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SaaS企業のMRR管理とCRM活用|チャーン分析からアップセルまで設計する

作成者: 今枝 拓海|1970/01/01 0:00:00

「MRR(月次経常収益)をスプレッドシートで管理しているが、リアルタイムの数字が見えない」「チャーンの兆候を早期に察知できていない」「アップセル・クロスセルの機会を逃している」——SaaS企業の経営者やCS責任者からは、こうした課題をよくお聞きします。

SaaS企業のMRR管理におけるCRM活用とは、New MRR・Expansion MRR・Contraction MRR・Churned MRRの4つのカテゴリをCRM上で追跡し、チャーン分析からアップセル施策まで一気通貫でデータドリブンに実行する設計手法です。

HubSpotを1個の業務アプリケーションとして会計まで繋がるので、販売管理システムのような形で使っていただくことも可能です。この記事では、SaaS企業がHubSpotでMRR管理を本格的に実装する方法を解説します。


この記事でわかること

  • SaaS企業のMRR管理とCRMの関係
  • HubSpotでMRR管理を実装する2つの方法
  • チャーン分析の設計と早期検知の仕組み
  • アップセル・クロスセルのパイプライン設計
  • MRR KPIダッシュボードの構築
  • よくある質問(FAQ)

SaaS企業のMRR管理にCRMが必要な理由

SaaS企業にとってMRRは最重要指標ですが、スプレッドシートで管理しているとリアルタイムの数字が見えず、チャーンの兆候も見逃しやすいです。

課題 CRMで実現できること
MRRの手動集計に時間がかかる CRM上でリアルタイムに自動集計
チャーンの兆候を察知できない ヘルスコアで自動アラート
アップセル機会を逃す パイプラインでアップセル案件を管理
部門間でデータが分断 営業・CS・マーケが同じデータを参照
過去の推移分析ができない カスタムレポートで月別MRR推移を可視化

HubSpotでMRR管理を実装する2つの方法

方法1: 収益機能(Revenue Tracking)— 簡易版

HubSpotの標準機能で、取引に月額定期収益を設定するシンプルな方法です。

メリット: 設定が簡単。すぐに使い始められる

デメリット: MRRカテゴリ別の推移管理や、アップグレード・ダウングレードの追跡が難しい

Starterプラン以上で利用可能ですが、本格的なMRR管理には限界があります。

方法2: カスタムオブジェクトで本格管理 — 詳細版(Enterprise)

Enterpriseプランのカスタムオブジェクトを使って、取引ごとに月別の請求レコードを作成する方法です。

取引(年間契約: 120万円)
  └── 請求カスタムオブジェクト × 12レコード
      ├── 2026年4月: 10万円(ステータス: 入金済み)
      ├── 2026年5月: 10万円(ステータス: 請求済み)
      ├── 2026年6月: 10万円(ステータス: 請求予定)
      └── ... 12ヶ月分
フィールド 種類 用途
請求月 日付 対象月
請求金額 数値 月額金額
請求ステータス ドロップダウン 請求予定→請求実施→入金済み→未入金
MRRカテゴリ ドロップダウン New / Expansion / Contraction / Churned
契約プラン ドロップダウン Starter / Professional / Enterprise

ワークフローを使って、取引が「受注」ステージに移行したタイミングで契約期間分の請求レコードを自動生成することも可能です。この方法であれば、MRRの月別推移やカテゴリ別の分析が精緻にできます。

まず簡易版で始めてデメリットを感じたらカスタムオブジェクトに移行する、という2段階のアプローチも現実的です。


チャーン分析の設計

チャーン(解約)の早期検知

チャーンを防ぐには、解約の「兆候」を早期に察知する仕組みが必要です。

ヘルスコアの設計

指標 ウェイト 判断基準
ログイン頻度 25% 週3回以上=健全、週1回未満=要注意
主要機能の利用率 25% コア機能を使っているか
サポートチケット 15% 不満系チケットの有無
NPS回答 15% 推奨者(9-10) or 批判者(0-6)
契約更新までの残日数 20% 30日以内=高リスク

20社とかであればそんなにこの機能いらないかなと思うのですが、100社・200社の顧客を管理するようになると追い切れなくなってくるので、ヘルスコアで自動的にアラートを上げる仕組みが重要です。

チャーンリスク検知ワークフロー

  1. ヘルスコアが一定基準以下に低下 → CSMにSlack通知
  2. ライフサイクルステージを「チャーンリスク」に変更
  3. フォローアップタスクを自動生成
  4. CS責任者にもエスカレーション通知

失注(チャーン)理由の分析

解約理由をカテゴリ分類して蓄積することで、プロダクト改善に活かせます。

解約理由カテゴリ 対策部門
価格 経営・プライシング
機能不足 プロダクト開発
利用頻度低下 CS・オンボーディング
競合乗り換え マーケ・プロダクト
社内体制変更 営業・CS

失注分析で何の理由で解約しているのかが分析できるようになるので、プロダクトの改善にフィードバックしやすくなります。営業とマーケの連携もしやすくなるのがポイントです。


アップセル・クロスセルのパイプライン設計

アップセルパイプライン

アップセル機会発見 → ニーズヒアリング → 提案 → 見積もり → アップグレード
ステージ 確度 必須入力
機会発見 10% 対象顧客、現契約プラン、想定アップグレード先
ニーズヒアリング 30% 顧客課題、追加機能ニーズ
提案 55% 提案内容、差額金額
見積もり 75% 見積金額、切替予定日
アップグレード 100% 新プラン、新MRR金額

アップセル機会の自動検知

ワークフローで以下の条件を監視し、アップセル機会を自動的に発見します。

  • 利用ユーザー数が現プランの上限に近づいた
  • APIコール数が一定を超えた
  • 上位プランの機能ページを閲覧した
  • 契約更新日が60日以内になった

MRR KPIダッシュボード

推奨レポート

レポート 指標 更新頻度
MRR推移 New / Expansion / Contraction / Churned MRR 月次
Net MRR変動 純増減のトレンド 月次
チャーンレート 月次解約率 月次
ARPU(顧客単価) MRR ÷ 有料顧客数 月次
LTV ARPU × 平均契約月数 月次
アップセルパイプライン アップセル案件の進捗 週次

ダッシュボードの定期配信でPDF形式のスナップショットを毎週送信しておけば、HubSpotだとレコードとか値がどんどん入れ替わってしまうのに対して、時点データの固定化ができます。先月時点の受注予定と今月時点の受注予定の金額がずれるという問題を防げます。


まとめ

SaaS企業のMRR管理とCRM活用は、MRRの正確な追跡・チャーンの早期検知・アップセル機会の発掘の3つを一気通貫で実現することがゴールです。

まずは収益機能の簡易版でMRRの基本的な管理を始めて、規模が拡大したらカスタムオブジェクトで本格的なMRR管理に移行する。チャーン防止はヘルスコアの設計から、アップセルは専用パイプラインの構築から始めるのがおすすめです。

CRMにデータが蓄積されるほど、チャーンの予兆が見えるようになり、先手を打った対策が可能になります。スモールスタートで始めて、段階的に精度を上げていただければなと思います。

「SaaSのMRR管理をCRMで本格化したい」「チャーン防止の仕組みを構築したい」——そんなお悩みをお持ちでしたら、ぜひ一度ご相談ください。

無料相談はこちら → StartLink お問い合わせ

よくある質問(FAQ)

Q1. HubSpotでMRR管理は本格的にできますか?

簡易版は Starter以上、本格版はEnterpriseプランのカスタムオブジェクトが必要です。年間契約を月別にブレイクダウンした請求レコードを自動生成することで、精緻なMRR推移管理が実現できます。

Q2. チャーン予測にAIは使えますか?

HubSpotのスコアリング機能とBreeze AIを組み合わせることで、ヘルスコアに基づくチャーンリスクの予測が可能です。ただし、完全な自動予測というよりは、AIがリスクフラグを立てて人間が判断するというハイブリッドアプローチが現実的です。

Q3. 請求管理もHubSpotだけで完結できますか?

基本的な請求ステータス管理はカスタムオブジェクトで可能ですが、請求書発行や入金消込の本格的な管理はfreeeやMFクラウドなどの会計システムとの連携が必要です。HubSpotは「販売管理」として、会計システムは「経理処理」として使い分けるのがおすすめです。

Q4. ARR(年次経常収益)の管理もできますか?

計算プロパティでMRR×12を自動算出すれば、ARRの管理も可能です。また、年間契約の取引金額をそのままARRとして管理し、月割りでMRRを算出するアプローチも有効です。