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「マーケティングがリードを渡しても営業がフォローしない」「営業から見ると、マーケが渡すリードの質が低い」——営業部門とマーケティング部門の間でこうした不満が生まれるのは、多くのBtoB企業で共通する課題です。
営業・マーケティング連携SLA(Service Level Agreement)とは、マーケティング部門と営業部門の間で「どのようなリードを」「いつまでに」「どのようにフォローするか」を明文化した合意のことです。 SLAを設計・運用することで、リードの引き渡しプロセスが明確になり、両部門の連携が劇的に改善します。
この記事では、SLAの設計方法からHubSpotでの実装、運用のポイントまで詳しく解説します。
この記事でわかること
- 営業・マーケティング連携SLAの基本概念と必要性
- MQL・SQLの定義とリードステージの設計方法
- HubSpotでのSLA実装手順(ライフサイクルステージ・ワークフロー・レポート)
- SLA運用の成功パターンと改善サイクル
なぜ営業・マーケティング連携SLAが必要なのか
連携が機能しない企業の典型パターン
多くのBtoB企業で見られる営業・マーケ間の課題は以下のとおりです。
| 課題 | マーケティング側の主張 | 営業側の主張 |
|---|---|---|
| リードの質 | 十分なリードを渡している | 質が低く商談にならない |
| フォロー速度 | リードを渡したのに対応が遅い | 優先度が判断できない |
| 定義の不一致 | MQLの基準は明確にしている | その基準が現場の感覚と合わない |
| 成果の帰属 | リード獲得に貢献している | 商談化は営業の努力 |
こうした課題の根本原因は、リードの定義・引き渡し基準・フォロープロセスが明文化されていないことにあります。SLAはこれらを解決する仕組みです。
SLAがもたらす効果
SLAを導入することで、以下の効果が期待できます。
- リード対応速度の向上: フォロー期限が明確になるため、対応が迅速化
- リード品質の向上: MQL基準が明確になるため、マーケもスコアリング精度を改善
- 商談化率の向上: 適切なタイミングで適切なリードを営業に引き渡し
- 部門間の信頼関係構築: 数値ベースの合意により感覚的な不満が減少
- 改善サイクルの確立: 定量的なKPIで改善ポイントを特定
SLA設計の4ステップ
ステップ1: リードステージの定義
SLA設計の第一歩は、ライフサイクルステージを使ってリードの各段階を明確に定義することです。
| ステージ | 定義 | 担当部門 |
|---|---|---|
| サブスクライバー | メルマガ登録やニュースレター登録のみ | マーケティング |
| リード | フォーム送信や資料ダウンロードでコンタクト情報を取得 | マーケティング |
| MQL(Marketing Qualified Lead) | マーケティングが「営業フォローの価値あり」と判定 | マーケティング→営業 |
| SQL(Sales Qualified Lead) | 営業が「商談の可能性あり」と判定 | 営業 |
| 商談(Opportunity) | 具体的な提案・見積もりのフェーズ | 営業 |
| 顧客(Customer) | 受注・契約締結 | 営業→CS |
MQL基準の設計
MQLの基準は、属性スコアと行動スコアの組み合わせで設計します。
属性スコア(最大40点)
| 項目 | スコア | 例 |
|---|---|---|
| 役職が決裁者レベル | +15 | 部長以上、役員 |
| ターゲット業種 | +10 | 製造業、IT |
| 従業員数が50名以上 | +10 | 中堅企業以上 |
| ターゲットエリア | +5 | 首都圏 |
行動スコア(最大60点)
| 項目 | スコア | 例 |
|---|---|---|
| 料金ページ閲覧 | +15 | 検討段階の強いシグナル |
| 事例ページ閲覧 | +10 | 導入検討の兆候 |
| 資料ダウンロード | +10 | コンテンツ関心 |
| メール開封・クリック(3回以上) | +10 | 継続的な関心 |
| ウェビナー参加 | +10 | 積極的な情報収集 |
| ブログ3記事以上閲覧 | +5 | 情報収集段階 |
MQL判定基準: 合計スコア 50点以上 → MQL化して営業に引き渡し
ステップ2: 引き渡しプロセスの設計
MQLが発生したら、営業に引き渡すプロセスを設計します。
| 項目 | SLA内容 |
|---|---|
| 通知方法 | HubSpotワークフローからSlack通知 + メール通知 + タスク自動作成 |
| 引き渡し情報 | コンタクト名、会社名、スコア、直近のアクティビティ、流入元 |
| 初回フォロー期限 | MQL化から24時間以内 |
| フォロー方法 | 電話 or メール(コンタクトの行動履歴に応じて選択) |
| フォロー回数 | 最低3回(初回→3日後→7日後) |
ステップ3: 営業側のSLA
営業側が守るべきSLAも明確に定義します。
| SLA項目 | 基準値 | 測定方法 |
|---|---|---|
| 初回フォロー速度 | MQL化から24時間以内 | HubSpotのタスク完了時間 |
| フォロー完了率 | 引き渡しリードの95%以上 | ワークフロー完了率 |
| SQL判定期限 | MQL引き渡しから5営業日以内 | ライフサイクルステージ変更日 |
| フォロー結果の記録 | 全件CRMに記録 | コンタクトのアクティビティログ |
ステップ4: マーケティング側のSLA
マーケティング側が守るべきSLAも定義します。
| SLA項目 | 基準値 | 測定方法 |
|---|---|---|
| 月間MQL創出数 | 月○件以上 | ライフサイクルステージレポート |
| MQL→SQL転換率 | 20%以上 | ファネルレポート |
| リード品質スコア | 平均50点以上 | スコアリングレポート |
| ナーチャリング完了率 | リードの70%以上をMQL化またはDisqualify | ナーチャリング進捗レポート |
HubSpotでのSLA実装手順
1. ライフサイクルステージの設定
HubSpotには標準でライフサイクルステージが搭載されています。「設定」→「プロパティ」→「ライフサイクルステージ」で各ステージの定義を確認・カスタマイズします。
デフォルトのステージは以下の通りです。
- Subscriber(サブスクライバー)
- Lead(リード)
- MQL(Marketing Qualified Lead)
- SQL(Sales Qualified Lead)
- Opportunity(商談)
- Customer(顧客)
- Evangelist(エバンジェリスト)
2. リードスコアリングの設定
Marketing Hub Professional以上では、スコアリングを設定できます。
- 「設定」→「プロパティ」で「HubSpot Score」プロパティを開く
- 「正のスコア基準」でスコアを加算する条件を設定
- ページビュー(特定URLを含む): +15点
- フォーム送信: +10点
- メールクリック: +5点
- 「負のスコア基準」でスコアを減算する条件を設定
- 30日間アクティビティなし: -10点
- メール配信停止: -20点
3. MQL自動判定ワークフローの構築
ワークフローを使って、スコア基準を満たしたリードを自動的にMQL化します。
ワークフロー設定例:
- トリガー: HubSpot Score ≧ 50
- アクション1: ライフサイクルステージを「MQL」に変更
- アクション2: コンタクト所有者にメール通知
- アクション3: Slack通知(チャネル: #sales-mql-alerts)
- アクション4: タスク作成「MQLフォロー: [コンタクト名]」(期限: 24時間後)
4. 営業フォローSLAの自動監視
営業が期限内にフォローしたかを監視するワークフローも構築します。
フォロー遅延アラートワークフロー:
- トリガー: ライフサイクルステージが「MQL」に変更された
- 遅延: 24時間待機
- 条件分岐: 最新のアクティビティ(メール送信 or 電話)が24時間以内にあるか
- Yes(フォロー済み): ワークフロー終了
- No(未フォロー): マネージャーにアラート通知
5. SLAダッシュボードの作成
カスタムレポートを使って、SLAの達成状況を可視化するダッシュボードを作成します。
推奨レポート:
| レポート名 | 内容 | 種類 |
|---|---|---|
| 月間MQL創出数 | 月ごとのMQL数推移 | 棒グラフ |
| MQL→SQL転換率 | MQLからSQLへの転換率 | ファネルレポート |
| 初回フォロー速度 | MQL化からフォローまでの平均時間 | 数値レポート |
| 営業担当別フォロー完了率 | 担当者ごとのSLA達成率 | テーブルレポート |
| リード品質スコア分布 | MQLのスコア分布 | ヒストグラム |
| リードソース別SQL率 | 流入経路別のSQL転換率 | 棒グラフ |
SLA運用の成功パターン
パターン1: 週次のSLAレビューミーティング
営業・マーケティングの両部門が参加する週次ミーティングを実施し、以下をレビューします。
- 前週のMQL数とSQLへの転換率
- フォローSLAの達成状況
- 営業からのフィードバック(リード品質の評価)
- 翌週のキャンペーン予定と想定MQL数
パターン2: MQL基準の四半期見直し
MQL基準は固定ではなく、実績データに基づいて四半期ごとに見直します。
- SQL転換率が低い場合 → MQL基準を厳しくする(閾値を上げる)
- MQL数が不足する場合 → MQL基準を緩和する or ナーチャリング強化
- 特定のスコア項目とSQL転換に相関がない場合 → スコア配分を見直す
パターン3: リサイクルプロセスの設計
営業が「今ではない」と判断したMQLをマーケティングに戻すリサイクルの仕組みも重要です。
- 営業がMQLを「Disqualified(不適格)」ではなく「リサイクル」としてマーク
- リサイクルされたリードはライフサイクルステージを「リード」に戻す
- マーケティングがナーチャリングプログラムに再投入
- 再度スコアがMQL基準に達したら、営業に再引き渡し
HubSpotでは、カスタムプロパティ「リサイクル理由」を作成し、営業にリサイクル理由を記録してもらうことで、マーケティングのナーチャリング施策の改善にも活用できます。
よくある失敗と対策
失敗1: SLAを作って終わりにする
問題: SLAを定義しても、運用・モニタリングをしなければ形骸化する
対策: ダッシュボードで常時可視化し、週次レビューで定期的にチェックする。SLA違反のアラート通知を自動化して、リアルタイムでの対応を促す。
失敗2: MQL基準が現場と乖離している
問題: マーケティングが設定したMQL基準が、営業の実感と合わない
対策: 初期のMQL基準は営業と共同で設計する。運用開始後も、SQL転換率のデータに基づいて四半期ごとに基準を調整する。
失敗3: 営業のフォロー負荷が高すぎる
問題: MQL数が多すぎて営業がフォローしきれない
対策: MQL基準を引き上げるか、営業人員を増やす。または、インサイドセールス(SDR/BDR)チームを設置して一次フォローを分担する。
失敗4: リサイクルプロセスがない
問題: 営業が「今ではない」と判断したリードが放置され、再アプローチの機会を逃す
対策: リサイクルプロセスを明確に定義し、ワークフローで自動化する。リサイクルリードの再MQL化率もKPIとしてモニタリングする。
まとめ
営業・マーケティング連携SLAは、BtoB企業のリード管理における最も重要な仕組みの1つです。
- リードステージの定義: MQL・SQLの基準を明確化
- 引き渡しプロセスの明文化: 通知方法・フォロー期限・フォロー方法を合意
- 双方のSLA設定: マーケはMQL数と品質、営業はフォロー速度と完了率
- HubSpotでの自動化: スコアリング・ワークフロー・ダッシュボードで運用を効率化
- 定期的な見直し: 四半期ごとにデータに基づいてSLAを改善
まずはMQLの定義と営業への引き渡しプロセスの合意から始め、段階的にSLAを拡充していくことをおすすめします。
よくある質問(FAQ)
Q1. SLAはどの規模の企業から必要ですか?
営業とマーケティングがそれぞれ1名以上いる企業であれば、SLAの導入効果があります。少人数であっても、リードの定義とフォロープロセスを明文化しておくことで、属人化を防ぎスムーズな連携が可能になります。
Q2. MQLの基準は最初から厳密に設計すべきですか?
最初は仮説ベースで設計し、3ヶ月程度運用した後にデータに基づいて調整するアプローチが現実的です。最初から完璧な基準を作ろうとすると導入が遅れます。まずは始めてみて、SQL転換率のデータを見ながら改善していくのが効果的です。
Q3. HubSpotのどのプランでSLAを実装できますか?
基本的なライフサイクルステージ管理は全プランで可能です。ただし、スコアリングやワークフロー自動化を活用したSLAの本格運用にはMarketing Hub Professional以上が必要です。
Q4. インサイドセールス(SDR)チームがいる場合のSLAはどうなりますか?
MQL→SDRフォロー→SQL判定→営業(AE)引き渡しという3段階のSLAになります。SDRにはMQLフォロー速度と接続率のSLA、営業(AE)にはSQL→商談化のSLAを設定します。HubSpotではチーム別のワークフローとダッシュボードで管理できます。
Q5. SLAの見直し頻度はどのくらいが適切ですか?
四半期に1回の見直しが推奨です。ただし、MQL→SQL転換率が大幅に低下(15%以下)した場合は、即座にMQL基準の見直しを行うべきです。市場環境やマーケティング施策の変化に応じて、柔軟に調整してください。
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著者情報
今枝 拓海 / Takumi Imaeda
株式会社StartLinkの代表取締役。
HubSpotのトップパートナーである株式会社H&Kにて、HubSpotのCRM戦略/設計/構築を軸として、 国内・外資系エンタープライズ企業へコンサルティング支援を実施。
パーソルホールティングス株式会社にて、大規模CRM/SFA戦略の策定・PERSOLグループ横断のグループAI戦略/企画/開発ディレクションの業務を遂行経験あり。
株式会社StartLinkでは、累計100社以上のHubSpotプロジェクト実績を元にHubSpot×AIを軸にした経営基盤DXのコンサルティング事業を展開。