「社員の給与は固定費だから、原価管理には関係ない」——こうした誤解を持ったまま経営しているサービス業・BtoB企業は少なくありません。しかし実際には、社員がどの案件に何時間費やしたかを把握できなければ、案件の真の収益性を計算することは不可能です。
「社員の給与は固定費だから、原価管理には関係ない」——こうした誤解を持ったまま経営しているサービス業・BtoB企業は少なくありません。しかし実際には、社員がどの案件に何時間費やしたかを把握できなければ、案件の真の収益性を計算することは不可能です。
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「社員の給与は固定費だから、原価管理には関係ない」——こうした誤解を持ったまま経営しているサービス業・BtoB企業は少なくありません。しかし実際には、社員がどの案件に何時間費やしたかを把握できなければ、案件の真の収益性を計算することは不可能です。
特にコンサルティング会社やITサービス会社では、人件費が売上原価の60〜80%を占めることが珍しくありません。この最大のコスト項目を「管理対象外」にすることは、利益管理を放棄しているのと同じです。
この記事では、人件費を原価として正確に算入するための概念的な整理から、工数管理の設計、案件への配賦方法まで、実務で使えるレベルで解説します。
人件費を「固定費だから管理対象外」にせず、案件ごとの原価として正確に算入するための設計方法を解説します。工数管理の仕組みづくりから組織への定着方法まで、実務で使えるレベルでまとめています。
対象読者: サービス業の経営者・管理部門担当者、工数管理の導入を検討しているプロジェクトマネージャー
製造業では、工場で働く製造作業員の賃金は「製造原価(直接労務費)」として処理され、営業・管理部門の人件費は「販売費及び一般管理費(販管費)」として処理します。
サービス業でも同様の考え方を適用することが、正確な原価管理のポイントです。
| 区分 | 対象人員 | 会計処理 |
|---|---|---|
| 直接労務費(原価) | プロジェクトに直接関与するコンサルタント・エンジニア | 売上原価に算入 |
| 間接労務費(原価) | PM・マネージャー(案件管理) | 売上原価または製造間接費として配賦 |
| 販管費 | 営業・採用・経理・総務・人事 | 販売費及び一般管理費に計上 |
重要なのは、「直接プロジェクトに関わる人員のコストは原価として扱う」という原則です。営業部門の人件費は販管費ですが、案件を実行するコンサルタントやエンジニアの人件費は原価として扱うことで、案件別の正確な粗利を計算できます。
人月単価の具体的な計算方法(月間実質人件費の算出、法定福利費の計算等)については、「サービス業の原価計算方法|製造業と違う原価構造と人件費の扱い方」で詳しく解説しています。本記事では、算出された人月単価を前提として、工数管理と配賦の設計に焦点を当てます。
人件費を案件に配賦するためには、「どの案件に何時間使ったか」を記録する工数管理の仕組みが不可欠です。しかし、工数管理の導入で最も難しいのは仕組みの設計ではなく「全社員が毎日記録する習慣を定着させること」です。
各案件・プロジェクトに一意のコードを割り振ります。HubSpotの商談IDをそのまま使うか、別途管理コードを設計します。
コード設計例:
2026-001: CRM導入案件(2026年1件目)2026-002: システム開発案件(2026年2件目)INDIRECT-01: 提案活動(間接工数)INTERNAL-01: 社内業務・会議(間接工数)間接工数のコードを用意しておくことが重要です。「どの案件にも紐づかない時間」の受け皿がないと、記録が曖昧になります。
どの程度細かく工数を記録するかを決めます。細すぎると記録負荷が高まり、粗すぎると原価精度が落ちます。
| 粒度 | メリット | デメリット | 推奨場面 |
|---|---|---|---|
| 15分単位 | 高精度 | 入力負荷大 | 正確な原価管理が必須な高単価案件 |
| 30分単位 | バランス良い | — | 一般的なコンサル・IT案件 |
| 1時間単位 | 入力が楽 | 誤差が出やすい | 管理コストを抑えたい場合 |
| 半日・日単位 | 最も簡単 | 原価精度低い | スタート段階のみ |
まずは30分単位での記録から始め、精度と運用のバランスを確認しながら調整していくことをお勧めします。
工数記録は「その日のうちに記録する」が原則です。翌日以降に記録しようとすると、記憶が曖昧になり精度が大幅に低下します。
実践的な方法として、「退勤前5分で当日の工数を記録する」というルーティンを全社で定着させることが重要です。
工数管理ツールは多数存在しますが、中小企業・サービス業が実務で使いやすいものを以下に比較します。
freeeの法人向けプラン(ベーシック以上)で利用可能な工数管理機能です。最大の特徴は会計データとの直接連携です。工数を記録すると、勘定科目・取引先・案件コードと紐づけて月次決算時に案件別原価を自動集計できます。freeeを会計ソフトとして使っている企業にとっては追加ツール不要で導入できるメリットがあります。
ただし、UI/UXは専用ツールに比べるとシンプルで、タイマー機能(作業中のリアルタイム計測)がない点は留意してください。
世界的に利用者の多いタイムトラッキングツールです。無料プラン(5名まで)でも基本機能が使えるため、スモールスタートに最適です。ワンクリックでタイマーを開始でき、ブラウザ拡張・モバイルアプリ・デスクトップアプリから操作可能です。プロジェクト別・クライアント別のレポートが標準装備されており、月次の工数集計が容易です。
freeeとの直接連携はないため、月次で工数レポートをCSVエクスポートし、原価計算に使う運用になります。
Toggl Trackと競合するタイムトラッキングツールで、無料プランの制限が少ない点が特徴です(無料で無制限ユーザー・無制限プロジェクト)。10名以上のチームでコストを抑えたい場合に適しています。機能面はToggl Trackとほぼ同等ですが、承認ワークフロー(マネージャーが工数を承認する機能)は有料プランで利用可能です。
請求書作成機能が統合されたタイムトラッキングツールです。工数記録→請求金額計算→請求書発行の流れを一つのツールで完結できるため、時間単価で請求するコンサルティング会社やフリーランスに特に適しています。1名の無料プランがあり、有料プランは1人月額$10.80(2026年3月時点)です。
| 条件 | 推奨ツール |
|---|---|
| freeeを会計ソフトとして使っている | freee工数管理(追加コスト不要) |
| 5名以下のチームでまず始めたい | Toggl Track(無料プラン) |
| 10名以上でコストを抑えたい | Clockify(無料で無制限ユーザー) |
| 時間単価で請求している | Harvest(工数→請求の一気通貫) |
| 開発チームでJiraを使っている | Jira標準の作業時間記録機能 |
工数管理ツールを導入しても、記録が続かなければ意味がありません。「ツールの選定」よりも「組織への定着」のほうが遥かに難易度が高い課題です。以下の3つの施策を組み合わせて実行することで、定着率を大きく高められます。
毎週月曜日(または金曜日)に15〜20分の「工数レビューミーティング」を設定します。内容は以下の3点だけです。
このミーティングの目的は「工数を記録する行為を組織のルーティンに組み込むこと」です。未入力を個人的に指摘するのではなく、チーム全体で共有することで心理的ハードルを下げます。
工数管理が定着しない最大の原因は「マネージャー自身が記録していない」ことです。マネージャーが毎日記録していれば、メンバーに記録を依頼する際の説得力が格段に上がります。
逆に、マネージャーが記録していないのにメンバーにだけ記録を求めると「自分たちの工数を監視されている」という印象を与え、抵抗感が増大します。
案件コードの数が多すぎると、「どのコードを選べばいいかわからない」という迷いが生じ、記録が後回しになります。導入初期は案件カテゴリを10個以内に絞り込み、慣れてから細分化してください。
導入初期のカテゴリ例(シンプル版):
記録の精度よりも「毎日記録する習慣」の定着を最優先にすることが、工数管理を成功させる鍵です。
工数記録の仕組みが整ったら、人件費を案件に配賦するロジックを設計します。
直接人件費は、工数記録のデータを使って案件に直接紐づけます。
案件別直接人件費 = 担当者の時間単価 × 案件投入時間
複数の担当者が一つの案件に関与している場合は、担当者ごとに計算して合算します。
提案活動・マネジメント工数・会議等の間接工数から発生する人件費は、何らかの基準で各案件に配賦します。
| 配賦方法 | 計算式 | 特徴 |
|---|---|---|
| 直接人件費比率法 | 間接費 × (案件直接人件費 ÷ 全案件直接人件費合計) | 合理性が高い・推奨 |
| 売上比率法 | 間接費 × (案件売上 ÷ 全案件売上合計) | 計算が簡単 |
| 均等配賦 | 間接費 ÷ 案件数 | 最もシンプル |
直接人件費比率法を選択することをお勧めします。案件の規模(投入工数)に比例してコストを配賦するため、小規模案件に過大な間接費が乗ることなく、合理的な原価計算が可能です。間接費配賦の詳細な設計方法については「間接費の配賦基準設計|管理部門コストを事業部・プロジェクトに正確に割り当てる」を参照してください。
HubSpotのCRM商談データと工数記録を連携させることで、案件別の人件費原価を経営管理ツールとして活用できます。
HubSpotの商談カスタムプロパティとして以下を追加することをお勧めします:
これらを設定することで、HubSpotのダッシュボードから「案件別の原価率」「担当者別の有償稼働率」「顧客別の平均粗利率」をリアルタイムで確認できるようになります。
特に「見積工数 vs 実績工数」の乖離を可視化することは、見積精度の改善に直結します。工数管理データが3〜6ヶ月蓄積されると、「このタイプの案件は見積もりの1.3倍の工数がかかる」といった傾向が見えるようになり、次回の見積精度が向上します。
人件費を原価として扱うには、直接案件に関与する人員を「原価」、間接部門を「販管費」として区分することが基本。工数管理は30分単位・当日記録・案件コード紐づけを設計の3原則とする
押さえておきたいポイントは以下の通りです。
Q. 代表者・役員の人件費(役員報酬)は原価に含めるべきですか?
役員が直接案件に関与している場合は、その割合を原価に算入することが実態に即した原価計算になります。例えば代表が70%を案件業務、30%を経営管理に使っている場合、役員報酬の70%を原価(直接人件費)、30%を販管費として処理します。
Q. 残業時間の人件費は通常の時間単価で計算してよいですか?
原価計算上は時間単価を使った計算で問題ありません。ただし、残業が多い場合は時間外割増分(通常の1.25〜1.5倍)を考慮した単価を使うか、残業コストを別途管理することで、案件の真のコストをより正確に把握できます。
Q. パートタイムや業務委託のスタッフの工数管理はどうすればよいですか?
正社員と同様に案件コード紐づきの工数記録をお願いします。業務委託の場合は契約単価が明確なことが多いため、工数×単価で直接原価を計算できます。
Q. 工数管理を始めたら、どのタイミングで原価管理に活用できますか?
2〜3ヶ月のデータが蓄積された時点で、案件別原価の試算を始めることをお勧めします。最初は精度が低くても、継続することでデータの信頼性が上がります。
StartLinkはHubSpotゴールドパートナーとして、CRMと会計データをつなぐ設計支援を行っています。HubSpotの案件オブジェクトに工数フィールドと時間単価マスターを設計し、「Sync for freee」でfreeeの給与・人件費実績と紐づけることで、案件別の人件費原価を見える化するご相談を承っています。Claude Codeエージェントを使った工数集計・配賦計算の自動化もご提案可能です。工数管理ツールそのものの開発、給与計算・労務業務の代行、原価計算システムの構築は対応範囲外ですが、「HubSpotから案件別人件費を把握したい」というご相談はお気軽にどうぞ。
株式会社StartLinkは、事業推進に関わる「販売促進」「DXによる業務効率化(ERP/CRM/SFA/MAの導入)」などのご相談を受け付けております。 サービスのプランについてのご相談/お見積もり依頼や、ノウハウのお問い合わせについては、無料のお問い合わせページより、お気軽にご連絡くださいませ。
株式会社StartLink 代表取締役。累計150社以上のHubSpotプロジェクト支援実績を持ち、Claude CodeやHubSpotを軸にしたAI活用支援・経営基盤AXのコンサルティング事業を展開。
HubSpotのトップパートナー企業や大手人材グループにて、エンタープライズCRM戦略策定・AI戦略ディレクションを経験した後、StartLinkを創業。現在はCRM×AIエージェントによる経営管理支援を専門とする。