「営業、マーケ、カスタマーサクセスがそれぞれ別のKPIを追いかけていて、全社の収益がどう伸びているのか誰も把握できていない」「部門ごとにツールもデータも分断されていて、四半期のパイプラインレビューのたびにExcel集計に丸1日かかる」「マーケがリードを渡しても営業がフォローせず、CSが解約の兆候を掴んでも営業に共有されない」
こうした部門間の分断は、日本のBtoB企業ではもはや"当たり前"として放置されがちです。しかし、この構造的な問題こそが収益成長のボトルネックになっているとしたらどうでしょうか。海外では、この課題を根本から解決するアプローチとしてRevOps(レベニューオペレーションズ)が急速に浸透しています。
RevOps とは、営業オペレーション(Sales Ops)、マーケティングオペレーション(Marketing Ops)、カスタマーサクセスオペレーション(CS Ops)を統合し、収益プロセス全体を一つの組織・戦略として最適化する考え方です。Gartnerの調査によると、2025年までに高成長企業の75%がRevOpsモデルを採用すると予測されており、Revenue Operations は欧米のBtoB企業では経営の標準フレームワークになりつつあります。
一方、日本国内では「RevOps とは何か」を体系的に解説したコンテンツはほぼ存在しません。本記事では、レベニューオペレーションズの基本概念から組織設計、KPIフレームワーク、そして日本企業で収益オペレーションを実現するための具体的なステップまでを網羅的に解説します。
RevOps(Revenue Operations/レベニューオペレーションズ)とは、企業の収益に関わるすべてのオペレーション機能を統合し、部門横断で収益プロセスを設計・管理・最適化するフレームワークです。
従来、営業部門にはSales Ops、マーケティング部門にはMarketing Ops、カスタマーサクセス部門にはCS Opsがそれぞれ存在し、各部門の効率化を個別に担っていました。RevOps とは、これら3つのOps機能を一つに統合し、「収益」という共通目標に向けて全体最適を図るアプローチです。
RevOpsは以下の3つの柱で構成されます。
| 柱 | 対象領域 | 具体的な機能 |
|---|---|---|
| プロセス | 収益に関わる業務フロー | リード獲得→商談化→受注→オンボーディング→拡大の一気通貫設計 |
| プラットフォーム | データ基盤・ツール | CRM/SFA/MA/CSツールの統合管理、データガバナンス |
| 人・組織 | 体制・スキル・文化 | 部門横断KPI、統一レポーティング、RevOps専任チーム |
RevOps とは、単に「3つのOpsを1つにまとめた」だけではありません。根本的な思想が異なります。
| 比較項目 | 従来の部門別Ops | RevOps |
|---|---|---|
| 最適化の対象 | 各部門の効率 | 収益プロセス全体の効率 |
| KPI設計 | 部門別KPI(MQL数、受注率、解約率など) | 統一KPI(収益効率、パイプライン速度、NRRなど) |
| データ管理 | 部門ごとのツール・定義 | 統一データ基盤・共通定義 |
| レポートライン | 各部門長の配下 | CRO(Chief Revenue Officer)直下または経営直轄 |
| 意思決定 | 部門最適 | 全体最適 |
日本企業の多くが抱える部門間サイロ化は、見えにくいコストを生み出しています。
損失1:リードの取りこぼし(Revenue Leakage)
マーケが獲得したリードのうち、営業が実際にフォローするのは平均27%に過ぎないという調査データがあります。残り73%のリードは「引き渡しの溝」に落ちて消えていきます。MQLの定義がマーケと営業で一致していないことが主因です。
損失2:顧客体験の断絶
顧客からすれば、マーケ・営業・CSは同じ会社です。しかし部門が分断されていると、マーケで伝えた情報を営業に再度説明させられ、営業で合意した内容がCSに引き継がれないといった体験の断絶が生じます。これは解約率の上昇に直結します。
損失3:データの不整合と意思決定の遅延
各部門が異なるツール・異なる定義でデータを管理していると、経営レビューのたびに「数字の突き合わせ」に時間がかかります。あるSaaS企業では、四半期レビューの準備に営業企画が毎回40時間を費やしていたという事例もあります。
Revenue Operations 日本ではまだ黎明期ですが、海外ではすでに多くの実績データが蓄積されています。
| 指標 | RevOps導入企業の成果(海外調査) |
|---|---|
| 営業生産性 | 10〜20%向上 |
| 収益成長率 | 同業他社比で19%高い成長率 |
| 顧客獲得コスト(CAC) | 最大30%削減 |
| 売上予測精度 | 予測誤差が15〜25%改善 |
| 営業サイクル | 平均14%短縮 |
Gartnerの調査では、高成長企業の75%がRevOpsモデルを採用しており、収益オペレーションの統合が成長の前提条件になりつつあることが示されています。
RevOpsの組織設計は企業の規模やフェーズによって異なります。以下に代表的な3モデルを示します。
モデル1:集約型(Centralized)
CROまたはVP of Revenue Operationsの下に、Sales Ops・Marketing Ops・CS Opsの全機能を集約するモデルです。最もRevOpsの理想に近い形態で、300名以上の組織で採用されることが多いです。
モデル2:ハイブリッド型(Hub & Spoke)
RevOps統括者が戦略・データ基盤・レポーティングを一元管理し、各部門にはOps担当者を配置して実行を担わせるモデルです。100〜300名規模の組織に適しています。
モデル3:兼務型(Embedded)
専任のRevOps部門は設けず、既存のOps担当者が部門横断プロジェクトとしてRevOps機能を担うモデルです。100名未満のスタートアップや中小企業で現実的な選択肢です。
| スキル領域 | 具体的な能力 | 重要度 |
|---|---|---|
| データ分析 | BI構築、SQL、データモデリング | ★★★ |
| プロセス設計 | 業務フロー可視化、ボトルネック特定 | ★★★ |
| ツール管理 | CRM/SFA/MAの設定・運用・統合 | ★★★ |
| プロジェクトマネジメント | 部門横断プロジェクトの推進 | ★★☆ |
| ステークホルダー管理 | 経営層・各部門長との合意形成 | ★★☆ |
| 変革マネジメント | 組織文化の変革、現場の巻き込み | ★★☆ |
Revenue Operations 日本の文脈では、いきなり「CROを置いてRevOps部門を新設する」ことは現実的ではありません。多くの日本企業では以下のステップが有効です。
部門別KPIの最大の問題は、部分最適が全体最適と矛盾することです。
RevOps とは、こうした部門別KPIの矛盾を「収益」という統一軸で解消するフレームワークでもあります。
| KPI | 定義 | 計算式 | 対象部門 |
|---|---|---|---|
| 収益効率(Revenue Efficiency) | 投入コストに対する収益の効率 | ARR ÷(S&M費用 + CS費用) | 全部門 |
| パイプライン速度(Pipeline Velocity) | パイプラインが収益に変換される速度 | (商談数 × 平均単価 × Win Rate)÷ 平均営業サイクル日数 | 営業・マーケ |
| Win Rate(受注率) | 商談から受注への転換率 | 受注件数 ÷ 商談件数 × 100 | 営業 |
| 顧客生涯価値(LTV) | 顧客1社あたりの累計収益 | 平均月額収益 × 粗利率 ÷ 月次解約率 | CS・営業 |
RevOpsのKPIは、経営レベルの指標から現場のアクション指標まで、以下のようにカスケード(段階的分解)して設計します。
Level 1:経営KPI(四半期レビュー)
Level 2:統一KPI(月次レビュー)
Level 3:部門KPI(週次レビュー)
Level 4:活動KPI(日次管理)
重要なのは、Level 3〜4の部門別KPIが、Level 1〜2の統一KPIに直接つながっていることを全員が理解していることです。
RevOps導入の第一歩は、現在の収益プロセスを「リード獲得→商談化→受注→オンボーディング→継続/拡大」の一気通貫で可視化することです。
以下のワークシートを使って現状を整理しましょう。
| プロセス段階 | 担当部門 | 使用ツール | 主要KPI | データの所在 | 課題 |
|---|---|---|---|---|---|
| リード獲得 | マーケ | MA/広告/CMS | リード数、CPL | MAツール | 例:営業との定義不一致 |
| リード育成 | マーケ | MA/メール | 開封率、MQL数 | MAツール | 例:スコアリング未実装 |
| 商談化 | インサイドセールス | SFA | 商談設定数 | SFA | 例:MQL基準が曖昧 |
| 商談推進 | フィールドセールス | SFA | Win Rate、単価 | SFA+Excel | 例:Excel並行管理 |
| 受注・契約 | 営業+法務 | SFA/契約管理 | 受注金額 | 複数システム | 例:手作業が多い |
| オンボーディング | CS | CSツール | 完了率、TTV | CSツール/Excel | 例:営業との引き継ぎ漏れ |
| 継続・拡大 | CS+営業 | CSツール/SFA | NRR、解約率 | 複数システム | 例:アップセル機会の把握不足 |
現状が可視化できたら、次は部門間で共通のKPI定義を合意します。特に重要なのは以下の定義統一です。
この作業は、日本企業の稟議文化においては特に重要です。各部門長が「自部門のKPIが変わる」ことに抵抗を感じやすいため、経営層のトップダウンでの合意が不可欠です。
レベニューオペレーションズの実現において、データ基盤の統一は最も技術的かつ重要なステップです。
統一すべきデータ領域:
| データ領域 | 統一前の典型的な状態 | 統一後の理想状態 |
|---|---|---|
| 顧客マスタ | 部門ごとに別管理、重複あり | CRMに一元化、重複排除済み |
| 商談データ | SFA+Excel併用 | SFAに集約、入力ルール統一 |
| マーケデータ | MAツール内で完結 | CRMと双方向連携 |
| CSデータ | スプレッドシート管理 | CRM/CSツールと連携 |
| 財務データ | 会計システムで別管理 | CRMに受注・請求データを連携 |
データ統一においては、既存のExcel依存をどう脱却するかが日本企業の最大の課題です。一気にExcelを廃止するのではなく、「CRMを正(Single Source of Truth)とし、必要に応じてExcelにエクスポートする」運用ルールを設けることが現実的です。
データ基盤が整ったら、部門間のプロセス(ハンドオフ)を設計します。
重要なハンドオフポイント:
最後に、RevOpsの機能を組織に実装します。前述のとおり、日本企業では段階的なアプローチが有効です。
フェーズA(0〜3ヶ月):収益会議の設置
フェーズB(3〜6ヶ月):RevOps専任者のアサイン
フェーズC(6〜12ヶ月):RevOpsチームの構築
RevOpsの導入に成功している企業には、以下の共通点があります。
| 成功要因 | 具体的な行動 |
|---|---|
| 経営層のコミットメント | CEO/COOがRevOps導入をトップダウンで推進し、部門間の壁を崩す |
| データファーストの文化 | 感覚や経験ではなく、データに基づいて意思決定する文化を醸成する |
| 段階的なアプローチ | 一気に組織変革を行うのではなく、小さな成功を積み重ねる |
| テクノロジーへの投資 | 統一データ基盤となるCRM/SFAを全社的に導入・活用する |
| 変革マネジメント | 現場の不安に寄り添い、「なぜ変わるのか」を丁寧に伝え続ける |
失敗パターン1:ツール導入=RevOpsだと思ってしまう
CRMやBIツールを導入しただけでは、RevOpsは実現しません。ツールはあくまで手段であり、プロセスの統一と組織の意識改革が伴わなければ「高機能なサイロ」が増えるだけです。
失敗パターン2:部門KPIを残したままRevOps KPIを追加する
統一KPIを設定しても、部門別の評価制度を変えなければ、現場は依然として部門KPIを優先します。評価制度と報酬体系も含めた設計変更が必要です。
失敗パターン3:RevOps担当者に権限がない
RevOps担当者が「データを集計するだけの人」になってしまうケースです。プロセスの変更やツール設定の権限がなければ、RevOpsは機能しません。経営直轄のポジションとして位置づけることが重要です。
自社のRevOps成熟度を以下のチェックリストで診断してみましょう。
| 評価項目 | レベル1(未着手) | レベル2(部分的) | レベル3(統合済み) |
|---|---|---|---|
| KPI設計 | 部門ごとに独自KPI | 一部のKPIを共有 | 統一KPIで全部門が動く |
| データ基盤 | 部門別にツール・Excel | CRMは導入済みだが部分利用 | 統一プラットフォームで一元管理 |
| プロセス | 部門間の引き継ぎが属人的 | 一部のハンドオフにSLAあり | 全プロセスにSLAとフィードバックループ |
| 組織体制 | Ops機能が各部門に散在 | 部門横断の定例会議あり | RevOps専任チームが存在 |
| テクノロジー | ツール乱立・連携なし | 一部ツール間で連携あり | 統一データ基盤+自動化 |
| 文化 | 部門最適の意識が強い | 全社収益への意識が芽生え | 収益チームとしての一体感 |
レベル1が多い場合:まずステップ1(現状可視化)から開始しましょう。
レベル2が多い場合:ステップ2〜3(KPI統一・データ統一)に注力するフェーズです。
レベル3が多い場合:RevOps専任チームの構築とKPIの高度化に進みましょう。
RevOps(レベニューオペレーションズ)とは、営業・マーケティング・カスタマーサクセスのオペレーション機能を統合し、収益プロセス全体を最適化するフレームワークです。海外ではすでに高成長企業の標準モデルとなっており、Revenue Operations 日本でも今後急速に浸透することが予想されます。
RevOps導入のポイントを改めて整理します。
収益オペレーションの統合は一朝一夕では実現しませんが、小さな一歩から始めることで確実に成果につながります。まずは「収益プロセスの可視化」と「部門横断の収益会議」から着手してみてください。
なお、RevOpsの実現を支えるテクノロジー基盤として、HubSpot Operations Hubのような統合プラットフォームを活用することで、データ同期・プロセス自動化・レポーティングの統一を効率的に進めることも選択肢の一つです。
A. RevOpsの考え方は企業規模に関係なく適用可能です。むしろ、組織がコンパクトな中小企業のほうが部門間の壁が低く、迅速にRevOpsモデルに移行できるメリットがあります。専任チームを設けなくても、営業・マーケ・CSの責任者が共通KPIで週次レビューを行うだけで、収益オペレーションの第一歩になります。
A. CRO(Chief Revenue Officer)は「役職」であり、RevOpsは「機能・フレームワーク」です。CROはRevOps戦略の最終責任者として位置づけられることが多いですが、CROがいなくてもRevOpsの機能は導入可能です。日本企業では、経営企画部門や営業企画部門がRevOps機能を担うケースが現実的です。
A. 企業規模や現在のツール・プロセスの状況によりますが、一般的には6〜18ヶ月が目安です。最初の3ヶ月で収益プロセスの可視化とKPI統一、次の3〜6ヶ月でデータ基盤の統合、その後6〜12ヶ月で組織実装と定着化という段階を踏むのが標準的です。
A. まずは営業・マーケ・CSの責任者を集めた「収益会議」を週次で開催することから始めてください。各部門のKPIを持ち寄り、パイプラインの状況を共有するだけでも、部門間の分断を認識し解消する第一歩になります。データ基盤やツールの統合は、その次のステップです。
A. RevOpsの原則(部門横断の統一KPI、データ基盤の統合、プロセスの最適化)は、日本企業にも十分適用可能です。ただし、稟議文化や部門間の縦割り意識が強い組織では、トップダウンの推進力と段階的な導入アプローチが不可欠です。欧米のフレームワークをそのまま輸入するのではなく、日本企業の文脈に合わせてカスタマイズすることが成功の鍵です。