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「なぜ失注したのかが組織として把握できていない」「営業担当に聞いても『価格が合わなかった』としか返ってこない」——失注原因の分析は、多くのBtoB企業で課題になっている領域です。
失注分析とは、商談が不成立に終わった案件のデータを体系的に収集・分析し、失注の根本原因を特定して受注率の改善につなげるプロセスです。 感覚的な振り返りではなく、CRMのデータに基づいた定量的な分析を行うことで、再現性のある改善アクションを導き出せます。
この記事では、HubSpotを活用した失注分析の進め方と、受注率を改善するための具体的な方法を解説します。
この記事でわかること
- 失注分析の基本フレームワークと進め方
- HubSpotでの失注データの記録方法
- 失注原因の分類と分析手法
- 失注データを活用した受注率改善のアクション
- 失注分析ダッシュボードの作成方法
なぜ失注分析が重要なのか
失注分析をしていない企業の問題
| 問題 | 影響 |
|---|---|
| 失注原因が属人的 | 営業担当の記憶に依存し、組織としての知見が蓄積されない |
| 同じ理由で繰り返し失注 | 構造的な問題が改善されず、同じパターンの失注が続く |
| 営業プロセスの改善点が不明 | どのフェーズでどの原因で落ちているかが可視化されていない |
| マーケティング施策との連動がない | 失注原因に基づくコンテンツ制作やナーチャリング改善ができない |
失注分析がもたらす効果
- 受注率の向上: 失注原因への対策により、提案精度が向上
- 営業プロセスの改善: ボトルネックとなるフェーズを特定して改善
- ナーチャリングの質向上: 失注パターンに基づくコンテンツ・施策の改善
- 競合対策の強化: 競合に負けるパターンを分析し、差別化ポイントを強化
- 組織的な営業力向上: 個人の経験を組織の知見として蓄積
失注分析の基本フレームワーク
ステップ1: 失注理由のカテゴリ設計
失注理由を体系的に記録するために、あらかじめカテゴリを設計します。
| カテゴリ | 具体的な失注理由 | 対策の方向性 |
|---|---|---|
| 価格・予算 | 予算が足りない、競合の方が安い、ROIが見えない | 価格戦略の見直し、ROI資料の強化 |
| 機能・要件 | 必要な機能がない、カスタマイズ性が不足、連携要件を満たさない | 製品ロードマップへの反映、代替提案 |
| 競合 | 競合製品を選択、既存ツールの継続を決定 | 競合比較資料の強化、差別化ポイントの明確化 |
| タイミング | 導入時期が合わない、社内の優先順位が変わった、稟議が通らなかった | リサイクルナーチャリング、社内説得支援 |
| 信頼・関係性 | 導入実績への不安、サポート体制への懸念 | 事例の充実、トライアルの提供 |
| プロセス | 意思決定者に会えなかった、提案内容が刺さらなかった | 営業スキル向上、提案プロセス改善 |
ステップ2: 失注データの記録ルール
失注理由を正確に記録するためのルールを営業チームに共有します。
記録すべき項目:
| 項目 | 内容 | HubSpotプロパティ |
|---|---|---|
| 失注理由(主因) | 上記カテゴリから選択 | クローズド/失注の理由(ドロップダウン) |
| 失注理由(詳細) | 具体的な背景・理由の記述 | 失注理由詳細(テキスト) |
| 失注フェーズ | どの商談フェーズで失注したか | 取引のパイプラインステージ |
| 競合情報 | 競合がいた場合、どの競合か | 競合企業名(テキスト) |
| 決裁者接触 | 決裁者と直接会えたか | 決裁者接触(Yes/No) |
| 次回アクション | リサイクルの可能性、再アプローチ時期 | 再アプローチ予定日(日付) |
HubSpotでの失注分析の実装
1. 失注理由プロパティの設定
HubSpotの取引(Deal)に失注理由を記録するカスタムプロパティを設定します。
設定手順:
- 「設定」→「プロパティ」→「取引プロパティ」
- 「プロパティを作成」をクリック
- 以下のプロパティを作成
プロパティ1: 失注理由(主因)
- タイプ: ドロップダウン選択
- 選択肢: 予算不足 / 競合選択 / 機能不足 / タイミング不一致 / 社内稟議不通過 / 既存ツール継続 / 提案内容不適合 / 連絡途絶 / その他
プロパティ2: 失注理由詳細
- タイプ: 複数行テキスト
- 説明: 失注理由の具体的な背景を記載
プロパティ3: 競合企業名
- タイプ: 単行テキスト
プロパティ4: 決裁者接触有無
- タイプ: ドロップダウン選択
- 選択肢: Yes / No / 不明
2. 失注時の記録を自動化
ワークフローを使って、取引が「失注」になった際に記録を促す仕組みを作ります。
ワークフロー設定例:
- トリガー: 取引ステージが「Closed Lost(失注)」に変更
- 条件分岐: 失注理由(主因)が空か確認
- 空の場合: 取引所有者にタスク作成「失注理由を記録してください」(期限: 1営業日以内)
- 入力済みの場合: ワークフロー終了
- アクション: マネージャーに通知(失注した取引の金額が一定以上の場合)
3. 失注パイプラインステージの活用
パイプライン設計で、失注前の最終ステージを記録できるようにします。取引が「提案」「見積提出」「最終検討」のどのフェーズで失注したかがわかると、より精緻な分析が可能になります。
HubSpotでは取引のクローズ時に「失注」を選択すると、その時点のパイプラインステージが記録されます。このデータと失注理由を組み合わせることで、「どのフェーズで」「なぜ」失注したかが分析できます。
失注データの分析手法
分析1: 失注理由の分布分析
最も基本的な分析は、失注理由の割合を把握することです。
HubSpotでのレポート作成:
- 「レポート」→「レポートを作成」→「単一オブジェクト」→「取引」
- 横軸: 失注理由(主因)
- 測定値: 取引件数
- フィルター: 取引ステージ = Closed Lost
これにより、「予算不足が40%」「競合選択が25%」「タイミング不一致が15%」のような分布が可視化されます。最も多い失注理由に対して重点的に対策を講じます。
分析2: フェーズ別失注分析
どのパイプラインステージで失注が多いかを分析します。
| フェーズ | 失注率 | 主な失注理由 | 対策 |
|---|---|---|---|
| 初回商談後 | 30% | 予算不足、優先度低い | 事前のBANT確認強化 |
| 提案後 | 25% | 競合選択、機能不足 | 提案品質向上、差別化強調 |
| 見積提出後 | 20% | 予算交渉不成立 | 価格柔軟性、ROI訴求 |
| 最終決裁前 | 15% | 稟議不通過、タイミング | 社内説得資料の提供 |
分析3: 競合別失注分析
競合に負けるパターンを分析します。
HubSpotでのレポート作成:
- 横軸: 競合企業名
- 測定値: 取引件数・取引金額
- フィルター: 失注理由 = 競合選択
競合別の失注件数・金額を把握し、特に多い競合に対して以下を整理します。
- 競合の強み・弱み
- 自社の差別化ポイント
- 競合比較資料の作成・更新
分析4: 担当者別失注分析
営業担当者ごとの受注率・失注パターンを分析し、個人の課題とチーム全体の課題を切り分けます。
| 担当者 | 受注率 | 主な失注理由 | 改善ポイント |
|---|---|---|---|
| 担当A | 35% | 提案内容不適合が多い | 提案スキル向上 |
| 担当B | 25% | 競合選択が多い | 競合対策トレーニング |
| 担当C | 40% | タイミング不一致が多い | リードの質の見直し |
分析5: 時系列の失注トレンド分析
月次・四半期の失注率推移と失注理由の変化を追跡します。
- 失注率が上昇傾向にあるか、改善傾向にあるか
- 特定の失注理由が増減しているか
- 市場環境の変化と失注パターンの相関
失注分析ダッシュボードの作成
HubSpotのダッシュボード機能で、失注分析ダッシュボードを作成します。
推奨レポート構成:
| レポート | 種類 | 目的 |
|---|---|---|
| 失注理由分布 | ドーナツチャート | 失注理由の全体像把握 |
| 月次受注率・失注率推移 | 折れ線グラフ | トレンドの把握 |
| フェーズ別失注件数 | 棒グラフ | ボトルネックフェーズの特定 |
| 競合別失注件数 | 棒グラフ | 主要競合の把握 |
| 担当者別受注率 | テーブル | 個人パフォーマンスの把握 |
| 失注金額TOP10 | テーブル | 大型案件の失注原因確認 |
| リサイクル対象リスト | テーブル | 再アプローチ候補の管理 |
失注データを活用した受注率改善アクション
アクション1: 失注パターンに基づく営業トレーニング
失注分析の結果を営業トレーニングに活かします。
- 価格・予算の失注が多い場合 → ROI訴求スキル、価値提案トレーニング
- 競合に負ける場合 → 競合分析・差別化トーク研修
- 決裁者に会えない場合 → マルチスレッド営業のトレーニング
- 提案内容のミスマッチ → ヒアリングスキル向上、課題深掘り研修
アクション2: コンテンツ・ツールの整備
失注理由に対応するコンテンツやセールスツールを整備します。
| 失注理由 | 必要なコンテンツ・ツール |
|---|---|
| ROIが見えない | ROI算出テンプレート、TCO比較資料 |
| 競合選択 | 競合比較表、移行コスト試算ツール |
| 稟議不通過 | 経営層向け提案書テンプレート、導入事例(同業種) |
| 機能不足 | 代替機能の提案書、ロードマップ共有資料 |
アクション3: リサイクルナーチャリング
「タイミング不一致」「予算不足(来期なら可能)」で失注した案件は、リサイクルナーチャリングの対象にします。
HubSpotでのリサイクル設定:
- 失注理由が「タイミング不一致」の取引のコンタクトを自動リスト化
- ナーチャリングワークフローに再投入(月1回の情報提供メール)
- 再アプローチ予定日が近づいたら営業にタスク作成
アクション4: 営業プロセスの改善
フェーズ別の失注分析結果に基づいて、営業プロセスを改善します。
- 初回商談後の失注が多い場合 → BANTヒアリングの徹底、事前の適格性確認強化
- 提案後の失注が多い場合 → 提案の個別最適化、デモの質向上
- 最終決裁前の失注が多い場合 → 社内説得支援、決裁者への直接アプローチ
失注分析の運用ルール
週次の失注レビュー
週次の営業ミーティングで、前週の失注案件をレビューします。
- 失注した案件の理由確認
- 共通するパターンの抽出
- 次週の改善アクションの決定
月次の失注トレンド分析
月次で失注ダッシュボードを確認し、以下をレビューします。
- 失注率の推移
- 失注理由の変化
- 改善アクションの効果測定
四半期の戦略見直し
四半期ごとに失注分析の結果を経営層にレポートし、以下の戦略判断に活用します。
- 価格戦略の見直し
- 製品ロードマップへのフィードバック
- 営業体制・トレーニングの見直し
- マーケティング施策の改善
まとめ
失注分析は、受注率向上のための最も確実な改善手法です。
- 失注理由のカテゴリ設計: 体系的に記録できる仕組みを作る
- HubSpotでのデータ記録: カスタムプロパティとワークフローで自動化
- 多角的な分析: 理由別・フェーズ別・競合別・担当者別で分析
- 改善アクションの実行: トレーニング・コンテンツ整備・プロセス改善
- 定期的なレビュー: 週次・月次・四半期のサイクルで改善を継続
まずは失注理由のカテゴリ設計とHubSpotへのプロパティ追加から始め、データの蓄積を開始することをおすすめします。3ヶ月分のデータが溜まれば、最初の本格的な失注分析が実施できます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 営業が失注理由を正確に記録してくれません。どうすればいいですか?
失注理由の記録を「必須」にする仕組みを作ることが重要です。HubSpotでは取引ステージを「失注」に変更する際に必須プロパティとして設定できます。また、ドロップダウン選択で記録の負荷を下げ、「3クリックで完了」レベルの簡易さにすることがポイントです。
Q2. 失注分析はどのくらいのデータ量から始められますか?
最低30〜50件の失注データがあれば、基本的なパターン分析が可能です。統計的に有意な分析には100件以上が望ましいですが、まずは少ないデータでも傾向を把握し、改善仮説を立てることが重要です。
Q3. 失注理由が「価格」ばかりの場合はどうすればいいですか?
「価格」は表面的な理由であることが多く、本当の理由が隠れている場合があります。「価格が合わなかった」の裏には「ROIが伝わらなかった」「決裁者に価値が伝わっていない」「予算の優先順位で他に負けた」などの根本原因があります。営業に「価格以外の理由は何だったか」を深掘りしてもらう仕組みを作りましょう。
Q4. HubSpotのどのプランで失注分析ができますか?
基本的な取引プロパティの設定と簡易レポートは全プランで可能です。カスタムレポートやダッシュボードを活用した本格的な分析にはSales Hub Professional以上が推奨されます。
Q5. 失注した顧客に再アプローチするのは効果的ですか?
はい、特に「タイミング不一致」や「予算の来期計上」で失注した案件は、再アプローチの成功率が高いです。失注後3〜6ヶ月後に適切なナーチャリングを行い、再アプローチすることで、新規リードよりも高い受注率が期待できます。
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著者情報
今枝 拓海 / Takumi Imaeda
株式会社StartLinkの代表取締役。
HubSpotのトップパートナーである株式会社H&Kにて、HubSpotのCRM戦略/設計/構築を軸として、 国内・外資系エンタープライズ企業へコンサルティング支援を実施。
パーソルホールティングス株式会社にて、大規模CRM/SFA戦略の策定・PERSOLグループ横断のグループAI戦略/企画/開発ディレクションの業務を遂行経験あり。
株式会社StartLinkでは、累計100社以上のHubSpotプロジェクト実績を元にHubSpot×AIを軸にした経営基盤DXのコンサルティング事業を展開。