「海外展開を始めたいが、Webサイトの多言語対応にどこから手をつけていいかわからない」「英語サイトは作ったものの、CRM側の顧客管理が国内と海外でバラバラになっている」——グローバル展開を目指す日本企業にとって、多言語対応は避けて通れないテーマですが、Webサイトの翻訳だけでなくCRMの設計まで含めて考えると、対応すべき範囲が想像以上に広くなります。
HubSpot 多言語サイト機能とは、HubSpotのContent Hub(CMS)に搭載されている、1つのドメイン上で複数言語のページ・ブログ・メールを管理し、訪問者のブラウザ言語や地域に応じて適切な言語バージョンを表示する仕組みです。さらにHubSpotのCRM機能を活用することで、多通貨対応、タイムゾーン管理、地域別チーム設計といったグローバルCRM基盤も同一プラットフォーム上で構築できます。
この記事では、HubSpotの多言語コンテンツ管理機能、AI翻訳の活用方法、グローバルCRMの設計、多言語SEOの設定方法、そして海外展開を進めるうえでの運用ベストプラクティスまでを包括的に解説します。
HubSpotのContent Hub(旧CMS Hub)は、以下のコンテンツタイプで多言語対応をサポートしています。
| コンテンツタイプ | 多言語対応 | 対応プラン |
|---|---|---|
| Webサイトページ | 言語バリアントの作成が可能 | Content Hub Starter以上 |
| ランディングページ | 言語バリアントの作成が可能 | Marketing Hub Starter以上 |
| ブログ | 言語別ブログの作成が可能 | Content Hub Starter以上 |
| マーケティングメール | 言語別バージョンの作成が可能 | Marketing Hub Professional以上 |
| フォーム | 多言語対応フォームの作成が可能 | 全プラン |
| CTAボタン | 言語別CTAの作成が可能 | Marketing Hub Starter以上 |
| ナレッジベース | 多言語ナレッジベースの構築が可能 | Service Hub Professional以上 |
Content Hub ProfessionalまたはEnterpriseを利用している場合は、最も多くの多言語機能が利用可能です。Starterプランでも基本的な多言語ページの作成は可能ですが、一部の高度な機能(スマートコンテンツによる言語切り替えなど)は上位プランが必要です。
HubSpotの多言語対応は「言語バリアント」というコンセプトに基づいています。
プライマリ言語(通常は日本語や英語)のページをマスターとして、そこから各言語のバリアント(翻訳版)を作成する仕組みです。言語バリアントは元のページと紐づいているため、hreflangタグや言語切り替えメニューが自動的に設定されます。
プライマリページ(日本語)
├── 英語バリアント
├── 中国語(簡体字)バリアント
├── 韓国語バリアント
└── スペイン語バリアント
各バリアントは独立したURLを持ちますが、HubSpot上では1つのグループとして管理されるため、バリアント間のリンク関係やSEO設定を一括で管理できます。
多言語サイトを構築する前に、まずHubSpotアカウントの言語設定を行います。
ここで追加した言語が、各コンテンツの言語バリアント作成時に選択肢として表示されます。HubSpotは50以上の言語に対応しており、日本企業のグローバル展開で必要になる主要言語はほぼカバーされています。
プライマリ言語のページから言語バリアントを作成する手順は以下のとおりです。
言語バリアントのURL構造は、デフォルトではサブディレクトリ方式が採用されます。
日本語(プライマリ):example.com/services
英語バリアント:example.com/en/services
中国語バリアント:example.com/zh/services
韓国語バリアント:example.com/ko/services
ブログの多言語対応は、ページの言語バリアントとは少し仕組みが異なります。HubSpotでは言語ごとにブログを作成し、各ブログを多言語グループとして紐づける形式です。
ブログ記事のバリアント紐づけにより、読者が日本語の記事を読んでいるときに「この記事の英語版はこちら」と案内する言語切り替えリンクが自動的に表示されます。
HubSpotのマーケティングメールでも、言語バリアントを作成してコンタクトの優先言語に応じたメール配信が可能です。
コンタクトの「Preferred language(優先言語)」プロパティは、フォーム送信時のブラウザ言語から自動設定されるほか、手動やインポートでも設定可能です。このプロパティが未設定のコンタクトにはデフォルト言語のメールが送信されます。
HubSpotのAIアシスタント「Breeze」には、コンテンツの翻訳機能が搭載されています。ページやメールのコンテンツを、Breezeを使って別の言語にワンクリックで翻訳できます。
AI翻訳が利用可能なコンテンツは以下のとおりです。
言語バリアントの作成時にAI翻訳を利用する手順は以下のとおりです。
ページ全体を一括で翻訳することも、特定のテキストブロックだけを選択して翻訳することも可能です。
BreezeのAI翻訳は、一般的なビジネスコンテンツであれば実用に耐える品質を出すことが多いです。しかし、以下のようなケースでは人間によるレビュー・修正が必要です。
運用としては「AI翻訳で下書きを作成 → ネイティブスピーカーまたは翻訳者がレビュー・修正 → 公開」というフローが現実的です。AI翻訳を使うことで翻訳コストと時間を大幅に削減しつつ、品質は人間のレビューで担保するハイブリッドアプローチです。
HubSpotのAI翻訳と外部翻訳サービスの使い分けを整理します。
| 項目 | Breeze AI翻訳 | 外部翻訳サービス |
|---|---|---|
| スピード | 即時(数秒〜数分) | 数日〜数週間 |
| コスト | HubSpotの利用料に含まれる | 1文字あたり数円〜数十円 |
| 品質 | 一般ビジネスコンテンツは実用レベル | プロ品質(ネイティブ監修) |
| 専門用語対応 | 要レビュー | 専門翻訳者がいれば高品質 |
| ブランドトーン | 要調整 | ブリーフィングにより対応可能 |
| 適するコンテンツ | ブログ記事、ヘルプページ、メール | コーポレートサイト、法的文書、マーケティングコピー |
大量のコンテンツを効率的に多言語展開したい場合はAI翻訳をベースにし、ブランドのトップページや重要なマーケティングページなど品質が特に重要な箇所は外部翻訳サービスを使う——という組み合わせが費用対効果のバランスが良いでしょう。
Webサイトの多言語対応と並行して、CRM側のグローバル対応も設計する必要があります。海外の見込み客や顧客をどう管理するか、営業チームをどう分けるか、レポートをどう設計するかを見ていきましょう。
HubSpotのCRMは複数通貨に対応しており、取引の金額を異なる通貨で管理できます。
多通貨の設定手順
取引を作成する際に通貨を選択でき、パイプラインのレポートではデフォルト通貨に換算された合計金額が表示されます。
注意点として、HubSpotの為替レートは手動更新です。リアルタイムの為替レートが必要な場合は、定期的に手動更新するか、iPaaS(Zapier/Make)で為替レートAPIと連携して自動更新する仕組みを構築する必要があります。
多通貨対応の対応プラン
多通貨機能はSales Hub Starter以上で利用可能です。Starterでは最大5通貨、Professional以上では最大30通貨まで設定できます。
グローバルチームで運用する場合、タイムゾーンの管理は地味に重要な設計ポイントです。
アカウントレベルのタイムゾーン設定
HubSpotアカウントのデフォルトタイムゾーンは、レポートの日次集計やワークフローのスケジュール実行に影響します。日本に本社がある企業であれば「Asia/Tokyo(GMT+9)」をデフォルトに設定するのが一般的です。
ユーザーレベルのタイムゾーン設定
各ユーザーは自分のタイムゾーンを個別に設定できます。ニューヨークオフィスの営業担当者は「America/New_York」、ロンドンオフィスの担当者は「Europe/London」といった具合です。
コンタクトのタイムゾーン管理
海外のコンタクトに対してメールやLINE/SMSを送信する際、相手のタイムゾーンを考慮した配信時刻の設定が重要です。HubSpotのマーケティングメールには「コンタクトのタイムゾーンに合わせて送信」するオプションがあり、これを有効にすると各コンタクトの現地時間で指定時刻にメールが届くようになります。
グローバル展開が進むと、地域(リージョン)ごとに営業チームやカスタマーサクセスチームを分ける必要が出てきます。HubSpotでの地域別チーム管理の設計パターンを紹介します。
チーム機能の活用
HubSpotの「チーム」機能を使って、地域別のチームを作成します。
チームごとにレコードの所有権、パイプラインへのアクセス、レポートの範囲を制御できます。
地域別パイプラインの設計
取引パイプラインを地域別に分けるか、1つのパイプラインに統合するかは、ビジネスモデルに応じて判断します。
| 設計パターン | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 地域別パイプライン | 地域ごとの商習慣に合わせたステージ設計が可能 | パイプライン横断のレポートが煩雑 |
| 統一パイプライン | グローバルでの比較・集計が容易 | 地域固有のステージを反映しにくい |
多くの企業では「基本は統一パイプライン、商習慣が大きく異なる地域のみ別パイプライン」というハイブリッド設計を採用しています。
自動アサインの設計
コンタクトや取引を地域別チームに自動アサインするルールをワークフローで設計します。
HubSpotのフォーム機能は送信者のIPアドレスから国を自動推定する機能があるため、フォーム送信時点で地域情報を取得できます。
多言語サイトのSEOで最も重要な技術的設定がhreflangタグです。hreflangタグは、検索エンジンに対して「このページには複数の言語バージョンがある」ことを伝えるHTMLタグで、適切な言語バージョンを適切な地域の検索結果に表示させる役割を果たします。
HubSpotの言語バリアント機能を使ってページを作成した場合、hreflangタグは自動的にHTMLのheadセクションに挿入されます。
<link rel="alternate" hreflang="ja" href="https://example.com/services" />
<link rel="alternate" hreflang="en" href="https://example.com/en/services" />
<link rel="alternate" hreflang="zh-Hans" href="https://example.com/zh/services" />
<link rel="alternate" hreflang="x-default" href="https://example.com/services" />
手動でhreflangタグを管理する必要がないのは、HubSpotの多言語機能を使う大きなメリットの一つです。WordPressで多言語サイトを構築する場合、WPMLやPolylangなどのプラグインでhreflangタグを管理する必要があり、設定ミスが起きやすいポイントでもあります。
多言語サイトのURL構造には、大きく3つの選択肢があります。
| URL構造 | 例 | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|
| サブディレクトリ | example.com/en/ | 設定が簡単、ドメインパワーを共有 | 国別の最適化が難しい |
| サブドメイン | en.example.com | 地域別の独立運用が可能 | ドメインパワーが分散する可能性 |
| 国別ドメイン | example.co.uk | 地域ターゲティングに最適 | コストと管理負荷が高い |
HubSpotのデフォルトはサブディレクトリ方式で、多くの企業にとってこれが最もバランスの良い選択です。ドメインパワーが分散しないため、SEOの観点からも推奨されています。
サブドメインや国別ドメインを使用する場合は、HubSpotの「ブランドドメイン」設定で各ドメインを追加し、言語バリアントのURLを手動で構成する必要があります。
多言語サイトのSEOで意識すべきポイントをまとめます。
タイトルタグとメタディスクリプションの翻訳
ページのタイトルタグとメタディスクリプションは必ず翻訳してください。本文は翻訳してもメタ情報が日本語のまま——というのは多言語サイトでありがちなミスです。HubSpotのページエディタで「設定」タブを開き、言語バリアントごとにタイトルとディスクリプションを設定します。
キーワードの翻訳ではなくローカライズ
SEOキーワードは単純に翻訳するのではなく、ターゲット市場でのキーワード調査に基づいてローカライズすることが重要です。日本語で「顧客管理」というキーワードを狙っている場合、英語では「customer management」よりも「CRM software」のほうが検索ボリュームが大きいかもしれません。
内部リンクの言語一致
日本語ページからのリンクは日本語ページに、英語ページからのリンクは英語ページに向けるのが基本です。日本語ページの中に英語ページへのリンクが混在すると、ユーザー体験とSEOの両面でマイナスです。
画像のalt属性も翻訳
画像のalt属性(代替テキスト)も言語バリアントに合わせて翻訳します。HubSpotのページエディタで画像をクリックし、バリアントごとにalt属性を設定できます。
サイトマップの確認
HubSpotは言語バリアントを含むすべてのページを自動的にサイトマップ(sitemap.xml)に含めます。Google Search Consoleでサイトマップが正しく認識されていることを確認してください。
グローバル展開時のレポーティングでは、以下の2つの視点を両立させる必要があります。
HubSpotのダッシュボード機能では、フィルターを使って「全体」と「地域別」のビューを切り替えられるレポートを設計できます。
推奨ダッシュボード構成
| ダッシュボード | 内容 | 閲覧者 |
|---|---|---|
| Global Overview | 全地域合算の売上、パイプライン、コンバージョン | 経営層、事業責任者 |
| Japan Sales | 日本チームの取引パイプライン、活動量、KPI | 日本営業チーム |
| APAC Sales | APAC チームの取引パイプライン、活動量、KPI | APACチーム |
| Global Marketing | 地域別のWeb流入、リード獲得、コンバージョン | マーケティングチーム |
通貨の統一表示
多通貨で取引を管理している場合、レポートではデフォルト通貨に換算した金額で集計されます。グローバルビューでは全取引がJPY換算(日本企業の場合)で表示されるため、各地域の金額を同一基準で比較できます。
多言語サイトを運用する場合、マーケティング施策も地域別に管理する必要が出てきます。
キャンペーンの地域別管理
HubSpotのキャンペーンツールを使って、グローバルキャンペーンと地域固有キャンペーンを管理します。
キャンペーン名に地域コードを付与する命名規則(例:「[JP] 2025 Spring Campaign」「[US] SaaStr 2025」)を設けると、管理画面での識別が容易になります。
リスト・セグメントの地域別設計
コンタクトの「国」プロパティや「Preferred language」プロパティを使って、地域別のリスト(セグメント)を作成します。これにより、地域別のメール配信やターゲティングが可能になります。
グローバル展開では、各地域のデータ保護法への対応が不可欠です。
GDPR(EU一般データ保護規則)対応
EUの顧客を扱う場合、GDPRへの対応が義務づけられます。HubSpotにはGDPR対応のための機能が組み込まれています。
各国のプライバシー法
GDPR以外にも、主要市場のプライバシー法に注意が必要です。
HubSpotのフォームにはプライバシーポリシーへの同意チェックボックスを追加する機能があり、地域ごとに異なる同意文言を設定することも可能です。
海外展開の段階に応じた、多言語サイト構築の推奨ステップを整理します。
まず主要ページのみを英語化し、海外からのアクセスに最低限の対応をする段階です。
ターゲット市場のキーワード調査を行い、SEOを意識した多言語コンテンツを本格展開する段階です。
海外からのリードが増えてきた段階で、CRM側のグローバル対応を本格化します。
多言語サイトとグローバルCRMの運用が安定したら、パフォーマンス最適化とスケール拡大のフェーズに入ります。
HubSpotの多言語サイト機能とグローバルCRM設計を組み合わせることで、Webサイトの多言語化から海外営業のCRM管理まで、グローバル展開に必要な基盤を一つのプラットフォーム上に構築できます。
言語バリアント機能により、hreflangタグの自動設定やURLの自動構成が行われるため、技術的なSEO設定の手間が大幅に削減されます。BreezeのAI翻訳機能を活用すれば、翻訳の初期コストと時間も圧縮できます。
CRM側では、多通貨対応、タイムゾーン管理、地域別チーム設計、自動アサインルールといった機能を組み合わせて、グローバルな顧客管理の仕組みを構築できます。GDPRをはじめとする各国のプライバシー法への対応も、HubSpotの組み込み機能である程度カバーされています。
まずは主要ページの英語化から始め、段階的にコンテンツと地域を拡大していくアプローチが、リスクを抑えつつ着実にグローバル展開を進める方法です。
HubSpotは50以上の言語に対応しています。日本語、英語、中国語(簡体字・繁体字)、韓国語、スペイン語、フランス語、ドイツ語、ポルトガル語、アラビア語など、主要なビジネス言語はほぼカバーされています。言語バリアントの数に上限はなく、対応する言語すべてでバリアントを作成できます。
AI翻訳の品質は年々向上していますが、そのまま公開することはおすすめしません。特にBtoBのコーポレートサイトや製品ページでは、専門用語の正確性やブランドトーンの統一が重要です。AI翻訳で下書きを作成し、ネイティブスピーカーまたはプロの翻訳者がレビュー・修正するフローを推奨します。ブログ記事やヘルプ記事など大量のコンテンツは、AI翻訳ベースで効率化しつつ要所を人間がチェックするハイブリッドアプローチが現実的です。
Webサイトページの多言語対応はContent Hub Starter以上で利用可能です。ブログの多言語対応もContent Hub Starter以上です。マーケティングメールの多言語対応(コンタクトの優先言語に基づく自動言語選択)はMarketing Hub Professional以上が必要です。多通貨対応はSales Hub Starter以上です。必要な機能の範囲に応じてプランを選択してください。
はい、移行は可能です。HubSpotにはWordPressからのコンテンツインポート機能があり、既存のページやブログ記事を取り込むことができます。ただし、多言語プラグイン(WPMLやPolylang)で管理している言語バリアントの紐づけは自動移行されないため、HubSpot上で再設定が必要です。移行計画を立て、段階的に進めることをおすすめします。
HubSpotの多通貨機能における為替レートは、デフォルトでは手動更新です。管理画面で為替レートを入力・更新する必要があります。リアルタイムの為替レートが必要な場合は、ZapierやMakeなどのiPaaSを使って為替レートAPI(Open Exchange Ratesなど)と連携し、定期的にHubSpotの設定を更新する自動化を構築する方法があります。ただし、HubSpotの為替レート設定のAPI対応状況は確認が必要です。