ブログ目次
ERM(全社的リスクマネジメント)とは、個別部門のリスク管理を統合し組織全体としてリスクを把握・管理するフレームワークです。COSO ERMフレームワークに基づき、リスクの特定→評価→対応→モニタリング→報告の5ステップで導入し、リスクマップ(発生可能性×影響度)で優先対応すべきリスクを可視化します。
「想定外」の事態が企業経営を揺るがすケースが増えています。パンデミック、サプライチェーンの断絶、サイバー攻撃、自然災害——これらのリスクに対して、事後対応ではなく事前の備えを組織的に行うのがリスクマネジメントです。
ERM(Enterprise Risk Management:全社的リスクマネジメント)とは、個別部門のリスク管理を統合し、組織全体としてリスクを把握・管理するフレームワークです。本記事では、ERMの基本概念と導入手順を解説します。
本記事は「中小企業に必要な内部統制|基本の考え方と構築ステップ」シリーズの一部です。
本記事はStartLinkの「経営管理DX完全ガイド」関連記事です。
この記事でわかること
- ERMの基本概念と従来型リスク管理(部門サイロ型)との違い
- COSO ERMフレームワークに基づくリスク管理の体系
- リスクの特定→評価→対応→モニタリング→報告の5ステップ導入方法
- リスクマップ(発生可能性×影響度マトリクス)の作成と優先対応の判断
本記事を通じて、経営管理における重要な判断基準と、組織として取り組むべきアクションが明確になります。自社の経営基盤を強化したい方は、ぜひ参考にしてください。
ERMの基本概念
従来のリスク管理が「部門ごとのサイロ型」だったのに対し、ERMは「全社統合型」でリスクを管理します。
| 項目 | 従来型リスク管理 | ERM | 判定 |
|---|---|---|---|
| 範囲 | 部門単位 | 全社統合 | ERMが優位(リスクの全体像を把握) |
| 視点 | リスクの回避・低減 | リスクと機会のバランス | ERMが優位(戦略的判断が可能) |
| 責任者 | 各部門の管理者 | CRO(最高リスク責任者)or 経営層 | ERMが優位(経営レベルで統括) |
| 報告先 | 各部門の上長 | 取締役会 | ERMが優位(ガバナンスに直結) |
COSO ERMフレームワーク
ERMの国際標準とされるCOSO ERM(2017年改訂版)は、以下の5つの構成要素で構成されています。
| 構成要素 | 内容 |
|---|---|
| ガバナンスと文化 | リスク管理の基盤となる組織文化と統制構造 |
| 戦略と目標設定 | 事業戦略との整合性を踏まえたリスク許容度の設定 |
| パフォーマンス | リスクの特定・評価・優先順位付け・対応 |
| レビューと修正 | リスク管理の有効性の検証と改善 |
| 情報・伝達・報告 | リスク情報の適時適切な共有 |
ERM導入の5ステップ
ステップ1:リスクの特定
全社的にリスクを洗い出します。以下のカテゴリごとにブレインストーミングやインタビューで特定します。
| リスクカテゴリ | 例 |
|---|---|
| 戦略リスク | 市場変化、競合動向、技術革新 |
| 財務リスク | 為替変動、金利上昇、資金繰り |
| オペレーショナルリスク | 業務ミス、システム障害、人材流出 |
| コンプライアンスリスク | 法令違反、訴訟、規制変更 |
| レピュテーションリスク | ブランド毀損、SNS炎上 |
| 外部リスク | 自然災害、パンデミック、地政学リスク |
ステップ2:リスクの評価
特定したリスクを、影響度と発生可能性の2軸で評価します。
| 評価基準 | レベル1 | レベル2 | レベル3 | レベル4 |
|---|---|---|---|---|
| 影響度 | 軽微 | 中程度 | 重大 | 壊滅的 |
| 発生可能性 | 稀 | 起こりうる | 可能性高い | ほぼ確実 |
ステップ3:リスクマップの作成
影響度と発生可能性のマトリクスにリスクをマッピングし、優先順位を可視化します。
| 軽微 | 中程度 | 重大 | 壊滅的 | |
|---|---|---|---|---|
| ほぼ確実 | 中 | 高 | 極高 | 極高 |
| 可能性高い | 低 | 中 | 高 | 極高 |
| 起こりうる | 低 | 低 | 中 | 高 |
| 稀 | 低 | 低 | 低 | 中 |
ステップ4:リスク対応策の策定
各リスクに対して、以下の4つの対応戦略から選択します。
| 戦略 | 内容 | 適する場面 |
|---|---|---|
| 回避 | リスクのある活動自体をやめる | リスクが許容範囲を大きく超える |
| 低減 | 統制活動でリスクを下げる | コスト対効果が見合う |
| 移転 | 保険やアウトソーシングでリスクを第三者に移す | 専門的な対応が必要 |
| 受容 | リスクを認識した上で許容する | リスクが小さく対策コストが見合わない |
ステップ5:モニタリングと報告
リスク管理の有効性を定期的に検証し、取締役会に報告します。
- 四半期:主要リスクの状況レビュー
- 半期:リスクマップの更新
- 年次:ERM全体の有効性評価
ERM導入のポイント
ポイント1:経営層のコミットメントが不可欠
ERMは現場のリスク管理担当者だけでは機能しません。経営層が「リスクマネジメントは経営の重要課題である」と位置づけ、取締役会のアジェンダに組み込むことが必須です。
ポイント2:リスクアペタイト(リスク許容度)を定義する
組織がどの程度のリスクを許容するかを明確に定義します。リスクアペタイトが定義されていないと、「この程度のリスクは取ってよいのか」の判断が個人に委ねられ、一貫性のない意思決定になります。
ポイント3:リスクを「脅威」だけでなく「機会」としても捉える
ERMの本来の目的は、リスクを恐れて何もしないことではなく、リスクと機会のバランスを取りながら企業価値を最大化することです。
CRM活用によるオペレーショナルリスクの可視化
営業プロセスにおけるオペレーショナルリスク(案件の放置、データ入力漏れ、承認フローの逸脱)は、CRMのモニタリング機能で可視化できます。HubSpotでは、商談の滞留アラート、必須項目の未入力チェック、パイプラインの異常値検知などをダッシュボードで自動モニタリングできます。
内部統制の基本で述べた統制活動と、ERMのリスク対応策を連動させることで、組織全体のリスクガバナンスが強化されます。経営会議アジェンダの設計にリスクレビューの議題を組み込むことも有効です。
CRMで実現するリスクマネジメントのフレームワーク
リスクマネジメントのフレームワークを実務に落とし込むには、CRMツールの活用が不可欠です。詳しくは「経営ダッシュボードの作り方|KPIを一覧で可視化する設計手順」で解説しています。
次のステップ
リスクマネジメントのフレームワークに取り組むなら、CRMツールの活用が効果的です。以下の記事でHubSpotを使った具体的な実践方法を解説しています。
関連記事
まとめ
- ERMは個別部門のサイロ型リスク管理を統合し、全社的にリスクを把握・管理するフレームワーク
- COSO ERMフレームワークに基づき、リスクの特定→評価→対応→モニタリング→報告で導入
- リスクマップ(発生可能性×影響度)で優先対応すべきリスクを可視化する
- リスク対応は回避・低減・移転・受容の4つの戦略から選択する
- CRMの顧客データリスク(情報漏洩・コンプライアンス違反等)もERMの管理対象に含める
よくある質問(FAQ)
Q1. ERMと従来のリスク管理は何が違いますか?
従来型リスク管理が「部門ごとのサイロ型」だったのに対し、ERMは「全社統合型」でリスクを管理します。各部門が個別にリスク管理するのではなく、CRO(最高リスク責任者)や経営層が全社的にリスクを把握し、取締役会に報告する構造です。リスクを「脅威」だけでなく「機会」としても捉える戦略的な視点を持つ点も大きな違いです。
Q2. リスクマップの作り方を教えてください。
特定したリスクを「影響度」と「発生可能性」の2軸で評価し、マトリクスにマッピングします。影響度と発生可能性がともに高いリスクを「極高」として最優先で対応し、回避・低減・移転・受容の4つの対応戦略から適切なものを選択します。リスクマップは半期に1回更新し、環境変化に応じて見直してください。
Q3. 中小企業でもERMは導入できますか?
導入可能です。COSO ERMの完全な実装は不要で、まずはリスクの洗い出し→影響度と発生可能性の評価→優先度の高いリスク3〜5個への対応策策定から始めてください。四半期ごとに主要リスクの状況をレビューし、経営会議のアジェンダに組み込むことで実効性が確保できます。
StartLinkのガバナンス・内部統制の整備サポート
内部統制やコンプライアンス体制の構築でお悩みの方は、CRMを活用したデータ管理・監査証跡の整備をStartLinkがサポートします。実務に即した体制づくりをご提案します。
まずはお気軽にご相談ください。現状の課題をヒアリングし、最適なアプローチをご提案します。
株式会社StartLinkは、事業推進に関わる「販売促進」「DXによる業務効率化(ERP/CRM/SFA/MAの導入)」などのご相談を受け付けております。 サービスのプランについてのご相談/お見積もり依頼や、ノウハウのお問い合わせについては、無料のお問い合わせページより、お気軽にご連絡くださいませ。
著者情報
今枝 拓海 / Takumi Imaeda
株式会社StartLinkの代表取締役。
HubSpotのトップパートナーである株式会社H&Kにて、HubSpotのCRM戦略/設計/構築を軸として、 国内・外資系エンタープライズ企業へコンサルティング支援を実施。
パーソルホールティングス株式会社にて、大規模CRM/SFA戦略の策定・PERSOLグループ横断のグループAI戦略/企画/開発ディレクションの業務を遂行経験あり。
株式会社StartLinkでは、累計100社以上のHubSpotプロジェクト実績を元にHubSpot×AIを軸にした経営基盤DXのコンサルティング事業を展開。