経費精算・休暇申請・購買依頼といった日常的な申請業務を紙ベースで処理している企業は、いまだに少なくありません。ペーパーロジック株式会社の調査(2024年)によると、従業員100名以上の企業のうち約35%が「承認フローの一部に紙の書類を使っている」と回答しています。
紙の承認フローには、承認者が不在だと物理的に処理が止まる、申請書の紛失リスクがある、過去の承認履歴を検索できないといった構造的な問題があります。しかし、「電子化すれば解決する」と安易にツールを導入しても、現場に定着しないケースが多発しています。
本記事では、日常的な申請業務(経費・勤怠・購買など)の承認フローを電子化するための導入ステップと、運用を定着させるための設計ポイントを解説します。
この記事でわかること
紙の承認フローには、承認者不在で処理が止まる・書類の紛失リスクがある・過去の履歴を検索できないといった構造的な問題があります。本記事では、経費・勤怠・購買など日常的な申請業務の承認フローを電子化する導入ステップと運用設計を解説します。
DXのワークフローについて体系的に学びたい方は、ワークフロー最適化ガイドで全体像を把握できます。
こんな方におすすめ: 紙ベースの承認プロセスに非効率を感じている総務・管理部門の方、ワークフローの電子化を検討しているが導入手順が不明確な方
- 紙の承認フローが生む3つの経営リスク(承認遅延・紛失・履歴不在) — 紙の稟議書は、承認者が物理的に書類を手に取って押印しなければ先に進みません。
- 経費精算・休暇申請・購買依頼を電子化する際の導入5ステップ — まず、現在どのような申請種別があり、それぞれどのような承認ルート(申請者→直属上長→部長→経理など)で処理されているかを一覧化します。
- 承認フロー電子化で失敗する企業に共通する3つのパターンと回避策 — 最も多い失敗パターンは、紙のときの承認ルートをそのまま電子システムに移植することです。
- ツール選定時に確認すべき要件(既存システム連携・モバイル対応等)と評価基準 — すべての申請業務を同時に電子化するのは現実的ではありません。
- 電子化後の運用設計と、現場への定着を確実にするためのポイント — しかし、「電子化すれば解決する」と安易にツールを導入しても、現場に定着しないケースが多発しています。
この記事を読むことで、承認フローの電子化の全体像を理解し、自社で実践するための具体的な知識が得られます。
紙の承認フローが生む3つの経営リスク
承認遅延による機会損失
紙の稟議書は、承認者が物理的に書類を手に取って押印しなければ先に進みません。承認者が出張中・テレワーク中・会議中であれば、その間すべての処理が止まります。
アデコの調査(2023年)では、日本企業の管理職が承認業務に費やす時間は週平均3.2時間で、そのうち約40%が「書類の受け渡し・待ち時間」に消費されていると報告されています。営業部門の場合、見積承認の遅延は直接的な機会損失につながります。
履歴管理・監査対応の困難さ
紙の承認書類は、保管場所の物理的な制約があり、過去の承認履歴を検索するのに時間がかかります。監査対応時に「2年前のこの購買申請の承認者は誰だったか」を調べるのに、倉庫のファイルを何時間もかけて探す企業は珍しくありません。
電子帳簿保存法の改正(2024年1月完全義務化)により、電子取引データの電子保存が義務化されています。紙の承認フローを残し続けることは、法令対応の観点からもリスクが高まっています。
申請者・承認者双方の生産性低下
申請者は紙の書類を印刷し、承認者の席まで持っていき、不在なら再度訪問する。承認者は机の上に積まれた書類を1枚ずつ確認し、押印する。この作業は双方にとって付加価値の低い業務であり、本来の業務時間を圧迫します。
関連するテーマとして、稟議のデジタル化もあわせてご覧ください。
電子化すべき申請業務の優先順位
頻度×影響度で優先順位をつける
すべての申請業務を同時に電子化するのは現実的ではありません。「発生頻度が高い」かつ「承認遅延の影響が大きい」業務から着手するのが効果的です。
| 優先度 |
申請種別 |
理由 |
| 最優先 |
経費精算 |
全社員が利用・月次で大量発生・経理部門の負荷が高い |
| 高 |
勤怠関連(休暇・残業申請) |
全社員が利用・労務管理に直結 |
| 高 |
購買申請(消耗品・備品) |
発生頻度が高く、金額は小さいが件数が多い |
| 中 |
出張申請・交通費精算 |
営業部門を中心に頻繁に発生 |
| 中 |
契約書の社内回覧・承認 |
営業・法務連携で処理速度が業績に影響 |
経費精算から始める合理性
多くの企業が経費精算の電子化を最初に着手するのには理由があります。freeeやマネーフォワードといった会計ソフトとの連携が容易で、導入効果(処理時間の短縮・入力ミスの削減・月次決算の早期化)が定量的に測定しやすいからです。
楽楽精算を導入したライオンでは、経費精算の処理時間が従来比で約60%削減され、月次決算の締め日が2営業日前倒しになったと報告されています。
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承認フロー電子化の5つの導入ステップ
1
現行の承認ルートを棚卸する
まず、現在どのような申請種別があり、それぞれどのような承認ルート(申請者→直属上長→部長→経理など)で処理されているかを一覧化します。この棚卸を怠ると、電子化した後に「この申請は誰に回せばいいのか」が不明確になります。現行フローの可視化手法については、業務プロセスマップの書き方|現状把握からTo-Be設計までの実践ガイドが参考になります。
棚卸の際に確認すべき項目は以下のとおりです。
- 申請種別と発生頻度(月間件数)
- 承認ルート(誰が・どの順序で承認するか)
- 条件分岐の有無(金額や申請種別による承認者の変更)
- 現在の平均承認所要日数
- 過去に問題が発生したケース(差し戻し・紛失・遅延など)
↓
2
承認ルートを簡素化する
棚卸の結果、不要な承認ステップが見つかることが多くあります。「慣例で部長承認を入れていたが、実際には部長は中身を確認せずに押印していた」というケースは典型例です。
電子化を機に、承認ステップの削減を検討します。コニカミノルタの業務改革では、電子化と同時に承認階層を見直し、10万円未満の経費精算は課長承認のみに簡素化したことで、承認完了までの時間が70%短縮されました。
↓
3
ツールを選定・導入する
承認ルートが整理できたら、それを実現するツールを選定します。日常的な申請業務の電子化に使われる主要なツールカテゴリは以下の3つです。
- ワークフロー専用ツール: ジョブカンワークフロー、コラボフロー、X-point Cloud
- グループウェア付属のワークフロー: サイボウズ Office、Google Workspace + AppSheet
- 会計ソフト連動型: freee、マネーフォワード(経費精算に特化)
選定時の重要な判断基準は「既存システムとの連携性」です。経費精算であれば会計ソフトとのデータ連携、勤怠申請であれば勤怠管理システムとの連携が必須になります。
↓
4
パイロット部門で試行する
全社一斉導入ではなく、1〜2部門でパイロット運用を行います。パイロット期間は通常1〜2ヶ月が目安です。パイロット期間中に確認すべきポイントは以下のとおりです。
- 申請者が迷わず操作できるか(UI/UXの確認)
- 承認通知が適切に届いているか(通知設定の確認)
- モバイルからの承認が問題なく動作するか
- 例外的な申請(取り消し・差し戻し・代理承認)の処理が適切か
- 承認所要日数が紙と比較して短縮されているか
↓
電子化で失敗する企業に共通するパターン
紙のフローをそのまま電子化する
最も多い失敗パターンは、紙のときの承認ルートをそのまま電子システムに移植することです。紙の時代に設計された5段階承認を電子化しても、承認待ち時間が減るだけで根本的な改善にはなりません。電子化を機に承認ステップ自体を見直すことが重要です。
承認者のモバイル対応を軽視する
承認フローの電子化で最も効果が出るのは「承認者が場所を問わず承認できる」ことです。しかし、PCからしか承認できないシステムを導入すると、外出の多い管理職の承認がかえって遅れるケースがあります。
例外処理の設計を後回しにする
「代理承認はどうするか」「承認者が長期不在の場合はどうするか」「申請の取り消しはどう処理するか」といった例外ケースの設計を後回しにすると、運用開始後に混乱が発生します。こうした承認停滞の構造的な原因と解消法は、ワークフローのボトルネック解消|承認待ちを減らす設計パターンと改善事例で詳しく解説しています。
CRM連携による承認フローの高度化
営業関連の承認をCRMに統合する
見積承認・値引き申請・契約条件の変更といった営業関連の承認フローは、CRMのワークフロー機能と統合することで効率化できます。HubSpotでは、商談の金額に応じた承認ルートの自動分岐や、承認完了後の見積書自動送付といった設定が可能です。
営業担当者がCRMの画面から直接申請でき、承認者もCRM上で承認操作を行えるため、別システムへのログインやデータの転記が不要になります。
承認データの経営活用
電子化された承認データは、経営判断にも活用できます。「どの部門の経費が増加傾向にあるか」「購買申請の差し戻し率が高い部門はどこか」といった分析が、リアルタイムで可能になります。
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まとめ
日常的な申請業務(経費・勤怠・購買)の承認フロー電子化は、頻度×影響度で優先順位をつけ、現行ルートの棚卸→簡素化→ツール選定→パイロット→全社展開の5ステップで進めます。紙のフローをそのまま電子化するのではなく、承認ステップの見直しとセットで行うことが成功の鍵です
実践にあたっては、以下のポイントを押さえておくことが大切です。
- CRMと連携させることで、営業関連の承認フローも含めた統合的な効率化が実現できます
- 申請業務全般のペーパーレス化を進めたい方は申請業務のペーパーレス化を、経費精算のデジタル化については経費精算のデジタル化もあわせてご覧ください
- DX推進の全体像についてはDX完全ガイドで基礎から実践まで体系的に解説しています
承認フローの電子化や社内業務のDX推進についてのご相談は、StartLinkまでお気軽にお問い合わせください。CRMとの連携を含めた業務フロー全体の最適化を支援しています。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 紙の承認フローにはどのような問題がありますか?
承認者が出張中・テレワーク中・会議中の場合、物理的に書類を手に取れないため全ての処理が止まります。また、書類の紛失、承認状況の不透明さ、過去の承認履歴の検索困難など、管理面でも多くの問題があります。電子化によりこれらの問題を解消し、承認リードタイムを大幅に短縮できます。
Q2. 承認フローの電子化はどのような手順で進めますか?
3ステップで進めます。①現在の申請種別と承認ルートを一覧化する棚卸、②「発生頻度×承認遅延の影響」で電子化する優先順位を決定、③パイロット運用で課題を洗い出してから全社展開。棚卸を怠ると「この申請は誰に回せばいいか」が不明確になるため、最初の棚卸が最も重要です。
Q3. 電子化すべき申請の優先順位はどう決めますか?
すべて同時に電子化するのは現実的ではありません。「発生頻度が高い」かつ「承認遅延の影響が大きい」業務から着手します。具体的には、経費精算・勤怠申請・購買申請など日常的に発生する定型申請が最初の候補です。
Q4. CRMとの承認フロー連携にはどのような効果がありますか?
見積承認・値引き申請・契約条件の変更といった営業関連の承認フローをCRMのワークフロー機能と統合することで、商談金額に応じた承認ルートの自動分岐や、承認完了後の見積書自動送付が実現できます。営業プロセスのスピードアップと承認漏れの防止に効果的です。