部門別損益計算は、直接費→部門管理費→共通費配賦の3層構造で設計し、最も重要な指標は「部門貢献利益」です。配賦基準は因果関係・簡便性・一貫性の3原則に基づいて設計し、完璧な精度よりも運用可能なシンプルさを優先します。全社利益率20%でも部門別に見ると赤字部門が隠れているケースは珍しくありません。
「全社のP/Lは見ているが、どの部門がどれだけ稼いでいるかわからない」——複数の事業を展開する企業にとって、部門別損益の把握は経営の基本です。にもかかわらず、全社のP/Lしか作成していない中小企業は少なくありません。
部門別損益計算とは、企業の利益を事業部門やサービスライン別に分解して把握する管理会計の手法です。部門別のP/Lが見えることで、「どの事業に投資すべきか」「どの事業を縮小・撤退すべきか」という戦略的な判断が可能になります。
本記事では、部門別損益計算の具体的な方法を、配賦基準の設計から月次レポートの運用まで解説します。
本記事は「中小企業の予算管理|基本の進め方とExcel脱却のタイミング」シリーズの一部です。
本記事はStartLinkの「経営管理DX完全ガイド」関連記事です。
この記事でわかること
- 全社利益率20%の企業に赤字部門が隠れる構造と部門別損益の必要性 — 全社P/Lで営業利益率10%の企業でも、部門別に見ると以下のような実態が隠れていることがあります。
- 直接費→部門管理費→共通費配賦の3層構造による部門別P/Lの設計 — 部門別P/Lは、以下の3層構造で設計します。実務では、第2層の「部門貢献利益」が最も重要な指標です。
- 間接費配賦の因果関係・簡便性・一貫性の3原則と具体的な配賦基準例 — 間接費(共通費)をどのように各部門に配分するかが、部門別損益計算の最大の論点です。
- 月次レポートの作成手順(5ステップ)と差異分析の進め方 — 会計ソフトの売上データを部門別に集計します。CRMで営業データを管理している場合は、CRMの受注データと会計データを突合させます。
部門別損益計算の方法について理解を深めたい方に、特に参考になる内容です。
部門別損益が必要な理由
全社P/Lで営業利益率10%の企業でも、部門別に見ると以下のような実態が隠れていることがあります。
| 部門 |
売上 |
営業利益 |
利益率 |
| A事業(コンサル) |
5,000万 |
1,500万 |
30% |
| B事業(SaaS) |
3,000万 |
-200万 |
-7% |
| C事業(受託開発) |
2,000万 |
700万 |
35% |
| 全社合計 |
1億 |
2,000万 |
20% |
この場合、B事業の赤字がA事業とC事業の利益を食っている状態です。全社P/Lだけ見ていると、B事業の問題に気づきにくく、対策が遅れます。
部門別P/Lの構造
部門別P/Lは、以下の3層構造で設計します。
第1層:直接費(その部門に直接紐づく費用)
| 項目 |
例 |
| 売上高 |
各部門の売上 |
| 売上原価(直接) |
外注費、仕入原価、部門専属人件費 |
| 部門粗利 |
売上 - 直接原価 |
第2層:部門管理費(部門が管理できる経費)
| 項目 |
例 |
| 部門人件費 |
部門メンバーの給与・社保 |
| 部門経費 |
旅費交通費、交際費、部門固有のSaaS費用 |
| 部門貢献利益 |
粗利 - 部門管理費 |
第3層:共通費の配賦
| 項目 |
例 |
| 本社経費配賦 |
家賃、管理部門人件費、全社共通システム費 |
| 部門営業利益 |
貢献利益 - 共通費配賦 |
実務では、第2層の「部門貢献利益」が最も重要な指標です。部門貢献利益がプラスであれば、その部門は共通費の一部をカバーしており、全社の利益に貢献しています。
配賦基準の設計方法
間接費(共通費)をどのように各部門に配分するかが、部門別損益計算の最大の論点です。
主な配賦基準
| 間接費 |
推奨配賦基準 |
根拠 |
| オフィス家賃 |
占有面積比 |
使用する物理スペースに応じて |
| 管理部門人件費 |
売上比 or 人数比 |
管理対象の規模に応じて |
| 全社IT費用 |
アカウント数比 |
利用人数に応じて |
| 役員報酬 |
売上比 |
経営全体への貢献度合い |
| 広告宣伝費 |
部門別の直接配分 or 売上比 |
広告の受益者に応じて |
| 減価償却費 |
資産の利用実態 |
設備を使用する部門に |
配賦基準設計の3原則
- 因果関係の原則:費用と部門の間に合理的な因果関係がある基準を選ぶ
- 簡便性の原則:完璧な配賦よりも、運用可能な簡便さを優先する
- 一貫性の原則:一度決めた基準は頻繁に変更しない(比較可能性を確保)
月次レポートの作成手順
手順1:売上データの部門別集計
会計ソフトの売上データを部門別に集計します。CRMで営業データを管理している場合は、CRMの受注データと会計データを突合させます。
手順2:直接費の部門別集計
各部門に直接紐づく費用(外注費、部門メンバーの人件費等)を集計します。
手順3:共通費の配賦計算
事前に設計した配賦基準に基づいて、共通費を各部門に配分します。
手順4:部門別P/Lの作成
| 項目 |
A事業 |
B事業 |
C事業 |
共通 |
全社 |
| 売上高 |
500 |
300 |
200 |
- |
1,000 |
| 直接原価 |
150 |
180 |
80 |
- |
410 |
| 粗利 |
350 |
120 |
120 |
- |
590 |
| 部門管理費 |
100 |
80 |
50 |
- |
230 |
| 貢献利益 |
250 |
40 |
70 |
- |
360 |
| 共通費配賦 |
80 |
48 |
32 |
-160 |
0 |
| 営業利益 |
170 |
-8 |
38 |
-160 |
200 |
手順5:差異分析とレポート
前月・前年同期・予算との比較を行い、変動が大きい項目について原因を分析します。
配賦の精度を上げるポイント
ポイント1:ABC(活動基準原価計算)の簡易版を導入
主要な間接費について、実際の活動量(工数、処理件数等)に基づいて配賦することで精度が上がります。完全なABCは負荷が高いですが、金額の大きい費目だけでも活動量ベースに切り替えると効果的です。ABC活動基準原価計算も参考にしてください。
ポイント2:時間記録の導入
管理部門のメンバーが各部門の業務にどれだけ時間を使っているかを記録することで、人件費の配賦精度が向上します。
ポイント3:定期的な配賦基準の見直し
事業構造が変化したら、配賦基準も見直します。半期に1回程度のレビューが推奨です。
CRMデータを活用した顧客別収益分析
部門別損益をさらに深掘りする方法として、顧客別の収益分析があります。CRMに蓄積された顧客データと管理会計データを紐づけることで、「どの顧客が最も利益貢献しているか」「赤字顧客はいないか」を可視化できます。
HubSpotのカスタムプロパティに顧客別の売上・原価を記録し、レポートで可視化すれば、営業チームが収益性を意識した提案を行えるようになります。管理会計の導入ステップで述べたPhase 4の顧客別分析に直結する取り組みです。
CRMで実現する部門別損益計算の方法
部門別損益計算の方法を実務に落とし込むには、CRMツールの活用が不可欠です。詳しくは「経営ダッシュボードの作り方|KPIを一覧で可視化する設計手順」で解説しています。
次のステップ
部門別損益計算に取り組むなら、CRMツールの活用が効果的です。以下の記事でHubSpotを使った具体的な実践方法を解説しています。
まとめ
全社利益率20%でも部門別に見ると赤字部門が隠れているケースは珍しくない。直接費→部門管理費→共通費配賦の3層構造で部門別P/Lを設計する
実践にあたっては、以下のポイントを押さえておくことが大切です。
- 「部門貢献利益」が最も重要な指標であり、プラスなら全社利益に貢献
- 配賦基準は因果関係・簡便性・一貫性の3原則に基づき、80点の精度で運用を開始
- CRMの顧客データと連携すれば、さらに顧客別収益性分析まで深掘りが可能
よくある質問(FAQ)
Q1. 部門別損益計算で最も重要な指標は何ですか?
「部門貢献利益」が最も重要です。部門貢献利益=粗利−部門管理費で算出され、これがプラスであればその部門は共通費の一部をカバーしており、全社の利益に貢献しています。共通費配賦後の営業利益よりも、部門貢献利益で事業の健全性を判断してください。
Q2. 部門別損益の導入にはどのくらいの手間がかかりますか?
会計ソフトの仕訳に部門コードを付与する作業が主な手間です。freeeやマネーフォワードでは部門タグを使って仕訳を分類でき、最初は3〜5部門の大括りで始めれば十分です。配賦基準は因果関係・簡便性・一貫性の3原則に基づいてシンプルに設計しましょう。
Q3. 全社利益率が高くても部門別損益を把握する必要がありますか?
はい。全社利益率20%の企業でも、部門別に見るとある事業が赤字で他の事業の利益を食っているケースは珍しくありません。赤字部門の早期発見と対策のために、部門別損益の把握は企業規模を問わず重要です。
StartLinkのHubSpot × freee連携による部門別収益可視化サポート
StartLinkはHubSpotゴールドパートナーとして、CRMと会計データをつなぐ設計支援を行っています。HubSpotの案件情報に「部門」「事業」タグを設計し、「Sync for freee」でfreeeの部門別実績と突き合わせ、部門別の売上・粗利を可視化するご相談を承っています。Claude Codeエージェントを使った月次レポーティングの自動化もご提案可能です。部門別会計制度そのもの(配賦ルールの設計、予算制度の導入、決算業務)の代行は対応範囲外ですが、「HubSpot上で部門別の数字を追える状態にしたい」というご相談はお気軽にどうぞ。
経営管理の理解をさらに深めるために、限界利益の計算方法と経営への活用もあわせてご覧ください。また、資金繰り改善の具体策も関連するテーマを扱っています。