「ワクチンの時期が近い飼い主さんに、毎回手作業で連絡するのが負担になっている」
「複数の病院を支援しているが、院ごとの状況が担当者の頭の中にしかない」
——動物病院の運営や、運営を支える立場でよく聞く声かなと思います。
動物病院でHubSpotを使うとは、飼い主との連絡と定期の案内を、条件に合った人へ自動で届ける仕組みにすること、そして運営支援の側では、院ごとの支援の進み具合を一覧で管理できる状態にすることです。診察そのものの記録(カルテ)や予約枠の管理は、動物病院向けの専用システムの領域です。HubSpotはその外側にある「連絡と関係の管理」を担います。
この記事では、病院単体の運営と、複数院を支援する運営支援の両方を想定して、データの持ち方、定期案内の設計、院ごとの管理、そしてHubSpotに任せない範囲を整理します。
動物病院で「連絡が途切れる」のは、どんな場面か
動物病院の連絡業務は、時期が決まっている案内と個別の経過を見守る連絡が混在しています。
時期が決まっている案内が多い
ワクチンの接種時期、予防薬の季節、定期健診、歯の健康診断など、動物病院には「そろそろですよ」とお知らせする機会が多くあります。たとえば犬の飼い主には、住所のある市区町村への登録と、年1回の狂犬病予防注射、鑑札と注射済票の装着が法律で義務付けられています(厚生労働省の案内)。春の集合注射の時期と重なるため、案内の需要が毎年はっきり生まれます。
こうした案内を、受付や獣医師が個別に思い出して連絡するやり方では、忙しい時期に漏れが出ます。漏れが出ること自体が、飼い主にとっては病院から忘れられたように映ります。
運営支援では、院ごとの状況が見えにくい
複数の病院の運営を支援する立場では、院ごとに課題も進み具合も違います。採用、集客、設備、スタッフの教育など、支援のテーマは広く、どの院に何を提案し、どこまで進んだのかが、担当者の記憶に頼りがちです。担当が変わったとたんに状況が分からなくなる、という悩みもここから生まれます。

HubSpotでできること・カルテや予約枠に任せること
最初に、役割分担をはっきりさせます。HubSpotは連絡と関係の管理を担い、診療の記録と予約枠は動物病院向けのシステムが担うのが基本です。
| 領域 |
HubSpotで管理できる |
動物病院向けのシステムに任せる(HubSpotの対象外) |
| 飼い主の情報 |
氏名・連絡先・居住エリア・連絡の好み・配信の同意状況 |
診察時の本人確認や会計に結びつく業務情報 |
| ペットの情報 |
名前・種類・生年月日・次回案内の時期など、案内に必要な最小限の項目 |
診療カルテ、検査結果、処方、診察の経過 |
| 連絡・案内 |
ワクチン・予防・健診などの定期案内、お礼、アンケート、反応の確認 |
診察中の記録、会計・処方に付随する業務連絡 |
| 予約 |
来院予約の案内リンクを送る、リマインドの連絡 |
予約枠の管理、診察室・獣医師ごとの空き状況、診察の順番 |
| 院ごとの支援(運営支援側) |
院の情報、担当者、支援テーマの進み具合、次のアクション、やり取りの履歴 |
各院の診療・会計・在庫の運用 |
押さえておきたいのは、カルテの内容をHubSpotに入れようとしないことです。診療情報は専用システムで厳格に管理されるべきもので、CRMに二重に持つと、更新のずれや情報の取り扱い上のリスクが生まれます。HubSpotに持たせるのは、「いつ、誰に、何を案内するか」を決めるための情報だけです。
飼い主とペットのデータ設計
案内を自動化するうえで、最初の壁になるのが「1人の飼い主が複数のペットを飼っている」という構造です。
飼い主はコンタクト、ペットの持たせ方は3通り
HubSpotでは、飼い主をコンタクトとして持ちます。ペットの持たせ方には、主に3つの方法があります。
| 方法 |
内容 |
向いている場面 |
| コンタクトのプロパティに持つ |
「ペット1の名前・種類・次回案内日」「ペット2の…」のように項目を並べる |
ペットの頭数が1〜2頭が中心で、まず始めたいとき |
| カスタムオブジェクトで持つ |
「ペット」を独立したレコードにして、飼い主に関連付ける |
多頭飼いが多く、ペットごとに案内を出し分けたいとき |
| 案内の単位を「世帯」にする |
ペット単位ではなく、飼い主単位の案内にとどめる |
案内内容が全ペットに共通で、細かな出し分けが不要なとき |
カスタムオブジェクトの作成にはEnterpriseの契約が必要です(HubSpot公式 カスタムオブジェクトの作成)。そのため、まずはコンタクトのプロパティで始めて、運用が回り出してから、ペット単位の管理が本当に必要かを判断するのが現実的です。
最初に持つ項目の目安
| 項目 |
内容 |
使い道 |
| 飼い主の連絡先・同意 |
メール、配信同意の日付と方法 |
配信可否の判断、同意の記録 |
| 動物の種類 |
犬・猫・その他(選択式) |
季節ごとの案内の出し分け |
| ペットの生年月日 |
日付 |
年齢に応じた健診や案内 |
| 次回案内の時期 |
日付(ワクチン、予防、健診ごと) |
案内の起点の日付 |
| 最終来院日 |
日付 |
来院が途絶えた層の把握 |
項目は選択式と日付を基本にして、自由記述を避けます。診察内容や病名のような機微な情報は、最初から持たせない設計にしておくと安全です。
専用システムからの取り込み
動物病院向けのシステムから、飼い主の連絡先と「次回案内の時期」を書き出して、CSVでHubSpotに取り込む方法が現実的です。HubSpotのインポートはメールアドレスをコンタクトの一意の識別子として使えるため、同じ飼い主を重複させず更新できます(HubSpotのインポートファイル設定)。まずは月に1回程度の定期取り込みで十分で、連携による自動化は運用が安定してから考えれば間に合います。
個人情報と配信同意の扱い
飼い主の氏名・連絡先は個人情報です。ペットの情報も、飼い主と結びつくことで、個人に関連する情報として扱う必要があります。
配信には同意と記録を
広告宣伝にあたるメールは、特定電子メール法に基づき、事前の同意と同意の記録の保存が求められます。ワクチンや健診の案内がどこまで広告宣伝にあたるかは内容によって判断が分かれうるため、同意をいただいたうえで送る設計を基本にしておくと安全です。具体的な判断は専門家にご確認ください。同意の取り方と記録の考え方は、特定電子メール法のBtoB実務ガイドでも整理しています。
持たない情報を決めておく
運用の安全性は、持たない情報を決めておくことで高まります。診療内容、病名、検査結果は、HubSpotに入れない前提にします。担当者が自由記述のメモ欄に書き込まないよう、運用ルールとして明文化しておくのがおすすめです。
定期案内を自動化する
「次回案内の時期」を起点にワークフローを作る
HubSpotのワークフローには、スケジュールに基づく登録トリガーがあります。日付プロパティを選び、その日付の「前」「当日」「後」に登録できるため、「次回ワクチン時期の1か月前」に案内を届ける、といった設計ができます。頻度を毎年にすれば、年1回の案内にも使えます(HubSpotのスケジュールに基づくトリガー)。ワークフローは、Marketing Hub、Sales Hub、Service Hub、Data HubのいずれかのProfessional以上で使えます(HubSpot公式 ワークフローの作成)。
案内の流れは、たとえば次のように組み立てられます。
- 時期の1か月前:案内メール(予約リンクを添える)
- 反応がなければ2週間後:リマインドの連絡
- 来院後:お礼と、次回の案内時期の更新
- 一定期間来院がない層:様子を気遣う連絡
予約リンクは、予約システム側のものを案内に添える形にします。来院予約の枠の管理そのものは専用システムの役割です。
動物の種類や年齢で出し分ける
HubSpotのアクティブなセグメントは、条件に合う人が自動で入れ替わります。「犬の飼い主」「猫の飼い主」「生後1年未満」「高齢」などの条件で作っておけば、案内の出し分けが簡単にできます(HubSpotのセグメント作成)。セグメントの設計はリスト・セグメント設計の記事も参考になります。
ここで気をつけたいのは、案内の内容に飼い主が不安になる表現を入れないことです。ペットの健康の話は感情に直結します。「しないと危険です」と煽るのではなく、「そろそろの時期です」と穏やかに伝えるほうが、病院との信頼につながります。

院ごとの支援状況を管理する(運営支援の側)
運営支援の立場では、もうひとつの管理軸があります。院そのものを顧客(取引先)として見て、支援の進み具合を管理することです。
院は「会社」、担当者は「コンタクト」
HubSpotでは、病院を会社レコード、院長や事務長をコンタクトとして持ち、関連付けます。複数院を運営する法人の場合は、法人と各院を親子の関係で持てます。
支援の進み具合を「取引」のパイプラインで見る
支援のテーマごとに、取引(ディール)を作り、パイプラインのステージで進み具合を管理します。たとえば、採用支援、集客の改善、スタッフ教育のように、支援の種類ごとに取引を分けると、院ごと・テーマごとの状況が一覧で見えます。HubSpotでは、Starter以上で複数のパイプラインを作れます。取引のステージには、成約と失注に相当する段階を含める必要があります(HubSpotのパイプライン設定)。
見るべき観点は次のとおりです。
- どの院で、どのテーマが、どの段階か
- 次のアクションと期日は誰が持っているか
- 直近のやり取りがいつか(連絡が途絶えている院はないか)
パイプラインの設計の考え方は、パイプライン設計ガイドにまとめています。担当者が変わっても、レコードを開けば経過が分かる状態が、運営支援では特に大きな価値になります。
始め方
最初から全部やろうとせず、小さく始めます。
- 専用システムから、連絡先と配信同意のある飼い主のデータを書き出す
- 動物の種類・次回案内の時期などを、選択式と日付のプロパティで用意する
- ワクチン案内の1本だけをワークフローにする
- 反応(開封・クリック・予約)を見て、案内を足していく
- 運営支援の場合は、並行して、院と支援テーマの一覧を取引として登録する
業界ごとの設計の違いは、業界別HubSpot活用ガイドでも比較できます。予約と再来院の促進という点では、美容室・サロンDXの実践ガイドの考え方も近く、参考になります。医療分野全般の設計はヘルスケア業界のHubSpot活用をご覧ください。
よくある質問
Q1. カルテの情報もHubSpotで管理できますか
おすすめしません。診療記録や検査結果は、動物病院向けのカルテシステムで管理するのが前提です。HubSpotには、案内のために必要な最小限の情報(連絡先、動物の種類、次回案内の時期など)だけを持たせます。
Q2. 予約の受付もHubSpotでできますか
予約枠そのものの管理(獣医師ごとの空き、診察室、順番)は、専用の予約システムの領域です。HubSpotでは、予約システムの案内リンクを案内メールに添える、リマインドを送るといった連絡の部分を担います。
Q3. 多頭飼いの飼い主には、どう対応すればよいですか
まずは、コンタクトのプロパティに「ペット1」「ペット2」を持たせる方法で十分に始められます。ペットごとの出し分けが多く必要になってから、カスタムオブジェクト(Enterpriseが必要)を検討するのが現実的です。
Q4. 小規模な病院でも効果はありますか
あります。毎月の定期案内を手作業で行っている病院ほど、自動化の効果が大きくなります。ワクチン案内を1本だけ自動化するだけでも、連絡漏れと担当者の負担が減ります。
Q5. 運営支援の側で、院ごとの情報を一覧にするコツはありますか
院を会社、支援テーマを取引として登録し、ステージを3〜5段階程度に絞ることです。ステージが細かすぎると更新が追いつかず、最新の状態が見えなくなります。
まとめ
動物病院のHubSpot活用は、診療の仕組みを置き換えるものではなく、飼い主との連絡と、院ごとの支援状況を整える仕組みです。
- カルテと予約枠は専用システムに任せる。 HubSpotには案内に必要な最小限の情報だけを持たせる
- 飼い主はコンタクト、ペットはまずプロパティで持つ。 カスタムオブジェクトはEnterpriseが必要
- 「次回案内の時期」を起点に、スケジュールに基づくワークフローで定期案内を自動化する
- 運営支援では、院を会社、支援テーマを取引にして、進み具合を一覧にする
- 配信には同意と記録を。診療情報は持たない運用を明文化する
最初の一歩としておすすめしたいのは、ワクチン案内の対象者を、専用システムから書き出して、「次回案内の時期」の日付とともにHubSpotに取り込むことです。そこから、1本の案内を自動化してみてください。
動物病院の運営や運営支援でHubSpotの活用をご検討でしたら、StartLinkまでお気軽にご相談ください。