コンポーザブルERPとは何か(Gartnerの定義を中小企業向けに翻訳)。従来型ERPとの設計思想・コスト・導入期間の比較。
「ERPは大がかりすぎるし、かといってExcelとSaaSがバラバラのまま運用するのも限界がある」「自社に必要な機能だけを組み合わせて、段階的に経営基盤を作れないか」——こうした相談を、成長フェーズにある中小企業の経営者からいただくことが増えています。
この問いに対する解が「コンポーザブルERP」という設計思想です。Gartnerが提唱した「コンポーザブル・ビジネス」の概念をベースに、ERPを一枚岩のパッケージとして導入するのではなく、必要な機能だけをSaaSの組み合わせで構築するアプローチです。そしてその中核に据えるべきシステムがCRM(顧客関係管理)です。
この記事では、コンポーザブルERPの設計思想を中小企業の実務に落とし込み、CRMを中核とした具体的な構成パターンと導入ステップを解説します。
本記事は「CRMを起点としたバックオフィス統合の設計思想|フロントとバックをつなぐ事業基盤」シリーズの一部です。
この記事でわかること
- コンポーザブルERPとは何か(Gartnerの定義を中小企業向けに翻訳) — この概念をERPに適用したのがコンポーザブルERPです。この概念をERPに適用したのがコンポーザブルERPです。
- 従来型ERPとの設計思想・コスト・導入期間の比較 — コンポーザブルERPは段階的に構築できるのが最大の強みです。
- CRMを中核に据えるべき3つの構造的理由 — コンポーザブルERPの設計で最も重要な判断は「どのシステムを中核に据えるか」です。
- 企業規模別のSaaS構成パターンと5年間TCO比較 — この領域に関心がある方にはフロントオフィスとバックオフィスの壁を壊すもおすすめです。
- スモールスタートで始める段階的な導入ステップ
対象読者: ERPは大がかりすぎるが、Excel管理も限界を感じている成長フェーズの中小企業経営者・管理部門の方で、必要な機能だけを組み合わせた経営基盤を検討している方に向けた内容です。
コンポーザブルERPとは何か
Gartnerは2020年以降、交換可能なビルディングブロックを組み合わせて変化に適応するビジネスアーキテクチャ——「コンポーザブル・ビジネス」を提唱しています。この概念をERPに適用したのがコンポーザブルERPです。
さらに深掘りしたい方は中小企業にERPは本当に必要か?CRM × SaaS連携で実現するERP不要の経営基盤もあわせてお読みください。
中小企業の文脈に置き換えると、会計はfreee、営業管理はHubSpot、案件管理はboardと、各領域で最適なSaaSを選び、API連携でつないで「自社だけの経営基盤」を組み上げるアプローチです。「全部入りパッケージを買う」のではなく「必要なパーツだけを選んで組み立てる」という考え方です。
従来型ERPとの設計思想の違い
| 比較項目 |
従来型ERP |
コンポーザブルERP |
| 設計思想 |
1つのシステムで全業務をカバー |
必要な機能だけを組み合わせる |
| アーキテクチャ |
一枚岩(モノリシック) |
モジュール型(疎結合) |
| 導入アプローチ |
一括導入(ビッグバン方式) |
段階的(スモールスタート) |
| 初期投資 |
500万〜1億円以上 |
0〜100万円 |
| 稼働までの期間 |
6ヶ月〜2年 |
1〜3ヶ月 |
| ツール入替の柔軟性 |
全体に影響するため困難 |
該当モジュールだけ入れ替え可能 |
| 向いている企業規模 |
従業員300名以上 |
従業員50〜300名 |
従来型ERPが「完成された建売住宅」だとすれば、コンポーザブルERPは「間取りを自分で設計する注文住宅」です。自社に最適な構成を実現でき、不要な機能にコストをかけずに済みます。
ERPが中小企業にオーバースペックになる理由の詳細は、「中小企業にERPは本当に必要か?CRM × SaaS連携で実現するERP不要の経営基盤」で解説しています。
なぜCRMを中核に据えるのか
コンポーザブルERPの設計で最も重要な判断は「どのシステムを中核に据えるか」です。CRMを推奨する理由は3つあります。
実務での応用についてはRevOps(レベニューオペレーションズ)入門で具体例とともに紹介しています。
理由1:企業のすべてのデータは「顧客」に紐づく。 売上は顧客からの受注、原価は顧客案件への外注費、利益は顧客単位の収益性です。顧客を軸にすることで一元管理の「軸」が定まり、部門を横断したデータ活用が可能になります。
理由2:CRMは業務プロセスの「上流」に位置する。 顧客獲得→商談→受注→見積→請求→入金という流れにおいて、CRMは最上流です。上流のデータが正確であれば、下流の自動化が効果的に機能します。
理由3:CRMは連携ハブとして設計されている。 HubSpotのApp Marketplaceには1,700以上のアプリ連携があり、Data Hubのカスタムコードで複雑な連携も実装可能です。
| 中核候補 |
メリット |
デメリット |
| CRM(推奨) |
顧客軸でデータ統合、連携ハブが充実 |
会計・製造は別SaaSが必要 |
| 会計ソフト |
財務データが正確 |
顧客・営業データとの連携が弱い |
| グループウェア |
コミュニケーションの中心になる |
業務データの構造化が弱い |
企業規模別の構成パターンとTCO比較
3つの構成モデル
この領域に関心がある方にはフロントオフィスとバックオフィスの壁を壊すもおすすめです。
| 構成 |
対象 |
構成SaaS |
月額目安 |
カバー領域 |
| ライト |
10〜30名 |
CRM+会計 |
3〜8万円 |
顧客管理、営業管理、会計 |
| スタンダード |
30〜100名 |
CRM+会計+案件管理+契約+通知 |
8〜20万円 |
+見積/受発注、契約管理 |
| アドバンスド |
100〜300名 |
上記+人事労務+BI |
20〜40万円 |
+人事給与、経営分析 |
スタンダード構成の場合、HubSpot CRMで受注確定→boardに案件データ自動作成→クラウドサインで契約書送付→freeeで請求書発行、という一気通貫の業務フローを構築できます。一元管理 × 自動化 × 可視化の3つの価値をバランスよく実現する構成です。月額8〜20万円で、従来は手作業で月20〜30時間かかっていたデータ転記・請求処理・レポート作成の工数を大幅に削減できます。
5年間TCO比較(スタンダード構成 vs 従来型ERP)
| 項目 |
従来型ERP(クラウド) |
コンポーザブルERP |
| 初期導入費用 |
800万円 |
50万円 |
| 年間ライセンス費 |
480万円(月40万円) |
144万円(月12万円) |
| 年間保守・運用費 |
150万円 |
0円(SaaS側で対応) |
| 導入コンサル |
300万円 |
100万円 |
| 5年間TCO合計 |
4,250万円 |
870万円 |
5年間で約3,380万円の差額が出ます。この差額を人材採用や事業投資に回せるのは、中小企業にとって大きなメリットです。ベストオブブリード型の比較については「ベストオブブリードSaaS vs ERP|中小企業の業務基盤はどう選ぶべきか」もご覧ください。
スモールスタートの導入ステップ
コンポーザブルERPは段階的に構築できるのが最大の強みです。
| Phase |
期間 |
対象 |
主なアクション |
追加コスト |
| Phase 1 |
1〜2ヶ月 |
顧客・営業管理 |
CRM導入、Excel移行、パイプライン構築 |
月0〜5万円 |
| Phase 2 |
2〜4ヶ月 |
案件管理・会計連携 |
board/freee導入、CRM連携、請求フロー構築 |
月5〜12万円 |
| Phase 3 |
4〜6ヶ月 |
自動化・可視化 |
ワークフロー自動化、経営ダッシュボード構築 |
月2〜5万円 |
Phase 1では、Excelに散在している顧客データをCRMに一元化します。顧客リストのインポート、営業パイプラインのステージ定義、メール・カレンダー連携の設定を行います。HubSpot CRMは無料プランでも顧客管理とパイプラインの基本機能が使えるため、初期投資ゼロで始められます。Excel脱却の出発点として最も効果を実感しやすいフェーズです。
Phase 2では、案件管理ツール(board等)と会計SaaS(freee等)を導入し、受注から請求・入金までの業務フローをつなげます。iPaaS(Zapier、Make、Yoom等)を活用してCRMとの連携を構築し、手作業のデータ転記をなくします。案件別の粗利がリアルタイムに把握できるようになり、仕組み化された業務フローが生まれます。CRMと会計SaaSの連携設計については「CRM × 会計SaaS連携の設計パターン」で詳しく解説しています。
Phase 3では、ワークフローの自動化(受注通知、入金アラート等)と経営ダッシュボードの構築を行います。売上・粗利・パイプラインをリアルタイムに可視化し、経営会議の準備工数をゼロにできます。一元管理 × 自動化 × 可視化の経営基盤が完成します。
導入時の原則は3つです。各Phaseで効果を検証してから次に進むこと。自社に最適な設計を優先すること。ツールの入替を前提にした疎結合の設計にすること。
HubSpotで実現するコンポーザブルERPの設計思想
コンポーザブルERPの設計思想を実務に落とし込むには、CRMツールの活用が不可欠です。詳しくは「CRM導入の進め方完全ガイド|準備・ツール選定・データ移行・定着化の全ステップ」で解説しています。
HubSpot ゴールドパートナーが開発・提供
HubSpotと会計ソフトの連携には、HubSpotゴールドパートナーのStartLinkが開発する連携アプリが利用できます。freee会計とはSync for freee、マネーフォワード クラウドとはSync for Money Forwardで、取引情報からの見積書・請求書作成や取引先・品目の同期が可能です。主要なクラウド会計ソフトの双方に対応しているため、経理体制に合わせて選択できます。
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まとめ
コンポーザブルERPは、「必要な機能だけを、必要なタイミングで組み合わせる」設計思想です
押さえておきたいポイントは以下の通りです。
- CRMを中核に据え、会計・案件管理・契約管理をAPI/iPaaSで連携させることで、従来型ERPの5年間TCO約4,250万円に対して約870万円で同等の経営基盤を構築できます
- スモールスタートでPhase 1のCRM導入から始め、自社に最適な経営基盤を段階的に設計していくことが、中小企業にとって最もリスクの低い選択です
よくある質問(FAQ)
Q1. コンポーザブルERPとベストオブブリードの違いは何ですか?
ベストオブブリードは「各業務領域で最適なツールを選ぶ」選定方法論です。コンポーザブルERPはそれを基盤としつつ、CRMを中核にしたデータの一元管理と業務フローの自動化まで含めた「経営基盤の設計図」です。単にツールを並べるだけでなく、統合的な経営管理機能をSaaSの組み合わせで再現する点が特徴です。
Q2. 製造管理や在庫管理はカバーできますか?
製造管理(MRP)や高度なロット管理は、コンポーザブルERPでカバーするのが難しい領域です。製造業で生産計画が中核にある企業はERPやMESの検討を推奨します。一方、BtoBサービス業・コンサルティング業・IT企業のように、顧客管理・営業管理・見積/受発注・会計処理が主要業務である企業には十分に適用できます。
Q3. SaaS連携が複雑になりすぎませんか?
CRMを中核(ハブ)に据えてすべてのデータがCRMを経由する設計にすること、各データ項目の「マスター」をどのSaaSに持たせるか定義すること、連携フローを文書化して定期的に棚卸しすること——この3点を守れば、6〜10ツール程度は十分に管理可能です。
Q4. 将来的に従来型ERPへ移行できますか?
可能です。CRMに蓄積したデータはERPへの移行がスムーズに行えますし、コンポーザブルERPの運用で得た業務データとノウハウはERP導入時の要件定義にも活かせます。事業成長に応じて移行を検討する選択肢は常に開かれています。
Q5. 自社にどの構成パターンが合うか判断するには?
社員10〜30名・月間取引100件以下ならライト構成、30〜100名・月間数百件ならスタンダード構成、100〜300名ならアドバンスド構成が目安です。迷う場合は、まずライト構成(CRM+会計SaaS)から始めて、業務の拡大に合わせて段階的にSaaSを追加するスモールスタートが最もリスクの低い選択です。