り手側の案件パイプライン(受託から最終契約まで。ほかに失注・中止)
  • 10段階買い手候補ごとの進捗ステータス(ロングリストから最終契約まで。ほかに見送り)

この記事でわかること

  • 買い手候補を取引ではなくカスタムオブジェクトで持つ理由金額の重複を避け、NDAや意向表明を「案件×買い手」ごとに記録する考え方
  • 買い手候補に持たせるプロパティと、売り案件の8段階のパイプライン関門ごとに「状態」と「日付」を組で持たせる設計
  • デモ環境に組んだ実際の画面と、関門で動くワークフローロングリストのカード、買い手候補のレコード、NDA締結時の自動処理
  • HubSpotに任せる範囲と、導入の進め方企業価値の算定・DDの資料・契約書との線引き、5つの工程での要点

M&A仲介・FAの事業責任者と、案件管理の仕組みを見直す担当者に向けて、そのまま設計に使える形でまとめています。

01

M&A仲介の業務の流れと、各段階で記録すべき情報

M&A仲介の営業管理が一般的なBtoB営業と違うのは、1つの売り案件に対して数十社から数百社の買い手候補が並行して動く点です。売り手との関係は1本の案件として進み、買い手との関係は候補の数だけ別々に進みます。HubSpotの設計は、この「1対多」をそのまま表せるかどうかで決まります。

  1. ソーシング・受託譲渡の相談を受け、アドバイザリー契約を結ぶ記録:相談経路・売主の意向・契約日
  2. 企業評価・資料作成譲渡価額の目線を合わせ、IM(企業概要書)とノンネームシートを作る記録:想定譲渡価額・資料の版
  3. 買い手探索ロングリストを作り、売主の承認を得た先にノンネームで打診する記録:候補ごとの打診状況・売主の連絡可否
  4. 交渉・意向表明NDA締結後にIMを開示し、トップ面談を経て意向表明を受ける記録:NDA・IM開示日・意向表明額
  5. 基本合意・DD・最終契約基本合意のあと買い手がデューデリジェンスを行い、最終契約で成約する記録:各合意日・DDの論点・成約日

売り手との関係は「取引」1件で、買い手との関係は「買い手候補」の件数分で管理します。この分け方が、以降のすべての設計の前提です。

02

オブジェクト構成|取引と会社のあいだに「買い手候補」を置く

標準の取引・会社・コンタクトに、カスタムオブジェクト「買い手候補」を1つ足します。買い手候補は「この売り案件 × この買い手企業」という組み合わせ1件を表し、NDAやIM開示といった組み合わせごとに異なる状態をここに持たせます。

  • 買い手を取引で持たない買い手ごとに取引を作ると、売り案件の金額が候補の数だけ重複し、パイプラインの金額が意味を失います。
  • 買い手企業は会社で持つ同じ買い手は複数の売り案件で候補になります。会社1件に買収ニーズを集約すると、次の案件の候補探しに使えます。
  • 状態は組み合わせに持つNDAは「案件×買い手」ごとに結びます。会社にNDA締結日を持たせると、別の案件の状態と混ざります。
03

プロパティ設計|買い手候補に持たせる項目

買い手候補のプロパティは、打診から最終契約までの関門(売主の承認・NDA・IM開示・意向表明)を、それぞれ「状態」と「日付」の組で持たせるのが基本です。状態は絞り込みと自動化に、日付は所要日数の分析に使います。

プロパティ型選択肢・値の例使い道
進捗ステータス選択(単一)ロングリスト、ショートリスト、ノンネーム打診、NDA締結、IM開示、Q&A・面談、意向表明受領、基本合意、DD、最終契約、見送り案件ごとの買い手ファネルの集計、カードでの絞り込み
連絡可否(売主回答)選択(単一)未回答、連絡可、連絡不可売主が承認した先だけに打診する。連絡不可は自動で見送りに
連絡可否の回答期限日付2026/05/15売主への確認の催促と、打診開始の遅れの把握
打診状況選択(単一)未打診、打診中、関心あり、検討中、見送りノンネーム打診への反応の管理
NDA締結・NDA締結日選択+日付未締結、締結済、2026/04/28IM開示の前提条件。締結で次の工程を自動で起こす
IM・詳細資料開示・IM開示日選択+日付未開示、開示済、2026/04/21どの版の資料を誰にいつ渡したかの記録
意向表明(LOI)・意向表明額・意向表明日選択+数値+日付受領済、2,000(百万円)、2026/06/01複数の意向表明の条件比較
マッチ度・優先度数値+選択4.5、高、中、低ロングリストからショートリストへの絞り込み
推薦理由・買収ニーズ複数行テキスト同業の地域補完、技術者の確保 など売主への候補説明と、打診時のトーク
次アクション・期日テキスト+日付トップ面談の日程調整、2026/06/10担当者のタスク一覧と滞留の検知

売り案件(取引)の側には、案件コード名・想定譲渡価額・業種区分・受託日を持たせます。売主の社名は案件名に入れず、コード名で扱うのが情報管理の基本です。

04

パイプライン設計|売り案件は8段階で進める

取引のパイプラインは売り手側の進み方に合わせ、買い手側の細かな状態は買い手候補の進捗ステータスに任せます。パイプラインに買い手側の段階まで詰め込むと、どの買い手の話なのかが見えなくなります。

  1. 受託(アドバイザリー契約締結)契約日と手数料の条件が入っている
  2. 企業評価・IM作成想定譲渡価額が売主と合意できている
  3. ロングリスト作成・買い手選定買い手候補が登録され、売主に連絡可否を確認中
  4. 買い手打診・マッチングノンネーム打診が始まり、NDA締結先が出ている
  5. トップ面談・条件交渉IMを開示した候補とトップ面談を実施した
  6. 意向表明(LOI)・基本合意意向表明を受領し、基本合意の締結に進む
  7. デューデリジェンス(DD)買い手の調査が始まり、論点を記録している
  8. 最終契約・クロージング(成約)最終契約を締結し、成約日が入っている
  9. 失注・中止中止の理由を選択肢で記録する

各ステージに進む条件は、必須プロパティで画面に出します。たとえば「企業評価・IM作成」から先へ進めるときに、想定譲渡価額の入力を求めます。

05

実際の画面|デモ環境に組んだM&A仲介の構成

ここまでの設計を、StartLinkのデモ環境に実際に組んだ画面です。社名・人名・金額はすべて架空のデモデータです。

HubSpotの取引ボード。パイプライン「M&A仲介(売り手)」を選び、受託・企業評価・ロングリスト作成・買い手打診・トップ面談の列に譲渡案件のカードが並んでいる
画面1パイプライン「M&A仲介(売り手)」のボード。案件名は「【業種】業態 譲渡案件 No.」のコード名で、売主の社名を出していません。列の下には段階ごとの金額と平均滞留期間が出ます。
売り案件の取引レコード。「M&A/留学」タブに買い手候補ロングリストのカードがあり、全155件を進捗ステータスで絞り込める。ロングリスト77件、NDA締結8件、意向表明受領2件などの内訳が表示されている
画面2売り案件の取引レコードに、買い手候補155件のロングリストをタブとして置いた画面(タブ名はデモ環境のもの)。上部に進捗ステータス別の件数(ロングリスト77件・NDA締結8件・意向表明受領2件など)が出て、案件の買い手ファネルが一目で分かります。ステータスは一覧のまま変更できます。
買い手候補のレコード。打診状況、買い手企業名、業種、連絡担当者、想定譲渡価額、IM開示日、IM・詳細資料開示、意向表明額、意向表明日が並び、右側に関連する会社と取引が表示されている
画面3買い手候補1件のレコード。IM開示日・意向表明額などの関門の記録と、関連する買い手企業(会社)・売り案件(取引)が1画面にまとまります。
06

自動化とレポート|関門を越えたら、次の工程を自動で起こす

M&A仲介の自動化は、メールを自動で送ることよりも、関門を越えたときに状態をそろえて担当者に次の作業を知らせることに効きます。買い手候補を対象にしたワークフローの例です。

  • きっかけ
    条件
    動作
  • きっかけNDA締結が「締結済」になった
    条件対象は買い手候補。再登録はしない
    動作進捗ステータスを「NDA締結」に更新し、担当者にIM開示の準備(売主の承認と開示日の記録)を通知する
  • きっかけ意向表明(LOI)が「受領済」になった
    条件対象は買い手候補
    動作進捗ステータスを「意向表明受領」に更新し、意向表明額の記録と、売主との条件比較の面談設定を担当者に通知する
  • きっかけ売主の連絡可否が「連絡不可」になった
    条件対象は買い手候補
    動作進捗ステータスを「見送り」、打診状況を「見送り」に更新する。売主が断った先への打診を、仕組みで防ぎやすくする

設定はワークフローの画面で、対象を「買い手候補」にして作ります。きっかけはプロパティの値の変化で、動作は「レコードを編集」と「内部Eメール通知を送信」の2つです。担当者は通知から買い手候補のレコードを開き、そのまま次の関門の準備に入れます。

同じ形で、意向表明の受領や売主の回答にも対応させます。自動化の対象を関門に絞ると、運用の途中で例外が増えにくくなります。

HubSpotのワークフロー編集画面。買い手候補を対象に、NDA締結が締結済になったら進捗ステータスをNDA締結に更新し、内部メール通知を送る
画面4買い手候補を対象にしたワークフロー。NDA締結を「締結済」にすると、進捗ステータスが更新され、担当者にIM開示の準備が通知されます。

カスタムオブジェクトの作成はEnterpriseプランの機能です。ワークフローで対象にできるオブジェクトの範囲は製品とプランで異なるため、契約中のプランで確認してから設計します。カスタムオブジェクトの条件はHubSpotのナレッジベースにあります。

レポートとダッシュボード|経営と現場がそれぞれ見る指標

レポートは「案件の進み」と「買い手の反応」の2つに分けて作ります。前者は取引、後者は買い手候補が集計の起点です。

見る人指標集計の起点作り方
経営ステージ別の案件数と想定譲渡価額取引パイプライン「M&A仲介(売り手)」の取引をステージ別に合計する
経営受託から成約までの期間取引受託日と成約日の差を計算プロパティで持ち、四半期ごとの平均を出す
経営アドバイザー別の受託数と成約数取引取引担当者ごとに、受託と成約のステージに入った件数を数える
現場案件ごとの買い手ファネル買い手候補売り案件ごとに、進捗ステータス別の件数を並べる(画面2の上部と同じ内訳)
現場NDAからIM開示、IM開示から意向表明までの日数買い手候補NDA締結日・IM開示日・意向表明日の差を計算プロパティにする
現場売主の回答待ちと期限切れ買い手候補連絡可否が「未回答」で、回答期限が過ぎた候補を一覧にする
07

この構成にするメリットと、HubSpotに任せる範囲

表計算ソフトで案件と買い手リストを管理している場合と比べると、違いは「同じ買い手を横断して見られるか」と「関門の記録が後から追えるか」に出ます。

表計算ソフトで管理している場合

  • 案件ごとに買い手リストのファイルが分かれ、同じ買い手への打診状況を横断して見られない
  • NDAの締結やIMの開示を、担当者の記憶とメールの履歴で確認している
  • 売主が連絡不可とした先が、別のリストに残って打診される危険がある
  • 経営が全案件の進みを知るには、担当者に聞いて集計し直す必要がある

HubSpotでこの構成にした場合

  • 買い手企業1社に、過去にどの案件で候補になり、どこまで進んだかが残る
  • 関門の状態と日付が買い手候補に揃い、開示の記録を後から追える
  • 連絡不可は自動で見送りになり、打診の対象から外れる
  • ステージ別の案件数と買い手ファネルを、ダッシュボードでいつでも最新の状態で確認できる

HubSpotでできること・別のシステムに任せること

HubSpotで管理する

案件と買い手候補の進捗
パイプラインと進捗ステータス、関門ごとの日付
打診の連絡とやり取りの履歴
メール・通話・面談の記録を買い手候補と会社に紐づける
買い手の買収ニーズの蓄積
会社に業種・地域・規模の希望を持たせ、次の案件の候補探しに使う
ノンネームシートの一斉送付
売主が承認した候補だけを対象に、マーケティングEメールやシーケンスで送る

別のシステムに任せる

企業価値の算定
算定の計算は専用のモデルで行い、HubSpotには結果の想定譲渡価額だけを持たせる
DDの資料の授受
資料の閲覧権限とログはバーチャルデータルームで管理し、HubSpotには開示の事実と日付を残す
契約書の作成と締結
電子契約サービスで締結し、締結日と状態をHubSpotに戻す

売主の情報を扱う範囲は、チームとプロパティの権限で絞ります。権限の考え方はHubSpotパーミッション設計ガイドにまとめています。

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導入の進め方|StartLinkの5工程に当てはめた要点

  1. 現状の整理・要件定義案件と買い手リストが今どこに、どの粒度で残っているかを棚卸しし、買い手候補に持たせる関門を決めます。あわせて、中小企業庁の中小M&Aガイドラインを参照し、売主への説明や業務の記録として残したい事項を洗い出して、プロパティと活動の記録に割り当てます。
  2. 設計・構築カスタムオブジェクト「買い手候補」と関連付け、取引パイプライン、権限を作ります。案件名のコード名の付け方もここで決めます。
  3. データ移行買い手企業を会社として名寄せしてから、案件ごとのリストを買い手候補として取り込みます。名寄せを先にしないと、同じ買い手が別の会社として増えます。
  4. テスト・検証1つの案件で、ロングリストから意向表明までを実際に動かし、ワークフローと件数の集計が合うかを確かめます。
  5. 定着・運用改善週次の案件会議を、ダッシュボードと画面2のロングリストを見ながら行う形に切り替えます。滞留の多い関門から運用を直します。
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よくある質問

買い手候補を、カスタムオブジェクトではなく取引で管理してはいけませんか。
小規模なら取引でも始められますが、買い手ごとに取引を作ると、売り案件の金額が候補の数だけ重なり、パイプラインの金額と件数が経営の判断に使えなくなります。候補が数十社を超える運用なら、買い手候補をカスタムオブジェクトに分ける構成をおすすめします。
カスタムオブジェクトを使うには、どのプランが必要ですか。
カスタムオブジェクトは、各製品のEnterpriseプランで使える機能です。対象のプランはHubSpotのナレッジベース「カスタムオブジェクトを作成する」で確認できます。Professionalプランの範囲では、取引と会社の関連付けラベルで「候補」であることだけを示す簡易な形はありますが、NDAや意向表明の状態を組み合わせごとに持てないため、関門の管理には向きません。
買い手側のFA(買収の支援)も同じ構成で管理できますか。
できます。買い手側の支援は、買い手企業を起点にした別の取引パイプライン(買収ニーズの確認・候補企業の探索・打診・交渉)を作り、検討する売り案件を同じく買い手候補で結びます。売り手側と同じ部品を使うので、両方の支援を1つの画面で見られます。
売主の社名を担当者以外に見せない設定はできますか。
案件名をコード名にしたうえで、売主企業の会社レコードと機密性の高いプロパティを、チーム単位の閲覧権限とプロパティの編集制限で絞ります。誰が何を見られるかは、要件定義の段階で表にして決めます。
すでに表計算ソフトにある買い手リストは移行できますか。
できます。先に買い手企業を会社として名寄せし、その後に案件ごとのリストを買い手候補として、売り案件と買い手企業の両方に関連付けながら取り込みます。移行後の件数の照合までを1つの工程として行います。
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まとめ|最初の一歩は、1つの案件で関門を通してみること

M&A仲介のHubSpotは、売り案件を取引、買い手企業を会社で持ち、そのあいだに「買い手候補」を置く構成が土台です。NDA・IM開示・意向表明といった関門を、組み合わせごとに「状態」と「日付」で記録すると、案件の買い手ファネルと、買い手を横断した履歴の両方が見えるようになります。

はじめから全案件を移す必要はありません。進行中の案件を1つ選び、ロングリストの登録から意向表明までを実際に動かして、関門の定義と画面の使い勝手を確かめるところから始めるのが確実です。

自社の案件の進め方に合わせた構成を、一緒に設計します。

買い手候補の持たせ方、関門の定義、権限の範囲は、取り扱う案件の規模と体制で変わります。StartLinkはHubSpotのゴールドパートナーとして、要件定義から構築・データ移行・定着まで一貫して支援します。

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著者情報

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今枝 / Imaeda

株式会社StartLink 代表取締役。累計150社以上のHubSpotプロジェクト支援実績を持ち、Claude CodeやHubSpotを軸にしたAI活用支援・経営基盤AXのコンサルティング事業を展開。
HubSpotのトップパートナー企業や大手人材グループにて、エンタープライズCRM戦略策定・AI戦略ディレクションを経験した後、StartLinkを創業。現在はCRM×AIエージェントによる経営管理支援を専門とする。