不動産DXの進め方|物件管理・電子契約・VR内覧・CRMの導入ステップ

  • 2026年3月7日
  • 最終更新: 2026年10月22日
この記事の結論

不動産DXは、紙とExcelに分散した物件・顧客・契約の情報をつなぎ直す取り組みです。自社の課題に合わせて着手点を選び、情報の更新と引き継ぎを仕組みで回すことが、進め方の要点です。

ブログ目次


不動産DXは、紙とExcelに分散した物件・顧客・契約の情報をつなぎ直す取り組みです。自社の課題に合わせて着手点を選び、情報の更新と引き継ぎを仕組みで回すことが、進め方の要点です。

「物件情報をポータルごとに手で入力していて、空室や価格の更新が追いつかない」「問い合わせが担当者の外出中に止まる」「退職した営業が持っていた顧客リストの所在がわからない」。こうした状況があれば、まず情報の置き場所と更新手順を確認する必要があります。

不動産業のDXとは、物件管理・顧客対応・契約手続き・内覧などの業務を、デジタル技術を使って見直す取り組みです。書面の電子化も選択肢になりましたが、ツールを導入するだけでは業務は変わりません。対象となる書類や顧客への案内方法を確認し、現場で続けられる手順を整えることが大切です。

DXの部門別実践について体系的に学びたい方は、部門別DXガイドで全体像を把握できます。


この記事でわかること

不動産業のデジタル化・DX推進を検討している不動産事業者・経営者に向けた記事です。何から着手し、どの順番で広げるかを、4つの領域とロードマップで整理します。

  • 不動産DXを考える3つの背景 — 書面の電子化、人員に対する業務量、顧客とのオンライン接点を、自社の課題を見つける観点として整理します。
  • 4領域のDX実践ステップ — 物件管理・契約電子化・VR内覧・CRM導入の各領域で、何から着手するかを紹介します。
  • 不動産テックツールの選び方 — 記事中の比較表を手がかりに、料金や対応範囲を各社に確認する際の判断軸を整理します。
  • 追客を仕組み化するCRM設計 — 物件・顧客・取引の関係を整理し、見送り後の連絡まで含めてHubSpotでどう設計するかを示します。
  • 導入事例を見る視点 — 公開事例を自社の業務に当てはめる際、運用方法と効果をどう確認するかを考えます。

本記事を、自社の業務でどこに情報の分断や手戻りがあるかを洗い出すために役立ててください。


不動産業界のDXを考える3つの背景

不動産DXの着手点は、制度への対応、日々の業務負荷、顧客との接点のどこに課題があるかで変わります。ここでは3つの観点を整理します。

背景1: 書面の電子化

不動産取引では、重要事項説明書や契約締結時に交付する書面について、電子での提供を検討できるようになりました。ただし、書類の種類ごとに適用される規定や必要な手続きを確認する必要があります。宅地建物取引業法(e-Gov法令検索)を参照する際は、電子化したい書類と、その書類に適用される規定を照らし合わせて確認してください。オンラインでの説明と書面の電子提供も、それぞれ手順を確認して運用します。

検討する業務は次のとおりです。

  • 重要事項説明(IT重説): オンラインで説明する際の手順を整える
  • 重要事項説明書の電子交付: 対象書類と提供方法を確認する
  • 賃貸借契約書・売買契約書の電子契約: 契約の種類に応じた手続きを確認する
  • 媒介契約書の電子交付: 対象書類と提供方法を確認する

電子で進める顧客と紙で進める顧客の両方を想定し、案内、確認、保存の手順を用意しておくと、担当者が判断しやすくなります。

背景2: 人員に対する業務量

物件情報の入力、内覧の日程調整、契約書類の作成・郵送などに時間がかかっている場合、担当者が顧客対応に使える時間は限られます。人手不足に関する一般的な調査結果だけで自社の優先順位を決めず、まずは自社で繰り返し発生している作業を洗い出しましょう。

同じ情報を何度も入力しているか、担当者が不在のときに作業が止まるかを確認すると、仕組みを整えるべき箇所が見えてきます。

背景3: 顧客とのオンライン接点

顧客がWeb上の物件情報から問い合わせる場合、掲載情報の正確さや問い合わせ後の対応が接点になります。遠方の顧客には、現地を訪れる前に物件を確認できる手段が役立つ場合もあります。

一方で、VR内覧やオンライン相談がすべての顧客に必要とは限りません。問い合わせ経路、顧客の所在地、内見までにかかる時間を確認し、実際に困っている場面から導入を検討します。

自社の着手点を決める判断軸

3つの背景のうち、どれが自社の課題に直結しているかで着手点を決めます。本記事では次のように整理します。

自社の状況 強く効いている背景 最初に検討する領域
契約書類の作成・郵送・押印待ちで手続きが止まる 背景1(法改正) 領域2: 契約の電子化
物件入力や日程調整に営業の時間が取られている 背景2(人手不足) 領域1: 物件管理のデジタル化
遠方からの問い合わせが多く、内見調整が難しい 背景3(顧客行動) 領域3: VR内覧
反響はあるのに追客が続かず、他社に流れている 背景2・背景3 領域4: CRM導入

複数に当てはまる場合は、業務への影響と導入後の運用負荷を比べ、試しやすい範囲から始めます。


不動産DXの4つの領域と着手順の考え方

不動産業のDXは、大きく4つの領域に分けると整理しやすくなります。対象業務が異なるため、各領域で何を改善したいかを明確にしてから導入順を決めます。

4領域の全体像

領域 対象業務 DXの内容 導入難易度
物件管理のデジタル化 物件情報の登録・更新・公開 物件管理システム、ポータル連動 低〜中
契約の電子化 重説・契約書の作成・締結 電子契約、IT重説 低
内覧のデジタル化 物件の内覧・案内 VR内覧、360度カメラ 中
顧客管理のデジタル化 顧客対応・追客・成約管理 CRM/SFA、MA連携 中〜高

表の導入難易度は、比較のための目安です。実際の負荷は、既存システム、扱う書類、社内の承認手順、登録する情報の量によって変わります。例えばCRMでは、ツールの設定に加え、顧客情報の入力項目と追客の担当を決める作業が必要です。

領域を顧客の流れでつなぐ

領域ごとにツールを導入する際は、同じ情報を別々に管理しないよう注意が必要です。顧客の「物件を見つける→内覧する→申し込む→契約する→成約後も関係が続く」という流れに沿って、必要な記録を整理します。

顧客の流れ 関わる領域 記録しておきたい情報
物件を見つける・問い合わせる 領域1・領域4 どの物件に、どの経路で問い合わせたか
内覧する 領域3・領域4 VR閲覧の有無、内見日、内見後の反応
申し込む・契約する 領域2・領域4 重説の実施日、契約の締結状況
成約後・見送り後 領域4 成約理由・見送り理由、次に連絡する時期

導入前に、物件情報と顧客情報をそれぞれどこで管理するかを決めておくと、後からツールを追加する際も入力手順を整理しやすくなります。


領域1: 物件管理のデジタル化

物件管理は、ポータル掲載・自社サイト・店頭資料の元になる情報を扱います。更新元が分かれている場合は、システムを選ぶ前に情報の流れを確認しましょう。

現状の課題:Excelと手入力の限界

物件情報をExcelや紙で管理し、SUUMO、HOME'S、at homeなどへの掲載内容を個別に更新している場合、同じ物件について複数回の入力が必要になります。

空き状況や価格変更の反映に時間差が生じると、掲載内容と実際の募集状況が食い違うおそれがあります。どの一覧が最新か、誰が変更を反映するかが曖昧になっていないかを確認してください。

物件管理システムでできること

物件管理システムを比較する際は、次の機能が自社の利用先や契約条件に対応するかを確認します。

  • ポータル一括入稿: 複数ポータルへの掲載に対応するか。いい生活の「ESいい物件One」やリアルネットの「不動産BB」などを候補にする場合も、連携先と対象項目を確認する
  • 物件情報の一元管理: 空き状況・価格・条件の変更をどこに入力し、どこまで反映できるか確認する
  • 自社サイトへの反映: 物件管理システムと自社Webサイトの連携方法を確認する
  • 図面・写真の管理: 写真・間取り図・資料の登録場所と更新手順を確認する

システムを入れても、空室や成約の情報を誰がいつ更新するかが決まっていなければ、掲載内容の食い違いは防げません。更新担当とタイミングを業務ルールとして決めておく必要があります。

導入費用の目安と選び方

ツール 月額費用(目安) 特徴
ESいい物件One(いい生活) 3万円〜 ポータル連動・顧客管理一体型
不動産BB(リアルネット) 2万円〜 賃貸管理に強い
ITANDI BB+(イタンジ) 要問い合わせ 内見予約・電子申込連携

表の金額と特徴は、現行の料金・機能を確認したものではありません。比較検討の際は、各社の公式情報や見積もりで、利用する機能と連携先を含めて確認してください。

賃貸の募集・管理が中心か、売買仲介が中心かによって必要な機能は変わります。顧客管理機能も利用する場合は、別のCRMとどちらに顧客情報を登録するかを導入前に決めましょう。


領域2: 契約の電子化

契約の電子化では、サービスの選定とともに、対象書類、顧客への案内、社内の確認・保存手順を整えます。紙の手順からどこが変わるかを、書類ごとに確認して進めます。

Step 1: 電子契約サービスの選定

電子契約サービスを比較する際は、自社で扱う不動産取引の書類に対応できるかを確認します。次の表に候補を示します。

サービス 月額費用(目安) 特徴
クラウドサイン(弁護士ドットコム) 1万円〜 契約手続きに必要な機能を確認
いえらぶサイン(いえらぶGROUP) 要問い合わせ 不動産業特化。重説対応
DocuSign 2.5万円〜 グローバルスタンダード

金額と特徴は、現行の条件を確認したものではありません。選定時には、扱う書類、顧客側の操作、既存システムとの連携、料金を各社に確認し、同じ条件で比較してください。

Step 2: 社内の業務フロー整備

電子契約を導入する際は、従来の紙ベースの業務フローと照らし合わせて、次の点を整理します。

  • どの書類を電子化するか(まず賃貸契約から始めるのが一般的)
  • 電子署名の運用ルール(誰が署名するか、承認フローはどうするか)
  • 顧客への説明方法(電子契約に慣れていない顧客への配慮)

最初に対象を絞って運用し、担当者や顧客がつまずいた箇所を手順書に反映してから範囲を広げると、確認すべき点を把握しやすくなります。

HubSpotで物件や顧客の取引を管理しているなら、StartLinkが提供するSync for CloudSignで、取引データを差し込んだ契約書をクラウドサインへ下書き展開し、締結済みPDFをHubSpot Filesに保管できます。

Step 3: IT重説の運用開始

IT重説を検討する際は、使用するオンライン会議ツールだけでなく、取引に適用される手順も確認します。実施前に確認したい項目は次のとおりです。

  • 宅地建物取引士証の画面提示
  • 相手方の本人確認
  • 双方向でのリアルタイムコミュニケーション
  • 説明内容の記録(録画等)

この一覧だけで実施要件を満たすとは判断せず、対象の取引と最新の運用上の要件を確認してください。当日の接続、書面の共有、質疑の進め方を台本にし、映像や音声が途切れた場合の対応も決めておきます。

導入事例と運用のポイント

GA technologiesが運営するRENOSY(リノシー)の取り組みを紹介します。自社の導入判断に使う場合は、公開されている事例の対象業務と実施内容を確認し、自社の契約手順に当てはめられる部分を見極めてください。郵送費や手続きに要する時間の変化は、自社の運用でも測る必要があります。

導入後は、電子と紙のどちらが使われているか、顧客や担当者がどこで迷うかを振り返り、案内文や手順を調整します。


領域3: VR内覧・360度カメラの活用

VR内覧は、現地に来る前に物件を確認してもらう手段です。撮影や公開にかかる作業も踏まえ、どの物件と顧客に使うかを決めます。

VR内覧の3つの方式

VR内覧には、次のような方式があります。

方式 特徴 費用(1物件あたり) 臨場感
360度パノラマ写真 360度カメラで撮影した写真をWebで閲覧 5,000円〜2万円 中
3Dウォークスルー Matterportなどで空間を3Dスキャン 2万円〜5万円 高
フルVR(ヘッドセット) VRゴーグルで没入体験 5万円〜20万円 没入感は体験時に確認

表の費用と評価は目安であり、現行の価格や導入後の成果を示すものではありません。必要な撮影作業、公開方法、顧客が利用する機器を確認したうえで、対象物件を絞って試すことを検討してください。

360度カメラの選び方

撮影機器を比較する際は、画質だけでなく、誰が撮影し、どの方法で公開するかも確認します。

カメラ 価格 特徴
Ricoh THETA X 約10万円 撮影から公開までの操作手順を確認
Matterport Pro3 価格は購入前に確認してください 撮影条件と表示方法は比較時に確認
Insta360 X4 約8万円 高画質。動画撮影にも強い

価格や機能は導入前に確認し、撮影担当者、撮影する物件数、公開先を決めたうえで、必要な機材と運用費用を確認してください。

導入事例と、向く物件・向かない物件

野村不動産ソリューションズ(旧・野村不動産アーバンネット)の取り組みを紹介します。事例を参考にする際は、公開されている導入内容と、自社で想定する物件・顧客が近いかを確認してください。内覧回数や案内負荷がどの程度変わるかは、自社の運用で確かめます。

向き不向きは、本記事では次のように整理します。

判断の観点 VR内覧が向くケース VR内覧が向きにくいケース
顧客の所在地 転勤者・地方移住者など遠方の顧客が多い 近隣の顧客が中心で、すぐ現地に来られる
物件の回転 掲載期間が長く、撮影した素材を長く使える 募集から成約までが早く、撮影が間に合わない
物件の価格帯 高額な売買物件で、内見前の絞り込みが重視される 内見の調整負担がもともと小さい

VR内覧では確認しにくい現地の状況もあります。画面上でわかることと、現地で確認してほしいことを分けて案内しましょう。


領域4: 顧客管理のデジタル化(CRM導入)

問い合わせ後の対応や長期にわたる検討状況を共有したい場合、CRMが選択肢になります。まずは現在の顧客情報がどこにあり、誰が次の対応を判断しているかを確認します。

なぜ不動産業にCRMが必要なのか

顧客情報が担当者ごとのメールや手帳、Excelに分かれている場合、次のような課題が生じます。

  • 担当者の退職・異動時に、顧客情報の引き継ぎに時間がかかる
  • 問い合わせへの対応状況を、他の担当者が確認しにくい
  • 次に連絡する時期が、担当者の記憶に頼る
  • 成約や見送りの理由を集計しにくい

CRMでは、顧客情報と対応履歴を共有の記録にまとめられます。ただし、必要な項目を決め、担当者が更新する運用を続けて初めて、引き継ぎや分析に使えるようになります。

項目 Excel・個人管理(Before) CRMで一元管理(After)
顧客情報の所在 担当者ごとのファイルやメール 共有のレコードに集約
担当者の退職・異動 引き継ぎ資料を個別に作成 レコードの担当者を変更して引き継ぐ
追客のタイミング 担当者の記憶と勘 タスクやワークフローで自動通知
成約・見送りの分析 集計のたびに手作業 レポートで随時確認

不動産業に適したCRMの選び方

物件管理と顧客管理を一体で扱うか、顧客対応を別のCRMで管理するかは、現在使っているシステムと課題によって変わります。

タイプ 代表ツール メリット デメリット
不動産特化型 いえらぶCLOUD、顧客管家 物件管理・ポータル連動が標準装備 カスタマイズ性が低い
汎用型 HubSpot、Salesforce 柔軟なカスタマイズ・MA連携が強い 不動産用の初期設定が必要

実際の対応範囲、契約条件、連携方法は製品ごとに確認してください。物件情報の登録・公開に課題があるならその業務を、反響後の対応に課題があるなら顧客情報の共有と追客を優先して比較します。

HubSpotを候補にする場合は、まず必要な顧客項目と取引の進め方を決め、利用予定の機能が契約条件に含まれるかを確認します。物件ポータルからの問い合わせを取り込む方法も、利用しているポータルと受付経路によって確認が必要です。

HubSpotを不動産業で活用する具体的な方法は「不動産業界のHubSpot活用ガイド」で詳しく解説しています。

問い合わせ窓口を1か所にまとめる

反響への対応状況を共有するには、問い合わせの受付先、担当者、返信状況を確認できるようにします。HubSpotを利用する場合は、受信トレイに接続するチャネルと、コンタクトの記録に残す内容を設計します。利用できるチャネルや設定方法は契約条件と運用環境に合わせて確認してください。

次の画面は、HubSpotの受信トレイにチャネルを接続する設定画面です。

HubSpot受信トレイ チャネル接続画面

窓口をまとめたら、問い合わせを誰が確認し、担当者の不在時に誰が引き継ぐかを決めます。通知や割り当てを使う場合も、想定した相手に届くかを運用前に確かめましょう。

CRM導入の取り組み事例

オープンハウスグループの取り組みを紹介します。事例を自社の判断材料にする際は、公開されている対象業務、収集しているデータ、担当者の使い方を確認してください。問い合わせから初回接触までの時間や成約率への影響を、自社でも同じように得られるとは限りません。

物件ページの閲覧やメールへの反応を追客に利用する場合は、取得できるデータと顧客への案内方法を確認し、営業担当者がどの判断に使うかを明確にします。


CRMで追客を仕組み化する設計

CRMを導入する際は、顧客・物件・取引の関係と、見送り後の対応まで設計します。ここではHubSpotを例に、決めておきたい項目を整理します。

物件と顧客・取引の紐づけ方を決める

最初に決めるのは、「物件」をどこで管理するかです。1つの物件に複数の顧客が問い合わせ、1人の顧客が複数の物件を検討する場合、その関係を記録できる設計が必要です。HubSpotで物件のカスタムオブジェクトを検討する際は、Create custom objects(HubSpotナレッジベース)で、現在の作成条件と関連付けの方法を確認してください。契約中のプランで利用できるかも、導入前に確認が必要です。

判断の分かれ目は次のとおりです。

  • 1物件に複数の顧客・取引が紐づき、物件単位で反響数や成約状況を見たい → 物件のカスタムオブジェクトを検討する
  • 取引ごとに対象物件が1つで、物件単位の集計はまだ求めていない → 取引のプロパティに物件名・所在地・価格帯などを持たせて始める

後者で始める場合も、同じ物件名の表記がばらつかないよう入力ルールを決めます。物件単位の集計が必要になったら、データの移し方を含めて設計を見直します。

取引パイプラインを4つの要素で設計する

追客の進み具合は、取引のパイプラインで管理します。本記事では、「取引ステージ」「受注確度」「ステージ定義」「必須入力プロパティ」の4要素を整理します。

要素 不動産業での考え方の例
取引ステージ 反響→初回接触→内見→申込→契約→引渡し など、成約の可能性が変わる地点で区切る
受注確度 各ステージに成約見込みの割合を設定し、売上見込みを算出する
ステージ定義 「内見=現地またはVRで物件を確認済み」など、社内で同じ意味で使える定義を決める
必須入力プロパティ 申込ステージでは希望条件と資金計画、見送り時には見送り理由を必須にする

表は設計例です。HubSpotでステージごとの入力項目を設定する場合は、Set up and customize pipelines(HubSpotナレッジベース)で現在の設定方法と適用条件を確認してください。「必須」にした項目が、実際に使うすべての更新経路で意図どおり扱われるかも確認します。入力項目は、次の対応や振り返りに使うものから絞って設定します。

見送り顧客を「掘り起こし」に戻すループを作る

検討が一度止まった顧客に再び連絡するかどうかは、見送り理由と顧客の意向に合わせて判断します。見送りを記録するだけで終わらせず、次に対応する条件と担当者を決めておきましょう。

理由を「価格」「時期」「条件不一致」「他社で決定」などに分類すると、次の対応を整理できます。

  • 理由が「時期」 → 再検討の意向と時期を確認し、必要に応じて連絡タスクを作成する
  • 理由が「条件不一致」 → 希望条件を確認し、該当する物件を案内できるか判断する
  • 理由が「他社で決定」 → 当面の追客を止め、その後の連絡は顧客の意向に沿って判断する

見送り理由の記録が揃えば、どの条件で検討が止まりやすいかを振り返る材料になります。

AIに任せる作業と人が判断する作業を分ける

AIに任せやすい作業 人が判断する作業
問い合わせ内容の分類(購入・売却・賃貸など) パイプラインやステージ定義の設計
やり取りの履歴の要約 価格や条件の提示
追客メールの下書き 送信してよいかの最終判断
物件情報の文章の叩き台 重要事項説明の内容

AIによる分類や下書きを使う場合は、元の問い合わせや物件情報と照らして担当者が確認します。顧客への送信内容や取引条件は、担当者が判断する運用にします。


不動産DXのロードマップ

次の表にフェーズの例を示します。期間と投資額を自社の計画にそのまま当てはめず、現在の業務、契約条件、運用に必要な人数を確認して組み直してください。

フェーズ別の取り組み

フェーズ 期間 取り組み 投資額目安 期待効果
Phase 1 1〜3ヶ月 電子契約+CRM(無料) 月1〜3万円 契約手続きの効率化・顧客データの一元管理
Phase 2 4〜6ヶ月 物件管理システム+ポータル連動 月3〜5万円 物件入力工数の削減・情報鮮度の向上
Phase 3 7〜12ヶ月 VR内覧+MA連携 初期10〜30万円+月2〜5万円 内覧効率化・追客自動化
Phase 4 13ヶ月〜 データ分析+AI活用 月5〜15万円 需要予測・最適価格提案

投資額は目安であり、現行価格や効果を確認したものではありません。Phase 1から始める場合も、電子化する書類とCRMに登録する情報を絞り、実際の費用と運用負荷を確認してから広げます。

次のフェーズに進むかを決める基準

各フェーズの終わりに、次の観点で振り返ります。

振り返るフェーズ 次へ進んでよい状態 進む前に手当てする状態
Phase 1 新規の反響がCRMに登録され、契約の一部が電子で締結されている 営業がまだ個人のExcelで顧客を管理している
Phase 2 物件ステータスの更新担当とタイミングが決まり、運用されている 成約済み物件の掲載が残るなど、更新が追いついていない
Phase 3 VR素材が物件ページや追客メールで使われている 撮影した素材が使われずに残っている
Phase 4 見送り理由や成約までの経過がCRMに蓄積されている 分析に使えるデータが揃っていない

表は順番を決めるための例です。自社の最も大きな課題が物件情報の更新にあるなら、そこから着手する方が適切な場合もあります。

つまずいたときの戻り先

新しい仕組みが使われない場合は、入力する情報、更新する担当者、確認するタイミングを見直します。例えば追客メールを設定しても対象顧客が正しく選べないなら、顧客情報の登録方法や見送り理由の記録を確認します。

企業様によって最適な形は異なります。各フェーズで実際の運用を振り返り、必要な領域から進めてください。


よくある質問

Q1. 不動産業のIT重説は賃貸と売買の両方で可能ですか?

賃貸と売買のどちらでもIT重説を検討できます。実施前に、対象となる取引の最新の運用要件を確認してください。宅地建物取引士証の提示、相手方の確認、双方向のやり取りなど、必要な手順を担当者が実行できるように整えます。記録の方法も、適用される要件と社内の保存ルールに沿って決めてください。

Q2. VR内覧の導入は費用対効果が合いますか?

物件、顧客、撮影・公開にかかる作業によります。遠方からの問い合わせがある物件など、現地内見前に室内を見せる必要がある場面を選び、まず一部の物件で試すと判断しやすくなります。機材費だけでなく、撮影した素材が使われたか、内見の調整に変化があったかも確認してください。

Q3. 不動産特化型のCRMと汎用CRM(HubSpot等)のどちらを選ぶべきですか?

物件情報の登録・公開と、問い合わせ後の顧客対応のどちらに課題が大きいかで比較します。両方のシステムを使う場合は、顧客情報をどちらで管理するか、更新内容をどう共有するかを先に決めてください。機能や連携方法は、候補ごとの契約条件を確認する必要があります。

Q4. 従業員5名以下の小規模不動産会社でもDXに取り組む意味はありますか?

あります。ただし、導入範囲は現在の業務に合わせて絞るのがよいでしょう。顧客情報の所在や契約書類の手順を共有できれば、担当者が不在のときも状況を確認しやすくなります。まず手戻りの多い作業を一つ選び、導入後に実際の負担が減ったかを確かめてください。

Q5. 不動産DXで最初に取り組むべきことは何ですか?

まず、物件情報、顧客情報、契約書類がどこにあり、誰が更新しているかを確認してください。契約手続きに時間がかかるなら電子化を、問い合わせ後の対応が続かないならCRMを、掲載情報の更新が追いつかないなら物件管理を優先するなど、課題に合わせて着手点を選びます。


まとめ

不動産DXでは、物件管理・契約電子化・VR内覧・CRM導入の4領域を、自社の業務に合わせて検討します。制度やツールの機能を確認することと、担当者が続けられる更新手順を決めることの両方が必要です。

実践にあたっては、次の点を押さえてください。

  • 最初に、時間がかかっている作業と情報が途切れている箇所を確認する
  • 物件・顧客・契約の情報をどこで管理するか決め、重複入力を避ける
  • 追客のために記録する項目、次の連絡を判断する条件、担当者を決める
  • 表中の料金・機能・投資額は目安として扱い、導入前に現行の条件を確認する
  • CRM導入の全体的な進め方は「CRM導入の進め方完全ガイド」で詳しく解説しています

まずは、いま顧客情報と契約書類がどこにあるかを把握するところから始めてみてください。次の3ステップで進められます。

  1. 営業ごとのExcel・メール・手帳など、顧客情報が置かれている場所を一覧にする
  2. 電子化を検討する書類を選び、適用される手続きと現在の社内フローを確認する
  3. CRMに登録する新規の反響を決め、取引ステージと見送り理由の項目を整理する

CRMを活用した業務効率化やAIとの連携に関するご相談は、StartLinkまでお気軽にお問い合わせください。


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著者情報

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今枝 / Imaeda

株式会社StartLink 代表取締役。累計150社以上のHubSpotプロジェクト支援実績を持ち、Claude CodeやHubSpotを軸にしたAI活用支援・経営基盤AXのコンサルティング事業を展開。
HubSpotのトップパートナー企業や大手人材グループにて、エンタープライズCRM戦略策定・AI戦略ディレクションを経験した後、StartLinkを創業。現在はCRM×AIエージェントによる経営管理支援を専門とする。