「マーケティングが獲得したリードの質が低い」と営業が不満を漏らし、「営業がフォローしてくれない」とマーケティングが嘆き、「導入の経緯がわからない」とカスタマーサクセスが困惑する――この三すくみの構図に心当たりはないでしょうか。
多くの企業が営業プロセスの分業体制を整えてきました。しかし、分業の精度が上がるほど、部門間の「つなぎ目」で収益機会が失われるという皮肉な状況が生じています。マーケティング・営業・カスタマーサクセス(CS)の各部門が個別に最適化を進めた結果、全体としての収益は最大化されていない。この構造的な課題に対する解として、いま注目を集めているのがRevOps(レベニューオペレーション)です。
RevOpsとは、収益に関わるすべての部門のプロセス・データ・テクノロジーを統合的に設計・運用する組織モデルです。米国では急速に普及が進み、Gartnerは最も急成長するビジネスの75%がRevOpsモデルを導入すると予測しています。一方、日本ではRevOpsを体系的に解説したコンテンツがまだ少なく、概念の理解すら十分に浸透していないのが現状です。本記事では、RevOpsの設計思想を体系的に解説し、日本企業が収益組織を構築するための具体的なフレームワークを提示します。
RevOps(Revenue Operations)とは、マーケティング・営業・カスタマーサクセスを「収益を生み出すひとつのプロセス」として捉え、そのプロセス・データ・テクノロジーを統合的に設計・運用する組織モデルです。
従来の営業組織では、マーケティング部門がリードを獲得し、営業部門が商談化・受注し、カスタマーサクセス部門が契約を維持するという分業体制が一般的です。各部門が自部門のKPIに責任を持ち、リレー方式で顧客を引き渡していく。この構造は効率的に見えますが、部門間のつなぎ目で情報が欠落し、顧客体験が断絶し、収益機会が失われるという構造的な問題を抱えています。
RevOpsは、この「分業の隙間」を埋めるために生まれました。各部門の専門性は維持しながらも、収益プロセス全体を一元的に設計・管理する機能を組織に組み込むことで、部門間のサイロ化を構造的に解消します。
RevOpsが注目される背景には、大きく3つの構造的な変化があります。
第一に、分業体制のサイロ化です。福田康隆氏が提唱したThe Modelは、日本のBtoB営業に「科学的な分業体制」という概念を持ち込み、多くの企業の成長を支えました。しかし、分業が進むほど部門間の壁が厚くなり、データの分断・顧客体験の断絶・部分最適化という課題が顕在化してきました。(The Modelの構造的限界については、関連記事「The Modelの限界と次世代営業組織」で詳しく解説しています。)
第二に、顧客購買行動の変化です。顧客はWebサイト閲覧、ホワイトペーパーのダウンロード、セミナー参加、問い合わせ、商談、契約、利用継続と、複数のタッチポイントを行き来しながら購買意思決定を行います。部門ごとに管理が分断されていると、この複雑な顧客行動を一貫して追跡・分析することができません。
第三に、収益モデルの変化です。サブスクリプション型のビジネスモデルでは、新規獲得だけでなく、既存顧客の維持・拡大(アップセル・クロスセル)が収益の柱となります。マーケティングから営業、営業からCSへと一方通行でリレーするのではなく、顧客のライフサイクル全体を循環的に設計するフライホイールの発想が不可欠です。
| 比較観点 | The Model | RevOps |
|---|---|---|
| 基本思想 | 機能別の分業と専門化 | 収益プロセス全体の統合 |
| プロセス設計 | リレー型(直線的に引き渡し) | フライホイール型(循環的に連携) |
| KPI管理 | 部門別KPIで個別評価 | 部門横断の収益指標で全体評価 |
| データ管理 | 部門ごとにツールが分散しがち | 単一データ基盤で一元管理 |
| 顧客体験 | 引き渡し時に断絶が生じやすい | 一貫した顧客体験を設計 |
| 最適化の単位 | 部門単位の部分最適 | 収益プロセス全体の全体最適 |
| テクノロジー | 機能別の個別ツール | 統合CRMプラットフォーム |
重要なのは、RevOpsがThe Modelを「否定」するものではないということです。RevOpsは、The Modelが築いた分業の枠組みを土台としつつ、その上に「統合」のレイヤーを加える進化形と捉えるのが適切です。各部門の専門性は維持しながら、部門間をつなぐオペレーション機能を設計する。これがRevOpsの本質です。
RevOpsは、以下の3つの統合によって成立します。いずれかひとつだけでは効果は限定的であり、3つを同時に設計することがRevOps成功の条件です。
RevOpsの第一の柱は、リード獲得から契約継続・拡大までの収益プロセスを一貫した流れとして設計することです。
従来の分業体制では、マーケティングが「リード獲得」、営業が「商談・受注」、CSが「継続・拡大」をそれぞれ個別のプロセスとして設計・運用していました。RevOpsでは、これらを「ひとつの収益プロセス」として再定義します。
具体的には、以下のようなプロセスの連続性を設計します。
プロセス統合の要点は、「部門の壁を取り払う」ことではなく、部門間のつなぎ目を明確に設計することです。誰が、どのタイミングで、どの情報を、どのように引き渡すのか。この設計がRevOpsの根幹を成します。
RevOpsの第二の柱は、顧客に関するすべてのデータを単一のデータベースで一元管理することです。
プロセスを統合しても、データが部門ごとに分散していては実効性がありません。マーケティングがMAツール、営業がSFA、CSがサポートツールとそれぞれ別のシステムでデータを管理している状態では、顧客の全体像を誰も把握できません。
RevOpsにおけるデータ統合とは、以下の情報を単一のプラットフォーム上で管理することを意味します。
| データ種別 | 具体的な内容 | 従来の管理先 |
|---|---|---|
| 会社・コンタクト情報 | 企業名、担当者名、役職、連絡先 | 名刺管理ツール、SFA |
| マーケティング活動 | Web閲覧履歴、メール開封、セミナー参加 | MAツール |
| 取引・商談情報 | 商談ステージ、金額、受注確度、活動履歴 | SFA |
| サポート・CS情報 | 問い合わせ履歴、チケット対応状況 | サポートツール |
| ライフサイクル情報 | 見込み客→MQL→SQL→顧客→推奨者の遷移 | 部門ごとに断片的に管理 |
データ統合の本質は、「ひとりの顧客に関するすべての接点情報が、ひとつの画面で確認できる」状態をつくることです。マーケティングがどのキャンペーンでリードを獲得し、営業がどのような提案で受注し、CSがどのような課題に対応しているか。この一気通貫の情報があってはじめて、収益プロセスの全体最適が可能になります。
RevOpsの第三の柱は、プロセスとデータを支えるテクノロジー基盤の統合です。
多くの企業がマーケティング用にMAツール、営業用にSFA、CS用にサポートツール、さらに分析用にBIツールと、機能ごとに異なるツールを導入しています。これらのツールをAPIやインテグレーションで「つなぐ」アプローチもありますが、接続が増えるほどメンテナンスコストが膨らみ、データの同期エラーが発生するリスクが高まります。
RevOpsの実装において最も効果的なのは、CRM・MA・SFA・サービス管理が最初からひとつのプラットフォーム上で統合されているツールを選定することです。個別ツールの「ベストオブブリード」を組み合わせるのではなく、統合プラットフォームを中核に据えることで、データの一元管理とプロセスの自動化を構造的に実現できます。
テクノロジー統合によって実現できることの例を挙げます。
RevOpsの「思想」を理解したうえで、次に問題になるのが「自社にどう組織を設計するか」です。企業の規模やフェーズに応じた3つのパターンを紹介します。
マーケティング・営業・CSとは独立したRevOps専任チームを設置し、収益プロセス全体のオペレーション管理を担わせるパターンです。
RevOpsチームの典型的な役割は以下の通りです。
このパターンは、営業組織が一定規模(目安として50名以上)に達し、部門間のサイロ化が明確に事業課題となっている大企業に適しています。RevOps責任者(VP of RevOps、RevOps Manager等)を配置し、CRO(Chief Revenue Officer)または経営層への直接レポートラインを持たせることで、部門横断の推進力を確保します。
専任チームを設置するリソースがない中小企業では、既存メンバーの兼務またはプロジェクト型でRevOps機能を立ち上げるパターンが現実的です。
具体的には、マーケティング・営業・CSの各部門からひとりずつ代表者を選出し、RevOpsプロジェクトチームとして週次で定例ミーティングを実施します。このチームが担うのは以下の役割です。
兼務型のメリットは、各部門の実情を熟知したメンバーが現場感覚を持ちながらRevOpsを推進できることです。一方、兼務であるがゆえにRevOps業務の優先順位が下がりがちになるリスクがあるため、経営層のコミットメントと定期的なレビュー体制が不可欠です。
すでにThe Model型の分業体制が定着している企業は、一気にRevOps体制へ移行するのではなく、段階的にRevOpsの要素を取り込んでいくアプローチが最も確実です。
| 段階 | やること | ゴール |
|---|---|---|
| 第1段階 | データ基盤の統合(CRM一元化) | 全部門が同じデータを参照できる状態 |
| 第2段階 | 収益KPIの共有(部門横断指標の導入) | 全部門が全体の収益に責任を持つ文化 |
| 第3段階 | プロセス統合(引き渡し設計の最適化) | 部門間のつなぎ目でのロスが最小化 |
| 第4段階 | RevOps専任機能の設置 | RevOpsが組織の常設機能として定着 |
この段階的アプローチの利点は、既存のオペレーションを止めることなく、ひとつずつ統合の範囲を広げていけることです。特に第1段階の「データ基盤の統合」は、どのパターンでも共通の出発点であり、ここを確実に押さえることがRevOps成功の前提条件となります。
RevOpsの最大の特徴のひとつが、部門別KPIに加えて、収益プロセス全体を俯瞰する部門横断KPIを設計・管理することです。RevOpsで管理すべきKPIは、大きく3つのカテゴリに分類できます。
| KPI | 定義 | RevOpsにおける意味 |
|---|---|---|
| MRR / ARR | 月次/年次の経常収益 | 収益プロセス全体のアウトプット指標 |
| NRR(売上維持率) | 既存顧客からの収益維持・拡大率 | 営業→CSの連携品質を反映する指標 |
| LTV(顧客生涯価値) | 顧客1社あたりの累積収益 | マーケ→営業→CS全体の成果を測る最終指標 |
| KPI | 定義 | RevOpsにおける意味 |
|---|---|---|
| リード→MQL変換率 | リードからMQLへの移行率 | マーケティングの「質」を評価 |
| MQL→SQL変換率 | MQLからSQLへの移行率 | マーケ→営業の引き渡し品質を評価 |
| SQL→受注変換率 | 商談から受注への成約率 | 営業プロセスの効果を評価 |
| ファネル全体変換率 | リードから受注までの一気通貫変換率 | 収益プロセス全体の健全性を評価 |
| KPI | 定義 | RevOpsにおける意味 |
|---|---|---|
| CAC(顧客獲得コスト) | 1顧客を獲得するためのコスト | マーケ+営業の投資対効果を評価 |
| セールスサイクル | リード発生から受注までの期間 | プロセス全体のスピードを評価 |
| LTV/CAC比率 | 顧客生涯価値と獲得コストの比率 | 収益モデル全体の持続可能性を評価 |
| 顧客対応SLA達成率 | 問い合わせへの応答時間基準の達成率 | CS品質と顧客満足度を評価 |
RevOpsにおけるKPI設計の要点は、これらの指標を「部門の壁を超えた共通言語」として全社で共有することです。たとえば、NRR(売上維持率)はCSだけの指標ではなく、営業の受注品質やマーケティングのターゲティング精度にも左右されます。RevOpsでは、こうした指標の因果関係を可視化し、部門横断で改善に取り組む文化を醸成します。
RevOpsの3つの構成要素(プロセス統合・データ統合・テクノロジー統合)を実現するうえで、統合CRMプラットフォームはRevOpsの実装基盤として最も合理的な選択肢です。
その理由は明確です。CRMは本来、顧客に関するすべての情報を一元管理するために設計されたシステムだからです。会社・コンタクト・取引・チケットといった標準オブジェクトで顧客情報を構造化し、マーケティング・営業・CSの各活動をひとつのタイムラインで時系列に記録する。この設計思想は、RevOpsが求める「単一の顧客データ基盤」そのものです。
特に、マーケティングオートメーション(MA)・営業支援(SFA)・カスタマーサービス管理・オペレーション管理が最初からひとつのCRM上で統合されているプラットフォームを選定すれば、RevOpsの実装は格段にスムーズになります。たとえばHubSpotは、Marketing Hub、Sales Hub、Service Hub、Operations Hubの各機能がひとつのCRMデータベース上で動作する「オールインワンCRM」として設計されており、RevOpsに必要なプロセス統合・データ統合・テクノロジー統合を構造的にサポートしています。
CRM基盤を活用してRevOpsを実装する際の主要な要素を整理します。
| RevOpsの要件 | CRMでの実装方法 | 期待される効果 |
|---|---|---|
| 顧客ライフサイクルの一気通貫管理 | ライフサイクルステージ機能でマーケ→営業→CSのステージ遷移を自動管理 | 部門間の引き渡し精度の向上 |
| 商談プロセスの可視化 | パイプライン管理(かんばん方式)で各ステージの案件数・金額を可視化 | 営業プロセスのボトルネック特定 |
| リードナーチャリング | マーケティングオートメーションでリードスコアリングとナーチャリングシーケンスを自動化 | マーケ→営業のリード引き渡し品質向上 |
| 部門横断KPIの管理 | 統合ダッシュボードで収益KPI・プロセスKPI・効率KPIを一画面に集約 | 経営層のリアルタイムな意思決定 |
| 部門間プロセスの自動化 | ワークフロー機能で部門間の引き渡し・通知・タスク生成を自動化 | 手動の引き渡し作業の削減とミスの防止 |
| データの品質管理 | Operations Hub等のデータ同期・クレンジング機能で重複排除・表記統一を自動化 | 分析の精度向上、意思決定の質の向上 |
CRMは単なる「ツール」ではなく、RevOpsの設計思想を実装するための「基盤インフラ」です。RevOpsの導入を検討する際、テクノロジー選定はプロセス設計と同時に行うべきであり、CRMプラットフォームの選定はRevOps成功の成否を左右する重要な意思決定となります。
RevOpsの導入は、一夜にして完了するものではありません。以下の4つのフェーズで段階的に推進することで、既存オペレーションへの影響を最小化しながら確実に成果を積み上げることができます。
RevOps導入の出発点は、自社の現状を客観的に診断することです。
RevOps導入のすべてが始まるのは、データ基盤の統合からです。分散しているデータを統合CRMプラットフォームに集約し、「ひとりの顧客に関するすべてのデータがひとつの場所にある」状態を作ります。
データ基盤が整ったら、部門間のプロセスを統合し、自動化を進めます。
RevOpsは「導入して終わり」ではなく、継続的に収益プロセスを改善し続ける仕組みです。
RevOpsの本質は、「一度設計したら完成」するものではなく、フライホイールのように収益プロセス全体を継続的に回し、改善し続ける運用モデルです。この継続的改善のサイクルこそが、RevOpsが長期的な競争優位をもたらす根本的な理由です。
RevOps(レベニューオペレーション)は、マーケティング・営業・カスタマーサクセスを「収益を生み出すひとつのプロセス」として統合的に設計・運用する組織モデルです。その核心は、以下の3つの統合にあります。
日本ではRevOpsの認知度はまだ低く、体系的に設計・導入している企業はごく少数です。しかし、The Modelに代表される分業体制のサイロ化が多くの企業で課題となるなか、RevOpsの設計思想は今後ますます重要性を増していきます。
RevOps導入の第一歩は、データ基盤の統合です。部門ごとに分散したデータを統合CRMプラットフォームに集約し、全部門が同じ顧客データを参照できる環境を整える。この土台があってはじめて、プロセスの統合も、KPIの共有も、自動化も機能します。
マーケティング・営業・CSがバラバラに動く「部門の集合体」から、収益プロセスとして統合された「収益組織」へ。RevOpsの設計思想をもとに、自社の営業組織の進化を検討してみてください。
A. The Modelはマーケティング・インサイドセールス・フィールドセールス・カスタマーサクセスの「機能別分業」に焦点を当てた営業組織モデルです。一方、RevOpsはこの分業体制を前提としつつ、部門間のプロセス・データ・テクノロジーを「統合」するレイヤーを加えるアプローチです。RevOpsはThe Modelを否定するものではなく、分業の枠組みを維持しながらサイロ化を解消する「進化形」と位置づけられます。
A. 企業規模や既存のシステム・プロセスの状態によりますが、データ基盤の統合(フェーズ2)に3〜6ヶ月、プロセス統合と自動化(フェーズ3)にさらに3〜6ヶ月が目安です。ただし、RevOpsは「導入して完了」ではなく継続的に改善していく運用モデルであるため、フェーズ4の運用・改善は永続的に続きます。段階的に進めることで、早い段階から部分的な成果を得ることも可能です。
A. 導入可能です。むしろ、部門間の距離が近い中小企業のほうが、RevOpsの導入はスムーズに進むケースが多くあります。専任のRevOpsチームを設置する必要はなく、各部門から代表者を選出した兼務・プロジェクト型で始められます。最も重要なのは、統合CRMを導入してデータを一元管理する基盤を整えることです。オールインワン型のCRMプラットフォームを選定すれば、中小企業でも低コストでRevOpsの基盤を構築できます。
A. 最初の一歩は「データ基盤の統合」です。部門ごとに分散しているツールやスプレッドシートのデータを、統合CRMプラットフォームに集約します。すべての顧客データがひとつのプラットフォーム上で管理される状態を作ることが、RevOpsのすべての施策の前提条件です。データ統合と並行して、現状の課題(部門間の引き渡しロス、データの分断状況、KPIの整合性)を定量的に診断し、RevOps導入のゴールを明確に設定することも重要です。
A. 経営層のコミットメントです。RevOpsは部門横断の取り組みであるため、各部門の利害が対立する場面が必ず生じます。「収益プロセス全体の最適化」という方針を経営層が明確に打ち出し、部門間の調整を主導しなければ、RevOpsは形骸化します。テクノロジーやプロセスの設計も重要ですが、それ以上に「マーケ・営業・CSはひとつの収益チームである」という経営の意思が、RevOps成功の最も重要な条件です。