BPO事業者のHubSpot活用|受託案件の提案から更新までをCRMで管理する設計

BPO事業者のHubSpot活用|受託案件の提案から更新までをCRMで管理する設計
この記事の結論

BPO受託は契約が長く続くぶん、提案・窓口・更新の情報が散らばりがちです。取引パイプラインと更新の仕組み、HubSpotに任せない領域を整理します。

ブログ目次

記事の内容を、そのまま実務に落とし込みたい方向け

HubSpotゴールドパートナーのStartLinkが、HubSpot導入・AI活用・CRM整備・業務効率化までをまとめて支援しています。記事で気になったテーマを、そのまま相談ベースで整理できます。


BPO事業者のCRM活用とは、提案・見積・契約・更新といった「受託の営業側の情報」を、クライアント企業ごとに一か所へ集めて、誰が見ても経緯が分かる状態にすることです。 業務の実行そのもの(オペレーションの工数やシフト)をCRMで管理することではありません。ここを取り違えると、HubSpotに期待しすぎて失望するか、逆に「うちの業務には合わない」と最初から見送ってしまいます。

BPOやコールセンター受託は、一度契約すると数年単位で続くことが多く、営業の仕事は「新規の受注」と同じくらい「更新の維持」と「追加業務の提案」にあります。それにもかかわらず、提案資料はファイルサーバー、見積は表計算、窓口の連絡先は個人のメール、契約の終了日は契約書のPDFの中、という状態で運用している事業者は少なくありません。

この記事では、受託型の営業をHubSpotで管理するための設計と、HubSpotに任せない領域の線引きを、一般的な使い方として整理します。

  • 管理するのは「営業と契約」まで ── 工数集計・業務の進行管理は専用システムの領域です
  • 新規提案と契約更新はパイプラインを分ける ── 同じ画面に混ぜると、更新の見込みが見えなくなります
  • 契約終了日を日付プロパティで持つ ── 更新の準備を人の記憶ではなく仕組みで起動できます
  • クライアントの窓口は担当者ごとに役割を持たせる ── 発注者・現場責任者・請求窓口は別の人であることが多いためです

BPO・コールセンター受託の営業管理が散らばる理由

BPOの営業管理が難しいのは、案件の構造が一般的な商品販売と違うからです。まずは、どこで情報が散らばるのかを整理しておきます。

窓口が複数あり、契約が長く続く

受託型のクライアント企業には、複数の窓口があります。業務を発注する部門の責任者、日々の運用を見る現場の担当者、請求書の送付先となる経理、契約書を扱う法務や購買です。最初の提案では責任者としか会っていなくても、稼働が始まれば現場担当者との連絡のほうがはるかに多くなります。

担当者が人事異動で変わることも珍しくありません。「今の発注者は誰で、更新の決裁は誰が持っているのか」が営業担当者の頭の中にしかないと、更新の時期に慌てることになります。

提案・見積・仕様・更新が別々の場所にある

受託の提案は、業務範囲、想定ボリューム、稼働時間帯、品質の基準、体制といった要素の組み合わせです。提案書、見積、業務フロー図、試行運用の結果が別々のファイルに入っていると、半年後に「なぜこの条件で契約したのか」を後から追えません。更新交渉や追加業務の提案の場面では、当初の前提条件が重要になります。

表面化する場面

表面化する場面 起きること 根本原因
営業担当者の異動・退職 クライアントとの経緯、約束事が引き継げない 商談履歴・メール・メモが個人に分散している
契約更新の時期 更新の準備が遅れ、条件交渉の時間が足りない 契約終了日が一覧で見えない
追加業務の相談 過去の提案内容や前提条件が分からない 当初の提案資料と条件が取引に紐づいていない
営業会議 受注見込みと更新見込みが混ざって見える 新規と更新が同じ一覧で管理されている

いずれも「営業の頑張り」で補う前に、情報の置き場を決めるだけで改善する部分が大きいと考えています。


HubSpotでできること・専用システムに任せること

最初に、線引きを明確にしておきます。BPO事業者の業務は、営業・契約の側と、業務の実行の側に大きく分かれます。HubSpotが得意なのは前者です。

領域 HubSpotで管理できる 専用システムの領域
提案・商談 取引、パイプライン、商談履歴、見積に至るまでの経緯 -
クライアントの窓口 会社・担当者の情報、役割の整理、やり取りの履歴 -
契約の更新 契約終了日の管理、更新の準備タスク、更新見込みの集計 契約書そのものの電子締結・保管は専用の契約管理システム
クライアントへの連絡 依頼・問い合わせの記録(チケット)、定例会議の日程調整 -
業務の実行管理 向かない 業務管理システム(進捗・品質の管理)
工数集計・原価管理 向かない 工数管理システム・勤怠システム
通話・応対 向かない CTI、通話録音、応対品質の管理ツール
スタッフのシフト 向かない シフト管理システム

HubSpotは、受託の「営業と関係管理」までを受け持つツールです。 業務の実行管理や工数集計をHubSpotに寄せようとすると、運用が重くなるだけで、専用システムの代わりにはなりません。両者の間で必要なデータ(たとえば、契約ごとの月間の稼働ボリューム)を受け渡す場合は、連携の設計を別に考えます。Data Hubのデータ同期や、各システムのAPIで連携できる場合もありますが、どちらのシステムを「正」とするかを先に決めておくことが重要です。詳しくはHubSpot Data Hubの解説をご覧ください。

営業と関係管理はHubSpot、業務の実行は専用システム(BPO受託の管理範囲の線引き)


受託案件を「取引」とパイプラインで管理する

HubSpotでは、商談を「取引(Deal)」というレコードで管理します。取引にはパイプラインとステージがあり、ステージを進めるごとに進捗が見えるようになります。パイプラインは1つに限らず、複数持てます(上限は契約プランで異なります)。詳細は公式のパイプラインの設定で確認できます。

新規提案のパイプライン

BPOの新規提案は、一般に次のような流れになります。

ステージ この段階の状態 主に残す情報
引き合い 問い合わせ・紹介・展示会などで接点ができた 流入経路、対象業務の概要
ヒアリング 現在の業務、課題、量、時間帯を確認している 想定ボリューム、現在の運営体制
提案・試行 業務範囲と体制を提案、必要なら試行運用 提案書、試行の条件と結果
見積・条件調整 金額以外の条件(範囲・品質基準・報告頻度)を詰めている 合意した業務範囲、前提条件
契約 契約締結 契約開始日、契約終了日
稼働開始 稼働が始まり、更新パイプラインへ移る 立ち上げ時の窓口と体制

ステージの数は、多すぎると入力が負担になります。迷ったら6〜7ステージ以内に収め、運用しながら見直すのがおすすめです。パイプライン設計の考え方はHubSpotパイプラインの設計方法にまとめています。

契約更新は別のパイプラインにする

新規提案と更新を同じパイプラインに入れると、受注見込みの集計が混ざります。更新は「既存の契約が続くかどうか」の判断であり、必要な準備も、見るべき指標(継続率、条件変更の有無)も異なります。

更新用のパイプラインは、たとえば「更新準備 → 条件調整 → 更新確定/条件変更で更新/終了」のように、新規より短い流れで十分です。稼働開始した取引が契約終了日の一定期間前になったら、更新用の取引を新たに作る運用にすると、更新の見込みを新規とは別に集計できます。

取引に持たせたいプロパティー

取引には、検索や集計に使う項目を選択式や日付で持たせます。自由記述にすると、後から集計できません。

プロパティー 型 使い道
業務種別 選択(受電・発信・事務処理・採用代行など) 業務別の受注傾向の集計
稼働開始予定日 日付 立ち上げの準備タスクの起点
契約終了日 日付 更新の準備を起動する起点
更新の自動継続の有無 選択 更新作業の優先度判断
想定ボリュームの目安 選択(レンジ) 提案時の体制検討

プロパティー設計は、名前の付け方や型の選び方で後の集計のしやすさが変わります。考え方はプロパティー設計のベストプラクティスを参照してください。


クライアントの窓口を役割付きで整理し、更新を仕組みで起動する

窓口を役割付きで整理する

受託では、1社に対して複数の担当者が関わります。HubSpotでは、会社(Company)にコンタクトと取引を関連付けて管理します。さらに、関連付けラベル(Association labels)を使うと、「発注責任者」「現場窓口」「請求窓口」のように、関係の種類を付けて整理できます。

関連付けラベルは、すべてのアカウントで「主要(Primary)」のラベルを使えますが、独自のラベルを作成するには、ProfessionalまたはEnterpriseのサブスクリプションが必要です(公式の関連付けラベルの解説)。

役割ラベルの例

ラベル 意味 営業が見るタイミング
発注責任者 契約・予算の決裁に関わる 提案・更新の交渉
現場窓口 日々の運用で連絡を取る 運用上の相談・追加依頼
請求窓口 請求書の送付先 契約条件の変更時
法務・購買 契約書の確認 契約締結・更新

役割が整理されていれば、人事異動で担当者が変わったときも、「どの役割が空いたのか」がすぐ分かります。更新の1〜2か月前に、発注責任者との接点が最近あったかどうかを一覧で確認する、といった使い方もできます。

更新の準備を仕組みで起動する

更新を逃さないためには、契約終了日から逆算して動けるようにしておく必要があります。HubSpotのワークフローには、日付プロパティーを基準に待機する「遅延(Delay)」があり、「日付の何日前」にあたる時点まで待ってから次の処理に進めます(公式の遅延の解説)。ワークフローは、Marketing Hub、Sales Hub、Service Hub、Data HubのProfessionalまたはEnterpriseで利用できます(公式のワークフロー作成ガイド)。

更新の準備フロー例

  1. 稼働開始した取引の「契約終了日」を基準に、終了の4か月前まで待機する
  2. 営業担当者に「更新方針の確認」のタスクを作成する
  3. 終了の3か月前に、更新用パイプラインの取引を作成する
  4. 終了の2か月前に、まだ条件調整のステージに入っていなければ、上長へ通知する

日数は、事業者ごとの契約の形や決裁の期間に合わせて決めます。最初は1本のシンプルなフローで始め、運用しながら調整するほうが、複雑な設定を一度に作るより定着しやすいと考えています。設定の手順はHubSpotワークフローの設定方法に整理しています。

契約終了日から逆算する更新準備のフロー(日付プロパティーを基準に、ワークフローが更新の準備を起動)


クライアントからの依頼・連絡を残す

稼働が始まったあとの連絡は、営業が間接的に関わる場面が多くなります。業務の変更依頼、品質に関する相談、追加の業務の打診などです。これらを担当者の受信箱に留めず、クライアントごとの履歴として残しておくと、更新の交渉で役に立ちます。

チケットで依頼を記録する

Service Hubのチケット機能を使うと、クライアントからの依頼や相談を1件ずつ記録し、対応状況を追えます。チケットのパイプラインも設定できます。運用の考え方はHubSpotチケット管理の使い方で整理しています。ここで管理するのは「営業・関係管理の観点で残したい依頼」であり、業務の実行そのものの進捗管理は、業務管理システム側に任せます。

定例会議の日程調整

月次の定例会議やレビュー会の日程調整には、ミーティングのリンクが使えます。チームで調整する場合のラウンドロビン(担当者の空きを見て割り振る方法)には、Sales HubまたはService HubのStarter以上のサブスクリプションと、対象メンバーへのSalesまたはServiceシートの割り当てが必要です(公式のスケジュールページ作成)。活用方法はミーティングリンクの活用術をご覧ください。


コールセンター受託の場合に足す視点

コールセンターの受託は、BPOの中でも通話量や体制の変動が大きく、受託先との報告が密になる領域です。営業側の管理としては、次の点を足すと整理しやすくなります。

受託先ごとの案件と報告の窓口

コールセンターの受託では、受託先1社に対して、受電、発信、問い合わせ対応など複数の業務が走っていることがあります。HubSpotでは、業務ごとに取引を分けて、同じ会社に関連付けると、「この会社に対して何の業務を受けているか」が一覧になります。月次の報告会の日程や議事メモも、会社のレコードに残せます。

契約更新と、派遣スタッフの体制の関係

コールセンターの運営は、派遣スタッフや委託スタッフの体制と切り離せません。受託先から「来期は増員したい」「時間帯を拡大したい」という相談を受けたとき、営業は人員の確保の見通しを現場に確認する必要があります。ここで、HubSpotに持たせるのは「相談を受けた事実」と「条件変更の見積の経緯」までです。スタッフ個人の管理、シフトの作成、通話や応対品質の記録は、CTIやシフト管理システムの領域になります。

論点 HubSpotで管理できる 専用システムの領域
受託先の案件 業務別の取引、契約終了日、更新の準備 -
月次報告 報告会の日程、議事メモ、依頼の履歴 通話件数・応答率などの実績データは各システムで集計
増員・時間帯拡大の相談 相談の記録、条件変更の見積の経緯 スタッフの確保・シフト作成はシフト管理システム
応対品質 向かない CTI・通話録音・品質評価ツール

実績の数値(応答率や処理件数)を営業の報告資料に載せたい場合は、各システムから必要な数値だけを取り込むか、資料側に添付する形にします。通話の録音や詳細な記録まで、CRMへ入れる必要はありません。


よくある質問

Q1. 工数管理や稼働管理もHubSpotでできますか

向かないと考えています。HubSpotは営業・マーケティング・カスタマーサービスの記録を扱うCRMで、スタッフの工数や稼働の実績を記録・集計するための製品ではありません。工数管理システムや勤怠システムで記録し、契約ごとの実績をまとめた結果だけを、必要に応じて営業の資料や取引の情報に反映する形が現実的です。

Q2. 契約書そのものはHubSpotで管理できますか

契約の「終了日」「更新の有無」といった営業側で必要な情報は、取引のプロパティーとして管理できます。一方、契約書の電子締結や、原本の保管、条文の管理は、専用の契約管理システムの領域です。HubSpotは営業側の記録を担うもので、法務の管理を代替するものではありません。

Q3. 担当者が10名未満の小規模なBPO事業者でも意味がありますか

あります。むしろ、少人数で営業と運営を兼ねている場合ほど、契約更新の時期や窓口の情報が個人の記憶に依存しやすいためです。最初は契約中のクライアントの一覧と契約終了日の管理だけでも、更新の準備を早めに始められるようになります。

Q4. 既存の業務管理システムとは、どちらを正にすればよいですか

営業・契約・窓口の情報はHubSpot、業務の実行と実績は業務管理システム、と役割で分けるのが基本です。同じ項目を両方に入れると、更新がずれたときにどちらが正しいか分からなくなります。連携する場合も、どの項目をどちらから参照するかを先に決めてから、同期の設定を考えます。

Q5. 営業メールを一斉に送る使い方もできますか

可能ですが、Marketing Hubの有料サブスクリプションの場合は、マーケティングコンタクトに設定した相手にだけ送れます(公式のマーケティングコンタクトの解説)。BPOの営業では、既存クライアントへの個別の連絡が中心になることが多いため、まずは1対1の連絡の記録と更新の管理から始めるのが現実的です。


まとめ:小さく始める3ステップ

BPOの営業管理をHubSpotに移すとき、最初から全部を整える必要はありません。次の順に進めると、負担が少なく進められます。

  1. 既存の契約を一覧にする。 契約中のクライアント、業務の種類、契約終了日、窓口の担当者を洗い出して、会社・コンタクト・取引として登録します
  2. 更新用のパイプラインと、契約終了日のプロパティーを作る。 更新の見通しが一覧で見えるようにします
  3. 更新の準備フローを1本だけ作る。 契約終了日の数か月前にタスクが作られるところまでで十分です

そのうえで、新規提案のパイプラインや、窓口の役割ラベル、依頼の記録へと広げていきます。少人数で始めて、運用しながら足していくのが、定着しやすい進め方かなと思います。他の業種での設計の違いは、業界別ガイドにまとめています。

要点

BPO・コールセンター受託のCRM活用は、営業と契約の側に絞って設計するのが基本です。

  • HubSpotが受け持つのは、提案・窓口・契約更新までです。 工数管理・業務の進行管理・シフト・通話の管理は、専用システムの領域です
  • 新規提案と更新は、パイプラインを分けます。 受注の見込みと更新の見込みが混ざらないようにします
  • 契約終了日を日付プロパティーで持つと、更新の準備を仕組みで起動できます。 人の記憶に頼らずに済みます
  • 窓口は役割付きで整理します。 担当者が変わっても、空いている役割が分かります

最初の一歩としておすすめするのは、契約中のクライアントと契約終了日を一覧にして、HubSpotに取り込むことです。そこから更新用のパイプラインを作れば、半年先の更新の見込みがすぐに見えるようになります。

自社の契約や業務の形にどう当てはめるかを具体的に検討したい場合は、StartLinkの無料相談でご相談ください。現状の運用をうかがったうえで、設計の方向性をご提案します。


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著者情報

7-1

今枝 拓海 / Takumi Imaeda

株式会社StartLink 代表取締役。累計150社以上のHubSpotプロジェクト支援実績を持ち、Claude CodeやHubSpotを軸にしたAI活用支援・経営基盤AXのコンサルティング事業を展開。
HubSpotのトップパートナー企業や大手人材グループにて、エンタープライズCRM戦略策定・AI戦略ディレクションを経験した後、StartLinkを創業。現在はCRM×AIエージェントによる経営管理支援を専門とする。