CX×DX戦略|顧客体験を起点にデジタル変革で顧客価値を高める経営の考え方

  • 2026年3月7日
  • 最終更新: 2026年10月11日
この記事の結論

CX(Customer Experience:顧客体験)の向上は、DXの中心的な目的のひとつです。DXは、優れた顧客体験を担当者の力量に頼らず再現し続けるための手段。

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CX(Customer Experience:顧客体験)の向上は、DXの中心的な目的のひとつです。DXは、優れた顧客体験を担当者の力量に頼らず再現し続けるための手段。

「システムは入れ替えたのに、顧客からの評価は何も変わっていない」「営業・マーケ・サポートで顧客情報が別々のスプレッドシートにあり、問い合わせのたびに過去の経緯を探し直している」——。
CX×DX戦略とは、顧客が自社と接するあらゆる場面の体験を起点にデジタル化の優先順位を決め、CRMで顧客データを一元管理して体験の質を継続的に高めていく経営の考え方です。

多くの企業がDXに取り組む中、「システムを入れ替えた」「業務を効率化した」で終わるケースが後を絶ちません。しかし、DXの本質は内部効率化ではなく、顧客に提供する価値の変革にあります。製品やサービスの機能・価格だけでは差別化しにくくなった今、「顧客が自社とのあらゆる接点で得る体験の総合的な質」が競争力の源泉になっています。

PwCの調査「Experience is everything」(2018年)によれば、顧客の73%が「購買判断において体験が重要な要素」と回答しています。価格や機能だけでなく「体験」で選ばれる時代に、DXを顧客体験の向上に直結させられるかどうかが、企業の競争力を左右します。

本記事では、CXとDXの関係を整理し、デジタル技術で顧客体験を設計・改善するための実践的なアプローチを解説します。前提となる考え方はDX戦略ガイドで解説しています。


この記事でわかること

顧客体験(CX)の向上をDXの目的として位置づけたい経営者・CX担当者に向けた記事です。CXとDXの関係から、CRMを起点に体験を改善していく具体的な進め方までを順に整理します。

  • CXとDXの関係性 — 顧客体験の向上がDXの本来の目的であり、DXはCXを実現・持続させるための手段であるという構造を解説します。
  • CXの5要素とデジタル強化 — パーソナライゼーション・スピード・一貫性・プロアクティブな対応・フィードバックループの5つを、デジタルでどう強化するかを紹介します。
  • CX×DXの実名事例 — スターバックス・ユニクロ・無印良品が顧客体験をデジタルでどう進化させたかを分析し、BtoBへの読み替え方を示します。
  • CRM起点のCX向上フレームワーク — 顧客接点の統合から継続的な測定・改善まで、4段階の進め方と各段階の完了条件を解説します。

本記事を読むことで、DXを「掛け声」で終わらせず、実際の業務改善につなげるための具体的な道筋が見えてきます。推進担当者の方はもちろん、経営層の方にもおすすめの内容です。


CXとDXの関係|なぜCXがDXの中心にあるのか

CXとDXは別々のテーマとして語られがちですが、本来は目的と手段の関係にあります。この章では、CXの定義を押さえたうえで、なぜデジタル化なしにはCX向上が持続しないのかを整理します。

CXとは何か

CX(顧客体験)とは、顧客が企業との接点で得るすべての体験の総体です。製品の購入前(認知・検討)、購入時(契約・決済)、購入後(利用・サポート・再購入)のあらゆる段階で、顧客が感じる満足度・感情・印象のすべてがCXを構成します。

重要なのは、CXは「製品の品質」だけで決まるわけではないという点です。Webサイトの使いやすさ、問い合わせへの応答速度、営業担当者の提案の的確さ、サポート対応の丁寧さ、さらには請求書のわかりやすさまで、すべてがCXの一部です。

つまりCXは、マーケティング・営業・カスタマーサポート・経理といった複数部門の仕事がつながった結果として顧客に届きます。どこか1つの部門だけを改善しても、前後の接点で情報が途切れていれば、顧客から見た体験は良くなりません。

DXなきCX向上は持続しない

アナログな手法でもCXを向上させることは可能です。しかし、それは属人的な努力に依存するため、スケールしません。

たとえば、優秀な営業担当者が顧客一人ひとりの好みを記憶し、パーソナライズされた提案を行う。これは素晴らしいCXですが、その営業担当者が退職すれば再現できません。CRMにその知識を記録し、組織全体で共有することで、初めて持続可能なCX向上が実現します。

本記事では、この「個人の記憶をCRMのデータに置き換え、誰が担当しても同じ水準の体験を出せる状態にすること」を、CX起点のDXの出発点と整理します。DXの詳しい定義については「DXとは?定義・目的・IT化との違い」で解説しています。

CX起点のDXが企業価値を高める理由

CX起点のDXは、以下の3つのメカニズムで企業価値を高めます。

メカニズム 説明 経営への影響
LTV(顧客生涯価値)の向上 優れた体験を提供する企業から顧客は離れにくい 安定収益基盤の構築
口コミ・紹介の増加 満足した顧客は自発的に推奨する 顧客獲得コストの低減
価格競争からの脱却 体験の差別化により価格以外の選択理由を作る 利益率の改善

この表は、どのメカニズムを主な狙いにするかで、追いかける指標が変わることを示しています。既存顧客の継続が売上の柱であればLTVの向上を、新規獲得の負荷が大きければ口コミ・紹介の増加を、値引き要請が多ければ価格競争からの脱却を優先テーマに置くのが自然です。DXの企画書には、狙うメカニズムを1つ明記し、そこから測る指標を逆算して書くことをおすすめします。


Excel管理のままではCXが分断される理由

CX向上を阻む要因として多いのが、顧客情報が部門ごとのExcelやスプレッドシートに分散している状態です。この章では、分散した顧客台帳が体験のずれを生む構造と、CRMの「一元管理・自動化・可視化」で何が変わるかを整理します。

部門ごとの顧客台帳が生む体験のずれ

営業は案件管理のスプレッドシート、マーケティングはメール配信ツールのリスト、サポートは問い合わせ管理表と、同じ顧客の情報が別々の場所に記録されているケースがあります。この状態では、顧客から見ると次のような体験になります。

  • 資料請求後に営業から連絡があったが、ダウンロードした資料の内容を踏まえていない
  • サポートに問い合わせた直後に、同じ論点を知らないまま営業から追加提案が届く
  • 担当者が変わるたびに、同じ説明を一からやり直すことになる

それぞれの担当者が手を抜いているわけではありません。手動で台帳を更新し、別のツールで連絡を取り合う運用では、転記漏れや差分が起きやすく、最新の経緯をつかめないまま顧客に接することになります。CXの問題に見えるものの多くは、データの持ち方の問題です。

一元管理・自動化・可視化で何が変わるか

CRMの価値は、顧客データを1か所に集める「一元管理」、決まった対応を人の記憶に頼らず実行する「自動化」、体験の状態を数字で把握する「可視化」の3つに整理できます。HubSpotでは、コンタクト・会社・取引・チケットといったデータが互いに関連付けられ、1人の顧客について問い合わせから商談、受注後のサポートまでを同じ記録の上でたどれます。

観点 Before(スプレッドシート分散管理) After(CRMでの一元管理)
顧客情報 部門ごとに別ファイル、差分が発生 コンタクト・会社・取引・チケットが関連付けられ1か所で参照
対応の実行 担当者の記憶とリマインドに依存 ワークフローで条件に応じた通知・メール・担当割当を自動化
体験の把握 集計のたびに手作業で突き合わせ ダッシュボードで指標を随時確認
引き継ぎ 口頭・メモで個別に伝達 タイムラインに過去のやり取りが残り、後任がそのまま参照

ただし、CRMを入れただけで分断が解消するわけではありません。各部門が自部門の台帳を使い続ければ、CRMが「もう1つの台帳」になるだけです。どの情報をCRMを正とするかを最初に決め、旧台帳の更新を止める日を設けることが、一元管理を成立させる分かれ目になります。

自社の現状を見極める判断軸

どこから手をつけるかは、現状の分断の度合いで決まります。次の順で現状を書き出すと、最初の一手が選びやすくなります。

  1. 同じ顧客の情報が記録されている台帳・ツールをすべて書き出す
  2. それぞれの台帳で、誰が・いつ・何を更新しているかを記録する
  3. 顧客対応のたびに参照している台帳がいくつあるかを数える

対応のたびに2つ以上の台帳を参照しているなら、まずは顧客接点の統合(後述の第1段階)を優先します。参照先が1つにまとまっていて、顧客ごとの経緯も追えているなら、カスタマージャーニーの可視化(第2段階)から始めて問題ありません。書き出した台帳一覧は、そのままCRMへの移行対象リストとして残しておくと、後の設計作業に使えます。


CXを構成する5つの要素とデジタル強化

CXは漠然とした「満足度」ではなく、いくつかの要素に分解すると改善策が具体的になります。ここではCXを5つの要素に分け、それぞれをデジタルでどう強化するか、HubSpotのどの機能とつながるかを整理します。

要素1・2: パーソナライゼーションとスピード

パーソナライゼーションとは、顧客一人ひとりの状況・ニーズ・過去の行動に基づいて、最適な情報・提案・サービスを提供することです。

デジタル強化の方法としては、CRMに蓄積された顧客データ(行動履歴・購買履歴・問い合わせ履歴)を分析し、セグメント別またはOne-to-Oneのコミュニケーションを自動化します。

HubSpotのスマートコンテンツ機能を使えば、Webサイトの表示内容を訪問者の属性に応じて動的に変更できます。スマートコンテンツは、Marketing HubまたはContent HubのProfessional以上で利用できる機能として掲載されています(出典:HubSpot製品・サービスカタログ)。

スピードと利便性とは、顧客が求める情報やサービスに、少ない手順・短い時間でアクセスできることです。

デジタル強化の方法は、次のとおりです。

  • 24時間対応のチャットボット
  • セルフサービスポータルの構築
  • ナレッジベースの公開

HubSpotのService Hubでは、チャットボット・チケット管理・ナレッジベースをワンストップで構築できます。

チャットボットの回答品質は、元になるナレッジの書き方に左右されます。よくある質問を「質問文」と「1つの答え」が対応する形で整理してから公開すると、自己解決できる範囲が広がります。

要素3: 一貫性(オムニチャネル体験)

一貫性とは、Web・メール・電話・対面・SNSなど、あらゆるチャネルで統一された体験を提供することです。

デジタル強化の方法としては、すべてのチャネルの顧客接点をCRMに集約し、どのチャネルで接触しても顧客の過去のやり取りを参照できる状態を作ります。HubSpotはメール・チャット・フォーム・電話の履歴をコンタクトのタイムラインに統合します。

以下の画面は、HubSpotの受信トレイに顧客接点のチャネルを接続する画面です。

HubSpot受信トレイ チャネル接続画面

チャネルを受信トレイに集めておくと、問い合わせがどの経路で届いても同じ場所で対応し、その履歴がコンタクトに残ります。ここで残った履歴が、後続の取引やチケットの対応で参照される情報になります。

要素4・5: プロアクティブな対応とフィードバックループ

プロアクティブな対応とは、顧客が問題を認識する前に、先回りして情報提供やサポートを行うことです。

デジタル強化の方法としては、CRMデータの分析により「解約リスクが高い顧客」「追加ニーズが見込まれる顧客」を検出し、担当者にアラートを送ります。HubSpotのワークフロー機能で、特定の行動パターン(利用頻度の低下、サポートチケットの増加など)をトリガーに自動アクションを設定できます。

通知は、受け取った担当者がその日のうちに次の行動を決められる条件に絞ってください。運用を始めて開かれないまま残った通知があれば、その条件から外していくと、アラートが形骸化しにくくなります。

フィードバックループとは、顧客の声を継続的に収集し、サービス改善に反映する仕組みです。

デジタル強化の方法は、次のとおりです。

  • NPS(ネット・プロモーター・スコア)調査の自動配信
  • カスタマーサーベイの定期実施
  • サポート対応後の満足度調査

HubSpotのフィードバックツールでこれらを自動化し、結果をダッシュボードで可視化できます。カスタマーフィードバックのアンケートは、Service HubのProfessional以上で利用できる機能として掲載されています(出典:HubSpot製品・サービスカタログ)。

5要素の優先順位の決め方

5つの要素を同時に強化しようとすると、どれも中途半端になりがちです。優先順位は、顧客の不満がどの要素に集まっているかで決めることをおすすめします。

顧客の声・社内の兆候 該当する要素 最初に着手する機能の例
「返事が遅い」「どこに聞けばいいかわからない」 スピードと利便性 チャットボット、ナレッジベース
「前にも同じ説明をした」 一貫性 受信トレイへのチャネル集約、タイムライン
「自社に関係ない案内ばかり届く」 パーソナライゼーション セグメント別のメール配信
「気づいたら解約の相談が来ていた」 プロアクティブな対応 ワークフローによるアラート
顧客の評価がそもそも把握できていない フィードバックループ NPS・満足度アンケート

問い合わせ内容や失注理由、解約時のヒアリング記録を読み返し、最も多く現れる不満に対応する要素から着手してください。評価そのものが把握できていない場合は、フィードバックループを先に整え、集まった声をもとに次の要素を選ぶ順番が合理的です。


CX×DXの実名事例

CXをデジタルで変革した企業の取り組みからは、BtoBにも応用できる設計の考え方を読み取れます。ここではスターバックス・ユニクロ・無印良品の取り組みを紹介し、共通する設計と自社への読み替え方を整理します。

スターバックス|モバイルアプリによるCX革命

スターバックスは、自社モバイルアプリ「Starbucks Rewards」で顧客体験を大きく変えました。注文・決済・ポイント管理をアプリに集約し、来店前の事前注文(モバイルオーダー&ペイ)を実現。顧客は行列に並ぶことなく、好みのカスタマイズドリンクを受け取れます。

さらに、購買データの分析に基づくパーソナライズされたオファー配信により、顧客一人ひとりに合ったプロモーションを提供しています。

スターバックスのCX×DXの要点は、テクノロジーを「顧客の不満解消(行列の解消)」という明確な体験改善に直結させた点です。

ユニクロ|デジタルと店舗の融合によるシームレスな体験

ファーストリテイリング(ユニクロ)は、ECと店舗の垣根を取り払うオムニチャネル戦略で顧客体験を進化させています。オンラインで注文して店舗で受け取る「店舗受取サービス」、店舗在庫のリアルタイム確認、AIチャットボットによるスタイリング提案など、デジタルと物理的な店舗を融合させた体験を提供しています。

ユニクロのアプリ「UNIQLO Pay」も、会員情報・購買履歴・ポイントとあわせて店舗での購買体験をスムーズにする取り組みです。顧客はチャネルを意識することなく、自分に合った方法で買い物ができます。これがCX起点のDXの好例です。

無印良品|MUJI passportによる顧客理解の深化

良品計画(無印良品)の「MUJI passport」アプリは、来店チェックイン・購買・レビュー投稿でマイルが貯まるロイヤリティプログラムです。この仕組みにより、顧客の行動データを包括的に収集しています。

このデータを分析することで、顧客の購買パターン・来店頻度・カテゴリ別の好みを把握し、パーソナライズされた商品提案やキャンペーン配信を実現しています。無印良品は、アプリを「販促ツール」ではなく「顧客理解のプラットフォーム」として位置づけている点が特徴的です。

3社に共通する設計とBtoBへの読み替え

3社の取り組みは、いずれも「特定の不満や手間を解消する体験」と「その体験から顧客データが集まる仕組み」がセットになっています。本記事では、これを「体験の改善とデータ収集を同じ接点で設計する」と整理します。

事例 解消した不満・手間 集まるデータ BtoBでの読み替え例
スターバックス 行列に並ぶ 注文・購買履歴 見積もり依頼の待ち時間を短縮し、依頼内容をCRMに記録
ユニクロ チャネルごとに買い方が異なる 会員情報・購買履歴 Web・メール・商談の履歴を1つの顧客記録で参照
無印良品 販促が顧客の好みに合わない 来店・購買・レビュー 資料閲覧や問い合わせ内容から関心テーマを把握

自社に置き換えるときは、まず「顧客にとっての行列」にあたる不満を1つ選んでください。選んだ不満を解消する施策が、同時にCRMへデータを残す設計になっているかを見て、残らない設計であればフォームや記録項目を足してから実行に移します。ただし、BtoCのアプリ施策をそのままBtoBに持ち込んでも、接点の数や意思決定の構造が異なるため同じ効果は期待しにくい点は押さえておきたいところです。


CRM起点でCXを向上させる4段階フレームワーク

CX向上は一度に完成させるものではなく、段階的に積み上げるものです。ここでは、顧客接点の統合から継続的な改善までを4段階で整理し、各段階で何ができていれば次へ進めるかを示します。

第1段階: 顧客接点の統合(Single View of Customer)

CXの第一歩は、散在する顧客データを一元管理することです。営業のExcel、マーケのメール配信ツール、サポートの問い合わせ管理システムなど、部門ごとにバラバラに管理されている顧客情報をCRMに統合します。

HubSpot CRMなら、マーケティング・営業・サポートの顧客接点をひとつのコンタクトレコードに統合できます。無料プランから始められるため、最初から全部門・全機能を揃えるのではなく、スモールスタートで効果を確かめながら広げられます。HubSpot無料プランの詳細は「HubSpot無料プランでできること」をご確認ください。

統合の際は、プロパティ(記録項目)を増やしすぎないことをおすすめします。使われない項目が多いほど入力が負担になり、肝心の項目まで埋まらなくなります。旧台帳の項目を棚卸しし、「顧客対応で参照する」「経営レポートで集計する」のどちらにも当てはまらない項目は移行しない、という基準で絞り込むと、設計がぶれにくくなります。

第2段階: カスタマージャーニーの可視化

顧客が自社と初めて接触してから購入・リピートに至るまでの全行程(カスタマージャーニー)を可視化します。各接点での体験の質を評価し、改善すべきポイントを特定します。

HubSpotのライフサイクルステージ機能を活用し、リード→MQL→SQL→商談→顧客→アドボケイトの各段階で、顧客がどのような体験をしているかを定量的に把握します。ステージの定義は、自社のカスタマージャーニーから導くことが重要です。たとえば「MQLとは何をした状態か」「誰が次の対応を担うか」を部門間で合意しないままでは、同じ顧客に対してマーケと営業が別々の認識で動くことになります。

また、商談が失注で終わった顧客を放置せず、ナーチャリングに戻すループを設計しておくと、ジャーニーが一方通行で途切れません。より詳しい設計は「カスタマージャーニーマップの作り方」で解説しています。

第3段階: パーソナライズされたコミュニケーション

CRMに蓄積されたデータを基に、顧客セグメント別またはOne-to-Oneでパーソナライズされたコミュニケーションを設計・実行します。

  • 業種別のコンテンツ配信
  • 購買ステージに応じたメール自動配信(ナーチャリング)
  • 過去の問い合わせ内容を踏まえたサポート対応
  • Webサイトの動的コンテンツ表示

HubSpotのMarketing Hubでは、これらのパーソナライゼーションをワークフローで自動化できます。ワークフローは、コンタクトの行動をきっかけにメールを送るだけでなく、条件を満たした段階で取引を作成したり、担当者にタスクを割り当てたりと、コンタクトから取引、受注後の顧客対応へと流れをつなぐ役割を担います。

個別の施策として作るのではなく、どのステージからどのステージへ顧客を進めるための施策かを、ワークフロー名や説明に書いておくと、後から全体を見直しやすくなります。

第4段階: 継続的な測定と改善

CXの品質をNPS・CSAT(顧客満足度)・CES(顧客努力指標)などの定量指標で測定し、継続的に改善するサイクルを回します。

HubSpotのダッシュボードで、CX関連のKPIをモニタリングし、改善施策の効果を数値で検証します。PDCAサイクルを速く回し続けることが、持続的なCX向上の鍵です。

各段階の完了条件を次の表にまとめます。本記事では、この条件を満たしたら次の段階に進む、という目安として整理します。

段階 次へ進む目安(完了条件) 満たせないときの戻り先
第1段階: 顧客接点の統合 顧客対応時に参照する場所がCRMに一本化されている 旧台帳の更新停止日を決め直す
第2段階: ジャーニーの可視化 各ライフサイクルステージの定義と担当部門が合意されている 部門間でステージ定義を再協議する
第3段階: パーソナライズ 主要なステージ移行ごとに対応するワークフローがある セグメントに使うプロパティの入力状況を見直す
第4段階: 測定と改善 CX指標と事業指標を同じダッシュボードで追えている 指標の取得元(アンケート・取引データ)を整える

第4段階で数値が改善しない場合は、施策の中身だけを変えるのではなく、表の戻り先に沿って前の段階のデータや定義に問題がないかを見直す流れをおすすめします。


BtoB企業のCX×DX戦略

CXの議論はBtoC企業が中心になりがちですが、BtoB企業でも体験の質は取引先の選定や継続に影響します。この章では、BtoB特有の接点を整理し、CRMでどう体験を設計するかを解説します。

BtoBでもCXが競争力になる時代

日常的にBtoCサービスの体験に慣れた購買担当者は、同じ水準のわかりやすさ・速さをBtoBの取引にも求めるようになっています。

BtoB企業のCXを構成する主要な接点は以下の通りです。

  • Webサイトでの情報提供(課題解決コンテンツ・事例・料金情報)
  • 営業担当者との商談体験(提案の質・レスポンス速度・フォローアップ)
  • 導入プロセスの体験(オンボーディング・初期設定サポート)
  • 継続利用における体験(カスタマーサポート・機能アップデート情報提供)
  • 契約更新・アップセルの体験(タイミング・提案内容・交渉プロセス)

BtoBでは、1社の中に複数の関係者がいる点がBtoCとの大きな違いです。窓口担当者の満足度が高くても、決裁者や実際の利用者の体験が置き去りになっていれば、更新のタイミングで評価が分かれます。

接点ごとの体験をCRMにつなぐ

上に挙げた接点は、それぞれCRMの異なる記録とつながっています。本記事では、BtoBの顧客接点を「コンタクト→取引→顧客→請求」の流れに沿って次のように整理します。

接点 主に記録するCRMのデータ CXへの効き方
Webサイトでの情報提供 コンタクト(閲覧・フォーム送信の履歴) 関心テーマを踏まえた初回接触ができる
営業担当者との商談 取引(ステージ・商談メモ・ミーティング) 前回の話の続きから提案できる
導入プロセス 取引の受注後の記録、チケット 営業が聞いた要望をオンボーディング担当が引き継げる
継続利用・サポート チケット、アンケート結果 不満の兆候を早めに把握できる
契約更新・アップセル 会社レコードに紐づく取引・請求の情報 利用状況を踏まえた時期・内容で提案できる

会社単位とコンタクト単位の両方で状況を見ることもBtoBでは重要です。リードの数は多くても、会社単位で見ると対象企業は限られている場合があります。会社レコードとコンタクトレコードの両方でライフサイクルステージを管理しておくと、「どの企業のどの関係者が、どの段階にいるか」を把握したうえで接点を設計できます。

CRMで実現するBtoB CX

HubSpot CRMを活用すれば、BtoB顧客のCXを体系的に設計できます。CRMの自動化機能を活用することで、顧客ごとにパーソナライズされた提案・フォローアップが実現できます。

具体的には、顧客のWebサイト訪問履歴・メール開封履歴・過去の商談内容をCRMで一元管理し、次の商談で「前回の話の続き」からスタートできる体制を構築します。これにより、少人数のチームでも、担当者の記憶に頼らず一貫した体験を提供しやすくなります。

営業プロセスについては、取引ステージごとに入力すべき項目を決め、ステージを進めるときに必須入力にする設計をおすすめします。たとえば「提案」段階に進める際に顧客の課題を、「受注」時に受注理由を必須にしておけば、受注後にサポート担当が経緯を把握できます。必須項目は、新しく入った担当者が「この段階で何を顧客に確認すべきか」を学ぶ手がかりにもなり、個人の経験に依存しない営業体験の標準化につながります。


CX×DXを進めるうえでの限界と運用設計

デジタル化はCX向上の強力な手段ですが、万能ではありません。この章では、ツール導入だけでは解決しない領域、AIに任せる範囲と人が判断する範囲、担当者が変わっても体験を保つための仕組みを整理します。

ツール導入だけではCXは変わらない

CRMやチャットボットを導入しても、それだけで顧客体験が良くなるわけではありません。ステージの定義が曖昧なまま自動化すれば、誤ったタイミングでメールが届き、かえって体験を損ねます。ナレッジベースの内容が古ければ、チャットボットは古い情報を答えます。

本記事では、ツールの導入よりも先に「どの接点の、どの体験を変えたいのか」を言語化することを推奨します。導入を検討する際は、次の問いに答えられるかを判断材料にしてください。

  1. 改善したい顧客体験を1文で書けるか
  2. その体験を測る指標が決まっているか
  3. 指標の元になるデータが、どこに記録されるか決まっているか

3つとも答えられれば、ツールの設定に進んで問題ありません。1つでも答えられない場合は、ツール選定や設定を進める前に、その問いへの答えを関係部門で決めることから始めます。

AIに任せる範囲と人が判断する範囲

AIに任せやすい作業 人が判断する作業
問い合わせ内容の分類 ライフサイクルステージ・パイプラインの定義
顧客レコードの要約 顧客へのメール送信の最終判断
企業情報のWebリサーチ 大型案件へのアプローチ内容
パーソナライズしたメールの下書き CX戦略・優先順位の意思決定

たとえばAIが作成したメールを自動で送信する設定にすると、誤った内容や日本のビジネス文書として不自然な表現がそのまま顧客に届く恐れがあります。送信前に担当者がレビューする工程を挟み、受注確度が高い案件や規模の大きい案件では、AIのリサーチ結果を参考にしつつ担当者が文面を書く、という使い分けが現実的です。

担当者が変わっても体験を保つ仕組み化

CX向上の取り組みが続かない理由の多くは、特定の担当者の頑張りに依存していることにあります。担当者の異動や退職で体験の質が下がる状態は、DXの観点では「仕組み化できていない」状態です。

仕組み化のポイントは、次の3つをCRMの中に残すことです。

  • 何を記録するか — ステージごとの必須プロパティとして設定する
  • いつ何をするか — ワークフローの通知やタスクとして設定する
  • 誰が変更できるか — プロパティ設定の変更を管理者に限るなど、権限で無秩序な項目追加を防ぐ

この3つが設定されていれば、後任者はCRMの記録とタスクを追うだけで、前任者と同じ水準の対応を再現しやすくなります。新しい担当者を迎えたときに、口頭での引き継ぎに頼らず業務が回るかどうかを、仕組み化の進み具合を測る目安にしてください。


よくある質問

Q1: CX向上とDXの優先順位はどちらが先ですか?

CX向上はDXの目的のひとつであり、別々のプロジェクトではありません。DXの企画段階で「この施策は顧客体験をどう改善するか」という問いを常に持つことで、CXとDXを統合的に推進できます。実務的には、まずCRMで顧客データを統合する(DXの第一歩)ことが、CX向上の基盤構築と同義です。

Q2: BtoB企業でCXを測定するにはどうすればよいですか?

BtoB企業のCX測定には、NPS(推奨度)・CSAT(満足度)・CES(顧客努力指標)の3指標が有効です。HubSpotのService Hubには、これらの調査を自動配信し結果を集計するフィードバックツールがあります。加えて、商談の成約率・リードタイム・チャーンレートなどの事業指標も、CXの間接的な測定値として同じダッシュボードで追うことをおすすめします。

Q3: 小規模企業でもCX×DXは実現できますか?

小規模企業こそ、CX×DXの効果は大きくなります。大企業のような専門部隊がなくても、HubSpot CRMとAIを組み合わせることで、顧客ごとの経緯を踏まえた一貫した対応を少人数で提供しやすくなります。まずは顧客情報をCRMに集めるところから始め、効果が見えた機能から段階的に広げていく進め方が向いています。

Q4: CX向上のために最初に取り組むべきことは何ですか?

まず「顧客の声を聞く仕組み」を作ることです。既存顧客へのヒアリング、NPS調査、サポート対応の振り返りを通じて、顧客が不満を感じている接点を特定します。その上で、CRMを導入して顧客データを一元管理し、特定された課題から優先的に改善に着手するのが実践的なアプローチです。


まとめ

CXとDXは表裏一体の関係にあります。DXの目的を「業務効率化」にとどめず、「顧客体験の変革」に据えることで、DXは企業価値を直接的に高める経営戦略になります。

押さえておきたいポイントは以下の通りです。

  • スターバックス・ユニクロ・無印良品の事例が示すように、CXで成果を上げている企業は、不満の解消と顧客データの収集を同じ接点で設計しています
  • CXは5つの要素に分解し、顧客の不満が集まっている要素から優先的に強化します
  • CX向上の第一歩は、スプレッドシートに分散した顧客情報をCRMに統合することです
  • 統合後は、ライフサイクルステージの定義、ワークフローによる対応の自動化、ダッシュボードでの測定へと段階的に進めます
  • AIは下書きや分類を担うアシスタントとして使い、顧客に届く最終判断と大型案件の対応は人が担います
  • CRM導入の具体的な進め方は「CRM導入ガイド」をご参照ください

まずは、顧客情報が記録されている台帳・ツールの棚卸しから始めてください。次の3ステップで進めると、自社のCX×DXの起点が明確になります。

  1. 同じ顧客の情報が記録されている台帳をすべて書き出し、対応時に参照している数を数える
  2. 問い合わせや失注理由の記録を読み返し、顧客の不満が集まっているCXの要素を1つ選ぶ
  3. 選んだ要素を改善する施策と、その施策でCRMに残すデータを1枚にまとめ、関係部門と共有する

CRMを活用した業務効率化やAIとの連携に関するご相談は、StartLinkまでお気軽にお問い合わせください。


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著者情報

7-1

今枝 / Imaeda

株式会社StartLink 代表取締役。累計150社以上のHubSpotプロジェクト支援実績を持ち、Claude CodeやHubSpotを軸にしたAI活用支援・経営基盤AXのコンサルティング事業を展開。
HubSpotのトップパートナー企業や大手人材グループにて、エンタープライズCRM戦略策定・AI戦略ディレクションを経験した後、StartLinkを創業。現在はCRM×AIエージェントによる経営管理支援を専門とする。