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ABM(Account Based Marketing:アカウントベースドマーケティング)は、特定のターゲット企業(アカウント)を選定し、その企業に最適化されたマーケティング・営業活動を展開する戦略手法です。「数多くのリードを獲得してから絞り込む」従来のファネル型マーケティングとは逆に、「最初から狙うべき企業を決めて集中的にアプローチする」という発想で、BtoBマーケティングの潮流を大きく変えています。
欧米ではすでに主流戦略のひとつとなっており、BtoB企業の約70%がABMプログラムを導入しているという調査データもあります。日本でもエンタープライズ向けのBtoB企業を中心に導入が加速しており、「ABMを始めたい」「ABMの効果を高めたい」という声が増えています。
本記事では、ABMの基本概念から実践ステップ、成果を出すためのポイントまでを網羅的に解説します。ABMを初めて検討する方にも、すでに取り組んでいて改善したい方にも役立つ内容です。
この記事でわかること
- ABMの定義と基本概念
- 従来型マーケティングとABMの違い
- ABMが特に有効な企業・ビジネスモデル
- ABM実践の5ステップ
- ターゲットアカウントの選定方法(ICP設計)
- ABMの効果測定指標
- HubSpotのABM機能を活用した実装方法
ABMとは何か
ABM(アカウントベースドマーケティング)とは、「自社にとって最も価値のあるターゲット企業を特定し、その企業ごとにパーソナライズされたマーケティング施策を展開する」BtoB戦略です。
従来型マーケティングとの違い
| 項目 | 従来型(リードベース) | ABM(アカウントベース) |
|---|---|---|
| アプローチ | 広く集めて絞り込む | 最初から対象を絞る |
| ターゲット | 個人(リード) | 企業(アカウント) |
| 施策の範囲 | 全リードに共通の施策 | アカウントごとに最適化 |
| 営業との関係 | マーケ→営業の引き渡し | マーケ×営業の協働 |
| KPI | リード数・MQL数 | エンゲージメント・商談化率・受注率 |
| ROI | 測定しにくい | 測定しやすい |
ABMの3つのアプローチ
ABMはターゲットの規模と施策のパーソナライゼーション度合いに応じて3つのレベルに分かれます。
| レベル | 名称 | ターゲット数 | パーソナライズ度 | 工数 |
|---|---|---|---|---|
| Tier 1 | Strategic ABM | 1〜10社 | 完全カスタマイズ | 高 |
| Tier 2 | ABM Lite | 10〜100社 | セグメント別カスタマイズ | 中 |
| Tier 3 | Programmatic ABM | 100〜1,000社以上 | テクノロジー活用で自動化 | 低 |
多くの企業はTier 2またはTier 3から始め、成果が出た企業をTier 1に引き上げていくアプローチが現実的です。
ABMが特に有効な企業の条件
ABMはすべてのBtoB企業に最適とは限りません。以下の条件に当てはまる場合、ABMの効果が特に高くなります。
ABMが向いている企業チェックリスト:
- 平均受注単価が100万円以上
- 商談サイクルが3ヶ月以上
- 意思決定に複数のステークホルダーが関与
- ターゲット企業を具体的にリストアップできる
- 営業チームとマーケチームの連携が可能
- CRM/MAツールを導入済み(または導入予定)
上記のうち4つ以上に当てはまる場合、ABMの導入を強く推奨します。
ABM実践の5ステップ
ステップ1: ICP(理想顧客プロファイル)を定義する
ABMの出発点は、「自社にとって最も価値のある顧客像」の明確化です。
ICP定義の項目例:
| カテゴリ | 項目 | 例 |
|---|---|---|
| 企業属性 | 業界 | IT・製造・金融 |
| 企業規模(売上・従業員数) | 売上50億円以上 / 300名以上 | |
| 所在地 | 東京・大阪の本社 | |
| 課題・ニーズ | ビジネス課題 | 営業生産性の向上 |
| テクノロジー環境 | Salesforce利用中 | |
| 購買特性 | 予算規模 | 年間500万円以上 |
| 意思決定構造 | 3名以上の承認プロセス |
ICPは過去の受注データを分析して策定します。「最も利益率が高かった顧客」「最もLTVが高い顧客」の共通特徴を抽出しましょう。
ステップ2: ターゲットアカウントリストを作成する
ICPに基づいて、具体的なターゲット企業のリストを作成します。
リスト作成の情報源:
- 自社CRMの既存データ(過去の商談・受注)
- 業界データベース(帝国データバンク、東洋経済など)
- インテントデータ(自社テーマに関心を持っている企業)
- 営業チームの知見(「この企業が欲しい」という声)
- 競合の顧客リスト(IR情報・事例ページ)
ステップ3: アカウントごとのエンゲージメント戦略を設計する
ターゲットアカウントに対して、どのチャネルでどんなメッセージを届けるかを設計します。
| チャネル | 施策例 | 適したフェーズ |
|---|---|---|
| LinkedIn広告 | 企業名指定のターゲティング広告 | 認知 |
| パーソナライズドメール | 業界特化のコンテンツ配信 | 興味喚起 |
| ダイレクトメール(DM) | パーソナライズされた郵送物 | 認知・興味喚起 |
| カスタムLP | アカウント専用のランディングページ | 検討促進 |
| セミナー・ラウンドテーブル | 限定イベントへの招待 | 関係構築 |
| 営業アウトリーチ | 電話・メール・訪問 | 商談化 |
ステップ4: 営業とマーケティングの連携体制を構築する
ABMの成否を分けるのは、営業とマーケティングの連携(アライメント)です。
連携のための仕組み:
- ターゲットアカウントリストの共同策定
- アカウントごとの担当営業の明確化
- 週次のアカウントレビューミーティング
- 共通のCRM/MAプラットフォームでのデータ共有
- アカウントエンゲージメントスコアの可視化
ステップ5: 効果測定と継続改善
ABMの効果測定は、従来のリード数中心の指標とは異なります。
ABMの主要KPI:
| 指標 | 測定内容 | 目標水準の目安 |
|---|---|---|
| アカウントエンゲージメント率 | ターゲットアカウントの何%がアクションしたか | 30%以上 |
| カバレッジ | ターゲットアカウント内の接触人数 | 平均3名以上 |
| パイプライン寄与率 | ABMアカウントが商談全体に占める割合 | 40%以上 |
| 商談化率 | ターゲットアカウントの何%が商談になったか | 15%以上 |
| 受注率 | ABM経由の商談の受注率 | 非ABM比で1.5倍以上 |
| 平均受注単価 | ABM経由の受注の単価 | 非ABM比で1.3倍以上 |
HubSpotのABM機能を活用した実装
HubSpotはABMの実践をサポートする機能を標準搭載しています。
ターゲットアカウント管理
- ターゲットアカウントの設定と一覧表示
- アカウントごとのエンゲージメントスコアの自動計算
- 企業プロパティ(ICP Tier、優先度)の管理
アカウントベースのレポーティング
- ターゲットアカウントの概要ダッシュボード
- アカウントごとの接触履歴・アクティビティ
- パイプラインへの影響度の可視化
広告連携
- LinkedIn広告へのターゲットアカウントリストの同期
- アカウント単位での広告効果測定
- ABMキャンペーンのROI分析
ワークフロー自動化
- ターゲットアカウントのコンタクトに自動でタグ付け
- エンゲージメントスコアに応じた営業通知
- アカウントステージの自動更新
ABM成功のための3つの注意点
1. 小さく始めて段階的に拡大する
最初から数百社をターゲットにするのではなく、10〜20社のパイロットプログラムから始めましょう。学びを蓄積してからスケールさせるのが成功のパターンです。
2. 営業チームの巻き込みを最初から行う
ABMはマーケティング部門だけでは成功しません。計画段階から営業リーダーを巻き込み、ターゲット選定とアプローチ戦略を共同で策定してください。
3. 短期成果を求めすぎない
ABMは3〜6ヶ月で成果が見え始め、本格的なROIが確認できるのは6〜12ヶ月後です。短期的なリード数の減少に惑わされず、商談化率・受注率の改善を見守りましょう。
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まとめ
ABMは「量より質」を追求するBtoBマーケティング戦略です。ポイントを整理します。
- ABMとは: 特定のターゲット企業に最適化されたマーケティング・営業活動を展開する戦略
- 従来型との違い: 「広く集めて絞る」のではなく「最初から狙って深くアプローチ」する
- 3つのレベル: Strategic(1-10社)、Lite(10-100社)、Programmatic(100社以上)
- 5ステップ: ICP定義→リスト作成→エンゲージメント設計→営業連携→効果測定
- 成功の鍵: 営業×マーケの連携と、CRM/MAプラットフォームによるデータ統合
HubSpotはABM機能を標準搭載しており、ターゲットアカウント管理・エンゲージメントスコアリング・LinkedIn広告連携・レポーティングまでを一つのプラットフォームで実現できます。
ABMの導入を検討されている方、すでに取り組んでいて成果を改善したい方は、StartLinkにご相談ください。貴社のビジネスモデルに最適なABM戦略の設計と、HubSpotを活用した実装をサポートいたします。
株式会社StartLinkは、事業推進に関わる「販売促進」「DXによる業務効率化(ERP/CRM/SFA/MAの導入)」などのご相談を受け付けております。 サービスのプランについてのご相談/お見積もり依頼や、ノウハウのお問い合わせについては、無料のお問い合わせページより、お気軽にご連絡くださいませ。
著者情報
今枝 拓海 / Takumi Imaeda
株式会社StartLinkの代表取締役。
HubSpotのトップパートナーである株式会社H&Kにて、HubSpotのCRM戦略/設計/構築を軸として、 国内・外資系エンタープライズ企業へコンサルティング支援を実施。
パーソルホールティングス株式会社にて、大規模CRM/SFA戦略の策定・PERSOLグループ横断のグループAI戦略/企画/開発ディレクションの業務を遂行経験あり。
株式会社StartLinkでは、累計100社以上のHubSpotプロジェクト実績を元にHubSpot×AIを軸にした経営基盤DXのコンサルティング事業を展開。