HubSpotとSansanは、置き換えを迫る競合ではなくデータの起点が違うツールです。比較すべきは機能の数ではなく「自社の顧客データがどこから生まれているか」です。
「Sansanで名刺管理はできているが、マーケティングや営業の管理まで一元化したい」
「名刺はSansan、商談はスプレッドシート、メール配信は別ツール。どれが最新なのか誰も分からない」
「HubSpotのCRMとSansanの名刺データ、どちらを正としてデータを持つべきか決まらない」
——日本のBtoB企業において、名刺管理ツールとCRMの使い分けは長く続く論点です。
結論を先に書きます。Sansanとは、名刺を起点に人と企業のつながりをデータ化する「ビジネスデータベース」であり、HubSpotとは、リード獲得から商談・受注後の顧客管理までを1つのデータベースで扱う「オールインワンCRM」です。前者はデータの入口に強く、後者はデータを使ったアクションと可視化に強い、という役割の違いがあります。
本記事はHubSpotゴールドパートナーのStartLinkの「HubSpot完全ガイド」関連記事です。
この記事でわかること
この記事では、機能表の羅列ではなく「データの起点と流れ」という軸で両者を整理し、併用する場合のデータ設計までを解説します。ツール選定や移行を検討している方が、そのまま自社の設計の叩き台に使える内容を目指しました。
- HubSpotとSansanのコンセプトの違い — 「名刺を起点にする」か「タッチポイント全体を起点にする」かという設計思想の差を、比較表で整理します。
- 機能比較(名刺管理・マーケティング・営業管理) — それぞれが得意な領域と、片方では代替しづらい領域を率直に書きます。
- 料金・コスト構造の考え方 — 金額の多寡ではなく、課金単位と初期費用の構造の違いが運用にどう効くかを解説します。
- 併用・一本化の3パターンと判断基準 — どちらをマスターデータにするかを含め、失敗しにくいデータ設計の型を示します。
- 名刺データを商談につなげる一気通貫フロー — 名刺獲得→ナーチャリング→パイプライン→失注掘り起こしまでを仕組みにする手順です。
名刺管理ツールは入れたものの、その先の営業・マーケティング活動が属人化している中堅BtoB企業の情報システム部門・営業企画・マーケティング責任者の方に向けて書いています。最後まで読むと、自社がどちらを軸にすべきかを判断し、スモールスタートで検証する最初の一手を決められるようになります。
HubSpotとSansanは「データの起点」が違う
両者を機能表だけで比べると、どちらも「顧客管理ツール」に見えてしまいます。しかし実際に運用設計をすると、差が出るのは機能数ではなく、データがどこから生まれ、どこへ流れていくかという設計思想です。ここを最初に押さえておくと、後の比較がぶれません。
Sansanのコンセプト:名刺を起点にした人脈データベース
Sansanは、紙やデジタルの名刺を正確にデータ化し、社内に散らばった人脈を可視化・共有することを中核に据えたサービスです。「誰が、どの企業の、どの役職者と接点を持っているか」が全社で見える状態をつくる点に価値があります。CRM領域への機能拡張も進んでおり、コンタクト管理や営業支援の機能も備えていますが、価値の源泉はあくまで名刺を起点とした企業・人物データベースにあります。
HubSpotのコンセプト:タッチポイント全体を起点にしたCRM
HubSpotは、インバウンドマーケティングの思想を基盤に、見込み客の獲得からナーチャリング、商談、受注後のカスタマーサクセスまでを1つのプラットフォームで扱うCRMです。Webフォームの送信、メールの開封、ミーティング、電話といったすべてのタッチポイントが、コンタクト・会社・取引・チケットというオブジェクトに紐づいて蓄積されます。
このようにオブジェクト同士が関連付けられた構造はリレーショナルデータベースと呼ばれ、後述する併用設計でも前提になる考え方です。名刺スキャンは標準機能ではありませんが、名刺以外の接点をすべて拾える点が強みです。
比較表:設計思想の違い
| 比較軸 |
Sansan |
HubSpot |
| 出発点 |
名刺管理 |
CRM/インバウンドマーケティング |
| データの起点 |
名刺(紙/デジタル) |
Webフォーム、メール、手動入力 |
| 強みの領域 |
人脈の可視化・企業データベース |
マーケ→営業→CSの一気通貫管理 |
| AI機能 |
名刺のOCR、企業データの自動補完 |
Breeze(コンテンツ生成、予測、エージェント) |
| 主な利用者 |
名刺を扱う全社員 |
マーケ・営業・CS部門 |
| 想定される導入層 |
日本の中堅〜大企業 |
グローバルの中小〜大企業 |
この表で見ていただきたいのは「データの起点」の行です。対面接点が売上の大半をつくる事業ならSansanの起点が効き、Web・メール接点が入口になる事業ならHubSpotの起点が効きます。どちらが優れているかではなく、自社のリードがどこから来ているかで軸が決まります。
名刺管理・コンタクト管理の機能比較
顧客データの入口にあたる領域です。ここは両者の性格がはっきり分かれるところで、率直に言えば名刺のデータ化はSansanに分があり、接点の統合管理はHubSpotに分があります。まず入口の機能から順に見ていきます。
機能比較表
| 機能 |
Sansan |
HubSpot |
| 名刺スキャン(紙) |
AIと人力の組み合わせで高精度にデータ化 |
標準機能としては未提供 |
| 名刺スキャン(デジタル名刺) |
対応 |
標準機能としては未提供 |
| コンタクト管理 |
名刺ベースの管理 |
CRMベースの統合管理 |
| 企業データの自動補完 |
企業データベース連携で自動更新 |
Breeze Intelligenceで補完 |
| 重複チェック |
同一人物の自動統合 |
重複管理ツールで統合 |
| 人脈の可視化 |
社内の名刺交換履歴を可視化 |
限定的 |
| 組織図の表示 |
対応 |
標準では未対応 |
名刺のデータ化はSansanに分がある
名刺交換が商談の起点になり続ける日本の商習慣では、紙名刺を正確にデータ化する工程を他ツールで完全に代替するのは簡単ではありません。展示会やカンファレンスで大量の名刺を持ち帰る事業では、この入口の精度がそのまま後工程の品質を決めます。ここを軽視してCRMだけを導入すると、結局は誰かが手入力する運用に戻ってしまいます。
接点の統合はHubSpotに分がある
一方で、HubSpotのコンタクトレコードには、フォーム送信・メール・ミーティング・電話・チャットの履歴が時系列で集約されます。名刺を交換していない相手でも、資料をダウンロードした時点からコンタクトとして育てられます。名刺は接点の一種であって、接点のすべてではないという前提に立つと、この違いは大きく効いてきます。
ただし、どちらも単体では穴が残ります
Sansan単体では、名刺交換後のメール開封やページ閲覧といった検討行動の可視化は限定的になります。HubSpot単体では、紙名刺の入口を別の手段(モバイルアプリや外部の名刺スキャンアプリ、インポート運用)で埋める必要があります。どちらを選んでも「埋める作業」は残るため、その作業を誰がどう回すかまで含めて設計することが実務では重要になります。
マーケティングと営業管理の機能比較
名刺がデータ化された後、そのデータで何をするかの領域です。ここはHubSpotの設計思想がそのまま機能差として表れるため、比較の結論は明確です。マーケティング機能はコンタクトを取引に変えるまでの育成、営業管理機能は取引が生まれてから受注までの進行を担う部分、という位置づけで見ていきます。
マーケティング機能
| 機能 |
Sansan |
HubSpot |
| メール一斉配信 |
対応(基本的な配信) |
Marketing Hubで高度な配信が可能 |
| マーケティングオートメーション |
限定的 |
ワークフローで高度な自動化 |
| ランディングページ |
未対応 |
標準搭載 |
| ブログ/SEO |
未対応 |
Content Hubで統合管理 |
| リードスコアリング |
限定的 |
AIを用いた予測スコアリングに対応 |
| A/Bテスト |
未対応 |
メール・LP・CTAで対応 |
Sansanのマーケティング機能は名刺管理を補助する位置づけです。ステップメールを組み、行動に応じて分岐させ、スコアが上がった人だけを営業に渡すといったナーチャリングを本格的に回すなら、HubSpotのMarketing Hubが必要になります。
営業管理(SFA)
| 機能 |
Sansan |
HubSpot |
| 案件(取引)管理 |
基本的なパイプライン |
詳細なパイプライン管理 |
| 活動履歴の自動記録 |
メール連携で一部対応 |
メール・電話・ミーティングを統合記録 |
| 見積書作成 |
未対応 |
Professional以上で対応 |
| 売上予測 |
限定的 |
AIを用いたフォーキャストに対応 |
| シーケンス(自動フォロー) |
未対応 |
Professional以上で対応 |
上の画面は、HubSpotのシーケンス機能の一覧画面です。テンプレート化したメールを設定した間隔で順に送信する機能で、名刺交換後の初回フォローのような定型の追客を仕組み化できます。
以下の画面は、HubSpotのシーケンス一覧です。

機能差より「入力が続くか」を見る
ここで注意したいのは、機能が多いほど良いわけではないという点です。SFAの現場では、使われない項目が大量に並び、実際に入力されているのは一部だけ、という状態が頻繁に起こります。
項目は少ないほど営業は集中できますので、導入時は「営業プロセス上どうしても必要な項目」と「経営が見たい項目」に絞り込むところから始めるのが現実的です。また、項目の追加を誰でもできる状態にしておくと乱立が進みますので、プロパティの変更権限を管理者に絞る設計もあわせて検討すると良いでしょう。
料金とコスト構造の違い
金額の大小ではなく、課金単位と初期費用の構造が運用の自由度を決めます。ここを理解しておくと、見積もりを取る前に自社にとっての論点が整理できます。
比較表
| 項目 |
Sansan |
HubSpot |
| 無料プラン |
提供なし |
無料のCRMあり |
| 料金の公開 |
非公開・個別見積もり |
公開されており、プラン別に確認可能 |
| 料金体系 |
ライセンス数ベース |
Hub単位+シート数ベース |
| 初期費用 |
あり(要問合せ) |
セルフセットアップで開始可能 |
| 契約期間 |
年間契約が一般的 |
月額/年額を選択可能 |
課金単位の違いが「誰に配るか」を決める
Sansanは名刺を扱う全社員が使う前提になりやすく、ライセンス数が組織規模に連動します。HubSpotはHub単位とシート単位の組み合わせのため、マーケ担当は編集権限のあるシート、閲覧だけの管理職はコアシート、というように役割ごとに配り分けができます。全社に配るのか、関与者だけに配るのかという設計の違いは、そのまま運用コストの構造に効いてきます。先に配布の設計を決めておくと、見積もりを取った段階での認識のずれが減らせます。
検証のしやすさという観点
HubSpotは無料のCRMから始められるため、本格契約の前に「自社のデータ構造で回るか」を実データで試せます。これはスモールスタートの最初の一歩を、契約リスクなしに踏み出せるということでもあります。Sansanは企業規模や利用人数に応じた個別見積もりとなるため、他社の金額感がそのまま自社に当てはまるとは限りません。いずれにせよ、価格表を比べるより先に、自社で必要なライセンス数と運用工数を洗い出すことをおすすめします。
併用・一本化の3パターンと判断基準
ここからが実務の本題です。多くの企業にとって、選択肢は「どちらかを捨てる」ではなく「どう組み合わせるか」になります。3つのパターンを、向くケースと向かないケースの両方で整理します。
パターン1:Sansan+HubSpotの併用
名刺管理はSansan、マーケティング・営業・CSはHubSpotという構成です。SansanとHubSpotは公式の連携アプリを通じてデータを同期できます。名刺スキャン→Sansanでデータ化→HubSpotにコンタクトとして同期→HubSpotでナーチャリングと商談管理、という流れです。展示会や対面営業が売上の中心で、かつデジタル施策も強化したい企業に向きます。
パターン2:HubSpotに一本化
Web経由の問い合わせや資料ダウンロードが主なリード源で、名刺交換の量が限られる企業には一本化が有力です。名刺はHubSpotのモバイルアプリや外部の名刺スキャンアプリで取り込みます。ただし、全社員の人脈を横断的に可視化したいというニーズには応えにくく、名刺のデータ化精度も運用でカバーする前提になります。
パターン3:Sansanに一本化してCRM機能を拡張利用
営業チームが小規模で、高度なマーケティングオートメーションが不要であれば、SansanのCRM機能で営業管理までカバーする選択もあります。ただし、ナーチャリングのシナリオ設計や売上予測、Webページ・LPの運用までは範囲外になりますので、将来マーケティングを強化する計画があるなら早い段階で再検討が必要です。
判断基準の整理
| 自社の状況 |
推奨される構成 |
| 対面・展示会が主なリード源で、デジタル施策も強化したい |
パターン1(併用) |
| Web経由の問い合わせが主で、名刺量は限定的 |
パターン2(HubSpot一本化) |
| 営業が少人数で、まず名刺の電子化と共有が課題 |
パターン3(Sansan中心) |
| 名刺はあるが、その後のフォローが属人化している |
パターン1または2 |
判断は次の順番で進めると迷いにくくなります。1つ目はリードの入口の構成比(対面が多いかWebが多いか)、2つ目は名刺のデータ化に求める量と精度、3つ目は連携設定を保守できる担当を置けるかどうか、の3点です。1つ目で軸となるツールが決まり、2つ目で名刺機能の要否が決まり、3つ目で併用の可否が決まります。
もちろん企業様によって最適な形は異なります。リード獲得チャネルの構成比と、営業が対面中心かオンライン中心かを見て、自社の事情に合わせて選んでいただくのが前提になります。
併用時のデータ設計:どちらをマスターにするか
併用で失敗しやすいポイントの筆頭が、マスターデータの決め方です。ここを決めずに連携をオンにすると、双方で更新が走り、どちらが正しいか分からないデータが増えていきます。先に「項目ごとの主管」を決めてから連携設定に入ってください。
項目ごとにマスターを決める
一般的には、名刺由来の属性情報(氏名・会社名・部署・役職)はSansanをマスターとし、マーケティング・営業活動のデータ(メール開封、フォーム送信、取引、商談メモ)はHubSpotをマスターとする分担が運用しやすい形です。"人単位で決める"のではなく"項目単位で決める"のがポイントになります。
| データ項目 |
マスター |
分担の考え方 |
| 氏名・会社名・部署・役職 |
Sansan |
名刺スキャンが入口となる属性情報 |
| メール開封・フォーム送信・ページ閲覧 |
HubSpot |
HubSpot側で発生する行動履歴 |
| 取引・商談メモ・活動記録 |
HubSpot |
営業プロセスの管理主体となるデータ |
| 両方で編集できる項目 |
作らない |
更新競合の原因になるため権限で分離する |
オブジェクトの関係を先に描く
HubSpotはコンタクト・会社・取引・チケットが互いに紐づくリレーショナルなデータベースです。名刺データを流し込む前に、1社に複数の名刺がある場合に会社レコードをどう1本化するか、取引をどの単位で作るかを決めておくと、後からの手戻りが減ります。
上の画面は、HubSpotのオブジェクト間リレーションを1枚に整理した設計図です。このようにオブジェクト間の関係を描いてから設定に入るアプローチを当社では取っています。
以下の図は、HubSpotデータモデル設計図(オブジェクト間リレーション)です。

重複と表記ゆれは仕組みで潰す
同じ会社名でも「株式会社」の位置や全角半角で別レコードになりがちです。これは担当者の注意力ではなく、取り込み前の正規化ルールと、HubSpot側の重複管理ツールによる定期的なマージ運用で解決するべき問題です。人が気をつける運用は引き継ぎの瞬間に壊れますので、ルールとワークフローに落として、新しい担当者でも同じ結果になる状態を目指します。
名刺データを商談につなげる一気通貫フロー
名刺管理ツールを入れても成果が変わらない大きな理由の1つは、名刺がデータ化された時点で流れが止まっていることです。ここでは、名刺を商談と再アプローチまでつなげる全体フローを示します。個別機能ではなく、流れとして設計することが重要になります。下の画面は、ツール連携による業務フローの全体像を整理した図です。
以下の図は、リード獲得〜会計の全体像(ツール連携図)です。

ステップ1:ライフサイクルステージで検討段階を持たせる
同期された名刺コンタクトをすべて同じ扱いにすると、営業は何から当たればよいか分かりません。リード→MQL→SQL→商談→顧客といったステージを自社のカスタマージャーニーに沿って定義し、ワークフローで自動的に変更されるようにします。あわせて、会社側にもライフサイクルステージを持たせておくと、「リード数は多いが企業数は少ない」といった実態が見えるようになります。
ステップ2:パイプラインを4要素で設計する
商談化した後の管理は、次の4要素で設計すると精度が上がります。
| 要素 |
内容 |
名刺起点の商談での例 |
| 取引ステージ |
受注率が変わる節目で分ける |
名刺交換→初回面談→提案→見積提示→受注 |
| 受注確度 |
ステージごとの確率で加重金額を算出 |
名刺交換直後は低く、提案以降で引き上げる |
| ステージ定義 |
各ステージの意味を社内で統一する |
初回面談=課題ヒアリング完了 |
| 必須入力プロパティ |
ステージ移行時に入力を必須化 |
提案時に金額とクローズ日、受注時に受注理由 |
必須入力プロパティは、データ品質の担保だけでなく、新人が「この段階で何を確認すべきか」を学ぶ教材にもなります。個人の力量ではなく、仕組みで一定の水準を出すための設計です。
ステップ3:失注を捨てずに掘り起こしへ戻す
名刺起点の商談は、タイミングが合わずに失注するケースが少なくありません。失注理由を価格・競合・製品機能・時期・社内決裁などのカテゴリで分類しておくと、円グラフで傾向が見え、マーケティングや製品開発に共有できます。そのうえで、失注コンタクトをナーチャリングのシナリオに戻す仕組みを作れば、名刺は一度きりの接点ではなく循環する資産になります。
ステップ4:AIと人の役割を分ける
Breezeなどのアシスタント機能は、問い合わせの分類やレコードの要約、メール下書きの作成といった下ごしらえに向いています。上の画面は、問い合わせ内容をAIで判定・分類するワークフローの設定例です。
以下の画面は、Breezeによる問い合わせカテゴライズの設定例です。

一方で、パイプラインの設計、ライフサイクルステージの定義、金額の大きい案件へのアプローチ内容は人が判断すべき領域です。自動送信に任せきりにせず、送信前に人が確認する運用を前提に組み込むことをおすすめします。
この流れを作ると、名刺は入口、商談は途中経過、受注後の顧客管理が出口、という1本の線になります。ツールの選択より先に、この流れを自社の営業プロセスに合わせて描けるかどうかが成否を分けます。
スモールスタートで進める導入ステップ
いきなり全社展開や全項目の連携を狙うと、設計が固まる前に運用が始まり、結局使われなくなります。効果が出そうな範囲を見極めて、優先順位をつけて進めるのが現実的です。
まずは1部門・1パイプラインから
対象を1つの営業チームに絞り、パイプラインも1本だけ作って回します。名刺の同期対象も、全件ではなく特定の展示会やキャンペーンで獲得した分だけに限定すると、データの流れと課題が短期間で見えます。ここで得た知見を反映してから、対象部門とパイプラインを広げます。
現状の棚卸しを先に行う
スプレッドシートで名刺リストや商談リストを管理している場合、顧客リストと担当者マスターに別々の情報が入り、差分が生まれていることがよくあります。手動更新が多く、誰かが更新を止めた瞬間に実態とずれるのもスプレッドシート管理の限界です。移行前に、どのファイルが実質的なマスターになっているかを洗い出しておくと、設計の議論が早く進みます。
拡張の順序
| 段階 |
やること |
見る指標 |
| 第1段階 |
1部門でコンタクトと取引の管理を開始 |
入力率、ステージの滞留 |
| 第2段階 |
名刺データの同期範囲を拡大、重複ルールを整備 |
重複件数、会社レコードの正確性 |
| 第3段階 |
ナーチャリングのワークフローを追加 |
開封・クリック、MQL件数 |
| 第4段階 |
レポートとフォーキャストを整備 |
加重パイプライン金額、失注理由の内訳 |
向かないケースと正直な限界
ツール選定では、できることと同じくらい、できないことを先に知っておくほうが役に立ちます。当社が相談を受ける中で、率直にお伝えしている点を整理します。
HubSpotが向かないケース
紙名刺の大量処理そのものが中心的な課題で、全社員の人脈を横断的に可視化したいという要件が中心であれば、HubSpot単体では要件を満たしにくくなります。また、HubSpotは営業・マーケティング部門を中心に使う設計のため、名刺を扱う全社員に配布する前提だと、シート設計を丁寧に考える必要があります。
Sansanが向かないケース
Web経由のリードが中心で、行動履歴に応じたシナリオ配信やスコアリング、LP・ブログの運用まで一体で回したい場合は、名刺起点のデータベースだけでは範囲が足りません。売上予測やシーケンスによる自動フォローも限定的です。
併用が向かないケース
併用は万能ではありません。次のような状態で併用を始めると、二重管理の手間だけが増えます。
- マスターデータの分担を決められない
- 連携設定を保守する担当を置けない
その場合は、いったんどちらかに寄せて運用を安定させてから、改めて連携を検討するほうが健全です。なお、ここで述べたデータ設計の考え方は、HubSpotに限らずリレーショナルなデータベースを持つCRM全般に当てはまります。
よくある質問
この節の要点
- データ移行 ── CSVのエクスポートとインポートが手軽で、公式の連携アプリによる同期運用も可能です
- 二重管理 ── 項目ごとにどちらをマスターとするかを先に決めておくことが前提です
- 企業データベースの違い ── Sansanは日本企業の情報、Breeze Intelligenceは海外企業の情報に強みがあります
- 少人数の営業チーム ── HubSpotの無料CRMから始める進め方が取り組みやすいです
- 成果が実感できないとき ── 名刺データ化の後の流れが設計されているかを確認します
Q1: SansanからHubSpotにデータを移行するにはどうすればよいですか?
SansanからCSV形式でコンタクトデータをエクスポートし、HubSpotへインポートする方法が手軽です。公式の連携アプリを使えば、新規の名刺データをHubSpotに同期する運用も可能です。移行時は、正式社名・部署名・役職といった項目がHubSpotのプロパティへ正しくマッピングされているかを、少量のテストデータで先に確認してください。いきなり全件を入れると、表記ゆれや重複の修正に大きな手間がかかります。
Q2: 併用する場合、データの二重管理は問題になりませんか?
連携を正しく設定すれば手動の二重入力は不要になりますが、その前に「項目ごとにどちらをマスターとするか」を決めておくことが前提です。名刺由来の属性情報はSansan、マーケティング・営業活動のデータはHubSpotという分担が運用しやすい形です。あわせて、どちらでも編集できる項目を作らないように権限を設計しておくと、担当者が替わっても同じ運用が続きます。
Q3: Sansanの企業データベースとHubSpotのBreeze Intelligenceはどう違いますか?
Sansanの企業データベースは、名刺スキャンで蓄積された情報と外部データを組み合わせ、日本企業の情報を提供する点に強みがあります。HubSpotのBreeze Intelligenceは、グローバルなデータソースを基に企業情報を補完する機能で、海外企業の情報に強みがあります。日本市場中心の事業か、海外展開を含む事業かで、どちらの補完が効くかが変わります。
どちらを使う場合も、補完された情報をそのまま信頼せず、商談前に担当者が確認する運用を残しておくのが安全です。
Q4: 営業チームが少人数の場合、どちらから始めるべきですか?
少人数であれば、HubSpotの無料CRMでコンタクトと取引の管理を始め、運用が回ることを確認してから拡張する進め方が取り組みやすいです。一方、展示会出展が多い、対面営業が中心といった事業では、名刺の入口を整えるSansanの価値が先に効いてきます。自社のリードがどこから生まれているかを先に確認し、量の多い入口から着手してください。
Q5: どちらも導入済みですが、成果が実感できません。何を見直すべきですか?
ツールの機能ではなく、名刺データ化の後の流れが設計されているかを確認してください。具体的には、ライフサイクルステージの定義、取引ステージと必須入力プロパティ、失注後の掘り起こし導線の3点です。この3つが空白のままだと、データは溜まるのに次のアクションが生まれない状態になります。まずは取引ステージの定義を社内で言語化するところから見直すのが効果的です。
まとめ
HubSpotとSansanは、顧客データの起点が異なるツールです。Sansanは名刺という対面接点を正確にデータ化することに強く、HubSpotは名刺を含むあらゆる接点を1つのデータベースに集約し、ナーチャリング・商談管理・可視化までつなげることに強みがあります。比較の結論は機能数ではなく、自社のリードがどこから生まれ、その後どんなアクションが必要かによって決まります。
併用を選ぶ場合は、項目ごとのマスターデータを先に決め、オブジェクトの関係を1枚の設計図に描いてから連携設定に進んでください。そして、名刺がデータ化された後に、ライフサイクルステージ・パイプライン4要素・失注掘り起こしという流れを仕組みとして置くことが、成果の分かれ目になります。担当者の頑張りではなく、引き継いでも同じように回る形にすることが目的です。
まずは、自社のリード獲得チャネルの棚卸しから始めてください。次の3ステップで進められます。
- 直近の商談が、名刺交換・Web問い合わせ・紹介のどこから生まれているかを数えて構成比を出す
- 名刺データ化の後、誰がどのタイミングで次のアクションを取っているかを書き出し、止まっている箇所を特定する
- HubSpotの無料CRMで1部門・1パイプラインだけを作り、取引ステージの定義と必須入力プロパティを決めて2週間運用してみる
CRMを活用した業務効率化やAIとの連携に関するご相談は、CRM特化型コンサルティングのHubSpotゴールドパートナーのStartLinkまでお気軽にお問い合わせください。
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