HubSpot導入前の現状整理の進め方|業務・データ・ツールの棚卸しと要件への渡し方

  • 2026年10月19日
  • 最終更新: 2026年10月19日
この記事の結論

現状整理は、業務・データ・ツール・権限の4種類を棚卸し表に落とし、要件定義へ渡す工程です。集め方と表の型、As-IsからTo-Beへの渡し方を整理します。

ブログ目次


HubSpot導入前の現状整理とは、いまの業務・データ・ツール・権限を「事実」として表に書き出し、要件定義が参照できる状態にしておく工程です。 理想の姿を描く前に、現在の姿を同じ物差しで記録しておくことで、「何を変えるのか」「何を変えないのか」を判断できるようになります。

多くの導入が設計の途中で止まるのは、現状が人の頭の中にあるまま要件の議論に入ってしまうからです。——担当者ごとに答えが違い、表計算の中身も誰も説明できず、構築に入ってから「あのデータもあった」と気づく、という流れです。

この記事では、現状整理で何を集め、どの表に落とし、要件定義へどう渡すかを、集める順序と判断の基準まで含めて整理します。

  • 集める対象は4種類に分ける ── 業務フロー・データ・ツール・権限を、別々の表で持ちます
  • 表の列は「事実」と「所見」を分ける ── 聞いたことと、整理する側の解釈を混ぜません
  • HubSpotの画面で確認できる事実は、画面から取る ── すでに利用中のアカウントがある場合の確認箇所を示します
  • As-Isの各行に、To-Beへの扱いを1つ決める ── 残す・変える・やめる・保留の4区分で要件定義に渡します

現状整理と要件定義の境目を先に決める

現状整理と要件定義は、似た会議で進むため混ざりがちですが、成果物が違います。現状整理の成果物は「いまの状態の記録」で、要件定義の成果物は「これからの状態の約束」です。境目を決めておかないと、ヒアリングの場で「こうしたい」という希望ばかりが集まり、現状が記録されません。

境目の目安は、書く文の主語です。現状整理では「いま〜している」「いま〜に入っている」と書き、要件定義では「〜できるようにする」と書きます。前者に希望が混ざったら、別の欄(所見)へ移します。

なお、要件定義そのものの進め方はHubSpot提案・要件定義7ポイント、稟議までを含む導入前の確認事項はHubSpot CRM導入前チェックリストで扱っています。この記事は、その手前の「何を集めて、どう表にするか」に絞ります。As-Is/To-Beの一般的な分析手法はAs-Is/To-Be分析で業務改善を進める手順、業務フローの書き方は業務プロセスマッピングの書き方にあり、ここでは対象をHubSpot導入に絞ります。

工程のなかでの位置づけ

StartLinkの導入支援は、現状の整理・要件定義、設計・構築、データ移行、テスト・検証、定着・運用改善の順に進めます。現状の整理は最初の工程で、ここで作った表が後続の工程すべての入力になります。

工程 現状整理の表を使う場面
要件定義 As-Isの各行にTo-Beの扱いを決める
設計・構築 データ棚卸しをもとにプロパティとオブジェクトを設計する
データ移行 保管場所と件数の記録を、移行元の一覧として使う
テスト・検証 業務フローの例外パターンを、テストケースの材料にする
定着・運用改善 権限と担当者の表を、運用ルールの土台にする

集める対象は4種類に分けて、別々の表にする

現状整理の資料が散らかるのは、業務の話・データの話・ツールの話・人の話が1枚のメモに混ざるためです。最初から4種類に分けておくと、ヒアリングの担当も分けられ、後から検索もできます。

種類 集める問い 主な情報源
業務フロー 誰が、いつ、何を見て、何をしているか 現場担当者へのヒアリング、実際の画面操作の同席
データ どこに、どんな項目が、何件あるか 表計算、既存システムの出力、名刺・メール
ツール 何が使われ、何と何がつながっているか 契約中サービスの一覧、連携の設定画面
権限 誰が何を見て、何を変えてよいか 現在の運用ルール、管理者へのヒアリング

表は「事実」と「所見」の2段にする

どの表も、列を「事実」と「所見」に分けます。事実は、聞いた内容や画面で確認した内容をそのまま書く欄です。所見は、整理する側が「ここは重複している」「ここは属人化している」と気づいた点を書く欄です。

この2つを混ぜると、要件定義の場で「それは本当に起きていることなのか、解釈なのか」が分からなくなります。所見の欄に書いた内容は、後で要件の候補として拾います。


業務フローの棚卸し:成功した流れではなく、例外を拾う

業務フローの棚卸しでは、正常に流れた場合の手順だけを聞いても、設計に使える情報になりません。設計で効くのは、流れが止まる場所、戻る場所、人が判断している場所です。

担当者が「いつもこうしています」と話した内容は、手順の骨格として書きます。そのうえで、「うまくいかなかったときはどうしますか」「最後にそれが起きたのはいつですか」と重ねて聞くと、例外の処理が見えてきます。

業務フロー棚卸し表の型

列 書くこと 区分
工程名 問い合わせ受付、見積作成、受注処理など 事実
担当者(役割) 個人名ではなく役割で書く 事実
入力・出力 何を見て始め、何を作って終えるか 事実
使う場所 どのツール・ファイルで作業しているか 事実
例外・手戻り 止まる条件、戻る先、人が判断する箇所 事実
所見 属人化・二重入力・待ちの発生など 所見

聞き取りの順序

  1. 営業やサポートなど、顧客に近い工程から聞く。顧客との接点が、データの入口になるため
  2. 次に、受注後や請求など、後工程を聞く。前工程で取った情報がどこで使われるかが分かる
  3. 管理職には、集計や報告の出し方を聞く。最終的に必要になる出力が見える
  4. 例外と手戻りを、各工程で必ず1つ以上聞く
  5. 聞いた内容を表に落とし、担当者本人に読み上げて事実が合っているか確認する

聞き取りの記録や議事録の下書きは、Claudeのような生成AIで整理すると速くなります。ただし、AIが作った表は、必ず担当者本人が事実として合っているかを確認します。AIは聞いた内容の整理を担い、事実の確認は人が担います。


データの棚卸し:項目と件数、持ち主、更新のされ方を記録する

データの棚卸しは、「何が入っているか」だけでなく、「誰が、いつ、どう更新しているか」まで記録します。HubSpotへ移す・つなぐ・捨てるの判断は、更新のされ方で大きく変わるためです。

移行を伴う場合、件数の照合は後の工程で使います。そのため、現状整理の時点で、保管場所ごとの件数と取得日を残しておきます。移行時の突合の進め方はCRMデータ移行の方法にまとめています。

データ棚卸し表の型

列 書くこと
保管場所 表計算、既存システム、メール、名刺など
対象 コンタクト、会社、案件、問い合わせ履歴など
主な項目 項目名と、入力方式(自由記述か選択か)
件数と取得日 その時点の件数。日付とセットで記録
更新者と頻度 誰が、どのタイミングで更新しているか
重複や欠損の状況 同じ相手が複数行ある、空欄が多い項目など

すでにHubSpotを使っている場合は画面から事実を取る

すでにHubSpotのアカウントがある場合は、ヒアリングで聞くより、画面で確認したほうが正確です。公式ナレッジで確認できた場所は次のとおりです。

確認したいこと 画面の場所 取れる情報
プロパティの一覧と使われ方 設定アイコン、[プロパティー]で対象オブジェクトを選ぶ グループ、フィールドタイプ、作成者での絞り込み。編集画面の[使用法][データ品質][データソース]のタブ(この3タブはData Hub ProfessionalまたはEnterpriseが対象)
重複の状況 [その他]、[CRM]、コンタクトまたは会社、右上の縦に並んだ3つの点のアイコンから[重複を管理] コンタクトと会社の重複候補(重複管理ツールはProfessionalまたはEnterpriseが対象)
保有データの実数 各オブジェクトの[すべてのレコード]ビューで[エクスポート] 現在のプロパティー値と関連付けのファイル。エクスポート権限が必要

コンタクトプロパティーの一覧画面。プロパティー名やグループ、フィールドタイプを一覧で確認できる

プロパティの一覧は、設計の前に必ず見ておきます。同じ意味の項目が複数あったり、使われていない項目が残っていたりする場合、その整理が構築の最初の作業になるためです。詳細な設計の考え方はHubSpotプロパティ設計と命名規則、データ型の選び方を参照してください。

公式の記載は次のページで確認できます。プロパティーの作成と編集(HubSpotナレッジベース)、レコードのエクスポート(HubSpotナレッジベース)、重複レコードの管理(HubSpotナレッジベース)です。


ツールと連携の棚卸し:つながりを線で描き、方向を書く

ツールの棚卸しは、サービスの名前を並べるだけでは足りません。大事なのは、どのツールとどのツールが、どの方向に、何のデータをやり取りしているかです。HubSpot導入後に連携を作り直す範囲は、この線の記録で決まります。

ツール棚卸し表の型

列 書くこと
ツール名と用途 何のために使っているか
管理者 設定を変えられる人
受け渡すデータ 連携先へ渡す項目と、受け取る項目
連携の方向と方法 一方向か双方向か。標準の連携か、手作業か
HubSpot導入後の扱い 置き換える・連携する・併用する・やめる

すでにHubSpotのアカウントがある場合、接続済みのアプリは、設定アイコンから[連携]、[接続されたアプリ]で確認できます(連携アプリの管理(HubSpotナレッジベース))。一覧に出ない手作業の受け渡し、たとえば毎月のCSV取り込みは、ヒアリングで拾います。

会計や情報共有のツールとつなぐ場面では、StartLinkが開発するSync for freeeやSync for Notionのような連携アプリで埋められる部分と、設計が別に必要な部分が出てきます。詳しくはSync for freeeのページで確認できます。標準で足りない部分に連携アプリを使うかどうかは、要件定義の段階で決めます。


権限・自動化・数字の棚卸し:運用ルールを書き出す

権限と運用ルールは、現状整理で抜けやすい領域です。「誰が何を見られるか」は、多くの場合、ルールとして書かれておらず、慣習で運用されています。この慣習を書き出さずに構築すると、公開範囲の設計で後から揉めます。

HubSpotの権限は、[ユーザーとチーム]で管理し、CRM・マーケティング・セールス・収益・サービス・データ管理・自動化・レポート作成などのタブごとに設定します(ユーザー権限の設定(HubSpotナレッジベース))。権限セットの設定には、スーパー管理者または「ユーザーの追加および編集」権限が必要です。現状整理では、画面の設定を決める前に、「いまの運用でどの役割がどの情報を見て、変えているか」を役割ごとに書きます。

権限と運用ルールの棚卸し表

役割 見ている情報 変更している情報 所見(見せたくない・見たい)
営業担当 担当の顧客と案件 案件の状況、メモ 他担当の案件をどこまで見てよいか
営業管理者 チーム全体の案件 ステージの定義 集計の定義が人によって違う
管理部門 受注後の契約・請求 請求の情報 営業側から見せる範囲

数字の定義を残す

もう1つ、現状整理で記録しておきたいのが、数字の定義です。「受注」「見込み」「商談」といった言葉は、部署によって指す範囲が違うことがあります。いまの会議で使っている定義を、数字の出し方とセットで書き残します。

ここが曖昧なまま構築に入ると、パイプラインのステージの意味が人によって違い、レポートの数字が合わなくなります。ステージ設計の考え方はHubSpotパイプライン設計ガイドを参照してください。パイプラインのステージ設定の場所は、設定アイコンから[データ管理]の[オブジェクト]で、対象を選んで[パイプライン]タブを開く形です(パイプラインの設定(HubSpotナレッジベース))。


As-Isの各行にTo-Beの扱いを決めて、要件定義へ渡す

4種類の表ができたら、各行に「To-Beでの扱い」を1つ決めます。これが、現状整理から要件定義への受け渡しです。扱いは次の4区分に絞ると、議論が進みます。

扱い 意味 判断の基準
残す HubSpotでも同じ形で続ける 成果が出ており、変える理由がない
変える HubSpot上で形を変えて実現する 二重入力や属人化など、所見に課題が書かれている
やめる 移行も連携もしない 使われていない、または目的が失われている
保留 要件定義の場で決める 関係者の合意が要る、または情報が足りない

現状整理から要件定義への流れ。4種類の棚卸し表の各行に、残す・変える・やめる・保留の扱いを付ける

保留は、期限と決める人を付ける

「保留」は便利な区分ですが、放置されやすい区分でもあります。保留の行には、「誰が」「いつまでに」決めるかを必ず付けます。期限のない保留は、構築の途中で突然「やっぱり必要だった」という形で戻ってきます。

要件の候補を、所見から拾う

要件の候補は、所見の欄から拾います。「同じ顧客を3か所で管理している」という所見があれば、「顧客情報の正を1か所にする」が要件の候補になります。所見を要件に書き換える作業は、事実の欄を根拠として残したまま行います。根拠が追えることで、要件の優先順位を決めるときに「なぜ必要か」を説明できます。


現状整理の手順:2週間を目安にした進め方

現状整理の期間は、対象とするデータとツールの数で変わります。ここでは、段階を踏んで進める一例を示します。企業様(チーム)によって最適な形は異なりますので、規模に応じて調整してください。

  1. 対象範囲を決める。最初から全部門をやらず、まず1つの業務(たとえば営業から受注まで)に絞る
  2. 4種類の表の雛形を用意し、記入の担当を割り振る
  3. 現場担当者へヒアリングし、業務フローの表を埋める
  4. データとツールの表を、実物(ファイル・画面)を見ながら埋める
  5. 権限と数字の定義を、管理者と一緒に書き出す
  6. 担当者本人に表を読み上げて、事実の欄を確認してもらう
  7. 各行にTo-Beの扱いを付け、保留の行に期限と決める人を付ける
  8. 要件定義の場へ、表一式を渡す

スモールスタートで広げる

StartLinkは、最初に1つの業務に絞って現状整理から構築まで通し、動いたものを土台に対象を広げる進め方を勧めています。一度に全社の現状を整理しようとすると、表が完成する前に状況が変わってしまうためです。準委任の形で伴走する場合は、表の作成を一緒に進め、事実と所見の分け方をその場で合わせます。


現状整理でよくある失敗と回避策

失敗 起きること 回避策
理想像を先に議論する 現状の記録が残らず、後で食い違う 現状整理と要件定義の会議を分ける
管理者だけに聞く 現場の例外が拾えない 現場担当者に画面を見せてもらう
データの件数を取らない 移行時に照合できない 取得日付きで件数を残す
手作業の受け渡しを拾わない 連携の範囲が不足する 毎月・毎週の定例作業を聞く
保留の行を放置する 構築中に仕様が揺れる 期限と決める人を付ける

現状整理の成果は、きれいな資料ではなく、事実と所見が分かれた表です。後から根拠をたどれることが、要件定義と構築の精度を決めます。

導入全体の流れはHubSpot導入完全ガイド、失敗の型はHubSpot導入の失敗パターンと回避策でも整理しています。


よくある質問

Q1. 現状整理は、どのくらいの期間がかかりますか

対象とする業務やデータの量で変わります。1つの業務に絞った場合は、ヒアリングと表の作成を合わせて2週間前後を目安に考えることが多いです。ただし、企業様(チーム)によって最適な形は異なりますので、最初に対象範囲を決めてから見積もるのがおすすめです。

Q2. 現状が整理されていなくても、HubSpotを先に触ってよいですか

試用として触ることは問題ありません。ただし、本番の設計に入る前には、データと運用の現状を表にしておくことをおすすめします。後から変えにくい設定があるため、先に決める項目を洗い出す意味があります。

Q3. 業務フロー図は必ず作る必要がありますか

図でなくても、表で足ります。大切なのは、工程・担当・入力と出力・例外が記録されていることです。図は、関係者が全体像を共有したいときに追加します。

Q4. 現場がヒアリングに協力的でない場合はどうしますか

「評価のためではなく、設計のために現状を知りたい」と目的を伝え、1回の時間を短くして回数を分けると進めやすくなります。実際の画面や表計算を見せてもらう形にすると、説明の負担も減ります。

Q5. 現状整理だけを外部に依頼することはできますか

可能です。表の作成と要件定義への渡し方を支援範囲とし、構築は別に判断する形もあります。依頼範囲の切り分けは、HubSpot提案・要件定義7ポイントも参考になります。


まとめ:現状を4つの表に残し、As-Isの各行に扱いを決めて要件へ渡す

  • 現状整理の成果物は「いまの状態の記録」で、要件定義の「これからの約束」とは分ける
  • 集める対象は、業務フロー・データ・ツール・権限の4種類。表は事実と所見の2段で持つ
  • すでにHubSpotがある場合は、[プロパティー][重複を管理][接続されたアプリ]など、画面で確認できる事実は画面から取る(プランの対象外で見られない画面は、一覧とエクスポートで代替する)
  • 各行に、残す・変える・やめる・保留の扱いを付け、保留には期限と決める人を付ける
  • まず1つの業務に絞って通し、動いたものを土台に広げる

最初の一歩は、対象にする業務を1つ決め、業務フローの表に工程名を10行ほど書き出すことです。HubSpotゴールドパートナーのStartLinkは、現状整理から要件定義、構築、定着までを工程ごとに支援しています。自社の状況に当てはめた進め方を検討したい場合は、CRM特化型コンサルティングのHubSpotゴールドパートナーのStartLinkまでお問い合わせください。

記事の内容を、そのまま実務に落とし込みたい方向け

HubSpotゴールドパートナーのStartLinkが、HubSpot導入・AI活用・CRM整備・業務効率化までをまとめて支援しています。記事で気になったテーマを、そのまま相談ベースで整理できます。

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著者情報

7-1

今枝 / Imaeda

株式会社StartLink 代表取締役。累計150社以上のHubSpotプロジェクト支援実績を持ち、Claude CodeやHubSpotを軸にしたAI活用支援・経営基盤AXのコンサルティング事業を展開。
HubSpotのトップパートナー企業や大手人材グループにて、エンタープライズCRM戦略策定・AI戦略ディレクションを経験した後、StartLinkを創業。現在はCRM×AIエージェントによる経営管理支援を専門とする。