「マーケティングがリードを渡しても営業がフォローしない」「営業から見ると、マーケが渡すリードの質が低い」——営業部門とマーケティング部門の間でこうした不満が生まれるのは、多くのBtoB企業で共通する課題です。
営業・マーケティング連携SLA(Service Level Agreement)とは、マーケティング部門と営業部門の間で「どのようなリードを」「いつまでに」「どのようにフォローするか」を明文化した合意のことです。 SLAを設計・運用することで、リードの引き渡しプロセスが明確になり、両部門の連携が劇的に改善します。
この記事では、SLAの設計方法からHubSpotでの実装、運用のポイントまで詳しく解説します。
多くのBtoB企業で見られる営業・マーケ間の課題は以下のとおりです。
| 課題 | マーケティング側の主張 | 営業側の主張 |
|---|---|---|
| リードの質 | 十分なリードを渡している | 質が低く商談にならない |
| フォロー速度 | リードを渡したのに対応が遅い | 優先度が判断できない |
| 定義の不一致 | MQLの基準は明確にしている | その基準が現場の感覚と合わない |
| 成果の帰属 | リード獲得に貢献している | 商談化は営業の努力 |
こうした課題の根本原因は、リードの定義・引き渡し基準・フォロープロセスが明文化されていないことにあります。SLAはこれらを解決する仕組みです。
SLAを導入することで、以下の効果が期待できます。
SLA設計の第一歩は、ライフサイクルステージを使ってリードの各段階を明確に定義することです。
| ステージ | 定義 | 担当部門 |
|---|---|---|
| サブスクライバー | メルマガ登録やニュースレター登録のみ | マーケティング |
| リード | フォーム送信や資料ダウンロードでコンタクト情報を取得 | マーケティング |
| MQL(Marketing Qualified Lead) | マーケティングが「営業フォローの価値あり」と判定 | マーケティング→営業 |
| SQL(Sales Qualified Lead) | 営業が「商談の可能性あり」と判定 | 営業 |
| 商談(Opportunity) | 具体的な提案・見積もりのフェーズ | 営業 |
| 顧客(Customer) | 受注・契約締結 | 営業→CS |
MQLの基準は、属性スコアと行動スコアの組み合わせで設計します。
属性スコア(最大40点)
| 項目 | スコア | 例 |
|---|---|---|
| 役職が決裁者レベル | +15 | 部長以上、役員 |
| ターゲット業種 | +10 | 製造業、IT |
| 従業員数が50名以上 | +10 | 中堅企業以上 |
| ターゲットエリア | +5 | 首都圏 |
行動スコア(最大60点)
| 項目 | スコア | 例 |
|---|---|---|
| 料金ページ閲覧 | +15 | 検討段階の強いシグナル |
| 事例ページ閲覧 | +10 | 導入検討の兆候 |
| 資料ダウンロード | +10 | コンテンツ関心 |
| メール開封・クリック(3回以上) | +10 | 継続的な関心 |
| ウェビナー参加 | +10 | 積極的な情報収集 |
| ブログ3記事以上閲覧 | +5 | 情報収集段階 |
MQL判定基準: 合計スコア 50点以上 → MQL化して営業に引き渡し
MQLが発生したら、営業に引き渡すプロセスを設計します。
| 項目 | SLA内容 |
|---|---|
| 通知方法 | HubSpotワークフローからSlack通知 + メール通知 + タスク自動作成 |
| 引き渡し情報 | コンタクト名、会社名、スコア、直近のアクティビティ、流入元 |
| 初回フォロー期限 | MQL化から24時間以内 |
| フォロー方法 | 電話 or メール(コンタクトの行動履歴に応じて選択) |
| フォロー回数 | 最低3回(初回→3日後→7日後) |
営業側が守るべきSLAも明確に定義します。
| SLA項目 | 基準値 | 測定方法 |
|---|---|---|
| 初回フォロー速度 | MQL化から24時間以内 | HubSpotのタスク完了時間 |
| フォロー完了率 | 引き渡しリードの95%以上 | ワークフロー完了率 |
| SQL判定期限 | MQL引き渡しから5営業日以内 | ライフサイクルステージ変更日 |
| フォロー結果の記録 | 全件CRMに記録 | コンタクトのアクティビティログ |
マーケティング側が守るべきSLAも定義します。
| SLA項目 | 基準値 | 測定方法 |
|---|---|---|
| 月間MQL創出数 | 月○件以上 | ライフサイクルステージレポート |
| MQL→SQL転換率 | 20%以上 | ファネルレポート |
| リード品質スコア | 平均50点以上 | スコアリングレポート |
| ナーチャリング完了率 | リードの70%以上をMQL化またはDisqualify | ナーチャリング進捗レポート |
HubSpotには標準でライフサイクルステージが搭載されています。「設定」→「プロパティ」→「ライフサイクルステージ」で各ステージの定義を確認・カスタマイズします。
デフォルトのステージは以下の通りです。
Marketing Hub Professional以上では、スコアリングを設定できます。
ワークフローを使って、スコア基準を満たしたリードを自動的にMQL化します。
ワークフロー設定例:
営業が期限内にフォローしたかを監視するワークフローも構築します。
フォロー遅延アラートワークフロー:
カスタムレポートを使って、SLAの達成状況を可視化するダッシュボードを作成します。
推奨レポート:
| レポート名 | 内容 | 種類 |
|---|---|---|
| 月間MQL創出数 | 月ごとのMQL数推移 | 棒グラフ |
| MQL→SQL転換率 | MQLからSQLへの転換率 | ファネルレポート |
| 初回フォロー速度 | MQL化からフォローまでの平均時間 | 数値レポート |
| 営業担当別フォロー完了率 | 担当者ごとのSLA達成率 | テーブルレポート |
| リード品質スコア分布 | MQLのスコア分布 | ヒストグラム |
| リードソース別SQL率 | 流入経路別のSQL転換率 | 棒グラフ |
営業・マーケティングの両部門が参加する週次ミーティングを実施し、以下をレビューします。
MQL基準は固定ではなく、実績データに基づいて四半期ごとに見直します。
営業が「今ではない」と判断したMQLをマーケティングに戻すリサイクルの仕組みも重要です。
HubSpotでは、カスタムプロパティ「リサイクル理由」を作成し、営業にリサイクル理由を記録してもらうことで、マーケティングのナーチャリング施策の改善にも活用できます。
問題: SLAを定義しても、運用・モニタリングをしなければ形骸化する
対策: ダッシュボードで常時可視化し、週次レビューで定期的にチェックする。SLA違反のアラート通知を自動化して、リアルタイムでの対応を促す。
問題: マーケティングが設定したMQL基準が、営業の実感と合わない
対策: 初期のMQL基準は営業と共同で設計する。運用開始後も、SQL転換率のデータに基づいて四半期ごとに基準を調整する。
問題: MQL数が多すぎて営業がフォローしきれない
対策: MQL基準を引き上げるか、営業人員を増やす。または、インサイドセールス(SDR/BDR)チームを設置して一次フォローを分担する。
問題: 営業が「今ではない」と判断したリードが放置され、再アプローチの機会を逃す
対策: リサイクルプロセスを明確に定義し、ワークフローで自動化する。リサイクルリードの再MQL化率もKPIとしてモニタリングする。
営業・マーケティング連携SLAは、BtoB企業のリード管理における最も重要な仕組みの1つです。
まずはMQLの定義と営業への引き渡しプロセスの合意から始め、段階的にSLAを拡充していくことをおすすめします。
営業とマーケティングがそれぞれ1名以上いる企業であれば、SLAの導入効果があります。少人数であっても、リードの定義とフォロープロセスを明文化しておくことで、属人化を防ぎスムーズな連携が可能になります。
最初は仮説ベースで設計し、3ヶ月程度運用した後にデータに基づいて調整するアプローチが現実的です。最初から完璧な基準を作ろうとすると導入が遅れます。まずは始めてみて、SQL転換率のデータを見ながら改善していくのが効果的です。
基本的なライフサイクルステージ管理は全プランで可能です。ただし、スコアリングやワークフロー自動化を活用したSLAの本格運用にはMarketing Hub Professional以上が必要です。
MQL→SDRフォロー→SQL判定→営業(AE)引き渡しという3段階のSLAになります。SDRにはMQLフォロー速度と接続率のSLA、営業(AE)にはSQL→商談化のSLAを設定します。HubSpotではチーム別のワークフローとダッシュボードで管理できます。
四半期に1回の見直しが推奨です。ただし、MQL→SQL転換率が大幅に低下(15%以下)した場合は、即座にMQL基準の見直しを行うべきです。市場環境やマーケティング施策の変化に応じて、柔軟に調整してください。