「営業の属人化を解消したい」「Excelでの案件管理に限界を感じている」「受注見込みの精度を上げたい」——こうした課題を抱えている企業は少なくありません。
セールスDX(営業のデジタルトランスフォーメーション) とは、CRM/SFAなどのデジタルツールを活用して営業プロセスそのものを変革し、データドリブンな意思決定と組織的な営業体制を構築する取り組みです。単なるツール導入ではなく、「人ではなく仕組みで解決する」設計思想が成功の鍵になってきます。
本記事では、CRM導入を軸としたセールスDX推進の5つのステップを、HubSpotの具体的な機能と合わせて解説します。
この記事でわかること:
セールスDXとは、営業活動にデジタル技術を導入して業務プロセスそのものを変革することです。既存の業務をデジタルに置き換える「IT化・デジタル化」とは本質的に異なります。
| 項目 | デジタル化(IT化) | セールスDX |
|---|---|---|
| 目的 | 既存業務の効率化 | 営業プロセス自体の変革 |
| 例 | 紙の名刺をExcelに入力 | CRMにデータを一元管理し、自動でナーチャリング |
| データ活用 | 手動集計・レポート | リアルタイムのダッシュボードで経営判断 |
| 成果 | 作業時間の削減 | 受注率向上・属人化解消・フォーキャスト精度向上 |
CRMは単なる「データベース」ではなく、営業プロセスの標準化・経営判断の基盤・部門間連携の仕組みとして捉えることが重要です。HubSpotのようなCRM/SFAを1つの業務アプリケーションとして活用することで、顧客管理から販売管理まで一気通貫で運用できるようになります。
セールスDXが求められる背景には、以下のような営業現場の課題があります。
1. 属人化による情報のブラックボックス化
トップ営業の商談ノウハウが共有されず、新人が同じ品質の営業活動を行えない状態です。担当者が退職すると顧客情報やコミュニケーション履歴が失われるリスクもあります。
2. Excel/スプレッドシート管理の限界
スプレッドシートで案件管理をしていると、手動更新に伴う入力漏れやリアルタイム性の欠如が問題になります。「こっちにも顧客リストがあり、一方で担当者マスターの方にもまた別の情報が入っていたり、差分が起きてしまう」という状況は、多くの企業で起きている課題です。
3. フォーキャスト(売上予測)の精度が低い
Excel管理では営業担当の主観的な報告に依存しがちで、「1000万の案件3件持ってます」と言われても、実際の受注確度が考慮されていないケースがあります。
4. 部門間の情報分断
マーケティングが獲得したリードの状況が営業に正しく伝わらない、営業の失注理由がマーケティングの改善に活かされないなど、部門間の連携が取れていない状態です。
これらの課題は、CRMを中心としたセールスDXによって仕組みとして解決できます。以下の5ステップで、具体的な進め方を見ていきましょう。
セールスDX推進の第一歩は、現在の営業プロセスを棚卸しして可視化することです。
まず、以下の観点で現状を整理します。
スプレッドシートで目標管理をしている場合、「今月2件問い合わせがあったので2と書いて、次に4になったので4と書いて」というように手動更新が必要です。これでは更新漏れが発生しやすく、リアルタイムの状況把握ができません。
また、スプレッドシートでは複数の情報ソースに同じ顧客データが散在し、差分が生まれやすいという構造的な問題があります。CRMに移行することで、コンタクト・会社・取引・チケットがリレーションデータベースとして紐づき、どこからでも横断的に情報を参照できるようになります。
この段階では、スプレッドシート上で以下を整理するのがおすすめです。
これは後ほどCRMのパイプラインとして実装する設計図になります。
セールスDXの中核となるCRM/SFAを選定する際は、以下の観点が重要です。
| 選定基準 | 確認ポイント |
|---|---|
| 一元管理 | コンタクト・会社・取引がリレーションDBで紐づくか |
| 自動化 | ワークフローで定型作業を自動化できるか |
| 可視化 | ダッシュボード・レポートでリアルタイムに状況把握できるか |
| 拡張性 | スモールスタートから段階的に機能を拡張できるか |
| コスト | 初期投資を抑えつつ成長に合わせたプラン変更ができるか |
CRMの本質的価値は 「一元管理」×「自動化」×「可視化」 の3つです。スプレッドシートでの管理からCRMに移行することで、過去のやり取りが一覧で確認でき、情報の分散を防ぐことができます。
いきなり全社展開するのではなく、段階的に導入することをおすすめします。
Phase 1: Starterプランで基盤構築
Phase 2: Professionalプランへの拡張
Phase 3: Enterpriseプランの検討
まずは小さく始めて、効果が見えたら段階的に拡張するアプローチが現実的です。「トライアルでまず試していただいて、本格的に使おうとなったら営業の方が広げていただく形がいいのかなと思います」。
HubSpotでは利用形態に応じたシート設計が可能です。
| シート種別 | 対象 | 費用 |
|---|---|---|
| 表示のみ | 経営層・管理部門(レポート閲覧のみ) | 無料 |
| コアシート | マーケ担当・基本機能利用者 | 有料 |
| Sales Hub有償シート | 営業担当者(Sales Hub固有機能) | 有料 |
経営層や代表の方がレポートを閲覧するだけであれば、無料の「表示のみ」シートで対応できます。全員にフルライセンスを付与する必要はなく、役割に応じたシート設計でコストを最適化できます。
パイプライン設計はCRM活用の「コア部分」です。ここの設計品質が、セールスDX全体の成否を左右すると言っても過言ではありません。
パイプラインは以下の4つの要素で設計します。
| 要素 | 内容 | 設計のポイント |
|---|---|---|
| 取引ステージ | 営業プロセスを時系列で分割 | 受注率が変化するポイントでステージを分ける |
| 角度(受注確度) | 各ステージの受注確率 | 加重金額でフォーキャストを正確に算出 |
| ステージ定義 | 各ステージの明確な説明 | 属人化を防ぎ、チーム内の認識を統一 |
| 必須入力プロパティ | ステージ移行時の入力必須項目 | データ品質を担保し、分析精度を向上 |
B2Bの王道パイプライン例:
アポ取得 → 初回提案 → 見積もり提示 → 受注内示 → 社内承認 → 契約締結 → 請求書発行(+ 失注)
各ステージに受注確率を設定することで、加重金額によるフォーキャストが可能になります。
例えば「1000万の案件を3件持っています」と営業担当が報告しても、それがすべてアポ取得段階(受注確度10%)であれば、フォーキャストは300万円程度です。この仕組みにより、経営目標の管理やフォーキャストの数字がずれなくなります。
各ステージの定義を明確にして社内共有することが重要です。
定義が曖昧だと、担当者ごとに「商談中」の基準が異なり、レポートの信頼性が低下します。
ステージ移行時に必須入力を設定することで、営業担当がデータ入力を怠ることを仕組みで防げます。「営業の方ですとなかなかちゃんとSFAに入れてねと言っても使いこなせなかったりするので、必須化する項目を決めてあげて」設定することが結構ミソになってきます。
必須入力の例:
この設計には営業育成の副次効果もあります。新人が入社した際、各ステージで何をヒアリング・入力すべきかがシステム上で明示されるため、営業プロセスの標準化と人材育成を同時に実現できます。
データの信頼性を担保するため、以下のようなルール設定も検討しましょう。
「受注日を受注した後にずらすとか金額を少し減らしてしまうと、レポート上で先月閉まった数値と違うということになる」ため、ガバナンス設計は結構重要なポイントです。
パイプラインの設計が完了したら、ワークフローによる自動化とAI活用で営業の生産性を高めます。
ワークフローは、セールスDXにおける「仕組み化」の中核機能です。以下のような自動化が代表的です。
通知の自動化:
ステージ管理の自動化:
ナーチャリングの自動化:
シーケンスは、営業個人からのメールに見える形で複数通のフォローメールを自動送信する機能です。メルマガとは異なり、「ちゃんと営業していただいてるなというのが分かる」コミュニケーションが特徴です。
使い分けの3段階:
| 方法 | 適するケース | ポイント |
|---|---|---|
| シーケンス | 数十〜300名規模の定型フォロー | テンプレ品質を上げれば新人でもベテラン並みのアプローチが可能 |
| 案件創出エージェント | AIリサーチ×パーソナライズメール | 100件規模でも1社ごとに調査した濃いメールが送れる |
| 自分で書く | 大型案件(数百万〜数千万規模) | 確度が高い案件はAIに任せず、しっかりリサーチして文章を書く |
シーケンスの運用数値感としては、「100名に登録してその中で10案件商談化し、その中から2件受注する」といったイメージです。社内で2〜3名がそれぞれシーケンスを作成し、一番反応が良かったものを採用するABテストも効果的です。
AI(HubSpotではBreezeと呼ばれる機能群)の活用は、セールスDXの次のフロンティアです。ただし、AIは「超一流の営業マン」ではなく「営業アシスタント」として捉えるのが現実的です。
AIが得意な業務:
人間が判断すべき業務:
重要なのは、AIの自律モードは使わず、必ず人間がレビューしてから送信することです。「基本的には送信前に確認がいいかなと思います。自動的に送信にしてもまだリスクがある」ため、確認プロセスを挟む運用がおすすめです。
また、案件創出エージェントで日本語のビジネスメールを生成する場合は、プロンプトに「丁寧語やビジネス的なお作法を守るルール」を入れてあげると、より実用的な出力になります。
データが蓄積されたら、ダッシュボードとレポートを活用してデータドリブンな経営判断を実現します。
ダッシュボードは目的ごとに分けて設計するのがベストプラクティスです。
| ダッシュボード | 主な用途 | 含めるレポート例 |
|---|---|---|
| 経営会議用 | 全社の売上・KPI進捗 | 受注金額推移、パイプライン総額、前年比較 |
| 営業会議用 | チーム・個人の実績管理 | 担当者別受注金額、フォーキャスト、アクティビティ |
| タスク管理用 | 日常の業務進捗 | タスク完了率、メンバー別タスク状況 |
| マーケ連携用 | リード・商談の流れ | リード数推移、チャネル別コンバージョン |
HubSpotのフォーキャスト機能を使えば、営業担当ごとの目標値と進捗をリアルタイムに可視化できます。
スプレッドシートで毎月手動更新していたKPI管理が、CRM上でリアルタイムに自動集計される状態になります。「まずは受注目標とか受注件数とか、やりやすいところから捉えていただければなと思います」。
レポートは以下の順番で構築していくのがおすすめです。
CRMのデータは常に更新されるため、時点データを固定化しておくことが重要です。HubSpotのダッシュボード定期配信(例: 毎週水曜朝8時にPowerPoint/PDF形式で送信)を活用すれば、「先月時点の受注予定金額」と「今月時点の受注予定金額」の比較が正確にできるようになります。
対策: まず1チーム・1部門でパイロット運用し、効果を実証してから段階的に展開します。「なかなか全てを一気に進めるのは難しいので、自社で効果が出そうなものを見極めて優先順位をつけてトライいただければなと思います」。
対策: プロパティ設計は管理者のみが変更できるよう権限を制限します。「よくあるSFAのあるあるで全然使っていない項目が大量にあったりとかする」状態を防ぐため、「項目が少ない方が集中できる」という設計哲学を持つことが大切です。
対策: 人に依存するのではなく、必須入力プロパティやワークフローで「仕組み」として解決します。一部システムで解決できない部分は運用面で補完するハイブリッドアプローチが現実的です。
セールスDXは、以下の5ステップで段階的に推進します。
まずはExcel/スプレッドシートで管理している営業プロセスの棚卸しから始めて、CRM導入はスモールスタートで段階的に進めましょう。CRMにデータが蓄積されるほどフォーキャストの精度が上がり、失注分析から得られる知見をマーケティングや製品開発にフィードバックできるようになります。
自社に最適なパイプラインを設計し、仕組みとして営業プロセスを標準化すること——これがセールスDX成功の結構ミソになってくるポイントです。
HubSpotの場合、Starterプランは月額1,800円(1シート)から導入できます。3名で利用しても月額約6,000円です。経営層がレポートを閲覧するだけなら無料の「表示のみ」シートが使えるため、全員にフルライセンスを付与する必要はありません。ワークフローやカスタムレポートが必要になった段階でProfessionalプランを検討するのが一般的な流れです。
HubSpotはCRM機能を無料で利用でき、スモールスタートが可能な点が特徴です。Salesforceと比較してもかなり遜色ない機能を備えており、UI/UXも近い体験で利用できます。まずHubSpotのスタータープランで始めて、将来的にSalesforceに移行するという選択肢もあります。自社の規模・予算・必要機能に応じて選定することが重要です。
データ入力の定着は「人の問題」ではなく「仕組みの問題」です。ステージ移行時の必須入力プロパティを設定し、入力しないと案件を先に進められない仕組みにすることが結構ポイントになってきます。項目数は最小限に絞り、営業担当が本当に必要なデータだけを入力する設計にしましょう。
小規模チームでも、早い段階からCRMを導入しておくことで、データの蓄積と営業ノウハウの組織化を始められます。むしろ人数が少ないうちの方が導入・定着がスムーズです。スプレッドシートよりも手軽に事業運営できる面もあり、創業期からCRMを活用している企業も増えています。
AIはCRMの基盤(パイプライン設計・データ入力の定着・レポート活用)が整った段階で導入するのが効果的です。基盤が整っていない状態でAIを入れても、質の低いデータから質の低いアウトプットしか得られません。まずはステップ1〜3をしっかり構築し、データが蓄積された段階で段階的にAI機能を活用していくのがおすすめです。