自治体向けSaaSのHubSpot活用|自治体別の商談・入札・導入後の関係管理

自治体向けSaaSのHubSpot活用|自治体別の商談・入札・導入後の関係管理
この記事の結論

自治体向けSaaSの商談を自治体別・年度別に管理するHubSpotの設計を解説します。入札書類の作成や電子入札は専用システムに任せる線引きも示します。

ブログ目次

記事の内容を、そのまま実務に落とし込みたい方向け

HubSpotゴールドパートナーのStartLinkが、HubSpot導入・AI活用・CRM整備・業務効率化までをまとめて支援しています。記事で気になったテーマを、そのまま相談ベースで整理できます。


「あの市は、来年度の予算要求にこちらの製品が入っていたのだろうか」

「隣の県は導入済みなのに、県内の市町村への展開が把握できていない」

——自治体向けのSaaSを扱う営業の現場で、よく出てくる悩みかなと思います。

自治体向けSaaSの営業は、一般的な法人営業と進め方が大きく違います。予算化の時期が年度で決まり、調達の方式(入札・随意契約・プロポーザルなど)が自治体ごとに異なり、導入後は更新の時期を逃さない関係づくりが続くからです。担当者の頭の中と、個人のExcelだけで管理していると、時期を逃したり、引き継ぎで情報が失われたりします。

この記事では、HubSpotを自治体別の商談管理(SFA)の基盤として使う設計を説明します。入札書類の作成や電子入札そのものは、専用のシステムや自治体側の仕組みの領域です。HubSpotに持たせる範囲と、持たせない範囲の線引きも、独立した節で整理します。

  • 自治体を「会社」として持ち、課・担当者を関連付ける ── 自治体別の関係が一覧で見えるようになります
  • 年度の流れに合わせて、取引のステージと項目を設計する ── 予算化の時期と調達方式を記録します
  • 導入後は、更新と横展開を仕組みにする ── 導入済みの自治体は、次の商談の最大の根拠になります
  • 入札書類・電子入札は専用の仕組みに任せる ── HubSpotは営業活動と関係の管理に集中させます

自治体向けSaaSの営業管理が持つ特徴

最初に、自治体向けの営業に特有の事情を整理します。ここを設計に反映しないと、一般的な営業管理の型を当てはめても、うまく回りません。

時期が年度で決まる

地方自治体の会計年度は、4月1日から翌年3月31日までです(出典: 地方自治法第208条)。新しいシステムの導入は、前年度のうちに予算として要求され、議会の審議を経て確定するのが一般的です。つまり、営業の時期は、予算要求よりも前に、情報提供やデモを済ませておく必要があります。

この性質から、取引の予定日(クローズ日)も、一般的な営業のように「いつ決まるか」の見込みではなく、「どの年度の予算で調達されるか」という軸で見るほうが、実態に近くなります。

調達の方式が自治体ごとに違う

導入の方式も、自治体ごとに異なります。入札で決めるのか、随意契約なのか、プロポーザルで事業者を選ぶのか。同じ製品でも、自治体ごと、金額の規模ごとに変わります。

さらに、自治体の入札に参加するには、自治体ごとに入札参加資格の登録が必要になるのが一般的で、電子入札のシステムも、自治体や、県が運営する共同のシステムによって異なります。たとえば、埼玉県は県と共同利用する自治体向けの「埼玉県電子入札共同システム」を運用しています(出典:埼玉県 電子入札を始めるための準備)。大分県では、県内の自治体が同じ電子入札システムを使う共同の取り組みが進んでおり、開始の時期は自治体ごとに異なります(出典:大分県 電子入札共同システムの資料)。

こうした違いは、営業の担当者が自治体ごとに把握しておく必要があります。「この自治体は物品の電子入札がいつ始まるか」「参加資格の登録は済んでいるか」といった情報は、共有されていないと、ある時期に慌てることになります。

関わる人が多い

自治体の導入には、実際に使う現場の課、情報システムを担当する課、予算を扱う課、契約を扱う課と、複数の部署が関わります。決裁の流れも、組織ごとに違います。誰が使う人で、誰が決める人で、誰が調達を進める人かを、取引ごとに整理しておく必要があります。


自治体をHubSpotで持つ

ここからが、HubSpotでの具体的な持ち方です。

自治体を会社、課と担当者をコンタクトで持つ

自治体は会社(Company)として、各課の担当者をコンタクトとして持ちます。会社には、自治体の種別(都道府県、市、区、町、村、広域連合など)や、人口の規模、都道府県といった項目を設けます。コンタクトには、所属の課と役割(利用部門、情報システム担当、予算、契約など)の項目を設けるか、関連付けラベルで役割を表します。ラベルの作成には、Professional以上のサブスクリプションと、スーパー管理者の権限が必要です(出典:HubSpot公式 関連付けラベルの作成と使用)。

管理したい対象 HubSpotでの持ち方
自治体 会社(種別・都道府県・規模の項目)
利用部門・情報システム・予算・契約の担当者 コンタクト(役割をラベルまたは項目で区別)
調達・導入の案件 取引(年度・調達方式の項目)
導入済みの契約 取引(導入後用のパイプライン)または会社の項目
自社の営業担当 会社・取引の担当者

自治体を会社、課ごとの担当者をコンタクトで持つ(取引は年度・調達方式の項目とあわせて持つ)

共同利用・共同調達の関係を表す

都道府県が主導して、県内の市町村が同じシステムを共同で利用・調達する形も、自治体向けでは珍しくありません。この関係をHubSpotで表すには、二つの方法があります。

  • 親会社・子会社の関連付け:県を親、参加する市町村を子とする。親は複数の子を持てますが、子が持てる親は1つだけです(出典:HubSpot公式 親会社・子会社の追加)
  • 関連付けラベル:「共同利用の参加」のようなラベルで、自治体同士を結ぶ。1つの自治体が複数の枠組みに参加する場合は、こちらのほうが柔軟です

自治体の関係は、複数の枠組みに参加することがあるため、迷ったら関連付けラベルのほうが実態に合いやすいです。どちらの持ち方でも、「県が決めると、県内の市町村にも展開できる」関係が、一覧で追えることが大切です。

年度と調達方式を取引の項目にする

取引には、次のような項目を設けると、自治体向けの営業の実態を捉えられます。

項目 内容
対象の年度 どの年度の予算で調達されるか
予算化の状況 未要求、要求中、予算化済み、見送り
調達の方式 入札、随意契約、プロポーザル、その他
入札参加資格の登録 登録済み、申請中、未登録(自治体ごと)
契約の期間・更新日 導入後の契約の期間と更新の時期

プロパティは、選択式にしておくと、集計や絞り込みに使えます。項目を増やしすぎると入力されなくなるため、最初は上の5つ程度に絞るのがおすすめです。


年度に合わせた取引のパイプラインを作る

次に、取引のステージを設計します。自治体向けでは、予算化と調達のステージを、はっきり分けるのが重要です。

ステージの例

カスタムのパイプラインを作るにはStarter以上が必要で、ステージごとに必須入力の項目も設定できます(出典:HubSpot公式 パイプラインの設定とカスタマイズ)。

ステージ 意味 次の行動
情報提供・初回接触 課題のヒアリング、製品の紹介 デモの設定
デモ・検討 現場の課と詳細な確認 見積の依頼、予算化の確認
予算要求の準備 自治体が予算要求の資料を作る段階 必要な情報の提供
予算化済み 予算が確定した 調達の方式と時期の確認
調達手続き 入札・プロポーザル・随意契約 手続きの対応(専用の仕組みで)
契約・導入 契約の締結、導入作業 導入の完了確認
見送り 予算化されなかった、他社に決まった 理由の記録、次年度の再提案

「予算化済み」より前と後で、営業の動きは大きく変わります。前は情報提供と関係づくり、後は調達の手続きへの対応です。ステージを分けておくと、「今、予算化の前の案件がいくつあるか」が見えます。

見込みの見方を年度で整える

予算化されなかった案件は、単なる失注ではなく、次年度に再提案する対象です。「見送り」にした理由を記録し、次年度の早い時期にタスクが立つようにしておくと、時期を逃しにくくなります。

ワークフローで、取引が「見送り」になったときに、次年度の特定の時期に担当者へタスクを作ることができます。ワークフローは、Marketing・Sales・Service・Dataなどのハブのいずれかで、Professional以上が必要です(出典:HubSpot公式 ワークフローの作成)。営業プロセスの見える化の考え方は、HubSpotで営業プロセスを可視化する方法も参考になります。

予算化の前後でステージを分ける(前は関係づくり、後は調達手続きへの対応)

案件の情報収集と、HubSpotへの登録

入札の案件は、各自治体のWebサイトや、入札情報のサービスで公開されます。こうした情報の収集そのものはHubSpotの役割ではなく、見つけた案件を取引として登録して、担当者と進捗を管理するのが役割です。「誰が、どの案件を見つけ、参加するか判断したか」を残しておくと、案件の見落としと、同じ案件の二重対応を防げます。


導入後の関係管理と横展開

自治体向けSaaSでは、導入後の関係管理が、更新と、次の自治体への展開の両方に直結します。

更新の時期を逃さない

導入後の契約には、期間と更新の時期があります。更新が近い自治体について、担当者へタスクを作る仕組みを、ワークフローで作れます。

  • 契約の更新日の一定期間前に、担当者へ確認のタスクを作る
  • 導入から一定期間が経ったときに、活用状況を伺うタスクを作る
  • 新年度の前に、追加の要望や予算の見通しを伺う

更新の時期は、年度の予算とも関わるため、早めに動く必要があります。

導入後の問い合わせを記録する

導入後の自治体からの問い合わせや、運用の相談は、チケットで管理できます。HubSpotのチケット管理の使い方は、HubSpotチケット管理の使い方で紹介しています。ただし、システムの障害対応や、利用状況の細かな監視は、自社のサポートの仕組みや運用の監視の仕組みの領域です。HubSpotには、自治体とのやり取りの記録と、担当者への割り当てを持たせます。

導入実績を、次の営業の根拠にする

自治体は、他の自治体での導入実績を重視する傾向があります。導入済みの自治体を、会社のプロパティ(導入済みか、導入した製品、導入の時期)として整理しておくと、次の営業で、「近隣の自治体の導入状況」を提示できます。

  • 同じ都道府県内の導入済みの自治体を、一覧で出す
  • 人口の規模が近い自治体の導入状況を、セグメントで出す
  • 導入済みの自治体の担当者に、活用の事例の紹介を相談する

実績や事例を外部に出すときは、自治体の同意と、公開してよい範囲の確認が必要です。CRMの情報を、そのまま外へ出さないよう、運用のルールを決めておいてください。自治体を軸にしたアカウント単位の営業の考え方は、HubSpotのABM機能で実践するアカウントベースドマーケティングも参考になります。


HubSpotでできること・専用システムに任せること

ここが、自治体向けSaaSの営業管理で最も大事な線引きです。HubSpotは、営業活動と関係の管理の道具で、入札の手続きそのものを行うものではありません。

領域 HubSpotで管理できる 専用システム・自治体側の仕組みに任せる
自治体・課・担当者の情報 会社・コンタクト・関連付け ―
商談・予算化・調達方式の進捗 取引・項目・パイプライン ―
導入後の更新・フォロー タスク・ワークフロー・チケット サポート・障害対応・運用監視の仕組み
導入実績・横展開の把握 会社の項目・セグメント・レポート ―
入札書類の作成 提出期限と担当者のタスク 書類の作成・版管理の仕組み
電子入札の応札 応札の有無と結果の記録 自治体ごとの電子入札システム
入札参加資格の申請 登録の状況(記録) 自治体ごとの申請の仕組み
契約書の本体・電子署名 契約の期間・更新日の記録 契約管理・電子契約の仕組み
住民の個人情報 持たない 自治体の業務システム

入札書類・電子入札をHubSpotで行わない理由

入札の手続きは、自治体ごとに、書類の様式、提出の方法、使う電子入札システムが異なります。資格の申請も、自治体ごとに行うのが一般的です。こうした手続きを、営業のCRMで代わりに行うことはできませんし、そのための機能もありません。

HubSpotでできるのは、手続きの周辺の管理です。たとえば、「この案件の提出期限はいつか」「誰が書類を担当するか」「応札したか、結果はどうだったか」を、取引に残すこと。書類の作成と提出は、専用の仕組みと担当者の作業で行い、結果だけをHubSpotに戻す運用が、現実的です。

住民の個人情報は持たない

自治体向けのSaaSは、住民の個人情報を扱う場合があります。しかし、営業のCRMであるHubSpotには、住民の個人情報は持たせません。CRMには、自治体の担当者の業務上の連絡先と、商談の記録だけを持ちます。デモや検証に使うデータも、実際の住民のデータではなく、架空のデータを使います。

また、自治体から提出を求められる情報セキュリティに関する書類や、仕様書への回答の作成は、営業のCRMではなく、書類の管理の仕組みで版を管理するものです。


小さく始める進め方

自治体向けの営業管理は、次の順番で始めるのがおすすめです。

  1. 今ある自治体のリストを、会社として取り込み、種別と都道府県の項目を整える
  2. 課と担当者を、コンタクトとして取り込み、役割を区別する
  3. 進行中の案件を、取引として登録し、年度・予算化の状況・調達方式を入れる
  4. 予算化の前後でステージを分けたパイプラインを作る
  5. 導入済みの契約の更新日を入れ、更新前のタスクを作る

既存のExcelから取り込む場合は、Excel・スプレッドシートからHubSpotへ移行する方法が参考になります。いきなり全国の全自治体を入れようとせず、今、関わりのある自治体から始めるほうが、運用が続きます。

他の業界での設計は、業界別ガイドにまとめています。


よくある質問

Q1. 自治体の数が多いのですが、全部をHubSpotに入れるべきですか

営業の対象として関わりのある自治体から入れるのが現実的です。全国の自治体を網羅的に持つ必要はなく、必要になったときに追加していけます。ただし、将来、対象の範囲が広がりそうなら、自治体の種別・都道府県の項目は、最初から揃えておくと追加が楽です。

Q2. 入札の締め切りをHubSpotで管理できますか

提出期限と担当者を、取引の項目とタスクで管理できます。期限の前にタスクが立つようにワークフローを作ることもできます。ただし、入札書類の作成や、電子入札での応札そのものは、専用の仕組みと担当者の作業で行います。

Q3. 自治体のキーパーソンが異動した場合は、どう管理しますか

自治体の担当者は、人事異動で変わることが多いです。コンタクトのレコードに、異動の事実と、新しい担当者を残し、会社(自治体)の側に、関係の履歴を残す運用がおすすめです。異動の時期の前後に、担当者の確認をするタスクを作っておくと、関係が途切れにくくなります。

Q4. 公開情報の入札案件も、HubSpotに入れておくべきですか

参加の可能性がある案件は、取引として登録しておくと、期限の管理と判断の記録を残せます。参加しない案件まで全部を入れる必要はありません。何を取引にするかの基準を、チームで決めておくと、記録の量が膨らみすぎません。

Q5. 自治体向けにワークフローで自動メールを送ってもよいですか

営業メールの自動送信は、自治体の担当者との関係では、慎重に使うのがおすすめです。自治体への連絡は、一件ずつの対応が基本で、自動配信は、公開してよいセミナーの案内など、限られた用途にとどめます。ワークフローは、担当者へのタスクの作成を中心にすると、運用しやすくなります。


まとめ

自治体向けSaaSのHubSpot活用は、年度と調達の流れに合わせて、自治体別の商談と導入後の関係を持つことが価値です。

  • 自治体を会社、課・担当者をコンタクトで持ち、役割を区別する。 関わる人が多い意思決定を整理します
  • 年度・予算化の状況・調達方式を、取引の項目にする。 時期を逃さない営業の土台になります
  • 予算化の前後でステージを分ける。 動くべきことが、ステージで分かります
  • 導入後は、更新と横展開を仕組みにする。 導入済みの自治体が、次の営業の根拠になります
  • 入札書類・電子入札・住民の個人情報は、HubSpotに持たせない。 営業活動と関係の管理に集中させます

最初の一歩としておすすめしたいのは、進行中の案件を一覧にして、それぞれの「対象の年度」「予算化の状況」「調達の方式」を埋めてみることです。それだけで、いま手を打つべき案件と、来年度に向けて種をまく案件が分かれます。

自社の営業にどう当てはめるかを具体的に検討したい場合は、StartLinkの無料相談でご相談ください。現状の運用をうかがったうえで、設計の方向性をご提案します。


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著者情報

7-1

今枝 拓海 / Takumi Imaeda

株式会社StartLink 代表取締役。累計150社以上のHubSpotプロジェクト支援実績を持ち、Claude CodeやHubSpotを軸にしたAI活用支援・経営基盤AXのコンサルティング事業を展開。
HubSpotのトップパートナー企業や大手人材グループにて、エンタープライズCRM戦略策定・AI戦略ディレクションを経験した後、StartLinkを創業。現在はCRM×AIエージェントによる経営管理支援を専門とする。