Agentforce vs HubSpot Breeze|AI CRMの設計思想の違いと選び方

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「AI CRMを検討しているが、SalesforceのAgentforceとHubSpotのBreeze、どちらを選ぶべきかわからない」「機能比較表を見ても、本質的な違いが見えてこない」「自社の規模や事業フェーズに合ったAI CRMはどちらなのか」

AI CRMの選定は、単なるツール選びではない。それは自社の営業・マーケティング・カスタマーサクセスの設計思想を選ぶことに等しい。SalesforceのAgentforceとHubSpotのBreezeは、いずれもAIエージェントをCRM上で活用する機能を提供しているが、その設計思想は根本的に異なる。

本記事では、スペック比較ではなく設計思想の違いに焦点を当て、両者のアプローチの本質的な差異を解き明かす。そして、企業規模・組織構造・事業フェーズに応じた選び方の判断フレームワークを提示する。

この記事でわかること

  • Agentforce(Salesforce)とBreeze(HubSpot)のAI CRM設計思想の根本的な違い
  • 両者のAIエージェントアーキテクチャの比較
  • Agentforceが最も力を発揮する企業タイプ・事業規模
  • Breezeが最も力を発揮する企業タイプ・事業規模
  • プラットフォーム全体の設計思想の違い(分離型 vs 統合型)
  • 自社に最適なAI CRMを選ぶための判断フレームワーク
  • 両者の共存・併用が有効なケース

Agentforceの設計思想|エンタープライズ向けAIエージェントプラットフォーム

HubSpot Breeze AIエージェント

Agentforceの概要

Agentforceは、Salesforceが提唱する「Agentic Enterprise(エージェンティック企業)」構想の中核を担うAIエージェントプラットフォームである。Salesforceは「企業における労働力の不足をAIエージェントで補完する」というビジョンを掲げ、CRM上で自律的に動作するAIエージェントの構築・運用基盤を提供している。

Agentforceの特徴は以下の通りである。

  • カスタムエージェントの構築:Agent Builderを使って、企業固有の業務に特化したAIエージェントを構築可能
  • Data Cloud統合:Salesforce Data Cloudと連携し、大量の構造化・非構造化データをAIの判断材料として活用
  • Atlas推論エンジン:複雑な推論タスクを処理するための独自AIエンジン
  • Trusted AI Layer:企業データの安全性を担保するためのガバナンス層
  • 業界特化テンプレート:金融、ヘルスケア、製造業など業界別のエージェントテンプレートを提供

Agentforceの設計哲学

Agentforceの設計哲学は、「高度にカスタマイズ可能な開発プラットフォーム」である。Salesforceは、企業がAIエージェントを自社の業務プロセスに合わせて自由に構築・カスタマイズできる環境を目指している。これは、Salesforce自体が長年にわたりエンタープライズ向けのカスタマイズ性を強みとしてきた延長線上にある。

この思想は、以下のような企業にフィットする。

  • 専任のSalesforce管理者・開発者を社内に抱えている
  • 業務プロセスが高度に複雑で、標準機能では対応できないカスタマイズが必要
  • 大量のデータ(Data Cloud)を活用した高度な分析・予測が必要
  • グローバル規模での多拠点・多言語運用が必要

Breezeの設計思想|統合プラットフォーム上のAIネイティブ体験

Breezeの概要

Breezeは、HubSpotが提供するAIネイティブなCRM体験の総称である。HubSpotは「AIを特別な機能として切り出す」のではなく、CRMプラットフォーム全体にAIを統合し、ユーザーが意識せずにAIの恩恵を受けられる設計を目指している。

Breezeの構成要素は以下の通りである。

  • Breeze Copilot:HubSpotのあらゆる画面で利用できるAIアシスタント。レコードの要約、メール文案作成、ネクストアクション提案など
  • Breeze Agents:4種の専門AIエージェント(顧客対応Agent、案件創出Agent、コンテンツAgent、データAgent)
  • Breeze Intelligence:企業データの自動エンリッチメント、バイヤーインテント分析
  • ワークフロー内AI:「Breezeに依頼」アクション、カスタムLLM連携(OpenAI / Gemini / Claude)

Breezeの設計哲学

Breezeの設計哲学は、「統合プラットフォーム上でのシームレスなAI体験」である。HubSpotは、MA(Marketing Hub)・SFA(Sales Hub)・CS(Service Hub)・CMS(Content Hub)・Ops(Operations Hub)がすべて同一データベース上で動作する統合プラットフォームであり、Breezeはそのプラットフォームのあらゆる場所に組み込まれている。

この思想が意味するのは、以下のような体験である。

  • マーケティング、営業、カスタマーサクセスのすべてのAIが同一の顧客データを参照する
  • 部門をまたぐ顧客ジャーニー全体でAIが一貫した判断を行える
  • 専門的な開発スキルなしで、標準機能としてAIを即座に活用できる
  • ワークフロー内でAIアクションを組み込むことで、既存業務にAIを自然に統合できる

設計思想の本質的な違い|5つの軸で比較

Salesforce Agentforce

比較軸 Agentforce(Salesforce) Breeze(HubSpot)
プラットフォーム構造 製品群の集合体(Sales Cloud / Service Cloud / Marketing Cloud等が独立) 単一データベース上の統合プラットフォーム(全Hubが同一基盤)
AIの位置づけ 開発プラットフォーム(エージェントを自社構築する) ネイティブ統合(プラットフォーム全体にAIが組み込まれている)
カスタマイズ性 極めて高い。Agent Builder、Apex、Flowで自由に構築可能 中程度。標準エージェント4種+ワークフローAI+カスタムLLM連携
導入・運用の複雑さ 高い。専任管理者・開発者が必要。導入プロジェクトは数ヶ月単位 低い。標準機能として即利用可能。段階的な拡張が容易
データ基盤 Data Cloud(大量データの統合・分析に強み) 単一CRMデータベース(部門横断の統合に強み)
コスト構造 高額。ライセンス費+Data Cloud費+開発費+SI費 段階的。CRM無料から開始可能。AI機能は上位プランに含まれる
ターゲット企業規模 大企業・エンタープライズ中心 中小企業〜中堅企業中心(大企業にも対応)

軸1:プラットフォーム構造の違い

この違いは最も本質的であり、AI機能の使い勝手に大きく影響する。Salesforceは歴史的に、Sales Cloud、Service Cloud、Marketing Cloud(旧ExactTarget / Pardot)など、M&Aで取得した製品群を統合して成長してきたプラットフォームである。そのため、製品間のデータ連携には設定や開発が必要な場合がある。

一方、HubSpotは最初から単一のデータベース上にすべてのHubを構築している。マーケティングで獲得したリードの行動データを営業がそのまま参照でき、受注後のカスタマーサクセスも同一の顧客レコード上で管理される。この統合性は、AIがデータを参照する際の精度と一貫性に直結する。

軸2:AIの位置づけの違い

Agentforceは「AIエージェントを構築するための開発プラットフォーム」であり、企業が自社の業務に特化したエージェントをゼロから設計・構築する自由度がある。一方、BreezeはCRMプラットフォーム全体にAIが組み込まれた「AIネイティブ体験」であり、ユーザーは専門知識なしに標準機能としてAIを活用できる。

この違いを喩えるなら、Agentforceは「自分でロボットを設計・組み立てるキット」、Breezeは「AIが最初から組み込まれた完成品」である。前者はカスタマイズの自由度が高いが専門知識が必要であり、後者は即座に使えるが自由度には制約がある。

軸3:導入・運用コストの違い

Salesforceのライセンス費用は、Enterprise版で年間数百万円〜数千万円規模になることが一般的であり、さらにAgentforce利用には追加のData Cloud契約が必要となる。加えて、カスタムエージェントの構築にはSI(システムインテグレーター)への開発委託が発生するケースが多い。

HubSpotは、CRMの基本機能が無料で利用でき、AI機能を含むProfessionalプランでも年間数十万円〜百万円台でスタートできる。BreezeのAIエージェントは標準機能として提供されるため、追加の開発費用が発生しにくい。

Agentforceが適している企業

  • 従業員500名以上の大企業・エンタープライズ
  • Salesforceを既に深くカスタマイズして運用している企業
  • 専任のSalesforce管理者・開発者を社内に配置している企業
  • 業界固有の複雑な業務プロセスがあり、高度なカスタマイズが必須の企業
  • 大量のデータ(Data Cloud)を活用した高度な分析・予測を必要とする企業
  • グローバル規模で多拠点・多言語のCRM運用を行っている企業

Breezeが適している企業

HubSpot Breeze AIプラットフォーム

  • 従業員10名〜500名の中小企業〜中堅企業
  • CRMの導入がこれから、または導入初期の企業
  • 専任のCRM管理者を置く余裕がなく、営業やマーケ担当者が兼務で運用する企業
  • マーケティング・営業・カスタマーサクセスを統合的に管理したい企業
  • AI活用を「まず小さく始めて、効果を確認しながら拡大」したい企業
  • コストを抑えつつ、段階的にAI CRMを導入したい企業

選び方の判断フレームワーク

4つの判断基準

判断基準 Agentforceを推奨 Breezeを推奨
企業規模 500名以上、複数事業部 10〜500名、単一〜少数事業部
IT体制 専任CRM管理者・開発者がいる 兼務運用、IT専任者が少ない
カスタマイズ要件 業界固有の複雑な業務フロー 標準的なBtoB営業・マーケプロセス
予算 年間数千万円以上のIT投資が可能 段階的な投資で始めたい

最も重要な判断基準は「組織の成熟度」

スペックや価格だけでなく、自社の組織がAI CRMを使いこなせるかどうかが最も重要な判断基準である。どれだけ高機能なAI CRMを導入しても、データが入っていなければAIは機能しない。ワークフローが設計されていなければ自動化は動かない。運用体制がなければ定着しない。

Salesforceの高度な機能を活用するには、それに見合った組織の成熟度が必要である。一方、HubSpotは低い成熟度からでも始められ、組織の成長に合わせて段階的に活用レベルを上げていける設計になっている。

まとめ

AgentforceとBreezeの違いは、単なる機能差ではなく設計思想の違いである。Agentforceは「高度にカスタマイズ可能なAIエージェント開発プラットフォーム」であり、Breezeは「統合プラットフォーム上のAIネイティブ体験」である。

重要なのは、どちらが「優れている」かではなく、自社の事業規模・組織の成熟度・IT体制・予算に合ったプラットフォームを選ぶことである。特に中小企業〜中堅企業にとっては、低い初期投資で始められ、統合プラットフォームの恩恵を受けられるHubSpot Breezeが現実的な選択肢となることが多い。

よくある質問(FAQ)

Q. AgentforceとBreezeは併用できますか?

技術的には併用可能ですが、データの一元管理という観点からは推奨されません。CRMは1つのプラットフォームに統一し、必要に応じて他ツールとAPI/iPaaSで連携する設計が望ましいです。

Q. 将来的に企業規模が拡大した場合、HubSpotからSalesforceへの移行は容易ですか?

HubSpotはEnterprise版で大企業の要件にも対応できる機能を拡充しています。安易な移行よりも、まずHubSpotのEnterprise機能で対応できるかを検討することを推奨します。

Q. Breezeの4種のエージェントだけでは足りない場合はどうすればよいですか?

Operations HubのカスタムコードアクションとカスタムLLM連携(OpenAI / Gemini / Claude)を活用することで、標準4種のエージェント以外のAI処理もワークフロー内で実現できます。

Q. データ量が多い企業はSalesforceの方が有利ですか?

Salesforce Data Cloudは大量の非構造化データの処理に強みがあります。一方、HubSpotも100万件以上のコンタクト管理に対応しており、一般的なBtoB企業のデータ量であれば問題ありません。

Q. AI CRMの選定で最も重要なことは何ですか?

「データが入る仕組み」を作れるかどうかです。どれだけ高度なAIを搭載していても、CRMにデータが蓄積されなければAIは機能しません。自社の組織がデータを継続的に入力・蓄積できるプラットフォームを選ぶことが最も重要です。


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著者情報

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今枝 拓海 / Takumi Imaeda

株式会社StartLinkの代表取締役。
HubSpotのトップパートナーである株式会社H&Kにて、HubSpotのCRM戦略/設計/構築を軸として、 国内・外資系エンタープライズ企業へコンサルティング支援を実施。 パーソルホールティングス株式会社にて、大規模CRM/SFA戦略の策定・PERSOLグループ横断のグループAI戦略/企画/開発ディレクションの業務を遂行経験あり。
株式会社StartLinkでは、累計100社以上のHubSpotプロジェクト実績を元にHubSpot×AIを軸にした経営基盤DXのコンサルティング事業を展開。