顧客別・案件別収益性分析|どの顧客・案件が利益を生んでいるかを可視化する方法

この記事の結論

顧客別収益性分析の目的とビジネスへのインパクト。顧客別原価の算出方法(直接費と間接費配賦の統合)。

ブログ目次

記事の内容を、そのまま実務に落とし込みたい方向け

HubSpot導入、AI活用、CRM整備、業務効率化までをまとめて支援しています。記事で気になったテーマを、そのまま相談ベースで整理できます。


顧客別収益性分析の目的とビジネスへのインパクト。顧客別原価の算出方法(直接費と間接費配賦の統合)。

「全力で対応しているのに、この顧客との取引は本当に儲かっているのだろうか」——そんな疑問を持ちながら営業を続けているBtoB企業の経営者は多いものです。売上高が大きい顧客が必ずしも利益貢献が高いわけではなく、要望が多い顧客ほどコストがかかるというのは、原価管理を見ると明確に数値で現れます。

顧客別収益性分析(Customer Profitability Analysis)は、売上だけでなく各顧客・案件に紐づくコストを把握し、真の利益貢献度を評価する手法です。この分析を行うことで、「リソースをどの顧客に集中させるべきか」「価格設定を見直すべき顧客はどこか」「継続取引を優先すべき優良顧客はどこか」という経営判断が数値に基づいて行えるようになります。

この記事では、コンサルティング会社・ITサービス会社・BtoB企業向けに、顧客別・案件別収益性分析の設計方法から、CRMを活用した実践的な可視化手法まで解説します。


この記事でわかること

売上だけでは見えない「本当に利益を生んでいる顧客」を特定するための収益性分析手法を解説します。顧客別にコストと利益率を可視化し、リソース配分や価格設定の意思決定を数値で行えるようになります。

  • 顧客別収益性分析の目的とビジネスへのインパクト — 多くのBtoB企業が「売上高」「受注件数」「継続率」といった指標で顧客を評価しています。
  • 顧客別原価の算出方法(直接費と間接費配賦の統合) — 顧客別収益性を計算するには、各顧客に紐づくコストを正確に集計する必要があります。
  • 優良顧客・低収益顧客・要改善顧客の分類フレームワーク — 顧客別収益性データが揃ったら、顧客を収益性の観点から分類し、対応戦略を設計します。
  • 顧客別収益性データを戦略的意思決定に活用する方法 — 顧客収益性データを営業活動の優先度設計に活用します。「要注意顧客(高売上・低粗利率)」に対しては、翌期の価格交渉または工数削減の計画を立てます。
  • HubSpotを使った顧客収益性ダッシュボードの設計 — HubSpotのCRM・レポート機能を活用することで、顧客別収益性を経営管理ツールとして可視化できます。

対象読者: BtoB企業の経営者・営業責任者、顧客ポートフォリオの最適化を検討している事業部長・経営企画担当者


顧客別収益性分析が必要な理由

多くのBtoB企業が「売上高」「受注件数」「継続率」といった指標で顧客を評価しています。しかし、これらの指標だけでは、どの顧客との取引が企業の利益に最も貢献しているかは見えません。

顧客別収益性分析を導入した企業でよく起きる「気づき」:

  • 売上ランキング上位の顧客が、収益性ランキングでは中位以下に位置していた
  • 単価は低いが要望が少なく工数が少ない顧客の粗利率が高かった
  • 継続受注率は高いが、追加要望が多く原価超過が常態化している顧客がいた
  • 新規開拓に投じたコストを考慮すると、新規顧客の初年度は赤字になっていた

これらの事実は、売上と収益性の両面でポートフォリオを評価しなければ見えてきません。


顧客別原価の算出方法

顧客別収益性を計算するには、各顧客に紐づくコストを正確に集計する必要があります。

直接費の顧客別集計

直接費は案件(商談)に紐づいており、顧客ごとに集計できます。

費用項目 集計方法
直接人件費 工数記録のデータを案件コード別に集計し、顧客別に合算
外注費 請求書の案件コード別集計
直接経費(交通費等) 経費精算の案件コード別集計

間接費の顧客別配賦

間接費(管理部門人件費・オフィス賃料等)は、顧客別の直接人件費比率で配賦します。

顧客別間接費配賦額 = 間接費総額 × (顧客別直接人件費 ÷ 全顧客直接人件費合計)

営業コストの顧客別算入

BtoB企業では、顧客別の営業活動コスト(初回商談・提案作成・既存顧客フォロー)も顧客別収益性の分析に含めることが重要です。

営業コストの算出:

顧客別営業コスト = 担当営業の時間単価 × 顧客対応時間

顧客別収益性の計算例

項目 リクルート サイバーエージェント マネーフォワード
年間売上高 5,000,000円 3,000,000円 1,500,000円
直接人件費 1,800,000円 900,000円 300,000円
外注費 500,000円 0円 0円
直接経費 200,000円 80,000円 20,000円
間接費配賦 400,000円 200,000円 70,000円
営業コスト 300,000円 150,000円 100,000円
総コスト 3,200,000円 1,330,000円 490,000円
粗利(営業コスト含む) 1,800,000円 1,670,000円 1,010,000円
実質粗利率 36% 55.7% 67.3%

売上高ではリクルートが最大ですが、実質粗利率ではマネーフォワードが最高です。このデータが意思決定の基盤となります。


顧客の収益性分類フレームワーク

顧客別収益性データが揃ったら、顧客を収益性の観点から分類し、対応戦略を設計します。

2軸マトリクス(売上×粗利率)

顧客を「売上高」と「粗利率」の2軸でマトリクスに配置します。

分類 売上高 粗利率 戦略
優良顧客(Star) リレーション強化・追加提案・横展開
成長候補(Rising) 提案拡大・LTV向上施策
要注意顧客(Cash Cow) 価格見直し・スコープ整理・原価削減
要検討顧客(Dog) 継続・価格改定・縮小・関係解消の検討

顧客分類の評価指標

収益性分類に使う主要指標:

指標 計算式 判断基準
実質粗利率 (売上 - 全コスト)÷ 売上 40%以上が目標(業種による)
LTV(顧客生涯価値) 年間粗利 × 継続年数 大きいほど優良
NRR(収益継続率) 前年比の既存顧客売上推移 100%超が望ましい
案件獲得コスト(CAC) 営業・マーケコスト ÷ 新規受注件数 LTVの1/3以下が目安

顧客別収益性データを経営に活用する

営業優先度の設計

顧客収益性データを営業活動の優先度設計に活用します。「要注意顧客(高売上・低粗利率)」に対しては、翌期の価格交渉または工数削減の計画を立てます。「成長候補(低売上・高粗利率)」に対しては、横展開提案で売上を伸ばすことを優先します。

HubSpotのCRMでは、顧客(会社)レコードにカスタムプロパティとして「実質粗利率」「顧客分類」を設定し、これをフィルタとして使うことで営業担当者が優先顧客を一目で把握できます。

価格設定の見直し

「要注意顧客(高売上・低粗利率)」については、次の契約更新時に価格改定または作業スコープの見直しを行います。

価格改定の交渉アプローチ:

  • 過去の実績工数データを提示し、原価増加を数値で説明する
  • 品質・スピード・対応範囲などの付加価値を再定義して値上げを正当化する
  • スコープを整理して「プレミアム対応」と「スタンダード対応」を分ける

リソース配分の最適化

稼働リソース(コンサルタント・エンジニアの稼働時間)を、収益性の高い顧客に優先配分します。

具体的には、四半期ごとに顧客収益性のランキングを確認し、低収益顧客への投入工数を段階的に削減しながら、優良顧客・成長候補への提案活動を強化します。

失注分析との連動

顧客別収益性分析は、失注した案件の分析とも組み合わせることが重要です。低粗利顧客からの失注(価格が理由の場合)は、むしろ戦略的に望ましい場合があります。逆に、優良顧客から失注した案件については原因を深掘りし、回避策を設計することが経営的に重要な判断となります。


HubSpotを使った顧客収益性ダッシュボードの設計

HubSpotのCRM・レポート機能を活用することで、顧客別収益性を経営管理ツールとして可視化できます。

会社レコードに追加するカスタムプロパティ:

  • 年間売上(現在の期)
  • 年間総コスト
  • 実質粗利率
  • 顧客分類(優良/成長候補/要注意/要検討)
  • LTV(推計)

ダッシュボードで可視化する指標:

  • 顧客別実質粗利率ランキング(棒グラフ)
  • 顧客分類別の売上・収益構成比(円グラフ)
  • 担当営業別の担当顧客の平均粗利率
  • 月次の顧客別収益性トレンド

これらをHubSpotのダッシュボードで経営者が週次・月次で確認できる状態を作ることで、「どの顧客を伸ばすべきか」「どの顧客との関係を見直すべきか」という戦略的議論がデータに基づいて行えるようになります。


まとめ

顧客別収益性分析は「売上高」だけでなく「全コスト(直接費+間接費配賦+営業コスト)」を考慮した実質粗利率で評価する。顧客を「売上×粗利率」の2軸でマトリクス分類し、顧客ごとに戦略を設計する

押さえておきたいポイントは以下の通りです。

  • 高売上・低粗利率の「要注意顧客」には価格改定またはスコープ整理が必要
  • 低売上・高粗利率の「成長候補」には横展開提案でLTV向上を目指す
  • 顧客収益性データをHubSpotに統合することで、営業優先度・価格設定・リソース配分の意思決定が数値化できる
  • 顧客別収益性分析と失注分析を組み合わせることで、戦略的な受注選択が可能になる

よくある質問

Q. 顧客別収益性分析はどのくらいの頻度で実施すればよいですか?

月次で主要指標(顧客別売上・直接原価)を確認し、四半期で顧客分類の見直しを行うことをお勧めします。年次では前期比での収益性トレンドを分析し、戦略的な顧客ポートフォリオの見直しを行います。

Q. 顧客数が多い場合(50社以上)、全顧客の収益性分析は現実的ですか?

まずは売上上位20顧客から始めることをお勧めします。上位20%の顧客が売上の80%を占めるケース(パレートの法則)が多いため、まず主要顧客の収益性を把握することが優先度が高いです。

Q. 低収益顧客との取引を解消する際はどのように伝えるべきですか?

急な解消は避け、「価格改定の提案」「サービス内容の見直し提案」から始めることをお勧めします。交渉が不調に終わった場合は、「人材リソースの状況により、より深いサービス提供が難しい」といった率直な理由を伝えることが誠実な対応です。

Q. 新規顧客の初年度は赤字になりやすいですが、どう評価すればよいですか?

新規顧客は獲得コスト(CAC)が高く、最初の1〜2年は赤字または低収益になることが一般的です。評価はLTV(顧客生涯価値)で行い、「将来の継続売上を含めた収益性」で判断することが合理的です。CAC回収期間の目安は12〜24ヶ月が多いです。


StartLinkのHubSpotを使った顧客別収益性可視化サポート

StartLinkはHubSpotゴールドパートナーとして、CRMと会計データをつなぐ設計支援を行っています。HubSpotの会社・取引オブジェクトに顧客別の売上・原価・CACを保持する設計を行い、「Sync for freee」でfreeeの実績と照合することで、「どの顧客に集中すべきか」をデータで判断できる環境をご提案しています。Claude Codeエージェントを使った顧客別レポートの自動化もご相談可能です。顧客別原価計算制度そのものの構築、管理会計システムの開発、記帳・決算業務の代行は対応範囲外ですが、「HubSpot上で顧客別収益性を見える化したい」というご相談はお気軽にどうぞ。


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著者情報

7-1

今枝 拓海 / Takumi Imaeda

株式会社StartLink 代表取締役。累計150社以上のHubSpotプロジェクト支援実績を持ち、Claude CodeやHubSpotを軸にしたAI活用支援・経営基盤AXのコンサルティング事業を展開。
HubSpotのトップパートナー企業や大手人材グループにて、エンタープライズCRM戦略策定・AI戦略ディレクションを経験した後、StartLinkを創業。現在はCRM×AIエージェントによる経営管理支援を専門とする。