「既存顧客からの売上をもっと伸ばしたいが、何から手をつければいいかわからない」「アップセルやクロスセルが属人的で、戦略的に設計できていない」「CRMにデータはあるが、LTV向上にどう活かせばいいのかが見えない」——BtoB企業の経営者・事業責任者であれば、こうした課題を一度は感じたことがあるのではないでしょうか。
新規顧客の獲得コストは、既存顧客への追加提案コストの5〜7倍と言われています。つまり、既存顧客のLTV(顧客生涯価値)を最大化することは、最もコスト効率の高い売上成長戦略です。しかし、LTVを「結果指標」として眺めるだけでは何も変わりません。LTVを構成する要素を分解し、アップセル・クロスセルの戦略を設計し、CRMデータを活用して実行と測定のサイクルを回すことで、LTVは意図的に引き上げることが可能です。
本記事では、BtoB企業がLTVを最大化するための設計方法を、CRMデータの活用を軸に体系的に解説します。LTVの構造分解から、アップセル・クロスセル戦略の設計手順、顧客セグメント別のアプローチ方法、そしてCRMの取引パイプライン・コンタクトタイムライン・レポート機能を活用した実務的な運用設計までを網羅的に紹介します。
LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)とは、1人(1社)の顧客が取引開始から終了までの全期間を通じて企業にもたらす累計収益の総額を示す指標です。BtoB企業において、LTVは売上成長の質を測る中核指標であり、「どれだけ多くの顧客を獲得したか」ではなく「獲得した顧客からどれだけの価値を生み出せたか」を評価する基準になります。
LTVの算出方法にはいくつかのバリエーションがありますが、BtoB企業で実務的に使いやすい基本算出式は以下のとおりです。
| 算出式 | 計算方法 | 適したビジネスモデル |
|---|---|---|
| 基本式 | 平均顧客単価 × 平均取引回数 × 平均継続期間 | 取引ベースのBtoB企業全般 |
| サブスク式 | 月額単価(MRR) × 粗利率 × 平均継続月数(1 ÷ 月次解約率) | SaaS・サブスクリプション型 |
| コホート式 | 特定期間に獲得した顧客群の累計収益 ÷ 顧客数 | 獲得時期別の比較分析を行いたい場合 |
いずれの算出式でも共通しているのは、LTVが「顧客単価」「取引頻度」「継続期間」という3つの軸の掛け算で構成されているという点です。つまり、LTVを高めるには、この3つの軸のいずれか(理想的には複数)を改善する施策を設計すればよいことになります。
LTVの算出式を実務に落とし込むために、LTVを以下の4つの構成要素に分解して考えます。
| 構成要素 | 定義 | 改善施策の方向性 | CRMでの管理方法 |
|---|---|---|---|
| 顧客単価 | 1回の取引あたりの平均金額 | アップセル(上位プランへの移行) | 取引(Deal)の金額フィールド |
| 取引頻度 | 一定期間における取引回数 | クロスセル(関連サービスの追加提案) | 企業・コンタクトに紐づく取引数 |
| 継続期間 | 顧客が取引を続ける平均期間 | 解約防止・リテンション施策 | 契約開始日からの経過期間 |
| 粗利率 | 売上に対する粗利の割合 | 提供コストの最適化・価格設計の見直し | カスタムプロパティで管理 |
この4要素のうち、本記事では特に「顧客単価」と「取引頻度」を引き上げるためのアップセル・クロスセル戦略に焦点を当てて解説します。継続期間の改善(解約防止)も重要ですが、それは別途チャーン対策として体系的に取り組むべきテーマです。
BtoB企業の売上成長を支えるレバーには、新規顧客獲得・既存顧客の収益拡大・顧客維持率の向上の3つがあります。この中で、既存顧客の収益拡大(LTVの最大化)は、最もコスト効率の高い成長レバーです。その理由を3つの観点から解説します。
新規顧客を獲得するには、マーケティング費用、営業工数、提案・見積・交渉のリードタイム、オンボーディングコストなど、多大なリソースが必要です。一般的に、新規獲得のCAC(顧客獲得コスト)は既存顧客への追加提案コストの5〜7倍とされています。
既存顧客にはすでに信頼関係があり、自社のサービスを理解しており、意思決定プロセスも把握しています。この「既に構築された関係性」を活用することで、提案から受注までのリードタイムが大幅に短縮され、営業効率が飛躍的に高まります。
既存顧客へのアップセル・クロスセル提案の受注率は、新規顧客への提案と比較して一般的に2〜3倍高い水準にあります。これは、既存顧客が自社のサービス品質やサポート体制を実体験として理解しているため、購買の心理的ハードルが低いことに起因します。
CRMに蓄積された過去の取引履歴やコミュニケーション履歴を活用すれば、顧客の課題やニーズを事前に把握した上で提案できるため、提案の的中率がさらに高まります。
新規顧客の獲得数は市場環境や競合状況に左右されやすく、予測のブレ幅が大きい傾向があります。一方、既存顧客の取引拡大は、CRMデータに基づいて対象顧客とタイミングを精緻に予測できるため、収益計画の確度が高いという利点があります。
CRMの取引パイプラインで既存顧客向けの拡大案件を管理すれば、フォーキャスト(売上予測)の精度が向上し、経営の意思決定を支える信頼性の高いデータが得られます。
LTV最大化の実行施策としてのアップセルとクロスセルは、混同されがちですが、戦略上の位置づけと設計のポイントは明確に異なります。
| 項目 | アップセル | クロスセル |
|---|---|---|
| 定義 | 現在利用中のサービス・プランをより上位のものに移行させること | 現在利用中のサービスに加え、関連する別のサービスを追加提案すること |
| 具体例 | スタンダードプランからプレミアムプランへの移行、ユーザー数の追加、上位サポートプランの付加 | マーケティングツールの契約企業に営業支援ツールを追加、コンサルティングサービスの付加 |
| LTVへの影響 | 顧客単価の向上(1回あたりの取引金額が増加) | 取引頻度・範囲の拡大(取引の幅が広がる) |
| 提案タイミング | 現サービスの利用が上限に近づいたとき、契約更新のタイミング | 現サービスで成果が出始めたとき、隣接課題が顕在化したとき |
| CRMでの管理 | 既存取引のプランアップグレードとしてパイプラインで管理 | 新規取引(別パイプライン)として作成し、既存企業に紐づけ |
アップセルは「顧客が既に価値を感じているサービスをより深く活用できるようにする」という文脈で提案することが重要です。単なる値上げ交渉と受け取られてしまうと、顧客との関係性を損なうリスクがあります。
アップセルが成功しやすい条件は以下のとおりです。
CRMのコンタクトタイムラインで顧客の利用状況やサポート問い合わせ内容を追跡し、これらの条件に合致する顧客を特定することが、アップセル戦略の出発点になります。
クロスセルは「顧客のビジネス課題を幅広く解決する」という視点で、現在のサービスとの相乗効果が見込まれる関連サービスを提案します。顧客が抱える課題の「隣接領域」を把握し、既存サービスとの組み合わせによる付加価値を明確に示すことが成功の鍵です。
クロスセルが成功しやすい条件は以下のとおりです。
CRMの取引データと活動ログから、顧客が現在どのサービスを利用しており、どの領域に未導入のサービスがあるかを一覧で把握できれば、クロスセルの提案機会を体系的に発見できます。
ここからは、CRMに蓄積されたデータを活用して、LTV向上のためのアップセル・クロスセル施策を体系的に導出する5つのステップを解説します。
LTV最大化の第一歩は、顧客を適切にセグメント分けし、セグメントごとのLTVを算出することです。全顧客の平均LTVだけを見ていては、どこに改善の余地があるかが見えません。
CRMの取引データとコンタクトデータを使って、以下のような軸でセグメント分けを行います。
| セグメント軸 | 具体例 | CRMでの設定方法 |
|---|---|---|
| 業種 | 製造業、IT、金融、小売など | 企業レコードの「業種」プロパティ |
| 企業規模 | 従業員数・年商のレンジ | 企業レコードの「従業員数」「年間売上」プロパティ |
| 契約サービス | プランA、プランB、複数プランの組み合わせ | 取引レコードの「商品/サービス」フィールド |
| 獲得チャネル | 紹介、Web問い合わせ、展示会、コンペ | コンタクトの「オリジナルソース」プロパティ |
| 契約開始時期 | 四半期別・年度別のコホート | 取引の「クローズ日」を基準にグルーピング |
CRMのレポート機能を使い、セグメント別に「累計取引金額」「平均契約継続期間」「取引回数」を集計すれば、セグメントごとのLTVが算出できます。この分析により「どのセグメントのLTVが高いか」「どのセグメントに改善余地があるか」が明確になります。
セグメント別のLTVが算出できたら、次は高LTV顧客に共通する特性を分析します。この分析は、アップセル・クロスセルの「誰に」「何を」提案すべきかを決めるための基盤になります。
CRMで分析すべき高LTV顧客の共通特性は以下のようなものです。
CRMのコンタクトタイムラインには、メールのやり取り、ミーティングの記録、電話ログ、Web上の行動履歴など、顧客との接点に関するあらゆるデータが時系列で蓄積されています。このタイムラインデータを高LTV顧客群で横断的に分析することで、「成功する顧客関係のパターン」が浮かび上がります。
高LTV顧客の共通特性が把握できたら、その知見を活用してアップセル・クロスセルの機会を具体的に特定します。CRMデータから機会を見つけるための分析アプローチは以下のとおりです。
アップセル機会の特定:
クロスセル機会の特定:
特定したアップセル・クロスセル機会を、具体的な提案シナリオに落とし込み、CRMのパイプラインで管理します。
アップセル・クロスセル専用のパイプラインをCRM上に別途作成することが重要です。新規獲得用のパイプラインと同一のパイプラインで管理すると、案件の性質が異なるため進捗管理が煩雑になり、正確な分析ができなくなります。
アップセル・クロスセル専用パイプラインのステージ設計例:
| ステージ | 定義 | 入り口条件 | 受注確度 |
|---|---|---|---|
| 機会認識 | CRMデータからアップセル・クロスセルの可能性を認識 | データ分析またはCSからの情報提供 | 10% |
| ニーズ確認 | 顧客との会話で追加ニーズの存在を確認 | 顧客がニーズを認識していることを確認 | 25% |
| 提案 | 具体的なプラン・サービス内容と価格を提示 | 顧客が提案の検討に同意 | 50% |
| 交渉 | 条件の調整・社内稟議の進行 | 提案内容に概ね合意し、条件調整の段階 | 75% |
| 受注 | 契約締結・サービス追加の確定 | 契約書の締結 | 100% |
各案件は企業レコードと紐づけて管理します。これにより、同一顧客の初回取引からアップセル・クロスセルまでの一連の取引履歴がCRM上で一目で把握でき、LTVの変遷を正確にトラッキングできます。
アップセル・クロスセル施策の効果を継続的に測定するために、MRR(Monthly Recurring Revenue:月次経常収益)の可視化の仕組みをCRM上に構築します。
MRRを以下の区分で管理することで、LTV向上施策の成果を正確に把握できます。
| MRR区分 | 定義 | LTV施策との関連 |
|---|---|---|
| 新規MRR | 新規顧客からの月額収益 | 新規獲得の成果を測定 |
| 拡大MRR(Expansion MRR) | 既存顧客のアップセル・クロスセルによる増分収益 | LTV向上施策の直接的な成果指標 |
| 収縮MRR(Contraction MRR) | 既存顧客のダウングレードによる減少分 | 顧客満足度の課題シグナル |
| 喪失MRR(Churned MRR) | 解約顧客による喪失収益 | リテンション施策の成果を測定 |
CRMのカスタムオブジェクト機能を使って「請求」オブジェクトを作成し、各顧客の月次請求データを管理することで、MRRの区分別推移を詳細にトラッキングできます。特に拡大MRR(Expansion MRR)は、アップセル・クロスセル施策の直接的な成果指標となるため、ダッシュボード上で常時モニタリングする体制を整えます。
LTV向上施策の効果を最大化するには、全顧客に一律の提案を行うのではなく、顧客セグメントごとに異なるアプローチを設計することが重要です。CRMデータを使って顧客をLTVと成長ポテンシャルの2軸で4つのセグメントに分類し、それぞれに適した戦略を設計します。
既にLTVが高く、さらなる拡大余地がある顧客群です。このセグメントは最も戦略的に重要な顧客であり、専任のアカウントマネージャーを配置し、中長期的なアカウント成長計画を策定します。
推奨施策:
CRMでの管理方法:コンタクトタイムラインに四半期レビューの記録を蓄積し、取引パイプラインにアカウント成長計画に基づく拡大案件を作成します。企業レコードに「セグメントA」のタグを付与し、レポートで一括管理します。
既にLTVが高いものの、現在の契約範囲で十分にサービスを活用しており、短期的な拡大余地が限られている顧客群です。このセグメントの最優先課題は関係性の維持と解約防止です。
推奨施策:
CRMでの管理方法:契約更新日の90日前に自動アラートを設定し、更新プロセスの遅延を防止します。NPS調査の結果をコンタクトレコードに記録し、スコアの低下をトリガーにフォローアクションを実行します。
現在のLTVは低いものの、企業規模や業種から見て大きな成長ポテンシャルがある顧客群です。このセグメントはLTV引き上げの最大の機会であり、積極的なアップセル・クロスセルのターゲットになります。
推奨施策:
CRMでの管理方法:アップセル・クロスセル専用パイプラインに拡大案件を作成し、営業チームのフォロー対象リストに追加します。企業レコードの「ポテンシャルスコア」プロパティにスコアを入力し、レポートで優先順位を可視化します。
現在のLTVが低く、成長ポテンシャルも限定的な顧客群です。このセグメントに過大なリソースを投下することはROI(投資対効果)の観点から合理的ではありません。効率的な管理を主眼に置いたアプローチが適しています。
推奨施策:
CRMでの管理方法:ワークフロー機能を活用し、定期的なメール配信やフォローを自動化します。手動での営業フォローは最小限にとどめ、顧客の行動データに変化が見られた場合のみアラートを発行してアクションする設計にします。
ここでは、CRMの具体的な機能を活用して、LTV最大化の戦略を実務に落とし込む方法を解説します。
CRMのパイプライン機能では、取引の種類ごとに複数のパイプラインを作成し、それぞれ独立して管理することが可能です。LTV最大化に向けた実務運用では、以下のようなパイプライン構成を推奨します。
| パイプライン名 | 管理対象 | ステージ構成のポイント |
|---|---|---|
| 新規獲得パイプライン | 初めての取引となる新規案件 | リードクオリフィケーションからオンボーディングまでを含む |
| アップセルパイプライン | 既存顧客のプランアップグレード案件 | 機会認識→ニーズ確認→提案→受注の簡潔なステージ |
| クロスセルパイプライン | 既存顧客への関連サービス追加案件 | サービス紹介→PoC/トライアル→提案→受注のステージ |
| 契約更新パイプライン | 既存契約の更新管理 | 更新準備→条件提示→合意→締結のステージ |
パイプラインを分離することで、新規獲得とLTV向上施策のそれぞれの成果を正確に測定できます。レポートでパイプライン別の受注件数・金額・受注率を集計すれば、どの施策がLTV向上に最も貢献しているかが一目でわかります。
CRMのコンタクトタイムラインは、顧客との全ての接点を時系列で記録・表示する機能です。アップセル・クロスセルの成功率を高めるためには、このタイムラインデータを「提案機会の発見」と「提案内容の最適化」の両面で活用します。
提案機会の発見に活用するシグナル:
提案内容の最適化に活用するデータ:
LTV最大化の取り組みを持続的に改善するために、CRMのレポート機能とダッシュボード機能を使って、LTV関連のKPIを常時モニタリングする環境を構築します。
ダッシュボードに配置すべきレポート:
| レポート名 | 内容 | 更新頻度 |
|---|---|---|
| セグメント別LTV推移 | 顧客セグメントごとのLTV平均値の月次推移 | 月次 |
| MRR区分別推移 | 新規MRR・拡大MRR・収縮MRR・喪失MRRの月次推移 | 月次 |
| アップセル・クロスセルパイプライン | 拡大パイプラインのステージ別案件数・金額 | 週次 |
| 顧客単価トレンド | 平均顧客単価の月次推移とセグメント別比較 | 月次 |
| アップセル・クロスセル受注率 | 拡大パイプラインの受注率と新規パイプラインとの比較 | 月次 |
| 契約更新率 | 契約更新パイプラインの更新率と更新時の金額変動 | 月次 |
これらのレポートを経営ダッシュボードに配置し、経営会議で定期的にレビューすることで、LTV向上施策のPDCAサイクルが組織的に回る仕組みが構築されます。
LTV最大化を組織的な取り組みとして推進するには、具体的な目標値を設定し、その達成状況をリアルタイムで可視化することが不可欠です。CRMの目標設定機能を使って、以下のようなKPI目標を設定します。
目標に対する達成率をリアルタイムでダッシュボードに表示し、進捗が計画を下回っている場合は早期にアクションを取れる体制を整えます。目標設定→リアルタイムレポート→ギャップ分析→アクションというサイクルを高速で回すことが、LTV最大化の組織運営における要点です。
LTV最大化は営業部門だけの課題ではなく、マーケティング・営業・カスタマーサクセス(CS)の部門横断的な取り組みとして設計する必要があります。各部門がCRMをデータ基盤として共有し、顧客のライフサイクル全体を通じたLTV向上に取り組む体制を構築します。
| 部門 | LTV最大化における役割 | CRMへの入力責任 |
|---|---|---|
| マーケティング | 既存顧客向けのナーチャリングコンテンツの企画・配信、成功事例の作成と共有、クロスセルの啓蒙活動 | メール配信結果、Webエンゲージメントデータ、キャンペーン成果 |
| 営業(アカウントマネジメント) | アップセル・クロスセルの提案と受注、アカウント成長計画の策定・実行 | 取引パイプラインの更新、ミーティングノート、提案内容 |
| カスタマーサクセス(CS) | 顧客の利用促進・定着支援、満足度の向上、解約リスクの検知、アップセル機会の営業部門への引き渡し | 顧客の利用状況、満足度スコア、サポート問い合わせ内容、ヘルススコア |
LTV最大化を実現するには、以下のようなデータ連携フローをCRM上に構築します。
CS部門 → 営業部門への機会引き渡し:
マーケティング部門 → 営業部門への情報提供:
営業部門 → CS部門へのフィードバック:
ここでは、CRMデータを起点としたLTV最大化の実践的な施策導出プロセスを、具体的なシナリオで解説します。
CRMの取引レポートで、過去12ヶ月間の既存顧客の取引データを分析したところ、以下のパターンが判明したとします。
この分析から、「利用量80%超 × 上位機能への関心あり」の条件に合致する企業リストをCRMで抽出し、アップセルパイプラインに案件として登録します。該当する企業群のコンタクトタイムラインを個別に確認し、各社に適した提案タイミングとシナリオを設計します。
CRMのレポート機能で、LTV上位20%の顧客群の契約サービス構成を分析したところ、以下のパターンが判明したとします。
この分析から、「マーケティング支援サービス契約中 × 営業支援サービス未契約 × 企業規模が高LTV顧客群と同等」の条件に合致する120社をクロスセルのターゲットリストとして設定します。まずはCS部門が定例ミーティングで営業プロセスの課題をヒアリングし、ニーズの存在を確認した上で、営業部門がクロスセルパイプラインに案件を作成します。
CRMのMRRレポートで直近6ヶ月間のMRR推移を分析したところ、以下の状況が判明したとします。
この分析から、2つの優先施策が導出されます。第一に、喪失MRRの削減(解約防止施策の強化)が急務です。第二に、拡大MRRの増加、特にクロスセルの比率を高めることで、LTV全体の底上げが期待できます。MRRの区分別データが、施策の優先順位を客観的に示すわかりやすい例です。
LTV最大化の取り組みにおいて、多くのBtoB企業が陥りがちな失敗パターンとその回避策を整理します。
| 失敗パターン | なぜ起きるか | 回避策 |
|---|---|---|
| 顧客満足度を無視したアップセルの押し売り | 短期的な売上目標へのプレッシャーが原因で、顧客の課題よりも自社の都合を優先してしまう | CRMの顧客満足度データ(NPS、サポート履歴)を提案の前提条件にする。満足度が低い顧客にはまず課題解決を優先する |
| 全顧客に同じアプローチで提案する | セグメント別の戦略設計がなく、「全員にキャンペーンメールを送る」だけになっている | CRMデータに基づく4セグメント分類を行い、セグメントごとに提案内容・タイミング・チャネルを最適化する |
| アップセル・クロスセルの成果が測定できない | 新規と既存の取引を同一パイプラインで管理しており、拡大収益の内訳が不明 | アップセル・クロスセル専用のパイプラインを作成し、MRRの区分別管理を導入する |
| CS部門と営業部門のデータが分断されている | CS部門が別ツールで顧客管理をしており、利用状況や満足度の情報がCRMに反映されていない | CS部門のデータもCRMに統合し、顧客のライフサイクル全体を一元管理する体制を構築する |
| LTVの改善を「一度きりの施策」として扱う | 施策を実行した後の効果測定と改善のサイクルが回っていない | CRMのダッシュボードでLTV関連KPIを常時モニタリングし、月次・四半期でPDCAを回す仕組みを構築する |
| LTV向上よりも新規獲得を常に優先する | 新規獲得の成果は短期的に可視化しやすいが、LTV向上の効果は時間がかかるため後回しになる | 拡大MRRやLTV推移を経営KPIに組み込み、新規獲得と同等の重要度で経営会議でレビューする |
これらの失敗パターンに共通するのは、CRMデータの活用不足と、組織的な仕組みの欠如が根本原因であるという点です。LTV最大化は個人の営業力に依存するのではなく、CRMデータを基盤とした組織的な設計で実現するものです。
LTV(顧客生涯価値)の最大化は、BtoB企業にとって最もコスト効率の高い売上成長戦略です。本記事のポイントを整理します。
LTV最大化の第一歩は、CRMのレポート機能で自社の顧客セグメント別LTVを算出し、「どのセグメントにどれだけの改善余地があるか」を把握することです。データに基づく顧客理解が、効果的なアップセル・クロスセル戦略を導く原動力になります。
LTVを算出するには、最低限「顧客ごとの取引金額」「取引開始日」「取引回数(または月額請求額)」の3つのデータがCRMに記録されていることが必要です。加えて、解約日が記録されていれば平均継続期間も算出でき、より精度の高いLTVが算出可能になります。データが不十分な場合は、まずCRMの取引レコードに金額と日付を正確に入力する運用ルールを定着させることから着手してください。12ヶ月分以上のデータが蓄積されれば、セグメント別のLTV分析やコホート分析が実践的な精度で実施できるようになります。
可能であれば分離することを推奨します。理由は3つあります。第一に、アップセルとクロスセルでは提案プロセスとリードタイムが異なるため、同一パイプラインで管理すると正確な進捗管理が困難になります。第二に、レポートで「アップセルによる拡大収益」と「クロスセルによる拡大収益」を個別に集計でき、施策の効果測定精度が高まります。第三に、営業チームの役割分担が明確になり、各担当者のKPI設定がしやすくなります。ただし、拡大案件の母数が少ない初期段階では「拡大パイプライン」として統合し、規模が拡大した時点で分離するアプローチでも問題ありません。
リソース配分の判断は、CRMのMRRデータに基づいて行います。具体的には、「新規MRR」「拡大MRR」「喪失MRR」の3つの指標のバランスを確認してください。喪失MRRが新規MRRの30%を超えている場合は、まず解約防止(リテンション)にリソースを集中させるべきです。喪失MRRが安定している場合は、拡大MRRの伸びしろと新規MRRの伸びしろを比較し、ROIが高い方に優先的にリソースを配分します。一般的に、既存顧客基盤が一定規模に達しているBtoB企業では、リソースの40〜60%をLTV最大化(既存拡大+リテンション)に配分し、残りを新規獲得に充てるバランスが効果的です。
セグメント分類の基準は、自社のビジネスモデルと顧客特性に合わせてカスタマイズする必要がありますが、出発点として「LTVの実績値」と「成長ポテンシャルスコア」の2軸を推奨します。LTVの実績値はCRMの取引データから算出できます。成長ポテンシャルスコアは、企業規模(従業員数や年商)、業種、未契約サービスの数、Web上のエンゲージメントレベルなどの指標を組み合わせてスコア化します。CRMのカスタムプロパティにスコアを設定し、自動計算のワークフローを構築すれば、セグメント分類を半自動化することも可能です。分類基準は固定ではなく、四半期ごとにデータを検証して基準の妥当性を見直すことが重要です。
実践可能です。むしろ、顧客数が少ない小規模企業の方が、顧客ごとのLTV改善施策を丁寧に設計・実行できるという利点があります。顧客数が50社未満であれば、全顧客のLTVをスプレッドシートで手動算出し、CRMのリスト機能でセグメント管理するだけでも十分な効果が得られます。重要なのは「全顧客に一律のアプローチをするのではなく、データに基づいてアプローチを変える」という設計思想を持つことです。CRMの無料プランでも取引パイプラインとコンタクトタイムラインは利用できるため、まずはアップセル・クロスセル機会の記録と追跡から始め、段階的にレポートやダッシュボードの活用に拡大していくアプローチを推奨します。