SalesforceからHubSpotへの移行を検討している企業は年々増えています。HubSpotの直感的なUIやオールインワン設計に魅力を感じつつも、「データは正しく移行できるのか」「運用が止まらないか」「チームは使いこなせるのか」といった不安を抱える担当者は少なくありません。
実際、CRM移行プロジェクトは事前準備の質で成否が大きく分かれます。移行手順を正しく理解し、ありがちな落とし穴を事前に把握しておけば、スムーズな移行は十分に実現可能です。
本記事では、SalesforceからHubSpotへの移行を「計画・設計・データ移行・定着」の4フェーズに分け、プロパティマッピングから関連付けの復元、チームトレーニングまで、実務で本当に必要な知識を網羅的に解説します。
本記事はStartLinkの「HubSpot完全ガイド」関連記事です。
CRM移行を成功させるには、全体像を正しく把握したうえで段階的に進めることが重要です。移行プロジェクトは大きく4つのフェーズに分かれます。
移行の目的・範囲・スケジュールを明確にするフェーズです。ここで決めるべきことは以下の通りです。
計画フェーズで最も重要なのは「移行しないもの」を決めることです。Salesforceで長年運用していると、使われていないカスタムフィールドや形骸化した自動化処理が蓄積しているケースが大半です。移行を機にデータをクレンジングし、本当に必要な情報だけをHubSpotに持っていく判断が、移行後の運用品質を大きく左右します。
HubSpot側の環境設計とプロパティマッピングを行うフェーズです。
実際のデータ移行を実行するフェーズです。テスト移行 → 本番移行の2段階で進めます。
チームがHubSpotを日常的に使いこなせるようにするフェーズです。
全体のスケジュール目安は2〜4ヶ月です。データ量やカスタマイズの複雑さに応じて変動しますが、余裕を持ったスケジュール設計をおすすめします。
移行プロジェクトで最もトラブルが発生しやすいのが事前準備の不備です。特にバックアップとユーザー作成の順序は、誤ると深刻な問題に発展します。
移行作業を開始する前に、SalesforceとHubSpot双方のバックアップデータを必ず取得してください。
Salesforceのバックアップで特に注意すべき点は関連付け履歴のエクスポートです。Salesforceでは関連付け履歴をエクスポートするために追加オプションの契約と事前設定が必要な場合があります。これを見落とすと、移行中に関連付けが消失した際にデータの復元が極めて困難になります。
バックアップすべきデータの例を以下に示します。
移行先のHubSpotで先にユーザーを作成してからデータ移行を行う必要があります。この順序を逆にすると、移行したレコードの担当者が「不明」になる問題が大量に発生します。
正しい順序:
誤った順序(NG):
Salesforceの全データをそのまま移行するのではなく、事前に「何を移行するか」を明確に決めてから作業に着手してください。
移行対象を事前に精査するメリットは以下の通りです。
推奨手順としては、まずSalesforceの全項目をリストアップし、HubSpotで本当に必要な項目だけを選定します。不要な項目は連携対象から除外してから、移行作業に入ります。
SalesforceとHubSpotの同期には「双方向同期」と「片方向同期」の2種類があり、どのタイミングで切り替えるかを事前に計画する必要があります。
| フェーズ | 推奨設定 | 理由 |
|---|---|---|
| 移行中 | 片方向(SF→HS) | 移行データを正確に反映するため |
| 並行運用中 | 双方向 | 両システムのデータ整合性を保つため |
| HubSpot完全移行後 | 同期停止 | Salesforceの利用を終了するため |
双方向同期を設定した状態でHubSpot側のデータを編集すると、Salesforceの自動同期が走ってデータが上書きされるケースがあります。同期方向の設定ミスは編集履歴も残らないため、どちらが正のデータか分からなくなる深刻な問題に発展します。
プロパティマッピングは移行プロジェクトの核となる作業です。SalesforceとHubSpotではオブジェクト構造やデータ型が異なるため、正確な対応表を作成する必要があります。
SalesforceとHubSpotの主要オブジェクトは以下のように対応します。
| Salesforceオブジェクト | HubSpotオブジェクト | 備考 |
|---|---|---|
| リード(Lead) | コンタクト(Contact) | HubSpotではリードと取引先責任者がコンタクトに統合 |
| 取引先責任者(Contact) | コンタクト(Contact) | 同上 |
| 取引先(Account) | 会社(Company) | |
| 商談(Opportunity) | 取引(Deal) | パイプライン設計は別途必要 |
| 行動(Event) | ミーティング(Meeting) | カスタム項目は制限あり |
| ToDo(Task) | タスク(Task) | |
| ケース(Case) | チケット(Ticket) | Service Hubが必要 |
| キャンペーン(Campaign) | キャンペーン / カスタムオブジェクト | 後述の注意事項を参照 |
注意すべきポイント: SalesforceのリードとContact(取引先責任者)はHubSpotでは全て「コンタクト」に統合されます。両方を移行する場合は項目名で元のオブジェクトを識別できるようにしておくと、移行後の運用で混乱を避けられます。例えば「会社名(リード)」「会社名(取引先責任者)」のように命名を分けるのが実務上の定石です。
SalesforceとHubSpotではデータ型の仕様が異なるため、以下の変換ルールを把握しておく必要があります。
| Salesforceのデータ型 | HubSpotでの変換先 | 注意点 |
|---|---|---|
| テキスト | 単行テキスト / 複数行テキスト | 文字数制限の違いに注意 |
| 選択リスト | ドロップダウン選択 | 選択肢の値を事前に設定 |
| 複数選択リスト | 複数チェックボックス | セミコロン区切りでインポート |
| 数値 | 数値 | 小数点以下の桁数に注意 |
| 通貨 | 数値 | HubSpotでは通貨専用型がないため数値型で代替 |
| 日付 | 日付選択 | フォーマットの統一が必要(YYYY-MM-DD推奨) |
| 日時 | 日時 | タイムゾーンの変換に注意 |
| チェックボックス | 単一チェックボックス | true/false → はい/いいえ |
| 数式項目 | 単行テキスト(自動変換時) | 計算プロパティで再構築が必要 |
| 参照項目 | 単行テキスト(自動変換時) | 関連付けまたは適切なプロパティで再設計 |
特に注意が必要なのは数式項目と参照項目です。HubSpotのSalesforce連携アプリ(公式)を使って移行した場合、Salesforceの数式項目・参照項目はHubSpotでは単行テキストとして連携されます。数式項目はデータではなくロジックなので、HubSpotの計算プロパティで再構築する必要があります。
Salesforceで「レコードタイプ」を使用している場合は、HubSpotでの再現方法を設計する必要があります。レコードタイプごとに異なるページレイアウトや入力規則が設定されている場合、HubSpotでは以下の方法で対応します。
Salesforce連携アプリでは自動で作成されないプロパティが存在します。連携アプリを過信して確認を怠ると、移行漏れに気づかないまま運用を開始してしまう事態になります。
過去の移行プロジェクトでは、Usonar連携の項目が全く連携されておらず、後から手動で関連付けを実施したケースがあります。連携アプリ実行後には必ず以下の突合チェックを行ってください。
データ移行の方法は大きく2つあります。HubSpot公式のSalesforce連携アプリを使う方法と、CSVインポートによる手動移行です。
HubSpotが提供する公式のSalesforce連携アプリを使えば、主要なオブジェクトを自動同期できます。
連携アプリで移行できるもの:
連携アプリで移行できないもの:
連携アプリで対応できないデータや、より細かいコントロールが必要な場合はCSVインポートを使います。
データ移行には守るべき順序があります。親オブジェクトから先に移行しないと、関連付けが正しく設定できません。
SalesforceとHubSpotではアクティビティの仕様に重要な違いがあります。
アーカイブ期間の制限: 連携アプリでの同期対象は1年以内の活動に限定されます。1年以上前の活動を移行したい場合は、事前にSalesforceへ申請してアーカイブ期間を最長10年まで延長する必要があります。
タイトル(名前)の設定: Salesforceではコール名やミーティング名を手動で設定できますが、HubSpotではGUI上での設定ができません(インポートでは設定可能)。代わりに「コール・ミーティングのタイプ」で分類することが推奨されます。
カスタム項目の制限: HubSpotではアクティビティのカスタム項目設定に制限があります。Salesforceで日報として活動を使用しているなど、カスタム項目が多い場合はカスタムオブジェクトを作成して移行するのが一般的な手法です。
Salesforceのリードや取引先責任者の中にメールアドレスがないレコードがある場合、連携アプリでは移行されません。これらのレコードが業務上必要であれば、CSVインポートで手動移行を実施してください。
CRM移行で最も見落としやすく、かつ修復困難なのが関連付け(Association)の消失です。
SalesforceとHubSpotが連携された状態でHubSpot側のレコードを削除すると、Salesforce側でもレコード間の関連付けが大量に削除されることがあります。バックアップがなければ、一度外れた関連付けの復元は極めて困難です。
連携アプリを使った移行では、関連付けが維持されるケースもありますが、確実ではありません。特にアクティビティやカスタムオブジェクトでは関連付けが正しく移行されないことが多いです。
連携アプリ実行後には必ず以下を確認してください。
欠落が見つかった場合は、手動インポートで補完します。
手動で関連付けを復元する場合、CSVファイルに正確なIDの紐付けを記載してインポートします。
なお、カスタム項目の関連付けは各オブジェクトで1式までという制限があるため、複雑な関連付けの完全再現は難しいケースがあります。
SalesforceとHubSpotでは「キャンペーン」の概念と機能が根本的に異なります。この違いを理解せずに移行すると、移行後に大きな運用ギャップが生まれます。
HubSpotのキャンペーンはオブジェクトではないため、以下の制限があります。
Salesforceのキャンペーン機能を忠実に再現したい場合は、HubSpotのカスタムオブジェクトで「キャンペーン」と「キャンペーンメンバー」を作成して移行する必要があります。ただし、HubSpotのマーケティングキャンペーン機能でカバーできる範囲であれば、わざわざカスタムオブジェクトを作成する必要はありません。移行前に「現状のキャンペーン運用の何が本当に必要か」を整理することが重要です。
Salesforceの添付ファイルは、連携アプリでもCSVインポートでも移行できません。手動で一つずつアップロードする必要があります。
ファイル数が多い場合は相当な工数が必要になるため、事前に優先順位を決めておくことを推奨します。直近1〜2年以内のファイルのみを移行し、古いファイルはSalesforce上で閲覧可能な状態を維持する(一定期間の並行運用)という判断も選択肢の一つです。
また、GAS(Google Apps Script)を使って添付ファイルのアップロードを自動化する方法もあります。ファイル数が数百〜数千件に及ぶ場合は、自動化スクリプトの開発コストを投じたほうがトータルコストは下がります。
Salesforceの自動化処理(フロー、プロセスビルダー、Pardotのシナリオ等)は、HubSpotでは全てワークフローに統合して再構築します。
| Salesforceの自動化機能 | HubSpotでの移行先 |
|---|---|
| シナリオ(Pardot / Account Engagement) | ワークフロー |
| フロー | ワークフロー |
| プロセスビルダー | ワークフロー |
| 入力規則 | プロパティの入力規則 / ワークフロー |
| 承認プロセス | ワークフロー + 承認アクション |
移行前に既存の自動化処理を棚卸しすると、使われていないフローや重複した処理が見つかることが多いです。移行を機にスリム化することで、HubSpotでの運用開始後のメンテナンスコストを大幅に削減できます。
Salesforce連携後、ユーザーを参照するプロパティが2種類作成されます。
| プロパティ | 参照先 |
|---|---|
| XXX(Salesforce) | Salesforceのユーザー |
| XXX | HubSpotのユーザー |
移行完了後はHubSpot側のプロパティを使用するように、ワークフロー・ビュー・レポートの設定を全て変更してください。Salesforceを参照するプロパティのままだと、Salesforce解約後にデータが参照できなくなります。
HubSpotの「会社を自動関連付け・新規作成」機能をONにすると、コンタクトのメールドメインから自動的に会社レコードが作成されます。この機能は便利ですが、移行時には深刻な問題を引き起こす可能性があります。
この機能を使用する場合は、必ず以下のワークフローを設定してください。
このワークフローがないと、会社名もドメインもない空の会社レコードが大量に生成され、データクレンジングに膨大な工数がかかります。
データ移行が完了しても、チームメンバーがHubSpotを使いこなせなければ移行プロジェクトは成功とは言えません。
役割別にトレーニング内容を分けることを推奨します。
| 対象者 | トレーニング内容 | 目安時間 |
|---|---|---|
| 営業担当者 | コンタクト・取引の基本操作、シーケンス、タスク管理 | 2〜3時間 |
| マーケティング担当者 | リスト作成、フォーム、メール配信、ワークフロー | 3〜4時間 |
| マネージャー | ダッシュボード、レポート、パイプライン管理 | 2〜3時間 |
| システム管理者 | 設定、プロパティ管理、インテグレーション、権限設定 | 4〜6時間 |
HubSpot Academyの無料認定コース(HubSpot Sales Software認定、HubSpot Marketing Software認定など)を活用すれば、体系的な学習が可能です。
SalesforceからHubSpotへの移行で頻出する失敗パターンをまとめます。
問題: 移行中にデータが欠損しても復元できない。特に関連付けデータは復元が極めて困難。
対策: 移行作業開始前にSalesforce・HubSpotの双方でバックアップを取得。関連付け履歴のエクスポートオプションが利用可能か事前に確認する。
問題: HubSpotにユーザーを作成する前にデータを移行し、担当者不明のレコードが数千件発生。
対策: データ移行前にHubSpotでユーザーを作成し、メールアドレスの一致を確認する。
問題: 連携アプリを実行したが、一部のプロパティが連携されず、運用開始後に気づく。
対策: 連携アプリ実行後に、Salesforceの全プロパティとHubSpotのプロパティを突合チェック。不足分は手動で作成・マッピング。
問題: 双方向同期のまま移行作業を進め、HubSpotでの変更がSalesforceから上書きされる。
対策: 移行フェーズでは片方向(SF→HS)に設定。運用フェーズに入ってから同期方向を変更する。
問題: HubSpot側でテスト用レコードを削除したところ、Salesforce側の関連付けが大量に消失。
対策: 連携中のレコード削除は絶対に行わない。削除が必要な場合は連携を一時停止してから実施する。
問題: 「作成日」「ステージ移行日」などのシステム日付項目が移行できず、過去データの時系列分析ができなくなった。
対策: システム日付項目は保存用のカスタムプロパティを作成し、データだけを閲覧用として移行する。
問題: Salesforceのキャンペーンをそのまま移行しようとしたが、HubSpotのキャンペーンでは階層構造やメンバー管理ができず運用が破綻。
対策: Salesforceのキャンペーンを忠実に再現する必要がある場合は、カスタムオブジェクトでの移行を計画する。
問題: 連携アプリで活動を移行したが、カスタム項目が移行されず、日報データが欠損。
対策: アクティビティのカスタム項目は連携アプリでは移行不可。手動インポートまたはカスタムオブジェクトでの移行を計画する。
連携アプリで移行すると、Salesforce IDがHubSpotのプロパティとして保持されます。このIDは以下の用途で活用できるため、移行後も削除せずに保持することを推奨します。
SalesforceのChatterは連携アプリでは移行できません。手動での移行が必要ですが、チャット形式のデータは単純なテキストだけでなく、スレッド構造(親投稿と返信の関係性)の再現が課題となります。
移行時に考慮すべき項目は以下の通りです。
会話の繋がりを維持するためにはIDの関係性を正確に把握してから移行作業を行う必要があるため、Chatterの利用頻度が低い場合は「移行しない」という判断も合理的です。
移行漏れを防ぐために、以下のチェックリストを活用してください。
事前準備:
プロパティマッピング:
データ移行:
移行後検証:
定着:
SalesforceからHubSpotへの移行は、正しい手順と事前準備さえ行えば十分に成功させることができます。本記事で解説した内容の重要ポイントを振り返ります。
最重要の3つ:
移行プロジェクトは計画フェーズの品質で成否が決まります。特にプロパティマッピングの精度、同期方向の事前設定、関連付けのバックアップは、手を抜くと後から取り返しのつかない問題に発展します。
CRM移行は一度きりの大仕事です。十分な時間と工数を確保し、テスト移行で課題を洗い出してから本番移行に臨んでください。
データ量やカスタマイズの複雑さによりますが、一般的には2〜4ヶ月が目安です。シンプルな構成であれば2ヶ月程度、カスタムオブジェクトや複雑な自動化処理が多い場合は4ヶ月以上かかることもあります。
いいえ、並行運用が可能です。Salesforce連携アプリを使えば移行期間中もデータを同期できます。ただし、同期方向の設定には注意が必要です。移行フェーズでは片方向(SF→HS)に設定し、運用フェーズに入ってから双方向に切り替えることを推奨します。
残念ながら、添付ファイルは連携アプリでもCSVインポートでも移行できません。手動で一つずつアップロードするか、GAS(Google Apps Script)などを使った自動化スクリプトでの対応が必要です。ファイル数が多い場合は優先順位を決めて段階的に移行することを推奨します。
基本的なコンタクト・企業・取引のデータ移行は無料CRMでも可能です。ただし、カスタムオブジェクトの利用やワークフローの本格的な活用にはProfessional以上のプランが必要です。移行の複雑さに応じて適切なプランを選択してください。
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