粗利率を改善する経営判断|利益が残る事業構造へ転換する5つの打ち手

この記事の結論

売上が伸びても利益が残らないときは、顧客やサービスごとに売上と原価を対応づけ、差が生じている取引から調べます。

ブログ目次

記事の内容を、そのまま実務に落とし込みたい方向け

HubSpotゴールドパートナーのStartLinkが、HubSpot導入・AI活用・CRM整備・業務効率化までをまとめて支援しています。記事で気になったテーマを、そのまま相談ベースで整理できます。


売上が伸びても利益が残らないときは、顧客やサービスごとに売上と原価を対応づけ、差が生じている取引から調べます。

粗利率が低いという結果だけでは、価格を変えるべきか、提供範囲を整えるべきかは決まりません。契約外の作業が増えた案件と、当初から原価を小さく見積もっていた案件では、取るべき対応が異なります。

まず売上原価の定義と集計期間をそろえ、調査する案件を選びます。次に見積もり、契約範囲、作業記録、確定した原価を照合します。差の理由が分かったら、価格、顧客への対応、提供範囲、原価管理、付加価値のうち、どこを見直すか決めます。この記事では、判断の分かれ目と実施後の確認方法までを順に解説します。

本記事は「中小企業の経営課題ランキング|成長企業が優先的に解決する5つの論点」シリーズの一部です。

本記事はStartLinkの「経営管理DX完全ガイド」関連記事です。


この記事でわかること

粗利率を改善するには、低い数字を見つけるだけでなく、その数字を比較できるか、どの案件の何が変わったかを確かめる必要があります。この記事では、集計から打ち手の選択、結果の見直しまでに使う判断材料を整理します。

  • 粗利率の計算式と業種別の目安の読み方 — 売上原価の範囲と集計期間をそろえ、外部資料を比較に使える条件と、使えない場合の調べ方を確認します。
  • 粗利率が低い4つの構造的原因 — 見積もり、契約範囲、実際の作業、原価記録を照合し、価格・顧客構成・提供範囲・原価管理のどこを調べるか決めます。
  • 粗利率を改善する5つの経営判断 — 原因に応じて価格、顧客への対応、提供範囲、原価管理、付加価値を見直し、次の契約や見積もりに反映します。
  • 営業プロセスへの組み込み方と改善のロードマップ — 提案前に確認する情報、施策へ進む条件、実施後に判断を見直す条件を示します。

顧客・案件ごとの売上と原価を対応づけられるなら、粗利率に差がある案件から調べます。対応づけられないなら、価格の判断より先に記録方法を整えます。


粗利率とは何か——経営者が押さえる基本と読み方

粗利率は、売上から売上原価を差し引いた粗利が、売上に占める割合です。計算に含める費用と集計期間が違えば、同じ「粗利率」でも比較できません。この節では比較条件をそろえ、調査する顧客・サービス・案件を選びます。

粗利率の計算式

粗利率は次の式で求めます。

粗利率 = (売上高 − 売上原価)÷ 売上高 × 100

計算前に、売上原価に含める費用を決めます。材料費、仕入原価、人件費、外注費などのうち、対象の売上に対応する費用をどう扱うかを確認してください。

案件担当者の人件費を売上原価に含めた集計と、販管費として扱った集計をそのまま比べても、改善の有無は判断できません。管理上の原価の定義、集計期間、顧客・案件への割り当て方を記録します。会計上の分類と管理用の集計が異なる場合は、両者を区別してください。売上と原価を同じ案件に対応づけられない場合は、案件別の比較を保留し、対応関係を確認します。

業種別の粗利率の目安

業種別の率を目安にする前に、資料の出典、対象事業、原価の範囲、集計期間を確認します。業種名が同じでも、提供内容や原価の定義が違えば、その率を自社の目標に採用できません。

次の表は、外部資料を読む際に費用の対象範囲、集計期間、率の分母を確認するためのものです。自社の集計と条件がそろわない項目は、他社との率の比較を保留してください。

業種 比較前に確認する原価の範囲 比較時の確認点
SaaS / ソフトウェア 開発・提供・顧客対応に関わる費用の扱い 提供内容と原価に含める費用が自社と対応しているか
コンサルティング 案件に関わる人件費・外注費の扱い 担当者の工数をどの単位で原価に含めているか
卸売業 仕入原価と取引に付随する費用の扱い 対象商品と費用の範囲が対応しているか
製造業 材料費・加工費などの扱い 製品構成と原価の配分方法を確認できるか
建設業 外注費・資材費などの扱い 対象工事と費用を同じ単位で集計しているか

外部資料の条件をそろえられない場合は、自社内で同じ定義による推移と、顧客別・サービス別の差を見ます。差が見つかったら、率そのものを目標にする前に、案件の見積もりと実績を照合してください。

自社の粗利率をどう読むか

全社の粗利率を確認したら、顧客別・サービス別に分解します。外部資料と比べるのは、出典と計算条件を確認できる場合に限ります。次の表では、比較できる場合とできない場合の進み方を分けています。

見るもの 結果 次にやること
全社の粗利率を同業と比べる 比較条件をそろえた資料の水準を下回る 価格設定と原価の見え方(原因1・原因4)を調査対象にする
全社の粗利率を同業と比べる 比較条件がそろわない、または差が小さい 外部の率で判断せず、顧客別・サービス別のばらつき(原因2・原因3)を見る
顧客別・サービス別に分解する 一部の顧客・サービスに低い数字が集中 対象案件の粗利額と提供内容を確認し、判断2・判断3を検討する
顧客別・サービス別に分解できない データが無い・つながっていない 判断4(原価の可視化)を先に進める

比較結果だけでは差の原因は分かりません。差がある顧客・サービスの案件を選び、見積もり、契約範囲、実際の作業、実績原価を照らし合わせます。契約範囲外の作業や原価の計上漏れがないか確認し、どこで差が生じたかを調べます。差を説明できない場合は、価格や顧客構成を変える前に、原価の定義と案件への紐づけを確認します。


粗利率が低い4つの構造的原因

調査対象を選んだら、見積もりから提供後までの記録をたどります。この節では、価格の根拠、顧客ごとの取引内容、契約外の作業、原価の記録を確認します。複数の原因が重なる場合は、それぞれを案件の記録で確かめ、先に対処する差を選びます。

原因1:価格設定が原価ベースになっている

原価にマージンを加える価格設定は、見積もりの根拠を示す方法の一つです。ただし、その計算だけでは、顧客が提供内容のどこを評価しているかは分かりません。原価ベースの設定というだけで、粗利率が低くなるわけでもありません。

見積書と提案内容を照合し、価格の根拠が原価と掛け率だけになっていないかを調べます。顧客の代替手段と、自社の提供によって変わる業務を説明できるなら、判断1で価格の付け方を検討します。説明できなければ、先に判断5で提供価値を整理します。

原因2:顧客ミックスが最適化されていない

売上が大きい顧客でも、値引きや個別対応によって、粗利額と粗利率の見え方は変わります。顧客別の売上高、粗利額、粗利率を、同じ期間と原価の定義で並べてください。

売上が大きく粗利率が低い顧客が見つかったら、案件ごとに値引きの理由、契約範囲、追加作業を調べます。粗利額、継続する理由、提供方法を変えられるかも確認してから、判断2の対象にします。率だけで取引の優先度は決めません。

原因3:サービス範囲が拡大しすぎている

契約時に想定していなかった作業を、提供条件の見直しなしに引き受けると、実際の原価が見積もりと異なる場合があります。こうした範囲の拡大は「スコープクリープ」と呼ばれます。

当初の提案範囲、追加依頼、対応した作業を時系列で比べます。差が確認できれば、判断3で追加時の手続きと提供条件を明文化します。記録がなければ、まず依頼内容と対応を案件ごとに残し、契約範囲との違いを確認できるようにします。

原因4:原価の可視化ができていない

工数や外注費が案件に紐づいていなければ、受注前の見込粗利と提供後の実績粗利を比べられません。この状態では、価格や作業範囲を原因と断定できません。

最初に、案件間の差を説明するうえで必要な費用を選びます。工数が重要なら案件別の作業記録、外注費が重要なら発注と請求の対応関係を整えます。記録がそろった案件から見積もり時の前提と実績を比べ、説明できない差が残れば、記録の単位や費用の割り当て方を見直します。

原因を絞る際に確認する記録は、次のとおりです。兆候だけで原因を決めず、右列のデータで確かめます。

原因 現場で出やすい兆候 次に集めるデータ
価格設定が原価ベース 見積もりの根拠が掛け率だけ 商材ごとの価格根拠と値引き履歴
顧客ミックス 大口顧客ほど忙しいのに利益が薄い 顧客別の売上と粗利
サービス範囲の拡大 契約外の作業依頼が常態化している 案件ごとの当初範囲と追加作業
原価の可視化不足 案件の終了後まで赤字に気づかない 案件ごとの工数・外注費

原価を案件に紐づけられない場合は、判断4の記録方法を先に整えます。紐づけられる場合は、見積もり、契約、実績のどこで差が生じたかを確認し、対応する経営判断へ進みます。


粗利率をスプレッドシートで追う限界——一元管理で見えるもの

顧客別・案件別に粗利率を見るには、売上、見積もり、工数、外注費が同じ取引を指している必要があります。この節では、既存の表で集計を続けられる条件と、記録の紐づけを整えるべき条件を確認します。集計方法を変える前に、対応が取れない情報を特定します。

顧客別の粗利率が見えなくなる理由

営業の案件一覧、経理の請求一覧、現場の工数記録で顧客名や案件名の書き方が違うと、同じ取引かどうかを都度確認する必要があります。請求が複数案件にまたがる場合は、どの金額をどの案件に割り当てるかも決めなければなりません。

まず各記録に共通する顧客と案件の識別情報があるかを確認します。対応づけられるなら、既存の表で対象案件を集計できます。対応づけられないなら、案件の登録方法と、請求・工数を紐づける基準をそろえます。割り当てを判断できない費用は、推測して案件の粗利に含めず、確認が必要なものとして残します。

コンタクトから請求までを1本につなぐ

CRM上の会社と取引を軸に、担当者、契約範囲、請求に関する記録の対応を明確にすると、同じ顧客の案件を追いやすくなります。必要なのは、各記録がどの取引に属するかを判断できる状態です。

粗利率の確認に使う情報を整理すると、次のようになります。

フロー上の段階 主に持つデータ 粗利率との関係
コンタクト・会社 業種・規模・担当者 顧客セグメント別の粗利率を出す切り口
取引(案件) 金額・ステージ・見込原価 受注前に粗利率を見積もる場所
顧客 契約範囲・継続状況 スコープクリープの有無を追う場所
請求 請求金額・実績原価 実際の粗利率を確定させる場所

表の「段階」は情報を確認する順序です。各情報を実際にどこで記録し、誰が更新するかは、自社の運用に合わせて決めます。顧客別・サービス別に集計するなら、取引と請求・原価の対応を確認してから集計方法を設計します。対応が取れない記録は、扱いを決めるまで案件別の比較に含めません。

CRMと会計の役割分担

見積もり時点の原価と、会計で確定した原価を同じ数字として扱うと、差が出た理由を追えなくなります。CRMには案件と見込値の対応を記録し、確定値と会計上の分類は会計側で確認します。

本記事では、次のように役割を分けます。

  • 会計システム:確定した売上と原価、会計上の分類、決算上の粗利率
  • CRM:案件と顧客の紐づけ、受注前の見込原価、見積もり判断に使う情報

見込値と確定値を比べるときは、対象案件と対象期間をそろえます。差があれば、想定工数、追加作業、外注費など、見積もり時の前提を確認します。差の理由を説明して次の見積もりに反映できたら、集計する案件を広げます。


価格と顧客を見直して粗利率を改善する経営判断

原因を確かめたら、顧客に説明できる価格と、顧客ごとの対応を検討します。この節では、価格改定へ進める条件、優先して調べる顧客の選び方、契約更新までに残す記録を整理します。取引の判断には、粗利率に加えて粗利額と提供内容を使います。

判断1:価格戦略の見直し——バリューベース・プライシングへの転換

バリューベース・プライシングを検討する際は、顧客が提供内容のどこを評価しているか説明できる商材から始めます。価値を確認しないまま価格を変えると、改定理由を顧客に伝えられません。

バリューベース・プライシングの3ステップ:

  1. 顧客が現在使っている方法や、利用しなかった場合の代替手段を確認する
  2. 自社の提供内容によって変わる業務や成果を、顧客と確かめる
  3. 提供範囲と価格を対応づけ、顧客に説明できる改定案をつくる

顧客が評価する内容と契約範囲が明確なら、価格改定を検討できます。価値を説明できない場合は、先に判断5で提供内容を整理します。契約外の作業が差の主因なら、判断3で範囲を整えてから価格を検討します。

判断2:顧客ポートフォリオの最適化

顧客別の売上と粗利率を並べると、詳しく調べる対象を選べます。分類には、同じ期間・同じ原価定義で計算した数字を使ってください。粗利額も併せて確認し、率だけで対応を決めないようにします。

粗利率 高 粗利率 低
売上 大 維持・拡大 価格改定 or サービス範囲見直し
売上 小 拡大余地の検討 撤退 or 自動化

この表は検討対象を探すためのものです。「売上 大 × 粗利率 低」の顧客は、粗利額、追加作業、契約更新時期を確認します。「売上 小 × 粗利率 低」の顧客も、提供方法を変えられるか、紹介など別の役割があるかを調べます。表の区分だけで価格改定や取引終了を決めず、案件の記録から原因を確かめます。

判断1と判断2をどの順番で進めるか

粗利率が低い顧客について、まず当初の契約範囲と実際の作業を比べます。差があれば判断3で範囲を明文化します。差がなければ、見積もりの原価と価格の根拠を確認し、判断1を検討します。範囲と価格を見直しても提供を続ける条件が整わない場合に、提供方法や取引継続を検討します。

顧客の状況 先に取る打ち手 次の契約更新までに記録すること
契約外の作業が多い サービス範囲の明文化(判断3) 追加作業の内容と頻度
契約範囲は妥当だが価格が低い 価値の説明を添えた価格改定(判断1) 顧客側で生まれている効果
範囲も価格も見直しに応じない 自動化か撤退の検討 対応工数と粗利の推移

契約更新までに必要な記録がそろわなければ、不足する情報と確認する担当者を決めます。記録がそろったら、粗利率、粗利額、顧客との関係を確認し、顧客ごとに次の対応を選びます。


事業の中身を見直して粗利率を改善する経営判断

価格と顧客構成に加え、「何を、どこまで、どの体制で提供するか」を見直します。この節では、契約外の作業の扱い、見積もりと実績の差の調べ方、顧客が評価する内容の整理方法を扱います。提供範囲を変える場合は、顧客が必要とする工程も確認します。

判断3:サービス範囲の絞り込み

サービスごとに、契約した範囲、実際に提供した作業、顧客が評価している内容を並べます。追加依頼が重なっている作業は、引き受ける条件と、追加時に確認する担当者を明確にします。

判断の分かれ目は、その作業が顧客に必要か、自社で提供する理由があるか、契約上の対価に含まれているかです。必要だが契約外なら、範囲と価格を協議します。自社で担う理由が薄いなら、提供方法やメニューを見直します。変更後は顧客の反応と実際の作業を確認し、想定と違えば提供条件を再検討します。

判断4:原価の可視化と管理体制の構築

原価の記録は、見積もりと実績の差を説明するために必要な単位から始めます。案件別に比較する際は、次の情報を確認します。

  • 人件費:案件に使った工数と、管理上の原価計算に使う基準
  • 外注費:案件ごとの発注内容と請求額の対応
  • 間接費:会計側で決めた配賦方法と、管理上の集計への反映方法

最初に記録する費用は、案件間の差や見積もりとのずれを説明するうえで重要なものから選びます。見積もり時の前提と実績を比較し、差の理由を説明できるか確認します。説明できない差が残る場合は、項目を増やす前に、入力の抜け、費用を計上した時期、案件への割り当て方を見直します。

判断5:付加価値の向上——「値引きで売る」から「価値で選ばれる」への転換

顧客が何を評価しているか説明できなければ、価格改定の根拠も示しにくくなります。失注理由、継続顧客の声、追加で依頼された内容を確認し、提供価値を整理します。

検討する方法には、次のようなものがあります。

  • 標準サービスにコンサルティング要素を付加する
  • 成果報酬型やサブスクリプション型の料金体系に移行する
  • データ分析やレポーティングなどの知的サービスを上乗せする

どの方法も、顧客の要望と自社が継続して提供できる範囲を確認してから選びます。相談への対応が評価されているなら支援範囲を明確にし、成果の説明を求められているなら報告内容を検討します。提供内容、必要な原価、顧客に説明する価値がそろってから価格に反映します。


粗利率の判断を営業プロセスに組み込む仕組み

方針を決めたら、次の見積もりで同じ原因を見逃さないよう、確認する情報と担当者を決めます。この節では、提案前の見込原価と範囲、改定後の失注理由、担当者間で共有する入力基準を扱います。入力項目は、価格や提供範囲の判断に使うものから選びます。

見積もり提示のステージで見込原価を入力項目にする

見積もり提示前に確認したいのは、提案金額、見込原価、提案範囲です。見込原価を算出できない場合は、価格を確定する前に想定工数や外注の前提を確認します。

HubSpotのパイプラインで取引ステージに応じた入力項目を設定する場合は、利用する環境で設定できる対象と方法をHubSpotの公式ヘルプで確認してください。

たとえば「見積もり提示」へ進む際に、見込原価と提案範囲を確認する運用です。入力された数字だけで判断せず、想定工数の根拠や契約外の作業を誰が確認するかも決めます。根拠がそろわない案件は、不足する前提を確認してから提示します。

失注理由に「価格」を残して価格戦略を検証する

価格を改定したら、失注理由を同じ基準で記録し、改定前後の案件を比べます。商材、顧客層、提案範囲が異なる案件をまとめて、価格改定の結果と判断しないようにします。

以下の画面は、HubSpotのレポートで失注理由を案件別に集計したドーナツチャートの例です。この節では、集計結果から確認する案件を選び、顧客が比較した内容と提案時の説明に戻って、価格が理由とされた背景を調べます。

HubSpotレポート「失注分析(案件別の分析)- グラフ」のドーナツチャート

価格を理由とする失注が見られたら、改定額だけでなく、顧客が比較した代替手段、提案した価値、説明できなかった点を確認します。価格が理由として挙がらない場合も、受注後の粗利が想定どおりかを見てから、改定対象を広げるか決めます。再提案するなら、見直した価値と提供範囲を説明できる状態にしておきます。

新人でも粗利率を意識した提案ができる状態をつくる

入力項目は、担当者に「何を確認してから見積もるか」を伝える役割を持ちます。項目名だけでなく、見込原価に含める費用、提案範囲の書き方、確認が必要な状態を共有します。

HubSpotで入力項目を設ける場合は、プロパティの設定方法をHubSpotの公式ヘルプで確認してください。

項目を追加する前に、その値を誰がどの判断に使うかを決めます。見込原価・提案範囲・失注理由を記録しても判断に使われないなら、入力方法や会議での確認手順を見直します。担当者が変わっても、同じ案件情報から見積もりの根拠を説明できることを、運用を広げる条件にします。


粗利率改善のロードマップ

集計、原因分析、実施、結果確認の順に進めます。各段階にかかる期間を先に決めるより、対象案件の記録がそろい、次の判断に必要な説明ができるかを確認します。次の表は、取り組みと、進行を判断する条件を示します。

フェーズ 次へ進む条件 取り組み 確認する結果
Phase 1 対象案件の売上と原価を同じ定義で対応づけられる 顧客別・サービス別の粗利率を算出 調査対象を選べるか
Phase 2 見積もり、契約範囲、作業、実績原価の差を説明できる 低粗利率の原因分析と価格改定計画 原因に合う方針を選べるか
Phase 3 顧客への説明と実施後の確認方法が決まっている 価格改定の実施、サービス範囲の調整 顧客の反応と実績粗利を確認できるか
Phase 4 見込値と確定値を同じ案件で継続して照合できる 定例での粗利率モニタリング 差の理由を次の見積もりに反映できるか

Phase 1:顧客別・サービス別の粗利率を算出する

主要顧客や主力サービスを選び、請求、工数、外注費の記録を案件に対応づけます。原価の定義が異なる数字を無理に比べず、集計できない案件については不足する記録を明らかにします。

次へ進む条件は、対象顧客の売上と粗利を同じ定義で計算し、判断2の表で調査対象を選べることです。原価を案件に紐づけられない場合は、判断4の記録方法を整えてから原因分析に進みます。

Phase 2〜3:原因分析から価格改定・範囲調整へ

Phase 2では、調査対象の顧客やサービスについて、見積もりの根拠、契約範囲、実際の作業、原価記録を確認します。価格の説明が不足しているのか、作業範囲が広がったのか、原価の見積もりが実績と違ったのかを分けます。

Phase 3へ進む条件は、対象顧客ごとに取る判断、顧客へ説明する内容、契約更新時の対応が決まっていることです。根拠がそろわなければ不足する記録を集めます。実施後は顧客の反応と実績粗利を確認し、次の案件に同じ判断を適用するか決めます。

Phase 4:月次で粗利率をモニタリングする

見直し後も、会計の確定値と案件ごとの見込値を同じ対象で比べます。差が出た案件は、見積もり時の前提、追加作業、外注費を確認します。差の理由を説明できれば次の見積もりに反映し、できなければ記録の抜けや案件への紐づけを調べます。確認の頻度は、確定値を利用できる時期と、次の見積もりに間に合うかを踏まえて決めてください。

以下の画面は、HubSpotのレポートで商談をクローズ日別に集計し、色分けして表示したテーブルの例です。この節では、表示された案件から確認対象を選び、案件の見込値と会計の確定値を照合する順序を示します。

HubSpotレポート「クローズ日別 商談分析(色分け)」のテーブル

取引に見込原価や見込粗利率を記録する場合も、画面上の推移だけで改善を判断しません。会計の確定値と照らし合わせ、見積もりと実績の差が説明できる状態を維持します。


粗利率改善で陥りやすい落とし穴

数字を比較できる状態になっても、施策の選び方によっては、顧客が評価する作業を削ったり、率だけで顧客を選別したりするおそれがあります。この節では、実施前に確認する材料と、実施後に判断を見直す条件を整理します。

原価だけを削って価値まで削ってしまう

作業を減らす前に、その工程を顧客がどう評価しているかを確認します。

  • 重複した作業や、提供価値との関係を説明できない作業 ── 見直しを検討します
  • 品質や継続利用の理由になっている工程 ── 削減の前に提供範囲と価格の対応を考えます

実施後は原価に加え、顧客からの反応と契約の継続状況を確認します。想定と異なる反応が出たら、変更した工程と顧客への影響を調べ、提供条件を見直します。

データ項目を増やしすぎて入力が止まる

項目を追加するときは、「誰が入力し、誰がどの判断に使うか」を決めます。入力されない項目や、会議で参照されない項目を増やしても、見積もりと実績の差は説明できません。

まず見込原価と提案範囲など、判断に直結する情報から運用します。記録が続き、実際の判断に使えることを確認してから、足りない項目を追加します。

粗利率だけで顧客を判断してしまう

粗利率が低い顧客でも、粗利額、紹介実績、今後の取引内容によって判断は変わります。判断2の「撤退」を検討する場合も、契約範囲を調整できるか、提供方法を変えられるかを先に確認します。

数字以外の判断材料は、担当者だけが知っている状態にせず、顧客の記録とともに残します。契約更新時に同じ材料を確認できることが、判断を引き継ぐ条件です。


よくある質問

Q1. 粗利率の改善目標はどの程度に設定すべきですか?

まず現在の粗利率を同じ原価定義で計算し、顧客別・サービス別の差を確認します。同業の公開資料を参照するなら、出典、事業内容、原価の定義、集計期間が比較できるかを確かめてください。条件がそろわなければ、外部の率を目標に採用せず、自社の案件で価格、範囲、原価のどれを見直せるか決めます。実施する判断に対応した目標を置き、同じ定義で結果を確認します。必要なデータがそろわない場合は、まず集計できる状態を目標にします。

Q2. 既存顧客に対して値上げを実施する際のリスクはどう管理すべきですか?

顧客ごとに、現在の契約範囲、実際に提供している内容、改定理由を確認します。追加作業が原因なら、先に範囲の明文化を検討します。価格を改定する場合は、契約更新時の説明内容を準備し、顧客の反応、失注・解約理由、改定後の実績粗利を記録します。想定と異なる反応が出たら、価値の説明、提供範囲、価格設定のどこを見直すか判断します。

Q3. 原価の可視化は会計ソフトだけで実現できますか?

会計で確定した費用の把握と、受注前に案件の原価を見積もることは、必要になる時点が異なります。まず現在の記録で工数や外注費を案件に対応づけられるか確認します。対応づけられるなら、見込値と確定値を同じ案件・期間で比較します。対応づけられない情報があれば、記録方法を決めてから案件別の判断に使います。CRMを使う場合は見込値と案件の紐づけを担わせ、確定値は会計側で確認します。

Q4. 粗利率改善と、原価を切り詰める取り組みの違いは何ですか?

原価の見直しは、粗利率改善の打ち手の一つです。粗利率を経営判断に使う場合は、原価に加えて価格、顧客構成、提供範囲も確認します。契約外の作業が原因なら、顧客に必要な作業まで削る前に、範囲と対価を協議します。顧客が評価する工程を残せているか、見直し後の粗利が想定どおりかを確かめながら進めます。


まとめ

  • 粗利率を比較する前に、売上原価の定義、対象期間、顧客・案件の単位をそろえます
  • 数字に差がある対象を特定したら、価格、顧客構成、サービス範囲、原価の記録を案件ごとに確認します
  • 原因に応じて、価格戦略、顧客への対応、提供範囲、原価管理、付加価値の見直しを選びます
  • 見積もり時の前提と提供後の実績を比べ、差の理由を次の判断に反映します

着手するときは、次の順序で進めてください。

  1. 主要顧客と主力サービスを選び、同じ定義で売上と原価を集計する
  2. 売上、粗利額、粗利率を並べ、調査する対象の見積もり、契約範囲、実際の作業を確認する
  3. 原因に合う打ち手を選び、契約更新や次の見積もりで実施する条件と、実施後に確かめる項目を決める

集計できない場合は原価の記録から、原因を説明できない場合は案件の確認から進めます。企業様によって最適な形は異なります。まずは調査対象の案件で見積もりと実績を対応づけ、差の理由を説明できるようにします。その結果を価格や提供範囲の判断に使えたら、対象の顧客やサービスを広げてください。

StartLinkでは、HubSpotのCRMデータと会計データを連携させた顧客別収益分析の仕組みづくりや、営業プロセスの可視化を通じて、利益が残る事業構造への転換を支援しています。

CRMを活用した業務効率化やAIとの連携に関するご相談は、StartLinkまでお気軽にお問い合わせください。


あわせて読みたい

粗利率の見直しと併せて、経営課題の優先順位、予算の立て方、コストを見直す際の判断材料、意思決定の進め方を確認したい方は、次の記事もご覧ください。


株式会社StartLinkは、事業推進に関わる「販売促進」「DXによる業務効率化(ERP/CRM/SFA/MAの導入)」などのご相談を受け付けております。 サービスのプランについてのご相談/お見積もり依頼や、ノウハウのお問い合わせについては、無料のお問い合わせページより、お気軽にご連絡くださいませ。

関連キーワード:

サービス資料を無料DL

著者情報

7-1

今枝 拓海 / Takumi Imaeda

株式会社StartLink 代表取締役。累計150社以上のHubSpotプロジェクト支援実績を持ち、Claude CodeやHubSpotを軸にしたAI活用支援・経営基盤AXのコンサルティング事業を展開。
HubSpotのトップパートナー企業や大手人材グループにて、エンタープライズCRM戦略策定・AI戦略ディレクションを経験した後、StartLinkを創業。現在はCRM×AIエージェントによる経営管理支援を専門とする。