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「リード獲得はできているのに、トライアルからの有料転換率が上がらない」「チャーン(解約)の兆候を早期に察知できない」「MRR(月次経常収益)をリアルタイムで把握したい」——こうした課題は、SaaS企業ならではの悩みかなと思います。
SaaS企業におけるHubSpot活用とは、リード獲得からオンボーディング、カスタマーサクセス、チャーン防止まで、SaaSビジネス特有のファネルをHubSpotのCRM・MA・CS機能で一気通貫に管理・自動化することです。
この記事では、SaaS企業がHubSpotを最大限活用するための設計思想と、具体的な設定・運用方法を解説します。
この記事でわかること
- SaaS企業向けのライフサイクルステージ設計
- MRR管理・サブスクリプション管理の実装方法
- トライアル→有料転換のナーチャリング設計
- オンボーディングの仕組み化
- チャーン防止のためのカスタマーサクセス設計
- よくある質問(FAQ)
SaaS企業にHubSpotが向いている理由
SaaS企業のビジネスモデルは「獲得→転換→定着→拡大」のサイクルが中心です。このサイクル全体をHubSpotの各Hubで横断的にカバーできることが、SaaS企業にとってHubSpotが有力な選択肢になる理由です。
| SaaSの課題 | 対応するHubSpot機能 |
|---|---|
| リード獲得・ナーチャリング | Marketing Hub(フォーム、メール自動化、スコアリング) |
| トライアル管理・商談管理 | Sales Hub(パイプライン、シーケンス、見積もり) |
| オンボーディング・CS管理 | Service Hub(チケット、カスタマーサクセス、ヘルスコア) |
| MRR管理・請求管理 | カスタムオブジェクト + ワークフロー |
| ブログ・LP・コンテンツ | Content Hub |
スプレッドシートでMRR推移を管理したり、別ツールでCSを回したりしている企業も多いかなと思いますが、これらをHubSpotに集約することで、顧客のライフタイム全体をCRM上で可視化できるようになります。
SaaS向けライフサイクルステージ設計
SaaS企業の場合、一般的なB2Bとは異なるライフサイクルステージの設計が必要です。
推奨ステージ構成
リード → MQL → SQL → トライアル → 有料顧客 → アクティブ顧客
↓
チャーンリスク → 解約 → 掘り起こし
| ステージ | 定義 | 担当部門 |
|---|---|---|
| リード | フォーム送信・資料DLなどで情報を取得した見込み客 | マーケ |
| MQL | スコアリングで一定基準を超えたホットリード | マーケ→IS |
| SQL | ISが商談可能と判断したリード | IS→FS |
| トライアル | 無料トライアル利用中の見込み客 | FS / CS |
| 有料顧客 | 有料プランに転換した顧客 | CS |
| アクティブ顧客 | 定常的にサービスを利用している顧客 | CS |
| チャーンリスク | 利用頻度低下・不満兆候のある顧客 | CS |
| 解約 | サブスクリプションを解約した元顧客 | CS→マーケ |
企業様によってステージの粒度は異なりますが、特にSaaSでは「トライアル」と「チャーンリスク」のステージを明確に定義することが結構ミソになってきます。
MRR管理の実装
SaaS企業にとってMRR(Monthly Recurring Revenue)の管理は最重要指標の一つです。HubSpotでMRR管理を実装する方法は大きく2つあります。
方法1: 収益機能(Revenue Tracking)を使う簡易版
HubSpotの標準機能「収益トラッキング」で、取引に月額定期収益を設定できます。
メリット: 設定が簡単。すぐに使い始められる
デメリット: 月単位の推移管理や、アップグレード・ダウングレードの追跡が難しい
方法2: カスタムオブジェクトで本格管理(Enterprise)
Enterpriseプランであれば、カスタムオブジェクトを使って、取引ごとに月別の請求レコードを作成する本格的なMRR管理が可能です。
設計例:
取引(年間契約: 120万円)
└─ 請求カスタムオブジェクト × 12レコード
├─ 2026年1月: 10万円(ステータス: 請求済み)
├─ 2026年2月: 10万円(ステータス: 請求予定)
├─ 2026年3月: 10万円(ステータス: 請求予定)
└─ ...12か月分
| フィールド | 用途 |
|---|---|
| 請求月 | 対象月 |
| 請求金額 | 月額金額 |
| 請求ステータス | 請求予定→請求実施→入金済み→未入金 |
| MRRカテゴリ | New MRR / Expansion / Contraction / Churned |
ワークフローを使って、取引が「受注」ステージに移行したタイミングで契約期間分の請求レコードを自動生成することも可能です。
HubSpotを1個の業務アプリケーションとして会計まで繋がるので、販売管理システムのような形で使っていただくこともできます。
トライアル→有料転換のナーチャリング
SaaS企業にとって、トライアルユーザーを有料顧客に転換するプロセスは売上に直結します。
ステップメールの設計例
| タイミング | 内容 | 目的 |
|---|---|---|
| トライアル開始直後 | ウェルカムメール + セットアップガイド | 初期設定の完了率向上 |
| 3日後 | 主要機能の紹介 + チュートリアル動画 | 機能の理解促進 |
| 7日後 | 活用事例 + 成功企業のケーススタディ | 具体的な活用イメージの喚起 |
| 10日後 | FAQ + よくある質問への回答 | 不安・疑問の解消 |
| トライアル終了3日前 | 有料プランの案内 + 限定オファー | コンバージョン促進 |
| トライアル終了日 | 最終案内 + 営業担当への相談案内 | ラストチャンスの提示 |
メールを送った後にすぐ開封か未開封か判断するのではなく、例えば2日後とか1日後に判定する遅延を入れるというのが結構重要です。開封状況に応じて次のアクションを分岐させると、より精度の高いナーチャリングが実現できます。
スコアリングの活用
トライアルユーザーの行動データをスコアリングに組み込むことで、転換可能性の高いユーザーを優先的にフォローできます。
| 行動 | スコア加点 |
|---|---|
| トライアル開始 | +20 |
| 主要機能の利用(API経由で連携) | +15 |
| ヘルプページの閲覧 | +5 |
| 料金ページの閲覧 | +10 |
| 導入事例ページの閲覧 | +10 |
| ウェビナー参加 | +15 |
オンボーディングの仕組み化
トライアルまたは有料転換後のオンボーディングを仕組み化することで、初期のアクティベーション率を高めます。
チケットパイプラインでオンボーディングを管理
Service Hubのチケット機能を使って、顧客ごとのオンボーディング進捗を管理できます。
オンボーディングパイプライン例:
キックオフ予約 → キックオフ完了 → 初期設定支援 → トレーニング完了 → 本格運用開始
各ステージにタスクを紐付け、期限を設定することで、オンボーディングの遅延を早期に検知できます。
ワークフローによる自動タスク生成
取引が「受注」に移行したら、以下を自動で実行するワークフローを構築します。
- CSM(カスタマーサクセスマネージャー)への自動アサイン
- キックオフミーティングの日程調整メール送信
- オンボーディングチェックリストのタスク自動作成
- 社内Slackへの新規顧客通知
営業の方がなかなかSFA入れてねって言っても使いこなせなかったりするところがあるので、仕組みでタスクを自動生成して、やるべきことを明確にしてあげるのがポイントです。
チャーン防止のカスタマーサクセス設計
ヘルスコアの設計
Service HubのCustomer Success機能を使って、顧客の健全性をスコアリングし、チャーンリスクを早期に検知します。
| 指標 | 加点/減点 | 判断基準 |
|---|---|---|
| ログイン頻度 | +/- | 週3回以上→高、週1回未満→低 |
| 主要機能の利用 | +/- | コア機能の利用有無 |
| サポート問い合わせ | - | 不満系チケットの発生 |
| NPS回答 | +/- | 推奨者(9-10)→高、批判者(0-6)→低 |
| 契約更新時期 | - | 更新30日前からリスクフラグ |
20社とかであればそんなにこの機能いらないかなと思うのですが、それを100社・200社になると追い切れなくなってくるので、ヘルスコアで自動的にアラートを上げる仕組みが重要になります。
チャーンリスク検知ワークフロー
ヘルスコアが一定基準以下に低下した場合に、以下のアクションを自動実行するワークフローを構築します。
- CSMへの即座通知(Slack + メール)
- ライフサイクルステージを「チャーンリスク」に変更
- フォローアップタスクの自動作成
- ヘルスコア低下の理由を記録するためのプロパティ更新
SaaS特有のレポート・ダッシュボード設計
SaaS KPIダッシュボード
| レポート | 指標 | 更新頻度 |
|---|---|---|
| MRR推移 | New / Expansion / Contraction / Churned MRR | 月次 |
| チャーンレート | 月次解約率・年次解約率 | 月次 |
| トライアル転換率 | トライアル→有料の転換率 | 週次 |
| LTV | 顧客生涯価値 | 月次 |
| CAC | 顧客獲得コスト | 月次 |
| ヘルスコア分布 | 顧客の健全性の分布 | リアルタイム |
ダッシュボードを意味合いごとに、例えば経営会議用とかCS定例用とか分けていただくと、シーンで使い分けていただくことができます。
まとめ
SaaS企業のHubSpot活用は、リード獲得→トライアル→有料転換→オンボーディング→カスタマーサクセス→チャーン防止という一連のフローを一気通貫で管理することがゴールです。
まずはライフサイクルステージの設計と、パイプラインの構築から始めて、段階的にMRR管理やヘルスコアの仕組みを構築していくのがおすすめです。
CRMにデータが蓄積されるほど、チャーンの兆候を早期に捉えられるようになり、予防的なアクションが打てるようになります。スモールスタートで始めて、少しずつ仕組みを広げていただければなと思います。
よくある質問(FAQ)
Q1. HubSpotでMRR管理は本当にできますか?
簡易的な管理はStarter以上のプランで可能ですが、月別の推移管理やMRRカテゴリ(New/Expansion/Contraction/Churned)の詳細管理にはEnterpriseプランのカスタムオブジェクト機能が必要です。規模が大きくなるまではスプレッドシートと併用し、段階的にHubSpotに移行するアプローチも現実的です。
Q2. トライアルユーザーの行動データをHubSpotに取り込むには?
HubSpotのトラッキングコードをWebアプリに埋め込むことで、ページ閲覧データは自動取得できます。アプリ内の操作データ(機能利用状況等)は、HubSpot APIを使ってカスタムイベントとして送信する必要があります。
Q3. チャーン防止にはどのHubSpotプランが必要ですか?
基本的なチケット管理はStarterプランでも可能ですが、ヘルスコア機能やカスタマーサクセスワークスペースはService Hub Professionalプラン以上が必要です。100社以上の顧客を管理する場合は、Professionalプランの導入を検討してください。
Q4. SaaSのLTVをHubSpotで計算できますか?
計算プロパティを使って、MRR × 平均契約月数でLTVを自動算出できます。より精度の高い計算が必要な場合は、カスタムオブジェクトで請求データを蓄積し、実績ベースのLTVをレポートで算出する方法もあります。
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著者情報
今枝 拓海 / Takumi Imaeda
株式会社StartLinkの代表取締役。
HubSpotのトップパートナーである株式会社H&Kにて、HubSpotのCRM戦略/設計/構築を軸として、 国内・外資系エンタープライズ企業へコンサルティング支援を実施。
パーソルホールティングス株式会社にて、大規模CRM/SFA戦略の策定・PERSOLグループ横断のグループAI戦略/企画/開発ディレクションの業務を遂行経験あり。
株式会社StartLinkでは、累計100社以上のHubSpotプロジェクト実績を元にHubSpot×AIを軸にした経営基盤DXのコンサルティング事業を展開。