「営業企画って結局何をする部門なの?」「営業部長の雑務係になってしまっている」「データ分析をやれと言われたが、何から手をつけていいか分からない」——営業企画のポジションに就いた人が最初にぶつかる壁です。
営業企画とは、営業組織が持続的に成果を出すための「戦略立案・施策設計・効果検証」を担う機能です。 営業担当者が「目の前の商談をどう受注するか」に集中する一方で、営業企画は「組織全体としてどう売上を最大化するか」を中長期的な視点で設計し、データに基づいて改善し続ける役割を果たします。
本記事では、営業企画部門の役割を明確に定義したうえで、戦略立案のフレームワーク、施策設計の具体的な手順、効果検証(ROI分析)の方法、そして営業データ分析のポイントまでを体系的に解説します。
本記事はStartLinkの「BtoBマーケティング完全ガイド」関連記事です。
営業企画の仕事は、大きく「戦略立案」「施策設計」「効果検証」の3つに分類されます。この3つが循環的に回ることで、営業組織のPDCAが機能します。
「どの市場で」「どのように」勝つかを決めること。これが営業企画の最上位の役割です。
具体的には以下のような問いに答えます。
戦略を「具体的な施策」に落とし込むこと。戦略は抽象的なままでは現場に伝わりません。
具体的には以下のような業務です。
施策の成果をデータで検証し、次の戦略・施策にフィードバックすること。これがなければPDCAが「PD」で止まります。
具体的には以下のような業務です。
市場規模を3つのレイヤーで定義し、自社が現実的に狙える市場を特定するフレームワークです。
| レイヤー | 定義 | 例(法人向けCRMツールの場合) |
|---|---|---|
| TAM(Total Addressable Market) | 理論上の最大市場規模 | 日本国内の全法人(約380万社) |
| SAM(Serviceable Available Market) | 自社が提供可能な市場 | 従業員50〜500名のBtoB企業(約15万社) |
| SOM(Serviceable Obtainable Market) | 現実的に獲得可能な市場 | 上記のうちCRM未導入 or 乗り換え検討中(約3万社) |
営業企画が犯しがちな間違いは、TAMの大きさに目を奪われて「市場は大きい」と判断してしまうことです。重要なのはSOMの精度であり、「今の営業リソースで、向こう12ヶ月で現実的にアプローチできる市場はどこか」を特定することが戦略の出発点です。
SWOT分析は古典的なフレームワークですが、営業企画では「クロスSWOT」まで踏み込むことで実践的な示唆が得られます。
| 機会(O) | 脅威(T) | |
|---|---|---|
| 強み(S) | SO戦略:強みを活かして機会を掴む | ST戦略:強みで脅威に対抗する |
| 弱み(W) | WO戦略:弱みを克服して機会を活かす | WT戦略:弱みと脅威の影響を最小化する |
たとえばHubSpotの場合、「UIの使いやすさ」と「無料CRMからの段階的アップグレードモデル」が強みであり、「中堅〜大企業のDX投資増加」という機会との掛け合わせ(SO戦略)として「無料CRMで中堅企業の門戸を広げ、使い始めてからアップグレードさせる」という戦略を展開しています。
3C分析は、営業戦略の「方向性」を決めるための基本フレームワークです。
Customer(顧客)分析のポイント:
Competitor(競合)分析のポイント:
Salesforceが公表している「State of Sales」レポートによれば、トップパフォーマーの営業組織は競合分析を少なくとも四半期に一度更新しており、営業企画部門がこの分析を主導しているケースが多いとされています。
Company(自社)分析のポイント:
戦略を「実行可能な施策」に分解する手順を、テンプレートとともに解説します。
「売上を増やす」ではなく、「来期の売上目標3億円を達成するために、月間受注数を25件にする」というレベルまで分解します。
逆算モデル(ファネル設計):
| 指標 | 現状 | 目標 | ギャップ |
|---|---|---|---|
| 年間売上目標 | 2.4億円 | 3億円 | +6,000万円 |
| 月間受注数 | 20件 | 25件 | +5件 |
| 月間商談数(受注率20%) | 100件 | 125件 | +25件 |
| 月間SQL数(商談化率50%) | 200件 | 250件 | +50件 |
| 月間MQL数(SQL化率40%) | 500件 | 625件 | +125件 |
| 月間リード数(MQL化率25%) | 2,000件 | 2,500件 | +500件 |
この逆算により、「月間リード数を500件増やす必要がある」という具体的な課題が見えます。あるいは、「リード数を増やすのではなく、受注率を20%→24%に上げれば目標達成できる」という別のアプローチも検討できます。
目標達成のために考えられる施策を網羅的に洗い出し、「インパクト × 実現性」のマトリックスで優先順位を付けます。
| 施策 | インパクト | 実現性 | 優先度 |
|---|---|---|---|
| 展示会出展(年2回 → 4回に増加) | 高 | 中(予算要) | A |
| ウェビナーの定期開催(月2回) | 中 | 高 | A |
| 営業プロセスの改善(受注率向上) | 高 | 中(時間要) | A |
| 新規ターゲット業種への進出 | 高 | 低(知見不足) | B |
| 既存顧客向けアップセルキャンペーン | 中 | 高 | A |
| 営業人員の増員(2名追加採用) | 高 | 低(コスト・育成期間) | B |
優先度Aの施策から着手し、Bは次のフェーズで検討するのが鉄則です。
各施策に対して、「何を持って成功とするか」のKPIを事前に設定します。
ウェビナー施策のKPI例:
| 指標 | 目標 | 測定方法 |
|---|---|---|
| 参加者数 | 1回あたり50名 | ウェビナーツール(Zoom Webinar等)の参加データ |
| 参加者→MQL転換率 | 30% | CRM上でのMQLフラグ付与率 |
| MQL→商談化率 | 20% | CRM上での取引作成率 |
| 商談→受注率 | 15% | CRM上での受注クローズ率 |
| 施策ROI | 300%以上 | (受注売上 - 施策コスト)÷ 施策コスト |
施策ごとに「誰が・いつまでに・何をするか」を明確にした実行計画を策定します。
ウェビナー施策の実行計画例:
| タスク | 担当 | 期限 | 成果物 |
|---|---|---|---|
| テーマ・登壇者の決定 | 営業企画 | 開催4週間前 | 企画書 |
| LP・フォーム作成 | マーケティング | 開催3週間前 | LP公開 |
| 集客メール配信 | マーケティング | 開催2週間前 | メール配信完了 |
| SNS・広告での告知 | マーケティング | 開催2週間前〜当日 | 広告配信 |
| 登壇資料作成 | 登壇者 + 営業企画 | 開催1週間前 | スライド完成 |
| リハーサル | 登壇者 + 運営 | 開催3日前 | リハ完了 |
| 当日運営 | 営業企画 | 開催当日 | — |
| 参加者フォロー(メール + 架電) | インサイドセールス | 開催翌日〜3日以内 | CRM入力完了 |
| 効果検証レポート作成 | 営業企画 | 開催2週間後 | レポート |
営業企画の仕事の中で、最も軽視されがちで、かつ最も重要なのが「効果検証」です。施策を打つだけ打って検証しない組織は、同じ失敗を繰り返します。
営業施策のROIは、以下の基本式で計算します。
ROI(%)= (施策による売上増分 - 施策コスト) ÷ 施策コスト × 100
例:ウェビナー施策のROI
複数の施策が同時に走っている場合、「どの施策が受注に貢献したか」を正確に把握するのは容易ではありません。これがアトリビューション分析の課題です。
| モデル | 説明 | 適するケース |
|---|---|---|
| ファーストタッチ | 最初の接点に100%の貢献を帰属 | リードジェネレーション施策の評価 |
| ラストタッチ | 受注直前の接点に100%の貢献を帰属 | クロージング施策の評価 |
| 線形 | すべての接点に均等に貢献を配分 | 全施策の相対的な貢献度を見たい場合 |
| U字型 | 最初と最後の接点に40%ずつ、中間に20%を配分 | リード獲得とクロージングの両方を重視 |
HubSpotのMarketing Hub ProfessionalおよびEnterprise には、マルチタッチアトリビューションレポート機能が搭載されており、上記のモデルを切り替えて施策の貢献度を分析できます。Marketo(Adobe)やPardot(Salesforce Marketing Cloud Account Engagement)も同様の機能を提供しています。
| 判定 | 基準 | アクション |
|---|---|---|
| 継続 | ROI 200%以上 + KPI達成率80%以上 | 予算を維持または拡大 |
| 改善 | ROI 100〜200% or KPI未達だが改善余地あり | 原因分析→改善策を実行して次回検証 |
| 中止 | ROI 100%未満 + 改善余地が限定的 | 予算を他の施策に再配分 |
パイプライン分析は、営業企画の最も基本的な分析業務です。
見るべき指標:
| 指標 | 意味 | 活用方法 |
|---|---|---|
| パイプライン総額 | 現在進行中の全商談の合計金額 | 売上目標に対する達成見込みの把握 |
| パイプライン倍率 | パイプライン総額 ÷ 売上目標 | 3倍以上が健全(受注率33%前提) |
| ステージ別滞留日数 | 各ステージでの平均滞在日数 | ボトルネックの特定 |
| ステージ別転換率 | 次のステージに進む割合 | 改善すべきフェーズの特定 |
| 加重パイプライン | 各案件の金額 × 受注確度 の合計 | より精度の高い売上予測 |
受注した案件と失注した案件の違いを分析することで、「勝てる条件」を特定します。
分析の切り口:
Gartnerのリサーチによれば、Win/Loss分析を定期的に実施している営業組織は、そうでない組織と比較して受注率が15〜20%高い傾向にあるとされています。営業企画がこの分析を主導し、結果を営業チームにフィードバックする仕組みを構築することが重要です。
営業担当者の「活動量」と「成果」の相関を分析します。
| 活動指標 | 成果指標 | 分析の目的 |
|---|---|---|
| 架電数 | アポ獲得数 | 架電の質の評価 |
| 商談数 | 受注数 | 商談の質の評価 |
| メール送信数 | 返信率 | メールの効果測定 |
| 提案書作成数 | 提案→受注率 | 提案の質の評価 |
| 既存顧客訪問数 | アップセル/クロスセル受注数 | 既存深耕の効果測定 |
注意すべき点は、活動量が多いことが必ずしも良いわけではないということです。「架電を1日100件しているが、アポが月2件しか取れない」営業と、「架電は1日30件だがアポが月10件取れる」営業では、後者のほうが明らかに生産性が高い。営業企画は「量」ではなく「質×量」で営業活動を評価するフレームワークを設計する必要があります。
既存顧客のデータを分析し、「最も収益性の高い顧客セグメント」を特定します。
| セグメント | 分析項目 | 営業企画への示唆 |
|---|---|---|
| 業種 | 業種別のLTV・解約率 | 注力すべき業種の特定 |
| 企業規模 | 規模別の平均単価・商談期間 | ターゲティング精度の向上 |
| 地域 | 地域別の受注率・訪問効率 | テリトリー設計の最適化 |
| 導入商材 | 商材別の満足度・アップセル率 | クロスセル戦略の設計 |
データ分析に時間をかけすぎて、「レポートは美しいが施策に落ちていない」状態に陥るパターンです。分析は「施策の意思決定」のための手段であり、それ自体が目的ではありません。
対策:すべての分析に「So What?(だから何?)」を付ける。「受注率が20%だった」→「So What?」→「課題深掘りフェーズの転換率が低いため、ヒアリングスクリプトの改善が必要」——ここまで落とし込んで初めて分析の価値が生まれます。
営業企画が会議室の中だけで戦略を作り、現場の営業担当者が「実態と合っていない」と感じるパターンです。
対策:営業企画のメンバーが定期的に商談に同席する。月に2〜3件は自ら商談を行う。現場感覚を持たない営業企画は、的外れな施策を量産するリスクがあります。
「やりたいこと」が多すぎて、すべてに手を出した結果、どの施策も中途半端に終わるパターンです。
対策:四半期の重点施策は最大3つに絞る。限られたリソースを集中投下し、確実に成果を出してから次の施策に移る。
「忙しいから」「次の施策の準備に入らないと間に合わないから」という理由で効果検証がスキップされるパターンです。これが続くと、営業企画は「やりっぱなしの施策製造部門」に堕落します。
対策:施策の企画書に「効果検証の方法・基準・担当者・期限」を必須項目として含める。効果検証なしでは次の施策を承認しないルールを設ける。
営業企画が「改善すべき点」を指摘するポジションになると、営業部門から「現場を知らないくせに口だけ出す」と反発される場合があります。
対策:営業企画の仕事を「管理・監視」ではなく「営業が売りやすくなる環境を整える支援」と位置づける。施策の提案時には「営業チームの工数がどれだけ減るか」「どれだけ売りやすくなるか」を明確に伝える。
営業企画にとって最も重要なCRM機能は「ダッシュボード」です。経営層・営業マネージャー・営業担当者それぞれに適した情報が、リアルタイムで可視化される状態を作ることが営業企画の仕事です。
経営層向けダッシュボード:
マネージャー向けダッシュボード:
営業担当者向けダッシュボード:
HubSpotのダッシュボード機能は、ドラッグ&ドロップで直感的にレポートを配置でき、IT部門の支援なしで営業企画が自ら設計・更新できるのが強みです。
営業企画が設計したプロセスを、CRMのワークフロー機能で自動化することで、「設計しただけで終わる」状態を防ぎます。
自動化の例:
明確な定義の違いはなく、企業によって役割の境界は異なります。一般的な傾向として、営業企画は「戦略・施策の設計」に重点があり、営業推進は「施策の実行支援・営業ツールの整備・CRM運用」に重点がある場合が多いです。中小企業では、営業企画と営業推進を兼務するケースが大半です。
「データ分析力」「戦略的思考力」「コミュニケーション力」の3つが柱です。データ分析力はExcel/スプレッドシートの中級レベル(ピボットテーブル・VLOOKUP)が最低ライン、理想的にはBIツール(Looker Studio、Tableau等)やCRMのレポート機能を使いこなせるレベルです。戦略的思考力はフレームワーク(3C、SWOT、TAM/SAM/SOM等)を実務に適用できること。コミュニケーション力は、経営層への報告と現場への施策展開の両方ができることを指します。
営業企画自身が直接売上を上げるわけではないため、評価は「営業組織全体の成果への貢献度」で行います。具体的には、施策ごとのROI、パイプラインの質(受注率・平均単価の改善)、営業プロセスの効率化指標(商談サイクルの短縮・フォロー漏れの削減等)などが評価指標になります。
専任のポジションとしては不要な場合が多いですが、「営業企画の機能」は5人以上の営業組織なら必ず必要です。営業マネージャーやCOOが兼務する形でも構いませんが、「データに基づいた戦略立案と効果検証」のサイクルが回っていなければ、組織として改善が進みません。
最優先は「現状の可視化」です。パイプラインの全体像、受注率・失注理由の分類、営業活動量と成果の相関——これらを正確に把握することが、すべての施策の出発点になります。CRMにデータが蓄積されていない場合は、まずCRMの導入と入力ルールの整備から始めてください。
営業企画は、営業組織の「頭脳」として機能すべきポジションです。
ポイントを振り返ります。
営業企画は「施策を打つ部門」ではなく、「組織の営業力を構造的に引き上げる仕組みを作る部門」です。データと現場の両方に軸足を置き、戦略と実行をつなぐ架け橋として機能させることが、営業組織全体のパフォーマンス向上に直結します。
営業企画の体制構築やCRM活用に関するご相談は、CRM特化型コンサルティングのStartLinkまでお気軽にお問い合わせください。
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