コンサルティング会社やITサービス会社は、案件数が増えるほど「全体の売上は伸びているのに、手元に残る利益が増えない」という状態に陥りやすい業態です。この原因の多くは、案件別の原価を把握できていないことにあります。
コンサルティング・IT業界では「人月(にんげつ)」と呼ばれる工数単位が一般的に使われますが、これを原価管理に落とし込めている企業は意外と少ないのが現実です。人月計算で見積もりを出しても、実際の稼働が見積もりを超えてしまい、気づいたら赤字案件になっていた——そうした経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
この記事では、コンサルティング会社・ITサービス会社が実践すべき原価管理の設計方法を、人月単価の計算から案件別収益性の可視化まで、具体的な手順で解説します。
この記事でわかること
コンサルティング会社・ITサービス会社が陥りがちな「売上は伸びても利益が残らない」問題の原因を、案件別の原価管理の観点から解き明かします。人月単価の算出から収益性の可視化まで、実践的な手順を紹介します。
- コンサルティング・IT業界における原価管理の特殊性と課題 — 一般的なサービス業と比べても、コンサルティング・IT業界には独特の原価管理課題があります。
- 人月単価を正確に算出するための計算方法 — 人月(1人が1ヶ月稼働することを示す工数単位)を原価管理に活用するには、まず実態に即した人月単価を算出することが出発点です。
- 案件別収益性分析のフレームワーク(受注前〜完了後) — 人月単価が算出できたら、次は案件単位での収益性分析を行います。
- 稼働率管理と収益性の関係 — コンサルティング・IT企業において、稼働率(billable率)は収益性に直結する重要指標です。
- CRMデータを活用した収益性可視化の実践方法 — HubSpotを活用している場合、CRMの商談データと工数・原価データを連携させることで、案件別・顧客別の収益性をリアルタイムで可視化できます。
対象読者: コンサルティング会社・ITサービス会社の経営者、プロジェクトマネージャー、経営管理部門の責任者
コンサルティング・IT業界特有の原価管理課題
一般的なサービス業と比べても、コンサルティング・IT業界には独特の原価管理課題があります。
課題1:案件スコープの変動
コンサルティングやシステム開発では、プロジェクト進行中に要件が変化したり、クライアントからの追加要望が発生したりすることが日常的です。受注時の見積もりよりも実際の工数が膨らみやすく、原価が想定を超えるリスクが常にあります。
課題2:稼働率の波
クライアントの意思決定サイクルや繁忙期・閑散期により、コンサルタントやエンジニアの稼働率が月によって大きく変動します。人件費は固定費として発生し続けるため、稼働率の低い月は固定費が回収できません。
課題3:複数案件の並走
一人のコンサルタントが複数の案件を掛け持ちするケースが多く、どの案件にどれだけの時間を投じたかを正確に記録・管理することが難しいです。
課題4:間接工数の取り扱い
提案活動・社内会議・スキルアップ・マネジメント工数など、特定案件に紐づかない間接工数の扱いが曖昧になりやすいです。これらを原価にどう組み込むかで、案件別収益性の計算結果が大きく変わります。
人月単価の正確な算出方法
人月(1人が1ヶ月稼働することを示す工数単位)を原価管理に活用するには、まず実態に即した人月単価を算出することが出発点です。
基本的な人月単価計算式
人月単価 = 月間人件費合計 ÷ 稼働可能月数
ただし、実務では以下の要素を考慮した「有効人月単価」を使うことが重要です。
| 考慮要素 |
内容 |
計算への影響 |
| 法定福利費 |
社会保険料(会社負担分) |
月給の約14%を加算 |
| 賞与月割り |
年間賞与を12で割った額 |
月額人件費に上乗せ |
| 有給・休暇 |
年間取得日数の月割り |
稼働可能日数から控除 |
| 間接工数率 |
提案・社内業務の割合 |
直接稼働時間を減算 |
具体的な計算例を示します。年収600万円(月給40万円・賞与3ヶ月)のシニアコンサルタントの場合:
| 項目 |
計算 |
金額 |
| 基本給 |
月額 |
400,000円 |
| 賞与月割り(÷12) |
1,200,000÷12 |
100,000円 |
| 法定福利費(×14%) |
500,000×0.14 |
70,000円 |
| 通勤費 |
月額 |
15,000円 |
| 月間人件費合計 |
|
585,000円 |
| 月間稼働可能時間 |
160時間×稼働率80% |
128時間 |
| 時間単価 |
585,000÷128 |
4,570円/時間 |
| 人月単価(160時間換算) |
4,570×160 |
731,200円/人月 |
稼働率80%としているのは、全稼働時間の20%が提案活動・社内業務・スキルアップ等の間接工数と想定しているためです。この間接工数率は自社の実態に合わせて調整してください。
案件別収益性分析のフレームワーク
人月単価が算出できたら、次は案件単位での収益性分析を行います。フェーズは受注前の見積もり段階と完了後の実績分析の2つに分けて設計します。
受注前:見積もり段階での収益性試算
案件を受注する前に、目標粗利率を達成できるかを確認します。
見積売上高 - 見積原価 = 見積粗利
見積粗利 ÷ 見積売上高 = 見積粗利率
見積原価の構成要素:
- 直接人件費:担当者別の見積工数 × 時間単価
- 外注費:パートナー企業・フリーランスへの委託費
- 直接経費:交通費・宿泊費・ライセンス費等
- 間接費配賦:直接人件費の一定割合(例:15〜20%)
| 案件区分 |
推奨目標粗利率 |
補足 |
| 戦略コンサル |
50〜60%以上 |
知識・ノウハウの高付加価値 |
| IT導入支援 |
35〜50%以上 |
技術スキルと工数バランス |
| 運用・保守 |
30〜40%以上 |
継続安定型・スケール効きにくい |
| システム開発 |
25〜40% |
外注活用で粗利率変動大 |
この目標値に対して、受注段階の見積もりが未達の場合は、スコープ調整・価格交渉・リソース計画の見直しを検討します。
完了後:実績原価の検証と差異分析
案件完了後に、見積原価と実際の原価を対比させます。
| 項目 |
見積もり |
実績 |
差異 |
差異率 |
| 売上高 |
2,000,000円 |
2,000,000円 |
0円 |
0% |
| 直接人件費 |
800,000円 |
1,050,000円 |
+250,000円 |
+31% |
| 外注費 |
200,000円 |
200,000円 |
0円 |
0% |
| 直接経費 |
50,000円 |
70,000円 |
+20,000円 |
+40% |
| 間接費配賦 |
150,000円 |
180,000円 |
+30,000円 |
+20% |
| 粗利 |
800,000円 |
500,000円 |
-300,000円 |
— |
| 粗利率 |
40% |
25% |
— |
— |
この差異が発生した原因を分析し、次回の見積もり精度向上と案件受注判断の改善につなげます。
稼働率管理と収益性の関係
コンサルティング・IT企業において、稼働率(billable率)は収益性に直結する重要指標です。
稼働率の計算式:
稼働率(%)= 有償プロジェクトへの投入時間 ÷ 総稼働時間 × 100
稼働率の目安と収益への影響:
| 稼働率 |
評価 |
解説 |
| 80%以上 |
健全 |
固定費を十分回収しながら利益創出できる状態 |
| 70〜80% |
注意 |
間接工数・採用・研修等のバランスを確認 |
| 70%未満 |
危険 |
人件費回収が困難。案件獲得か体制見直しが必要 |
稼働率が低い場合の対策として有効なのは、「稼働率の低い人員に既存顧客の横展開提案を担当させる」という方法です。営業活動と稼働率管理を連動させることで、固定費の無駄な積み上がりを防ぐことができます。
CRMデータを活用した収益性可視化
HubSpotを活用している場合、CRMの商談データと工数・原価データを連携させることで、案件別・顧客別の収益性をリアルタイムで可視化できます。
HubSpotの商談レコードに以下のカスタムプロパティを追加することで、収益管理を一元化できます:
- 見積原価合計
- 実績人件費
- 実績外注費
- 見積粗利率
- 実績粗利率
- 担当者別工数(数値プロパティ)
これらのデータをHubSpotのレポート機能やダッシュボードで可視化すると、担当者別の生産性・顧客別の利益貢献度・案件タイプ別の収益傾向を経営視点で把握できます。
「顧客ごとに見ると、継続案件は粗利率が高く、新規開発案件は低い傾向がある」といった気づきは、CRMの案件データと原価データを組み合わせることで初めて見えてきます。
まとめ
コンサルティング・IT業界の原価管理では、人月単価の正確な算出が起点となる。稼働率80%を加味した有効人月単価を使い、見積もりと実績の双方で原価管理を行う。
押さえておきたいポイントは以下の通りです。
- 受注前の収益性試算と完了後の差異分析を習慣化することで、見積もり精度が向上する
- 稼働率70%以上を維持することが固定費回収と収益確保の目安となる
- 間接工数率(提案・社内業務の比率)を定期的に見直し、人月単価に正確に反映させる
- CRMの商談データと原価データを連携させることで、経営レベルの収益性可視化が実現する
よくある質問
Q. 人月単価は全員一律で計算すべきですか?
職位・スキルレベル・年収によって人月単価は異なります。少なくとも「シニア」「ミドル」「ジュニア」の3段階程度で単価を分けることをお勧めします。全員一律にすると、高スキル人材が低単価案件に投入された場合に見かけ上の収益性が悪化してしまいます。
Q. 提案工数(失注した場合も含む)は原価にどう組み込みますか?
提案工数は受注確定まで特定案件に紐づかないため、間接費として全体に配賦する方法が一般的です。あるいは「提案案件」として別コードで工数記録しておき、受注時に当該案件原価に算入する方法も合理的です。失注した場合の提案コストの把握は、受注率向上のための投資判断に役立ちます。
Q. 継続案件と新規案件で原価管理の方法を分けるべきですか?
分けることをお勧めします。継続案件は過去実績から工数の見通しが立てやすく、原価精度が高まりやすいです。一方、新規案件は初期の学習コストや要件確認コストが高いため、見積もりに余裕を持たせることが重要です。
Q. 小規模なコンサル会社(5名以下)でも原価管理は必要ですか?
むしろ小規模だからこそ、1案件の赤字が経営に与えるダメージが大きいため、原価管理は必須です。まず代表者を含む全員の時間単価を計算し、月次で主要案件の工数実績を確認するだけでも十分なスタートになります。
StartLinkのCRM活用による案件別収益性可視化サポート
StartLinkはHubSpotゴールドパートナーとして、CRMと会計データをつなぐ設計支援を行っています。コンサルティング会社・ITサービス会社向けに、HubSpotの案件パイプラインにメンバー工数や外注費のフィールドを設計し、「Sync for freee」でfreeeの実績データと突き合わせることで、案件別の粗利・利益率を見える化するご提案を行っています。Claude Codeエージェントを使った月次収益性レポートの自動化もご相談可能です。工数管理ツールそのものの開発、原価計算システムの構築、記帳・決算業務の代行は対応範囲外ですが、「CRM側から案件別収益を見えるようにしたい」というご相談はお気軽にどうぞ。
あわせて読みたい