ブログ目次
「インサイドセールスを導入したいが、何から始めればよいかわからない」
「SDRとBDRの違いは理解しているが、自社にはどちらが合うのか判断できない」
「IS部門を作ったものの、KPIの設定が適切なのか自信がない」
インサイドセールス(IS)は、日本のBtoB企業においても急速に導入が進んでいます。しかし、単に電話営業のチームを作れば良いというものではなく、組織設計、KPI設計、ツール選定、そしてフィールドセールスとの連携設計まで、綿密な計画が成功の鍵を握ります。
はじめに:なぜ今インサイドセールスの導入が加速しているのか
インサイドセールス画面の例:シーケンスと取引管理(出典:HubSpot)
インサイドセールスとは、電話・メール・Web会議などの非対面チャネルを活用して、見込み顧客の育成(ナーチャリング)から商談創出までを担う営業手法・組織です。
日本企業でインサイドセールスの導入が加速している背景には、以下の変化があります。
- 購買行動のデジタル化: BtoB購買プロセスの約6〜7割が、営業と接触する前のオンラインリサーチで完了している
- リモートワークの定着: 対面商談が減り、非対面での顧客接点の重要性が高まった
- 営業効率の追求: 移動時間ゼロで1日に数十件の顧客接点を持てるISの効率性に注目が集まっている
- マーケティング投資の最大化: MAで獲得したリードを商談につなげる「橋渡し役」としてISが不可欠
しかし、IS導入に失敗する企業も少なくありません。「なんとなく始めて、なんとなく終わる」パターンを避けるためには、事前の設計が極めて重要です。本記事では、IS立ち上げに必要な全ステップを体系的に解説します。
この記事でわかること
- インサイドセールス組織の3つのパターン(SDR/BDR/ハイブリッド)と選び方
- IS立ち上げの5つのステップと各フェーズでの重要ポイント
- KPI設計のフレームワーク(架電数→有効会話数→商談化率の逆算設計)
- ISに必要なツールスタック(SFA+CTI+メール自動化)の選定基準
- フィールドセールスとの連携設計と商談引き渡しルール
- IS立ち上げ初期に陥りやすい失敗パターンと回避策
インサイドセールス組織の3つのパターン
IS組織の設計は、自社の営業戦略やリード獲得の状況に応じて最適なパターンが異なります。
パターン1:SDR(Sales Development Representative)型
役割: マーケティングが獲得したインバウンドリードに対して、電話・メールで接触し、商談を創出する。
特徴:
- リードの質と量がマーケティング施策に依存する
- 「待ちの営業」の要素が強い
- リードからのレスポンスタイムが成果を左右する
適している企業:
- Webサイト、展示会、ウェビナー等でリードが安定的に獲得できている
- マーケティング部門(またはMA)が機能している
- 月間リード数が50件以上ある
| SDRの主な活動 | 目的 |
|---|---|
| インバウンドリードへの初回架電 | リードの課題感・導入検討度の確認 |
| メールフォロー | 架電不通時の代替接触、情報提供 |
| リードの選別(クオリフィケーション) | 商談化すべきリードとナーチャリング対象の振り分け |
| 商談のセッティング | フィールドセールスとの商談日程調整 |
パターン2:BDR(Business Development Representative)型
役割: ターゲットアカウント(狙いたい企業)に対して、アウトバウンドで能動的にアプローチし、新規商談を開拓する。
特徴:
- マーケティングリードに依存しない能動的なアプローチ
- ターゲット企業のリサーチとパーソナライズされた提案が求められる
- SDRよりも高い営業スキルが必要
適している企業:
- エンタープライズ(大手企業)をターゲットにしている
- マーケティングからのリードだけでは商談数が不足している
- 特定業界や企業規模にフォーカスしたABM(Account Based Marketing)を実施している
| BDRの主な活動 | 目的 |
|---|---|
| ターゲットアカウントのリサーチ | 企業課題の仮説構築、キーパーソンの特定 |
| アウトバウンドコール・メール | 新規接点の獲得 |
| パーソナライズドメッセージの作成 | ターゲット企業固有の課題に即した提案 |
| マルチチャネルアプローチ | 電話+メール+SNS+手紙等の組み合わせ |
パターン3:ハイブリッド型
役割: SDRとBDRの両方の機能を1つのチームで担う。
特徴:
- 少人数での立ち上げ時に採用されることが多い
- インバウンドとアウトバウンドの両方に対応
- メンバーのスキルセットが広く求められる
適している企業:
- IS立ち上げ初期で、まだ専門チームを分けるほどの人数がいない
- インバウンドリードとアウトバウンド開拓の両方が必要
- IS担当者が3名以下の場合
3パターンの比較表
| 比較項目 | SDR型 | BDR型 | ハイブリッド型 |
|---|---|---|---|
| リードの起点 | インバウンド | アウトバウンド | 両方 |
| マーケティング依存度 | 高 | 低 | 中 |
| 必要な営業スキルレベル | 中 | 高 | 高 |
| 立ち上げの難易度 | 低〜中 | 高 | 中 |
| 推奨人数 | 2名〜 | 2名〜 | 1〜3名 |
| 適切なフェーズ | リードが安定的にある段階 | エンタープライズ攻略段階 | IS立ち上げ初期 |
インサイドセールス立ち上げの5ステップ
インサイドセールス画面の例:シーケンスと取引管理(出典:HubSpot)
ステップ1:IS導入の目的と期待成果を定義する(2週間)
IS立ち上げで最初にすべきことは、「なぜISを導入するのか」を明確にすることです。
目的設定の例:
| 目的 | 具体的な期待成果 | 測定指標 |
|---|---|---|
| 商談数の増加 | フィールドセールスへの商談供給を月20件→40件に倍増 | 月間商談創出数 |
| リードの有効活用 | マーケティングリードの商談化率を5%→15%に改善 | リード→商談コンバージョン率 |
| 営業効率の向上 | フィールドセールスを商談以降に集中させ、受注率を向上 | フィールドセールスの受注率 |
| エンタープライズ開拓 | 従業員1,000名以上の新規企業との商談を月10件創出 | ターゲットセグメント別の商談数 |
ステップ2:組織設計と人材要件を定義する(2〜4週間)
IS組織の位置づけと、必要な人材の要件を定義します。
ISの組織配置パターン:
| 配置パターン | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 営業部門の中にIS部隊を配置 | フィールドセールスとの連携が密 | マーケティングとの連携が弱くなりがち |
| マーケティング部門の中に配置 | リードの情報共有がスムーズ | 営業目線での商談品質管理が弱くなりがち |
| 独立したIS部門として設置 | ISの専門性を高められる | 他部門との連携設計が重要 |
IS人材に求めるスキル・適性:
| スキル | 重要度 | 具体的な要件 |
|---|---|---|
| コミュニケーション能力 | 最重要 | 短時間で相手の課題を引き出すヒアリング力 |
| 粘り強さ・メンタルタフネス | 高 | 断られても諦めずアプローチを継続できる |
| ツールリテラシー | 高 | SFA/CRM、CTI、メールツールの操作習熟 |
| 業界・商材知識 | 中 | 顧客の課題に対して一定の知見を持てる |
| データ分析力 | 中 | 自身の活動データを分析し改善できる |
ステップ3:KPIを設計する(1〜2週間)
ISのKPIは、最終成果から逆算して設計するのが鉄則です。
KPI逆算設計の考え方:
売上目標 ÷ 平均商談単価 = 必要受注数
必要受注数 ÷ 受注率 = 必要商談数
必要商談数 ÷ 商談化率 = 必要有効会話数
必要有効会話数 ÷ 接続率 = 必要架電数
具体例(月間計算):
| 指標 | 数値 | 計算根拠 |
|---|---|---|
| 月間売上目標 | 3,000万円 | 事業計画から |
| 平均商談単価 | 300万円 | 過去実績から |
| 必要受注数 | 10件 | 3,000万÷300万 |
| 受注率 | 25% | 過去実績から |
| 必要商談数 | 40件 | 10÷25% |
| 商談化率 | 20% | 業界水準・仮置き |
| 必要有効会話数 | 200件 | 40÷20% |
| 接続率 | 30% | 業界水準・仮置き |
| 必要架電数 | 約670件 | 200÷30% |
| IS1人あたりの1日架電数 | 約34件 | 670÷20営業日 |
ISのKPI体系(レイヤー構造):
| レイヤー | KPI | 計測頻度 |
|---|---|---|
| 活動量指標(行動KPI) | 架電数、メール送信数、接続数 | 日次 |
| 中間成果指標(プロセスKPI) | 有効会話数、商談化率、リードクオリフィケーション数 | 週次 |
| 最終成果指標(成果KPI) | 商談創出数、商談の受注貢献額 | 月次 |
ステップ4:ツールスタックを選定・構築する(2〜4週間)
ISの生産性を最大化するためには、適切なツールの組み合わせ(ツールスタック)が不可欠です。
ISに必要なツールスタック:
| ツールカテゴリ | 役割 | 主な選択肢 |
|---|---|---|
| SFA/CRM | 顧客情報・商談情報の管理、活動記録 | Salesforce, HubSpot, Mazrica Sales 等 |
| CTI(電話連携) | ワンクリック発信、通話記録、録音 | MiiTel, Zoom Phone, Dialpad 等 |
| メール配信・追跡 | テンプレート送信、開封追跡、シーケンス自動化 | SFA内蔵機能, Outreach 等 |
| MA(任意) | リードスコアリング、ナーチャリング | HubSpot, Marketo, SATORI 等 |
| Web会議 | オンライン商談、デモ | Zoom, Microsoft Teams, Google Meet 等 |
| ナレッジ管理 | トークスクリプト、FAQ、競合情報の共有 | Notion, Confluence 等 |
ツール選定の3つの基準:
1. SFA/CRMとの連携性
ISのツールスタックの中心はSFA/CRMです。CTI、メールツール、MAなどすべてのツールがSFA/CRMとスムーズに連携し、データが一元管理される構成を目指します。
2. ISの業務フローとの適合性
架電→記録→フォローメール→次のアクション設定という一連の流れが、最小のクリック数で完了するツールを選びます。
3. データの可視化・分析機能
KPIの自動集計、個人別・チーム別のダッシュボード表示、コール分析(通話時間、ヒアリング率等)の機能が充実しているツールを優先します。
ステップ5:フィールドセールスとの連携設計(1〜2週間)
ISの最も重要な成功要因の一つが、フィールドセールス(FS)との連携です。ここが曖昧だと、商談の質や受注率に直接影響します。
商談引き渡しルールの設計:
| 項目 | 定義すべき内容 |
|---|---|
| 商談の定義 | 何をもって「商談」とするか(例:BANT確認済み、決裁者の存在を確認) |
| 引き渡し条件 | ISからFSに引き渡すための最低条件(例:BANT2項目以上確認済み) |
| 引き渡し方法 | SFA上でのステータス変更、Slackでの通知、引き渡しシートの共有 |
| 引き渡し後のフォロー | FSが初回商談を行うまでのリードタイム目標(例:3営業日以内) |
| フィードバックループ | FSからISへの商談品質フィードバックの仕組み(例:週次レビュー) |
SQL(Sales Qualified Lead)の判定基準テンプレート:
| BANT項目 | 確認内容 | 判定基準 |
|---|---|---|
| Budget(予算) | 予算の有無・規模感 | 予算確保済みまたは確保予定あり |
| Authority(決裁者) | 決裁者の特定 | 決裁者の氏名・役職が判明 |
| Needs(ニーズ) | 課題の具体性 | 具体的な課題が言語化されている |
| Timeline(時期) | 導入・検討時期 | 6ヶ月以内に導入・検討予定 |
判定ルール: 4項目中3項目以上が満たされた場合にSQLとしてFSに引き渡す。2項目以下の場合はISでナーチャリングを継続。
IS立ち上げ初期に陥りやすい5つの失敗パターン
失敗1:KPIが架電数だけに偏る
架電数だけを追うと、質の低い「とりあえず電話」が増え、商談の質が低下します。活動量指標だけでなく、商談化率や受注貢献額まで含めたKPI体系で管理することが重要です。
失敗2:フィールドセールスとの軋轢
「ISが作った商談は質が低い」「FSがISの商談を放置する」という軋轢は、IS立ち上げ初期によく見られます。商談の定義と引き渡し条件を事前に合意し、週次のフィードバックミーティングで継続的に調整してください。
失敗3:ツール先行で業務設計が後回し
「まずツールを入れて、使いながら考える」というアプローチは、ISでは失敗しやすいです。ツール導入の前に、ISの業務フロー、KPI、FSとの連携ルールを設計してからツールを選定してください。
失敗4:人材のミスマッチ
ISに求められるスキルは、フィールドセールスとは異なります。「成績が振るわないフィールドセールスをISに異動させる」という発想は避けてください。ISには電話コミュニケーション力と粘り強さが特に求められます。
失敗5:スクリプトの硬直化
トークスクリプトは必要ですが、台本を読むだけの対応では顧客に見透かされます。スクリプトは「ガイドライン」として位置づけ、顧客の反応に応じた柔軟な対応ができるようトレーニングすることが重要です。
IS立ち上げ後の成長ロードマップ
ISは立ち上げて終わりではなく、段階的に機能を拡張していくことが重要です。
| フェーズ | 期間の目安 | 重点テーマ |
|---|---|---|
| 立ち上げ期 | 1〜3ヶ月 | 基本オペレーションの確立、KPIの初期値設定 |
| 安定期 | 4〜6ヶ月 | KPI達成の安定化、トークスクリプトの最適化 |
| 拡張期 | 7〜12ヶ月 | チーム増員、SDR/BDRの分化、ABMの導入 |
| 高度化期 | 1年〜 | AIの活用、予測分析、マーケティングとの高度な連携 |
まとめ
インサイドセールスの立ち上げは、「組織設計」「KPI設計」「ツール選定」「FS連携」の4つの柱を事前にしっかり設計することが成功の鍵です。
本記事で解説したポイントを改めて整理します。
- 組織パターンの選択: SDR/BDR/ハイブリッドの中から、自社のリード状況とターゲットに合ったパターンを選ぶ
- KPIの逆算設計: 売上目標から逆算して、商談数→有効会話数→架電数を導き、IS1人あたりの日次行動量まで落とし込む
- ツールスタックの構築: SFA/CRMを中心に、CTI・メール自動化・MAを連携させた統合環境を構築する
- FS連携の設計: 商談の定義、引き渡し条件、フィードバックループを事前に合意する
- 段階的な成長: 立ち上げ期から高度化期まで、段階的に機能と体制を拡張する
インサイドセールスは正しく設計・運用すれば、営業組織の生産性を飛躍的に向上させる強力な仕組みです。まずは本記事のフレームワークを参考に、自社に最適なIS組織の設計から始めてみてください。
よくある質問(FAQ)
Q1. インサイドセールスの立ち上げに必要な人数は最低何名ですか?
A. 最低1名から立ち上げは可能ですが、推奨は2〜3名です。1名だと休暇や不在時にオペレーションが止まるリスクがあり、また複数名いることでナレッジの共有やスクリプトの改善がスムーズに進みます。まずは2名でハイブリッド型(SDR+BDR兼務)からスタートし、成果が出てきたら増員と専門分化を進めるのが現実的です。
Q2. ISの担当者は新卒採用と中途採用のどちらがよいですか?
A. IS立ち上げ初期は、BtoB営業経験のある中途採用がおすすめです。立ち上げ期にはトークスクリプトの作成やKPIの妥当性検証など、営業経験に基づく判断が求められるためです。オペレーションが安定した後であれば、新卒やIS未経験者でもスクリプトとトレーニング体制があれば十分に活躍できます。IS経験者の採用が理想ですが、市場に経験者が少ないため、法人営業経験者やカスタマーサポート経験者をIS向けにトレーニングするアプローチも有効です。
Q3. ISのKPIはどのくらいの頻度で見直すべきですか?
A. 立ち上げ初期(1〜3ヶ月)は月次で見直すことを推奨します。特に接続率、商談化率、商談の受注率は、当初の仮置き値と実際の数値にズレが生じることが多いため、実績データに基づいて修正してください。安定期以降は四半期ごとの見直しで十分です。ただし、マーケティング施策の変更や市場環境の変化があった場合は、随時KPIを再検証する必要があります。
Q4. 営業経験が浅いメンバーでもISは務まりますか?
A. 務まります。ISはフィールドセールスと比較して、1回の顧客接点が短く、対応パターンが定型化しやすいため、スクリプトとトレーニングの整備次第で未経験者でも3〜6ヶ月で戦力化できます。ただし、BDR型(アウトバウンド中心)はSDR型よりも高い営業スキルが求められるため、営業経験が浅いメンバーにはまずSDR業務から始めてもらうのが良いでしょう。
Q5. ISとコールセンターの違いは何ですか?
A. 最大の違いは「目的」です。コールセンターは問い合わせ対応(受電中心)が主な役割であり、対応の品質と効率が評価基準です。一方、ISは商談の創出が目的であり、リードの育成・選別から商談のセッティングまでを担います。求められるスキルも異なり、ISでは顧客の課題をヒアリングする力、商材への理解、BANTの確認スキルなどが必要です。
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著者情報
今枝 拓海 / Takumi Imaeda
株式会社StartLinkの代表取締役。
HubSpotのトップパートナーである株式会社H&Kにて、HubSpotのCRM戦略/設計/構築を軸として、 国内・外資系エンタープライズ企業へコンサルティング支援を実施。
パーソルホールティングス株式会社にて、大規模CRM/SFA戦略の策定・PERSOLグループ横断のグループAI戦略/企画/開発ディレクションの業務を遂行経験あり。
株式会社StartLinkでは、累計100社以上のHubSpotプロジェクト実績を元にHubSpot×AIを軸にした経営基盤DXのコンサルティング事業を展開。