「The Modelを参考にインサイドセールス部門を立ち上げたいが、SDRとBDRの違いがわからない」「インサイドセールスを置いたものの、アポイント数だけを追いかけて質の低い商談が増えている」「マーケティングから渡されたリードをどう処理すべきか、基準が曖昧なまま運用が回っている」
こうした課題は、インサイドセールス組織の「設計」が不十分なまま立ち上げを進めた結果として生じる、構造的な問題です。インサイドセールスは単に「電話をかける部門」ではありません。マーケティングが創出したリードを精査し、フィールドセールスが受注できる商談へと変換する、営業プロセスの中核を担う「変換装置」です。
本記事では、インサイドセールス組織の立ち上げに必要な設計要素を体系的に解説します。SDR/BDR体制の構築方法、ライフサイクルステージに連動したリード管理設計、KPIの設計と運用、CRM/SFAを活用したプロセスの実装パターン、そしてフィールドセールスとの連携設計まで、組織設計とシステム設計の両面からカバーします。営業責任者・経営者の方に向けた、インサイドセールス立ち上げの実践ガイドとしてお読みください。
インサイドセールスとは、見込み顧客(リード)に対して電話・メール・オンライン商談などの非対面チャネルを通じてアプローチし、商談機会を創出する営業機能のことです。フィールドセールス(外勤営業)が対面での商談・受注獲得を担うのに対し、インサイドセールスはその前段階の「リードの精査」と「商談化」を専門的に担います。
重要なのは、インサイドセールスが単なる「テレアポ部隊」ではないという点です。テレアポは不特定多数に画一的なアプローチを行う活動ですが、インサイドセールスはリードの状態や属性に応じて最適なコミュニケーションを設計し、顧客の購買プロセスを前進させることを目的としています。
BtoB営業における分業モデル(The Model)では、営業プロセスは4つの機能に分かれます。インサイドセールスは、マーケティングとフィールドセールスの間に位置し、両部門をつなぐ「ブリッジ」の役割を果たします。
| 機能 | 主な役割 | インサイドセールスとの関係 |
|---|---|---|
| マーケティング | リードの獲得・育成(リードジェネレーション・ナーチャリング) | ISにリードを引き渡す(MQL化) |
| インサイドセールス | リードの精査・商談機会の創出 | 中核的な役割 |
| フィールドセールス | 商談の推進・受注獲得 | ISから商談を受け取る(SQL化) |
| カスタマーサクセス | 契約継続・アップセル・解約防止 | 既存顧客の追加案件をISに戻すケースもある |
インサイドセールスが機能しない組織では、マーケティングが創出したリードが「放置」されるか、フィールドセールスが未精査のリードに時間を奪われるか、いずれかの非効率が生じます。インサイドセールスは営業プロセスの「歩留まり」を改善する変換装置であり、その設計品質が組織全体の営業生産性を左右します。
インサイドセールスと従来のテレアポは、表面的には「電話をかける」という行為が共通していますが、その設計思想は根本的に異なります。
| 比較項目 | テレアポ | インサイドセールス |
|---|---|---|
| アプローチ対象 | 不特定多数のリスト | マーケティングが獲得・育成したリード |
| コミュニケーション | 画一的なスクリプト | リードの状態に応じたパーソナライズ |
| 成果指標 | アポイント数(量重視) | 商談化率・受注貢献額(量と質の両方) |
| チャネル | 電話のみ | 電話・メール・SNS・オンライン商談など複合 |
| データ活用 | 架電リストの消化 | CRMデータに基づくアプローチ優先度の判断 |
| 顧客体験 | 押し売り感が強い | 課題解決型のコンサルティングアプローチ |
この違いを理解せずにインサイドセールスを「テレアポの延長」として運用すると、リードの疲弊やブランド毀損につながります。インサイドセールスの立ち上げにおいて、まずこの役割の定義と位置づけを組織全体で共有することが出発点です。
インサイドセールスは、そのアプローチの起点によって大きく2つの型に分かれます。SDR(Sales Development Representative)とBDR(Business Development Representative)です。両者は混同されがちですが、対象リード・アプローチ方法・必要なスキルが異なるため、組織設計において明確に区分することが重要です。
SDRは、マーケティング活動によって獲得されたインバウンドリードに対応するインサイドセールスです。Webサイトからの問い合わせ、ホワイトペーパーのダウンロード、ウェビナーへの参加、展示会での名刺交換などを通じて獲得したリードに対して、電話やメールでフォローアップし、商談化を目指します。
SDRの主な業務は以下のとおりです。
SDRに求められるスキルは、顧客の課題を的確にヒアリングし、自社サービスとの接点を見出す「課題発見力」と、マーケティングが設定したリードスコアやライフサイクルステージに基づいて優先順位を判断する「データリテラシー」です。
BDRは、ターゲット企業に対して自ら能動的にアプローチするアウトバウンド型のインサイドセールスです。マーケティングからのリードを待つのではなく、自社が定義したICP(Ideal Customer Profile:理想顧客像)に合致する企業を特定し、戦略的にアプローチを仕掛けます。
BDRの主な業務は以下のとおりです。
BDRはSDRよりも高度なスキルが求められます。相手が自社のことを知らない状態からアプローチするため、業界知識、仮説構築力、パーソナライズされたメッセージング能力が不可欠です。
| 比較項目 | SDR | BDR |
|---|---|---|
| リードの起点 | インバウンド(マーケティング起点) | アウトバウンド(自ら開拓) |
| アプローチ方法 | 問い合わせへのフォローアップ | コールドコール・パーソナライズドメール |
| 主なKPI | 商談化率、レスポンスタイム | 新規アカウント開拓数、ミーティング設定数 |
| 必要スキル | ヒアリング力、データリテラシー | リサーチ力、仮説構築力、メッセージング力 |
| 適するフェーズ | マーケティング施策が成熟しリードが潤沢な段階 | ターゲットが明確でエンタープライズ攻略が必要な段階 |
| 難易度 | 比較的立ち上げやすい | 高い専門性が必要で立ち上げ難度が高い |
多くの企業では、まずSDRから立ち上げ、マーケティングとの連携を確立したうえでBDRを追加するという段階的なアプローチが有効です。SDRとBDRを同時に立ち上げると、リード管理の複雑性が増し、KPI設計や評価制度の整備が追いつかないリスクがあります。
ただし、ターゲット企業が明確に絞り込まれているエンタープライズ向けビジネスや、インバウンドリードが少ない立ち上げ初期フェーズでは、BDRから着手するケースもあります。自社のビジネスモデルとリード獲得状況に応じた判断が必要です。
インサイドセールス組織を機能させるためには、リードがどの状態にあるかを明確に定義し、管理する仕組みが不可欠です。この仕組みがライフサイクルステージです。ライフサイクルステージは、見込み顧客が最初の接点から顧客になるまでの「旅程」を段階的に定義したものであり、インサイドセールスの業務設計の土台となります。
BtoB営業において標準的なライフサイクルステージは、以下の5段階で構成されます。
| ステージ | 定義 | 主な責任部門 | 次ステージへの移行条件(例) |
|---|---|---|---|
| リード | 接点を持った段階。フォーム入力、名刺交換など | マーケティング | スコアリング基準を満たす/特定行動をとる |
| MQL(Marketing Qualified Lead) | マーケティングが「営業対応すべき」と判断したリード | マーケティング→インサイドセールス | ISがBANT条件を確認し、商談可能と判断 |
| SQL(Sales Qualified Lead) | 営業が「商談として進めるべき」と判断したリード | インサイドセールス→フィールドセールス | 初回商談が実施され、パイプラインに登録 |
| 商談(Opportunity) | 具体的な提案・交渉が進行中の状態 | フィールドセールス | 契約締結・受注 |
| 顧客(Customer) | 契約が成立し、取引関係にある状態 | カスタマーサクセス | - |
ここで最も重要なのは、各ステージの「移行条件」を定量的かつ明確に定義することです。「なんとなくホットそうだから」ではなく、具体的な基準に基づいてステージを進めることが、インサイドセールスの品質を担保する鍵です。
MQLとは、マーケティング活動を通じて獲得したリードのうち、「営業対応の価値がある」とマーケティングが判断したホットリードのことです。MQLの定義が曖昧な組織では、質の低いリードがインサイドセールスに大量に流れ込み、ISチームの生産性を著しく低下させます。
MQLの定義に用いる代表的な基準は以下のとおりです。
CRM上ではリードスコアリング機能を活用し、一定スコアに達したリードを自動的にMQLに昇格させ、インサイドセールスへの通知とタスク割り当てを行う設計が有効です。
SQLとは、インサイドセールスがMQLに対してコンタクトを取り、「商談として進めるに値する」と営業側が判断したリードのことです。MQLがマーケティング視点での評価であるのに対し、SQLは営業視点での評価です。
SQLへの昇格基準として広く活用されているのがBANT条件です。
ただし、BANT条件のすべてが揃うリードは限られます。実務では、「Need(ニーズ)」と「Timeline(時期)」の2つが確認できれば商談化の判断基準とするなど、自社の商材特性に合わせた基準の調整が必要です。
MQLからSQLへの変換は、インサイドセールスの最も重要な業務です。この変換プロセスの設計において押さえるべきポイントは以下の4つです。
このMQL→SQL変換の品質を測定する指標が「MQL→SQL変換率」です。変換率が低すぎる場合はMQLの定義が甘い可能性があり、高すぎる場合はMQLの基準が厳しすぎてリード数が不足している可能性があります。一般的な目安は20〜30%程度ですが、業界や商材によって適正値は異なります。
インサイドセールスの成果を正しく評価し、組織として継続的に改善していくためには、適切なKPI設計が不可欠です。KPIの設計を誤ると、「量だけを追いかけて質が低下する」「活動量が多いのに成果が出ない」という非効率な状態に陥ります。
インサイドセールスのKPIは、以下の3層で設計することが有効です。
| KPI層 | 目的 | 代表的な指標 | 計測頻度 |
|---|---|---|---|
| 成果指標(Outcome KPI) | 最終的な貢献度を測定 | SQL創出数、商談化率、受注貢献額 | 月次 |
| プロセス指標(Process KPI) | 変換効率を測定 | MQL→SQL変換率、平均レスポンスタイム、フォローアップ完了率 | 週次 |
| 活動指標(Activity KPI) | 日々の行動量を測定 | 架電数、メール送信数、有効会話数、ミーティング設定数 | 日次 |
多くの企業が陥りがちな失敗は、活動指標だけをKPIに設定してしまうことです。「架電数100件/日」だけを追いかけると、質の低い架電が増え、リードの疲弊やフィールドセールスへの低品質商談の押し付けが発生します。必ず「成果指標→プロセス指標→活動指標」の順で設計し、上位指標と下位指標の因果関係を意識することが重要です。
SDRとBDRではアプローチの起点が異なるため、KPI設計も分けて行う必要があります。
| KPI項目 | SDR(インバウンド対応) | BDR(アウトバウンド開拓) |
|---|---|---|
| 成果指標 | SQL創出数:月15〜25件(目安) | 新規アカウント商談創出数:月5〜10件(目安) |
| プロセス指標 | MQL→SQL変換率:20〜30% | アプローチ→ミーティング設定率:5〜10% |
| 活動指標 | 架電数:40〜60件/日、メール:20〜30通/日 | パーソナライズドメール:15〜25通/日、架電:30〜50件/日 |
| レスポンス | MQL発生→初回コンタクト:5分以内(目標) | ターゲットリスト作成→初回アプローチ:24時間以内 |
なお、上記の数値はあくまで目安です。自社の商材特性・単価・商談サイクル・リード量に応じて調整が必要です。重要なのは、自社にとっての「適正値」を仮説として設定し、データに基づいて改善していくことです。
インサイドセールスのKPIは、売上目標からの逆算で設計するのが基本です。この逆算プロセスを具体例で示します。
【逆算の例】月間売上目標:3,000万円の場合
この逆算により、マーケティングに求めるMQL数の目標値と、インサイドセールスに求めるSQL数の目標値が明確になります。売上目標→必要受注数→必要商談数→必要SQL数→必要MQL数という逆算の流れを、マーケティング・インサイドセールス・フィールドセールスの3部門で共有し、合意することが組織連携の土台です。
設計したKPIは、CRM/SFA上でリアルタイムに計測・可視化できる状態をつくることが運用の鍵です。CRMの目標管理機能やダッシュボード機能を活用し、以下の仕組みを構築します。
HubSpotのSales Hubでは、目標管理機能で個人・チーム単位の目標設定と進捗トラッキングが可能です。カスタムレポートを活用すれば、リードソース別の変換率やステージ別の滞留時間など、インサイドセールスの改善に直結する分析をリアルタイムで実行できます。
インサイドセールスの組織設計を、実際のCRM/SFA上でどう実装するかが運用成功の分水嶺です。優れた設計も、システム上で再現できなければ「絵に描いた餅」です。ここでは、CRM上でのインサイドセールスプロセス実装の具体的なパターンを解説します。
CRM上でライフサイクルステージを実装する際のポイントは以下のとおりです。
HubSpotでは、ライフサイクルステージがコンタクトオブジェクトの標準プロパティとして用意されています。ワークフロー機能を活用し、リードスコアやフォーム送信などの条件に基づいて自動昇格を設定することで、人的判断のばらつきを排除した一貫性のあるステージ管理が実現します。
インサイドセールスが商談化したリードをフィールドセールスに引き渡す際、パイプライン上の取引ステージが連携の基盤になります。
インサイドセールス関連の取引ステージは、以下のように設計するのが基本です。
| 取引ステージ | 担当 | 概要 | 受注確度(目安) |
|---|---|---|---|
| アポイント獲得 | IS | 商談日程が確定した段階 | 10% |
| 初回商談完了 | FS | 初回商談を実施し、課題が確認された段階 | 20% |
| 提案 | FS | 具体的な提案書を提示した段階 | 40% |
| 見積提出 | FS | 見積書を提出し、交渉段階にある | 60% |
| クロージング | FS | 最終合意・契約手続き中 | 80% |
| 受注 | FS | 契約締結 | 100% |
| 失注 | FS/IS | 商談不成立 | 0% |
HubSpotのSales Hubでは、パイプライン管理機能で上記の取引ステージを設定し、各ステージに必須入力プロパティを紐づけることで、ステージ移行時に必要な情報を確実に記録する仕組みを構築できます。
インサイドセールスの業務効率を飛躍的に高める仕組みが、メールシーケンス(自動フォローアップ)です。手動でのフォロー漏れを防ぎ、リードへの継続的な接点を確保します。
インサイドセールスで活用すべきシーケンスのパターンは以下のとおりです。
シーケンスの設計においては、各ステップの間隔と、シーケンス全体の期間を適切に設定することが重要です。間隔が短すぎるとリードに「しつこい」印象を与え、長すぎると熱量が下がります。一般的には、初回コンタクトの翌日→3日後→1週間後→2週間後という間隔が基本パターンです。
インサイドセールスの日常業務は、大量のリードに対する架電・メール・フォローアップの繰り返しです。この業務を効率的に回すためには、CRM上のタスク管理とキュー(優先順位付きのタスクリスト)の設計が重要です。
HubSpotでは、ワークフローによるタスク自動生成と、コンタクトの担当者割り当て機能を組み合わせることで、これらの仕組みをノーコードで構築できます。
インサイドセールスからフィールドセールスへのリード引き渡しは、営業プロセスにおける最も重要な「接続点」です。ここでの情報欠落や認識のズレが、商談の質を大きく左右します。
引き渡し時に必ず記録・共有すべき情報は以下のとおりです。
CRM上では、取引(Deal)の作成時にこれらの情報を必須入力プロパティとして設定し、引き渡しの品質を仕組みで担保することが重要です。「口頭での申し送り」に依存する運用は、情報の欠落と属人化を招きます。
インサイドセールスの成果は、フィールドセールスとの連携品質によって大きく左右されます。IS単体で見れば優秀な数値が出ていても、フィールドセールスが「ISから渡される商談の質が低い」と感じていれば、組織として機能していません。
インサイドセールスとフィールドセールスの間で、リード引き渡しに関するSLA(合意基準)を明文化することが連携の基盤です。
SLAに含めるべき項目は以下のとおりです。
| SLA項目 | IS側の基準 | FS側の基準 |
|---|---|---|
| 引き渡し条件 | BANT条件のうちNeed+Timelineが確認済み | 引き渡しから48時間以内に初回商談を実施 |
| 情報の品質 | 必須プロパティ(課題・ニーズ・キーパーソン)がすべて入力済み | 商談結果を24時間以内にCRMに記録 |
| フィードバック | ISはFSからのフィードバックを基にアプローチを改善 | FSは商談結果をISにフィードバック(受注/失注理由含む) |
| リジェクト対応 | FSがリジェクトしたリードを再精査し、リサイクルまたは破棄を判断 | リジェクト時は理由を記録し、ISに通知 |
SLAは「一度決めて終わり」ではなく、月次の振り返りを通じて定期的に見直します。特に重要なのは、「FSのリジェクト率」を定期的にモニタリングすることです。リジェクト率が高い場合、SQLの定義基準を見直す必要があります。
IS-FS間の連携を継続的に改善するためには、以下の定例ミーティングを設計します。
特に週次レビューでは、リジェクトされた案件の具体的な理由を分析し、ISのアプローチ改善につなげることが重要です。また、FSから「こういうリードが欲しい」「この業界のリードは商談化しやすい」といったフィードバックを共有する場としても活用します。
インサイドセールスはフィールドセールスだけでなく、マーケティングとの連携も同様に重要です。ISはマーケティングの「お客様の声の代弁者」であり、リードと直接会話する唯一のマーケティング接点です。
CRM上では、ライフサイクルステージの「差し戻し」ワークフローと、差し戻し理由を記録するプロパティを設計することで、マーケティングとISの間のリード循環を仕組み化できます。
ここまで解説した設計要素を踏まえ、インサイドセールス組織を実際に立ち上げる際のステップを4フェーズで整理します。
立ち上げの成否は、この準備フェーズの設計品質で決まります。以下の項目を明確化します。
このフェーズで特に重要なのは、マーケティング・フィールドセールスの責任者を巻き込み、SLAを先に合意することです。IS単独で設計を進めると、他部門との「期待値のズレ」が立ち上げ後の摩擦の原因になります。
設計した内容をCRM/SFA上で実装します。主な実装項目は以下のとおりです。
CRM実装において注意すべきは、初期段階から「完璧な仕組み」を目指さないことです。まずは最低限のステージ設計・タスク自動化・ダッシュボードを構築し、運用しながら改善を重ねるアプローチが現実的です。
ISメンバーの採用・配置と、実際のオペレーションの試運転を行います。
試運転期間は、KPIの「適正値」を見つけるための検証期間と位置づけます。仮説として設定した数値を実データで検証し、自社にとっての適正な目標値を導き出します。
試運転の成果をもとに本格運用を開始し、継続的な改善サイクルを回します。
本格運用フェーズにおいて意識すべきは、「仕組みの改善」と「人の育成」を同時に進めることです。CRMの設定改善やプロセスの見直しだけでなく、ISメンバーのスキル向上(ヒアリング力、課題発見力、交渉力)にも投資を続けることが、組織としての持続的な成長につながります。
インサイドセールスの業務は、定型的なリサーチ・メール作成・フォローアップなど、AIエージェントによる支援・自動化と相性の良い領域を多く含んでいます。AIを「人の代替」ではなく「人の能力を拡張するアシスタント」として位置づけることで、ISの生産性を大幅に向上させることが可能です。
AIエージェントがインサイドセールスの業務を支援する代表的なパターンは以下のとおりです。
この「リサーチ→メール作成→レビュー→送信」というワークフローにおいて、AIエージェントが前半の工程を支援し、ISメンバーは「最終判断と顧客との直接コミュニケーション」に集中するという役割分担が、生産性向上の鍵です。
AIエージェントをインサイドセールスに導入する際には、以下の設計ポイントを押さえる必要があります。
AIエージェントの詳細な役割設計と実装パターンについては、「AIエージェントの役割設計と業務活用」(W-6)で体系的に解説しています。また、インサイドセールスの生産性指標の考え方については、「営業生産性の可視化と改善」(R-2)も併せてご参照ください。
インサイドセールスの立ち上げは、多くの企業が試行錯誤を経験する領域です。よくある失敗パターンとその回避策を整理します。
「月間アポイント数◯件」だけをKPIに設定すると、ISメンバーは数を稼ぐために質の低いアポイントを量産するようになります。結果として、フィールドセールスの時間を浪費し、IS→FSの信頼関係が悪化します。
回避策:成果指標(SQL創出数・受注貢献額)をメインKPIに設定し、活動指標(架電数など)はサブKPIとして位置づける。「量」と「質」のバランスが取れたKPI構造にする。
ステージの定義が曖昧な状態で運用を始めると、「何をもってMQLとするか」「いつSQLに昇格させるか」がISメンバーの主観に依存し、品質にばらつきが生じます。
回避策:ライフサイクルステージの移行条件を具体的な基準で定義し、CRM上のワークフローで自動化する。特にMQL→SQL変換のBANT基準は、ヒアリングシートとして標準化する。
SLAを定めずに運用を始めると、ISは「アポイントを渡しているのにFSが動かない」と不満を持ち、FSは「ISから渡されるリードの質が低い」と不満を持つ。部門間の対立が生じ、組織全体のパフォーマンスが低下します。
回避策:立ち上げ前にIS-FS間のSLAを合意する。引き渡し条件、対応期限、フィードバックの仕組みを明文化し、月次レビューで見直す。
「まずはスプレッドシートで始めよう」というアプローチは、短期的にはコストを抑えられますが、リードの一元管理、活動の追跡、KPIの自動集計ができないため、組織がスケールしません。
回避策:立ち上げ初期からCRM/SFAを導入し、データの蓄積を開始する。初期投資は必要だが、蓄積されたデータが後の改善サイクルを支える基盤になる。
インサイドセールスを「アポイントを取る部門」としてのみ位置づけると、戦略的な投資ではなくコスト削減の対象になりがちです。結果として、優秀な人材が配置されず、育成にも投資されず、「テレアポ部隊」化してしまいます。
回避策:ISの受注貢献額を明確にトラッキングし、「売上に直結する投資」として経営層に位置づけてもらう。CRMのアトリビューション分析を活用して、IS起点の商談がどれだけの売上を生んでいるかを可視化する。
インサイドセールス組織の立ち上げは、単に「人を配置して電話をかけさせる」ことではありません。組織設計・プロセス設計・システム設計・KPI設計を一体的に行うことで、はじめて機能する営業機能です。本記事のポイントを振り返ります。
インサイドセールスは、設計品質が成果を左右する営業機能です。本記事で解説した設計要素を参考に、自社のビジネスモデルとリード獲得状況に合わせた組織設計を行い、段階的に立ち上げていくことを推奨します。
まずは2〜3名からスタートするのが一般的です。1名だと休暇や退職のリスクに対応できず、多すぎると管理コストが先行します。初期メンバーの中にマネージャー(プレイングマネージャーでも可)を1名配置し、KPIの管理とフィールドセールスとの連携を統括させる体制が望ましいです。リード量に対して人員が不足する場合は、MQLの発生量をもとに増員計画を立てます。目安として、ISメンバー1名あたり月間50〜80件のMQL対応が適正な負荷とされています。
多くの企業では、SDR(インバウンド対応型)から立ち上げることを推奨します。理由は3つあります。第一に、マーケティングからのリードが既に存在する場合、即座に活動を開始できること。第二に、SDRはBDRと比較してオペレーションの難易度が低く、立ち上げのハードルが低いこと。第三に、SDRの運用を通じてライフサイクルステージやKPI管理の仕組みを整備しておけば、BDR追加時にその基盤を活用できることです。ただし、ターゲット企業が明確に絞り込まれている場合や、インバウンドリードが極めて少ない場合には、BDRから着手するケースもあります。
立ち上げ初期は、やや緩めに設定してインサイドセールスに十分なリード量を供給し、運用データを蓄積することを優先します。MQL→SQL変換率の実績データが蓄積されてきたら、そのデータをもとに基準を段階的に引き上げていくアプローチが有効です。基準が厳しすぎるとISに供給されるリード数が不足し、緩すぎるとISの生産性が低下します。MQL→SQL変換率20〜30%を目安に、自社にとっての最適なバランスを見つけていくことが重要です。
評価制度は、KPIの3層構造に対応させる形で設計します。基本給に加えたインセンティブの設計においては、SQL創出数や受注貢献額などの「成果指標」を主軸としつつ、MQL→SQL変換率やレスポンスタイムなどの「プロセス指標」も組み込むことが重要です。架電数などの「活動指標」だけでインセンティブを設計すると、量だけを追う行動が促進されるリスクがあります。また、IS起点の商談がフィールドセールスで受注に至った場合に、ISメンバーにも受注インセンティブの一部が還元される設計にすると、「質の高い商談を創出する」動機づけが強まります。
本記事で解説したインサイドセールスの設計思想やプロセスは、特定のCRMに依存するものではなく、Salesforce、Zoho CRM、Pipedriveなど他のCRM/SFAでも実装可能です。ただし、ライフサイクルステージの管理、ワークフローによるタスク自動化、シーケンス(メール自動フォロー)、パイプライン管理、ダッシュボード構築などの機能が揃っていることが前提です。HubSpotはこれらの機能が統合プラットフォームとして一体的に提供されている点で、インサイドセールスの立ち上げとの親和性が高いと言えます。