「AI CRMを検討しているが、SalesforceのAgentforceとHubSpotのBreeze、どちらを選ぶべきかわからない」「機能比較表を見ても、本質的な違いが見えてこない」「自社の規模や事業フェーズに合ったAI CRMはどちらなのか」
AI CRMの選定は、単なるツール選びではない。それは自社の営業・マーケティング・カスタマーサクセスの設計思想を選ぶことに等しい。SalesforceのAgentforceとHubSpotのBreezeは、いずれもAIエージェントをCRM上で活用する機能を提供しているが、その設計思想は根本的に異なる。
本記事では、スペック比較ではなく設計思想の違いに焦点を当て、両者のアプローチの本質的な差異を解き明かす。そして、企業規模・組織構造・事業フェーズに応じた選び方の判断フレームワークを提示する。
Agentforceは、Salesforceが提唱する「Agentic Enterprise(エージェンティック企業)」構想の中核を担うAIエージェントプラットフォームである。Salesforceは「企業における労働力の不足をAIエージェントで補完する」というビジョンを掲げ、CRM上で自律的に動作するAIエージェントの構築・運用基盤を提供している。
Agentforceの特徴は以下の通りである。
Agentforceの設計哲学は、「高度にカスタマイズ可能な開発プラットフォーム」である。Salesforceは、企業がAIエージェントを自社の業務プロセスに合わせて自由に構築・カスタマイズできる環境を目指している。これは、Salesforce自体が長年にわたりエンタープライズ向けのカスタマイズ性を強みとしてきた延長線上にある。
この思想は、以下のような企業にフィットする。
Breezeは、HubSpotが提供するAIネイティブなCRM体験の総称である。HubSpotは「AIを特別な機能として切り出す」のではなく、CRMプラットフォーム全体にAIを統合し、ユーザーが意識せずにAIの恩恵を受けられる設計を目指している。
Breezeの構成要素は以下の通りである。
Breezeの設計哲学は、「統合プラットフォーム上でのシームレスなAI体験」である。HubSpotは、MA(Marketing Hub)・SFA(Sales Hub)・CS(Service Hub)・CMS(Content Hub)・Ops(Operations Hub)がすべて同一データベース上で動作する統合プラットフォームであり、Breezeはそのプラットフォームのあらゆる場所に組み込まれている。
この思想が意味するのは、以下のような体験である。
| 比較軸 | Agentforce(Salesforce) | Breeze(HubSpot) |
|---|---|---|
| プラットフォーム構造 | 製品群の集合体(Sales Cloud / Service Cloud / Marketing Cloud等が独立) | 単一データベース上の統合プラットフォーム(全Hubが同一基盤) |
| AIの位置づけ | 開発プラットフォーム(エージェントを自社構築する) | ネイティブ統合(プラットフォーム全体にAIが組み込まれている) |
| カスタマイズ性 | 極めて高い。Agent Builder、Apex、Flowで自由に構築可能 | 中程度。標準エージェント4種+ワークフローAI+カスタムLLM連携 |
| 導入・運用の複雑さ | 高い。専任管理者・開発者が必要。導入プロジェクトは数ヶ月単位 | 低い。標準機能として即利用可能。段階的な拡張が容易 |
| データ基盤 | Data Cloud(大量データの統合・分析に強み) | 単一CRMデータベース(部門横断の統合に強み) |
| コスト構造 | 高額。ライセンス費+Data Cloud費+開発費+SI費 | 段階的。CRM無料から開始可能。AI機能は上位プランに含まれる |
| ターゲット企業規模 | 大企業・エンタープライズ中心 | 中小企業〜中堅企業中心(大企業にも対応) |
この違いは最も本質的であり、AI機能の使い勝手に大きく影響する。Salesforceは歴史的に、Sales Cloud、Service Cloud、Marketing Cloud(旧ExactTarget / Pardot)など、M&Aで取得した製品群を統合して成長してきたプラットフォームである。そのため、製品間のデータ連携には設定や開発が必要な場合がある。
一方、HubSpotは最初から単一のデータベース上にすべてのHubを構築している。マーケティングで獲得したリードの行動データを営業がそのまま参照でき、受注後のカスタマーサクセスも同一の顧客レコード上で管理される。この統合性は、AIがデータを参照する際の精度と一貫性に直結する。
Agentforceは「AIエージェントを構築するための開発プラットフォーム」であり、企業が自社の業務に特化したエージェントをゼロから設計・構築する自由度がある。一方、BreezeはCRMプラットフォーム全体にAIが組み込まれた「AIネイティブ体験」であり、ユーザーは専門知識なしに標準機能としてAIを活用できる。
この違いを喩えるなら、Agentforceは「自分でロボットを設計・組み立てるキット」、Breezeは「AIが最初から組み込まれた完成品」である。前者はカスタマイズの自由度が高いが専門知識が必要であり、後者は即座に使えるが自由度には制約がある。
Salesforceのライセンス費用は、Enterprise版で年間数百万円〜数千万円規模になることが一般的であり、さらにAgentforce利用には追加のData Cloud契約が必要となる。加えて、カスタムエージェントの構築にはSI(システムインテグレーター)への開発委託が発生するケースが多い。
HubSpotは、CRMの基本機能が無料で利用でき、AI機能を含むProfessionalプランでも年間数十万円〜百万円台でスタートできる。BreezeのAIエージェントは標準機能として提供されるため、追加の開発費用が発生しにくい。
| 判断基準 | Agentforceを推奨 | Breezeを推奨 |
|---|---|---|
| 企業規模 | 500名以上、複数事業部 | 10〜500名、単一〜少数事業部 |
| IT体制 | 専任CRM管理者・開発者がいる | 兼務運用、IT専任者が少ない |
| カスタマイズ要件 | 業界固有の複雑な業務フロー | 標準的なBtoB営業・マーケプロセス |
| 予算 | 年間数千万円以上のIT投資が可能 | 段階的な投資で始めたい |
スペックや価格だけでなく、自社の組織がAI CRMを使いこなせるかどうかが最も重要な判断基準である。どれだけ高機能なAI CRMを導入しても、データが入っていなければAIは機能しない。ワークフローが設計されていなければ自動化は動かない。運用体制がなければ定着しない。
Salesforceの高度な機能を活用するには、それに見合った組織の成熟度が必要である。一方、HubSpotは低い成熟度からでも始められ、組織の成長に合わせて段階的に活用レベルを上げていける設計になっている。
AgentforceとBreezeの違いは、単なる機能差ではなく設計思想の違いである。Agentforceは「高度にカスタマイズ可能なAIエージェント開発プラットフォーム」であり、Breezeは「統合プラットフォーム上のAIネイティブ体験」である。
重要なのは、どちらが「優れている」かではなく、自社の事業規模・組織の成熟度・IT体制・予算に合ったプラットフォームを選ぶことである。特に中小企業〜中堅企業にとっては、低い初期投資で始められ、統合プラットフォームの恩恵を受けられるHubSpot Breezeが現実的な選択肢となることが多い。
技術的には併用可能ですが、データの一元管理という観点からは推奨されません。CRMは1つのプラットフォームに統一し、必要に応じて他ツールとAPI/iPaaSで連携する設計が望ましいです。
HubSpotはEnterprise版で大企業の要件にも対応できる機能を拡充しています。安易な移行よりも、まずHubSpotのEnterprise機能で対応できるかを検討することを推奨します。
Operations HubのカスタムコードアクションとカスタムLLM連携(OpenAI / Gemini / Claude)を活用することで、標準4種のエージェント以外のAI処理もワークフロー内で実現できます。
Salesforce Data Cloudは大量の非構造化データの処理に強みがあります。一方、HubSpotも100万件以上のコンタクト管理に対応しており、一般的なBtoB企業のデータ量であれば問題ありません。
「データが入る仕組み」を作れるかどうかです。どれだけ高度なAIを搭載していても、CRMにデータが蓄積されなければAIは機能しません。自社の組織がデータを継続的に入力・蓄積できるプラットフォームを選ぶことが最も重要です。