「営業がテレアポで商談を作っていた時代と、顧客の購買行動がまったく変わっている気がする」「マーケが作ったリードに営業がアプローチしても、すでに顧客は比較検討を終えていることがある」「顧客が問い合わせをしてくる時点で、もう意思決定の大半が済んでいる」――こうした声が、営業現場からもマーケティング部門からも聞こえてくるようになりました。
BtoB購買行動は、この数年で構造的に変化しています。かつては営業担当者が情報提供の起点となり、顧客は営業からの提案を受けて検討を進めていました。しかし、デジタルコンテンツの充実やSaaS比較サイトの普及により、顧客は営業に会う前に購買プロセスの大半を自力で進めるようになっています。この「売り手主導から買い手主導への構造転換」は、営業・マーケティング組織の設計思想そのものを見直す必要があることを意味します。
本記事では、BtoB購買行動の構造変化を整理したうえで、その変化に対応するための営業・マーケティング組織の再設計方法を解説します。The Modelの分業体制やフライホイールの循環設計といったフレームワークの議論を踏まえつつ、CRM/MAを活用した新しい顧客接点の設計思想を、営業責任者・経営者の視点で提示します。
従来のBtoB購買プロセスでは、営業担当者が情報提供の主要チャネルでした。顧客は製品やサービスの詳細を知るために営業に問い合わせ、提案を受け、比較検討する。営業担当者は顧客よりも多くの情報を持っており、その情報格差が営業の優位性の源泉でした。
この時代の購買プロセスは、おおむね以下の流れで進行していました。
営業がプロセスの早い段階で顧客に接触し、提案の方向性をコントロールできる。つまり、「営業がリードし、顧客がフォローする」構造です。この環境では、The Model型の分業体制が極めて有効に機能しました。マーケティングがリードを獲得し、インサイドセールスが接点を作り、フィールドセールスが提案する。営業がプロセスの主導権を持っている限り、この直線的なリレー方式は合理的だったのです。
しかし、デジタル化の進展は、この構造を根本から変えました。顧客はWeb検索、SaaS比較サイト、業界メディア、SNS上の口コミ、ウェビナー、ホワイトペーパーなどを通じて、営業に接触する前に自力で情報収集を完了するようになっています。
Gartner社の調査によれば、BtoB購買者が購買プロセスにおいて営業担当者と接触する時間は、全体の購買活動のわずか17%程度とされています。残りの83%は、独自の調査、社内での検討、第三者からの情報収集に費やされています。複数のベンダーから提案を受ける場合、1社の営業と対話する時間はさらに短くなります。
つまり、顧客が営業に問い合わせをしてきた時点で、購買プロセスの大半はすでに完了しているのです。比較検討も、要件の整理も、予算の概算確認も、ほぼ終わっている。営業が「初回提案」だと思っている場面は、顧客にとっては「最終確認」であることが少なくありません。
| 比較項目 | 従来型(売り手主導) | 現在型(買い手主導) |
|---|---|---|
| 情報の主導権 | 営業担当者が情報提供の主役 | 顧客が自ら情報を収集・比較 |
| 営業との接触タイミング | 検討初期から営業が関与 | 検討の後半、最終確認段階で接触 |
| 意思決定プロセス | 営業の提案をベースに社内検討 | 自社調査をベースに営業の提案を検証 |
| 購買の関与者 | 担当者が中心、意思決定者は最終承認 | 複数のステークホルダーが関与、合議制 |
| 検討期間 | 営業のペースでコントロール可能 | 顧客のペースで進行、長期化傾向 |
| 営業の役割 | 情報提供者・提案者 | 課題の整理役・意思決定の支援者 |
従来のBtoB顧客ジャーニーは、認知 → 興味 → 検討 → 購買という、比較的予測可能な直線プロセスとして捉えられていました。The Modelの分業体制は、このジャーニーの各段階に対応する形で設計されています。マーケティングが「認知・興味」を、インサイドセールスが「検討の初期」を、フィールドセールスが「検討の後半・購買」を担当するというマッピングです。
この直線モデルの前提には、「顧客は一定の順序でプロセスを進む」という想定があります。だからこそ、各段階でのKPIを設計し、転換率を管理することで、最終的な受注数を予測できた。営業組織にとって、直線モデルは管理しやすく、予測しやすいフレームワークでした。
しかし、買い手主導の購買行動においては、顧客ジャーニーは直線的に進みません。認知と検討を行ったり来たり、複数の情報ソースを並行して参照し、社内の合意形成のために何度もプロセスを巻き戻すことが常態化しています。
Gartner社はこの変化を「BtoB購買はもはや直線的なファネルではなく、6つの購買ジョブを非直線的に遂行するプロセスである」と表現しています。その6つのジョブとは、課題の特定、解決策の探索、要件の定義、サプライヤーの選定、検証、合意形成です。これらは順番に進むのではなく、同時並行で、かつ何度も往復しながら進行します。
| 購買ジョブ | 内容 | 従来の対応部門 |
|---|---|---|
| 課題の特定 | 自社の課題を認識し、解決の必要性を合意する | マーケティング(認知喚起) |
| 解決策の探索 | 課題を解決しうるアプローチや製品カテゴリを調査する | マーケティング(コンテンツ) |
| 要件の定義 | 導入に必要な機能・条件を社内で定義する | インサイドセールス / 営業 |
| サプライヤーの選定 | 候補となるベンダーを絞り込み、比較・評価する | フィールドセールス |
| 検証 | 選定したサプライヤーが本当に要件を満たすか検証する | フィールドセールス / SE |
| 合意形成 | 社内の複数ステークホルダー間で購買の合意を得る | 全部門横断 |
顧客ジャーニーの非直線化は、営業・マーケティング組織に以下の課題をもたらします。
課題1:ファネルの転換率管理が機能しにくくなる
直線的なジャーニーを前提としたKPI(リード→MQL→SQL→商談→受注の転換率)は、顧客が行ったり来たりするプロセスでは正確に計測しにくくなります。MQLに一度なった顧客が検討を中断し、数ヶ月後に再び動き出すケースが増えると、単純な転換率だけでは営業のパフォーマンスを評価できません。
課題2:営業の介入タイミングが読めなくなる
顧客がジャーニーのどの段階にいるのかを外部から判断するのが難しくなります。フォームを送信したから「検討段階」とは限らず、ホワイトペーパーをダウンロードしただけで「興味あり」と判断するのは早計です。顧客の行動から検討段階を正確に読み取る仕組みがなければ、適切なタイミングで営業が介入できません。
課題3:複数ステークホルダーへの対応が複雑化する
BtoB購買に関わるステークホルダーの平均人数は増加傾向にあります。情報システム部門、事業部門、経営層、法務、調達など、それぞれ異なる関心事を持つステークホルダーが合議で意思決定を行います。営業は個別の担当者だけでなく、購買に関わる組織全体(バイイングセンター)を把握し、それぞれに適した情報を提供する必要があります。
BtoB購買行動の構造変化は、営業・マーケティングのあり方に3つのインパクトを与えています。
従来の営業モデルでは、マーケティングの最大のミッションは「リードの数を最大化する」ことでした。多くのリードをファネルの上部に投入し、営業が絞り込んでいく。しかし、買い手主導の環境では、リードを大量に獲得してもその大半は営業が接触する前に比較検討を終えており、営業の提案が入り込む余地がありません。
重要なのは、リードの「量」ではなく顧客とのエンゲージメントの「質」です。顧客が情報収集をしている段階で、いかに価値あるコンテンツを提供し、信頼関係を構築できるか。営業に接触する前の段階で、すでに「この会社に相談したい」と思われる存在になれるか。この視点の転換が求められています。
The Model型の営業プロセスは、営業側がプロセスを定義し、その進捗を管理する設計でした。「いまこの顧客はSQL段階にいる」「このタイミングで提案書を出す」というように、営業がプロセスの主導権を持つことが前提です。
しかし、顧客が自らのペースでジャーニーを進める環境では、営業がプロセスを一方的に管理することが難しくなります。求められるのは、顧客が自分のペースで進めているジャーニーを理解し、適切なタイミングで適切な支援を提供するアプローチです。営業の役割は「プロセスの管理者」から「ジャーニーの支援者」へと転換します。
購買行動が非直線化・複雑化するほど、マーケティング・インサイドセールス・フィールドセールス・カスタマーサクセスの部門間の連携がより一層重要になります。顧客はひとつの企業に対して一貫した体験を期待していますが、部門ごとにコミュニケーションが分断されていると、同じ質問を繰り返される、文脈が引き継がれない、といった体験のギャップが生じます。
特に、顧客がジャーニーを行ったり来たりする環境では、部門間の情報共有がリアルタイムに行われていなければ、顧客がいまどの段階にいるのかさえ把握できないという事態が起こります。結果として、検討段階に戻った顧客に対して受注フェーズのアプローチを続けてしまう、といったミスマッチが頻発します。
これはまさに、T-1記事で解説した「The Modelの構造的限界」が、購買行動の変化によってさらに深刻化している構図です。
購買行動の変化に対応するためには、営業プロセスの設計思想そのものを見直す必要があります。
従来の営業は、顧客よりも多くの情報を持ち、その情報を「教える」ことで価値を提供していました。しかし、顧客がすでに豊富な情報を持っている環境では、営業が「教える」だけでは差別化になりません。
これからの営業に求められるのは、顧客が自力では整理しきれない課題を「引き出す」力です。顧客は情報を大量に収集していますが、それを自社の文脈で整理し、意思決定の判断基準を構造化することは、依然として難しい。営業が提供すべき価値は、情報そのものではなく、情報を整理し意思決定を支援する「コンサルティング的な能力」に移行しています。
The Model型のパイプライン管理では、取引をステージ(見込み→提案→内示→受注)で管理し、各ステージの定義と移行条件を設計します。このアプローチ自体は有効ですが、買い手主導の環境では、顧客の検討段階がステージの順序通りに進まないことがあります。
パイプライン管理を維持しつつ、それを補完する仕組みとして「シグナルベースの営業」を組み合わせるアプローチが効果的です。顧客のWeb行動、メール開封、コンテンツダウンロード、特定ページの閲覧などのデジタルシグナルをリアルタイムに検知し、そのシグナルに基づいて営業アクションのタイミングと内容を判断する。ステージという「状態」の管理に加えて、シグナルという「行動」の管理を重ね合わせるのです。
従来のCRM/SFAでは、取引に紐づく担当者(コンタクト)は1名ないし少数であることが前提でした。しかし、複数のステークホルダーが合議で意思決定を行う環境では、取引に関わるすべてのステークホルダーをCRM上で可視化し、それぞれの関心事と影響力を把握することが不可欠です。
具体的には、CRM上で取引に複数のコンタクトを関連付け、各コンタクトの役割(意思決定者・影響者・推進者・利用者など)を明確にします。それぞれのコンタクトがどのような情報に関心を持ち、どのコンテンツを閲覧しているかを把握することで、ステークホルダーごとに最適な情報提供が可能になります。HubSpotであれば、取引に関連付けられた複数のコンタクトのアクティビティタイムラインを一覧で確認でき、バイイングセンター全体の動きを把握できます。
| 領域 | 従来の設計 | 再設計後 |
|---|---|---|
| 営業の価値 | 情報を「教える」 | 課題を「引き出す」意思決定を「支援する」 |
| プロセス管理 | ステージ管理(状態の管理) | ステージ管理 + シグナル対応(状態+行動の管理) |
| 顧客単位 | 個人(担当者ベース) | バイイングセンター(組織ベース) |
| タイミング | 営業のペースで提案 | 顧客のシグナルに応じて対応 |
| コミュニケーション | 製品中心の提案 | 課題中心のコンサルティング |
営業プロセスと同様に、マーケティング組織の役割と設計も根本的に見直す必要があります。
従来のBtoBマーケティングでは、ホワイトペーパーやeBookをフォーム送信と引き換えに提供する「ゲートコンテンツ」が主流でした。この手法はリード情報の獲得には有効ですが、買い手主導の環境では次のような問題が生じます。
顧客が自分のペースで情報収集できる環境を整える「オープンコンテンツ」の考え方が重要になります。すべてのコンテンツをオープンにするという意味ではなく、購買ジャーニーの段階に応じてゲートとオープンを使い分ける設計です。認知・興味段階のコンテンツはオープンにして広く届け、検討段階のより具体的なコンテンツでフォーム送信を求める。この設計により、フォーム送信のタイミング自体が「購買意欲の高まり」を示すシグナルとなります。
従来のリードスコアリングは、企業規模・業界・役職などの「属性」に重きを置く設計が一般的でした。しかし、購買行動が変化した環境では、属性が適合していても購買意欲がない(いわゆる「冷たいMQL」)ケースが増えます。
より効果的なのは、顧客のデジタル行動(ページ閲覧・コンテンツ消費・メール反応・イベント参加など)に基づく行動スコアの比重を高める設計です。属性スコアは「この顧客は自社のターゲットか」を判定し、行動スコアは「この顧客はいま購買に近づいているか」を判定する。この2軸を組み合わせることで、「ターゲット適合性が高く、かつ購買意欲が高まっている」顧客を精度高く特定できます。
実務的には、行動スコアの配分を全体の70〜80%に設定し、属性スコアを20〜30%に設定するバランスが効果的です。特に、料金ページや事例ページ、比較コンテンツの閲覧は、購買意欲の高まりを示す強いシグナルとして高いスコアを付与します。
買い手主導の環境におけるマーケティングの役割は、単なる「リード獲得」を超えて、顧客の購買ジャーニー全体にわたる体験を設計する機能へと拡張します。
この視点は、T-2記事で解説した「フライホイール」の設計思想と通じるものがあります。マーケティングの役割を認知・リード獲得に限定するのではなく、Attract → Engage → Delightの全フェーズにおいて顧客体験を設計する。部門の役割定義を購買行動の変化に合わせて拡張することが、組織再設計の出発点です。
購買行動の変化に対応する営業・マーケティング組織を実装するためには、テクノロジー基盤としてのCRM/MAの設計思想が鍵を握ります。ここでは、購買行動の変化を前提としたCRM/MAの設計思想を整理します。
従来のCRM/MAは、個人単位のリード管理を前提に設計されていました。しかし、複数ステークホルダーが関与するBtoB購買に対応するためには、個人(コンタクト)を会社(アカウント)に紐づけ、アカウント単位で購買活動を把握する設計が不可欠です。
HubSpotでは、コンタクト・会社・取引の3つのオブジェクトをリレーションデータベースで紐づけることで、アカウント単位での管理を実現できます。1つの会社に紐づく複数のコンタクトの行動を集約し、会社レベルでのエンゲージメントスコアを算出する。これにより、「この会社は全体として購買に近づいているか」を判断できるようになります。
従来のMAによるナーチャリングは、企業側が設計したステップメールを順番に配信する「一方向」のコミュニケーションが中心でした。しかし、買い手主導の環境では、顧客は自分のペースで情報を消費したいと考えており、一方的なメール配信はむしろ「摩擦」(フライホイールにおける成長の阻害要因)となる可能性があります。
求められるのは、顧客の行動に応じてコミュニケーションの内容とタイミングを動的に変化させる双方向のエンゲージメント設計です。具体的には、以下のようなアプローチです。
これは「仕組み化」の思想です。人に依存せず、顧客の行動データに基づいてシステムが適切な対応を自動的にトリガーする。HubSpotのワークフロー機能を活用すれば、こうした行動ベースの自動化を柔軟に構築できます。
購買行動が非直線化した環境では、顧客がジャーニーの中でマーケティング・営業・カスタマーサクセスの各部門と接触する順序やタイミングが予測できません。このため、部門ごとに異なるツールでデータを管理していると、顧客の全体像を把握することが構造的に不可能になります。
MA・SFA・カスタマーサービスが単一のプラットフォーム上で統合されたCRMを採用することで、どの部門が顧客に接触しても、過去のすべてのインタラクション履歴にアクセスできる環境が実現します。これは、T-1記事で解説した「統一データ基盤」の考え方と直結するものです。
HubSpotは、CRM・Marketing Hub・Sales Hub・Service Hubを単一のプラットフォーム上で提供しており、コンタクト・会社・取引・チケットの標準オブジェクトを軸に全データが一元管理されます。マーケティングが把握している顧客の行動データ(どのコンテンツを見たか、どのメールに反応したか)に営業がアクセスでき、営業が記録した商談情報にカスタマーサクセスがアクセスできる。この「一気通貫のデータアクセス」が、購買行動の変化に対応する組織設計の技術的な基盤です。
従来のCRM活用は、商談履歴や顧客情報の「記録」が中心でした。しかし、購買行動の変化に対応するCRMは、顧客の将来の行動を予測し、適切なアクションを先回りして提示するプラットフォームへと進化しています。
CRMを「記録システム」から「シグナル検知システム」へと位置づけ直すことで、営業・マーケティングの動き方が根本的に変わります。データが蓄積されるほどシグナルの精度が上がり、より効果的な顧客対応が可能になる。この好循環が、CRM活用の本質的な価値です。
ここまで解説してきた購買行動の変化と、それに対応する営業・マーケティングの再設計を、具体的な実行ステップとして整理します。
まず、自社の顧客が実際にどのような購買プロセスを辿っているかを、既存の営業データとマーケティングデータから分析します。CRMに蓄積されたデータから、初回接触から受注までの期間、接触回数、閲覧コンテンツ、意思決定に関与したステークホルダー数などを把握し、「自社の顧客ジャーニーは直線的か、非直線的か」を定量的に判断します。
自社が保有するコンテンツ(ブログ記事、ホワイトペーパー、事例、動画、ウェビナーなど)を、購買ジャーニーの各段階にマッピングします。「課題認識段階のコンテンツは充実しているが、比較検討段階のコンテンツが不足している」「社内合意形成を支援するコンテンツがない」といったギャップを特定し、コンテンツ制作の優先順位を決定します。
既存のスコアリングモデルを見直し、属性スコアと行動スコアのバランスを「行動スコア重視」に調整します。特に、料金ページの閲覧、事例ページの複数閲覧、比較コンテンツのダウンロードなど、購買意欲の高まりを示すシグナルに高いスコアを付与する設計に変更します。スコアリングの閾値は、分布データを見ながら調整していくのがポイントになってきます。
部門ごとに分散しているツールとデータを、統一CRMプラットフォームに集約します。コンタクト・会社・取引のリレーションを整備し、アカウント単位での管理ができる環境を構築する。これがすべての再設計の技術的な土台です。Excel管理やスプレッドシート管理からの脱却がこのステップの出発点であり、データがCRMに一元化されて初めて、行動ベースのスコアリングやシグナル検知が機能します。
マーケティングから営業への引き渡し条件を、「リード数」から「エンゲージメントの質」に基づく基準に変更します。スコアリングの閾値と具体的な行動シグナルを、営業とマーケティングの合同で定義する。さらに、営業からマーケティングへのフィードバックループ(「このリードはまだ検討初期だった」「この業界の事例コンテンツが足りない」)を制度として組み込みます。
すべてを一度に変えるのではなく、まずは特定のセグメントや製品ラインで新しいプロセスを試行します。行動ベースのスコアリングとシグナル対応型の営業アプローチを小さな範囲で導入し、従来のアプローチとの成果を比較する。データに基づいて効果を検証し、成果が確認できてから全社展開する「スモールスタート→段階的拡張」のアプローチが、移行リスクを最小化する現実的な方法です。
BtoB購買行動は、「売り手主導」から「買い手主導」へと構造的に変化しています。顧客は営業に会う前に購買プロセスの大半を自力で進めるようになり、顧客ジャーニーは直線的なファネルではなく、非直線的で複雑なプロセスへと変貌しています。
この変化に対応するために、営業・マーケティング組織は以下の再設計が必要です。
どの再設計も、その土台にあるのは部門横断の統一データ基盤です。マーケティングが把握している顧客の行動データと、営業が記録している商談情報と、カスタマーサクセスが管理している活用状況が、ひとつのプラットフォーム上で統合されていること。これが、購買行動の変化に対応する組織設計の技術的な前提条件です。
まずは自社の顧客ジャーニーを再マッピングし、顧客が実際にどのようなプロセスで購買に至っているかを把握するところから始めてみてください。データに基づいた現状把握が、組織再設計の最も確実な第一歩です。
A. 変化の度合いは業界や商材特性によって異なります。SaaS・IT関連など情報がデジタルで入手しやすい領域では変化が顕著であり、製造業やインフラ関連など既存の商流が強い領域では変化が緩やかな傾向があります。ただし、方向性としてはすべての業界で「買い手が事前に情報を収集する」傾向は強まっています。自社の顧客がどの程度デジタルで情報収集しているかをCRMのWebトラッキングデータで確認し、変化の度合いを定量的に把握することが出発点です。
A. リード数そのものを完全に廃止する必要はありませんが、KPIの重心を「量」から「質」に移すことが重要です。具体的には、リード数に加えて、MQL化率(行動スコアが閾値を超えたリードの割合)、コンテンツエンゲージメント指標(平均ページ滞在時間、複数コンテンツ消費率)、営業が「有効」と判断したリードの割合(SAL率)などを組み合わせたKPI設計が効果的です。マーケティングが「質の高いエンゲージメントを生み出す」ことに責任を持つ設計に転換します。
A. CRM/MAの機能を活用して実現できます。たとえばHubSpotでは、顧客が特定のページ(料金ページ、事例ページなど)を閲覧した際にワークフローで営業担当者に通知を送信する仕組みを構築できます。リードスコアリングが閾値を超えた際のアラート、メールの開封・クリック通知、フォーム送信時の即時通知なども組み合わせることで、顧客の行動シグナルに基づいたタイムリーな営業対応が可能になります。追加のツール導入なしに、CRM/MAの標準機能で着手できます。
A. 変わります。従来は「製品知識の豊富さ」と「提案力」が営業の主要なスキルでしたが、買い手主導の環境では「課題のヒアリング力」と「意思決定支援力」がより重要になります。顧客はすでに製品情報を把握していることが多いため、製品説明を繰り返すだけでは価値を感じてもらえません。むしろ、顧客が自力では整理しきれない課題の構造化、複数ステークホルダー間の合意形成の支援、導入後の成功イメージの具体化など、コンサルティング的なスキルが求められます。
A. The Modelを否定するものではありません。本記事の主旨は、購買行動の変化に合わせてThe Modelの運用を進化させることの重要性です。The Modelの4機能分業(マーケ・IS・FS・CS)の枠組み自体は有効ですが、各部門の役割定義やKPI設計、部門間のデータ連携の在り方は、購買行動の変化に合わせてアップデートする必要があります。T-1記事で解説した「The Modelの限界と進化モデル」、T-2記事で解説した「The Modelとフライホイールのハイブリッド設計」と合わせて、自社の営業組織をどう進化させるかを検討していただければと思います。