「リードは増えているのに、営業がフォローすべき見込み客の優先順位が見えない」「マーケティングが渡したリードの質が低いと営業から言われてしまう」——こうしたマーケティングと営業の間のギャップに悩んでいるBtoB企業は多いのではないでしょうか。
リードスコアリングとは、見込み客(リード)の属性情報や行動データに基づいてスコア(点数)を付与し、購買意欲や成約確度を数値化する手法です。HubSpotにはリードスコアリングの仕組みが標準搭載されており、手動設定のスコアリングから AIによる予測リードスコアリングまで、CRMデータを活用した多層的なスコアリングモデルを構築できます。
この記事では、HubSpotでのリードスコアリングの基本概念から具体的な設定手順、スコアリングモデルの設計方法、予測リードスコアリング(AI)の活用、そして運用改善のサイクルまでを包括的に解説します。
BtoBマーケティングでは、リードの数が増えるほど「どのリードに優先的にアプローチすべきか」の判断が難しくなります。月に100件のリードが発生している企業を想像してみてください。すべてのリードに同じ労力をかけるのは非現実的ですし、「熱い」リードへの対応が遅れれば機会損失にもつながります。
リードスコアリングを導入することで、以下のようなメリットが得られます。
リードスコアリングは、大きく分けて2つの軸で設計します。
属性スコア(Demographic / Firmographic Score)
リードの「プロフィール情報」に基づくスコアです。理想的な顧客像(ICP)にどの程度合致しているかを測定します。
行動スコア(Behavioral Score)
リードの「アクション」に基づくスコアです。購買意欲の高さを示す行動に対してポイントを付与します。
この2つの軸を組み合わせることで、「ターゲット企業の条件に合致しており」かつ「購買意欲も高い」リードを特定できます。
HubSpotのリードスコアリング機能は、プランによって利用できる範囲が異なります。
| 機能 | 対応プラン |
|---|---|
| 手動スコアリング(HubSpotスコア) | Marketing Hub Professional以上 / Sales Hub Professional以上 |
| カスタムスコアプロパティ(複数モデル) | Enterprise(Marketing Hub / Sales Hub) |
| 予測リードスコアリング(AI) | Marketing Hub Enterprise / Sales Hub Enterprise |
Professionalプランでは1つのスコアリングモデル(「HubSpotスコア」プロパティ)を利用できます。Enterpriseプランでは複数のカスタムスコアプロパティを作成でき、例えば「製品別スコア」「セグメント別スコア」など、異なる基準のスコアリングモデルを並行運用できます。
HubSpotでは、以下の3種類のスコアリングアプローチが利用できます。
1. 手動スコアリング(ルールベース)
管理者が「この条件に合致したら+10点」「この行動をしたら+5点」といったルールを手動で定義する方式です。最もベーシックなアプローチで、Professional以上で利用可能です。
2. カスタムスコアプロパティ(複数モデル運用)
Enterpriseプランでは、デフォルトの「HubSpotスコア」に加えて、独自のスコアプロパティを複数作成できます。製品ラインが複数ある場合や、地域別にスコアリング基準を変えたい場合に有効です。
3. 予測リードスコアリング(AI)
HubSpotのAIが過去のコンバージョンデータ(取引のクローズ実績)を学習し、各リードの成約確率を自動で算出する機能です。Enterprise限定です。
スコアリングモデルを構築する前に、「どのような属性・行動にスコアを付与するか」を洗い出す必要があります。
最も効果的な方法は、過去の受注データを分析することです。実際に成約した顧客に共通する属性や行動パターンを特定し、それをスコアリング基準に反映します。
具体的なアプローチとしては以下の手順をおすすめします。
スコアリング基準を洗い出したら、次に各基準に対する配点を設計します。ここでのポイントは、属性スコアと行動スコアのバランスです。
一般的には、以下のような配分が目安になります。
| スコア種別 | 配点範囲 | 考え方 |
|---|---|---|
| 属性スコア(プラス) | +5〜+20 | ICPとの合致度が高いほど高配点 |
| 属性スコア(マイナス) | -5〜-20 | ターゲット外の属性にはマイナス |
| 行動スコア(低関与) | +1〜+5 | メール開封、ブログ閲覧など |
| 行動スコア(中関与) | +5〜+15 | 事例ページ閲覧、ホワイトペーパーDL |
| 行動スコア(高関与) | +15〜+30 | デモ申込、価格ページ閲覧、問い合わせ |
スコアの合計が100点満点になる必要はありません。重要なのは、スコアの「閾値(しきい値)」を設定し、一定以上のスコアに到達したリードをMQLとして営業に引き渡す仕組みを構築することです。
以下に、BtoB SaaS企業を想定したスコアリング基準の一例を示します。自社の状況に合わせてカスタマイズしてみてください。
属性スコアの例
| 基準 | 条件 | スコア |
|---|---|---|
| 企業規模 | 従業員50〜500名 | +15 |
| 企業規模 | 従業員500名以上 | +10 |
| 企業規模 | 従業員10名未満 | -10 |
| 役職 | 部長・マネージャー以上 | +15 |
| 役職 | 一般社員 | +5 |
| 役職 | 学生・求職者 | -20 |
| 業種 | ターゲット業種(IT・製造・金融など) | +10 |
| 地域 | 対応地域内 | +5 |
| 地域 | 対応地域外(海外など) | -10 |
| メールドメイン | 企業ドメイン | +5 |
| メールドメイン | フリーメール(Gmail、Yahoo!など) | -5 |
行動スコアの例
| 基準 | 条件 | スコア |
|---|---|---|
| フォーム送信 | デモ・無料相談の申込 | +30 |
| フォーム送信 | 資料ダウンロード | +15 |
| フォーム送信 | メルマガ登録 | +5 |
| ページ閲覧 | 価格ページの閲覧 | +20 |
| ページ閲覧 | 導入事例ページの閲覧 | +10 |
| ページ閲覧 | 製品機能ページの閲覧 | +8 |
| ページ閲覧 | ブログ記事の閲覧(5ページ以上) | +5 |
| メール | メール内リンクのクリック | +3 |
| メール | メールの開封 | +1 |
| イベント | ウェビナーへの参加 | +15 |
| 非アクティブ | 30日間アクティビティなし | -10 |
| 非アクティブ | 60日間アクティビティなし | -20 |
スコアリングモデルを設計する際に見落としがちなのが、マイナススコア(ネガティブスコアリング)の設定です。
例えば、以下のようなケースでは積極的にマイナススコアを付与すべきです。
マイナススコアがないと、ターゲット外のリードでもWebサイトを何度か訪問しただけでスコアが上がってしまい、営業の手間が増えることになります。
「ポジティブスコア基準」セクションで、スコアを加算する条件を設定します。
条件は複数組み合わせることができ、AND条件(すべてを満たす)とOR条件(いずれかを満たす)の両方に対応しています。
「ネガティブスコア基準」セクションで、スコアを減算する条件を設定します。手順はポジティブスコアと同様ですが、こちらではマイナスポイントを設定します。
スコアリングルールを設定したら、既存のコンタクトに対してスコアが正しく算出されているかを検証します。
この検証で想定通りの結果にならない場合は、配点の調整が必要です。
予測リードスコアリングは、HubSpotのAIが過去の取引データ(クローズした取引とロストした取引の両方)を機械学習で分析し、各コンタクトの成約確率(Likelihood to Close)を自動で算出する機能です。
Enterprise限定の機能ですが、手動スコアリングでは捉えきれないパターンをAIが発見してくれるため、スコアリングの精度が大幅に向上する可能性があります。
HubSpotの予測スコアリングは、以下のようなデータを学習に使用します。
これらのデータをもとに、AIモデルが「成約するリードとしないリードの違い」を学習し、各コンタクトに0〜100のスコアを付与します。
予測リードスコアリングを有効活用するには、一定量のデータが必要です。HubSpotの公式要件は以下の通りです。
データ量が十分でない場合、予測スコアが表示されない、あるいは精度が低いスコアになることがあります。まずは手動スコアリングで運用を始め、データが蓄積された段階で予測スコアリングに切り替える(または併用する)のが現実的なアプローチです。
予測スコアリングと手動スコアリングは、どちらか一方だけでなく併用するのがおすすめです。
| 項目 | 手動スコアリング | 予測スコアリング |
|---|---|---|
| スコアの根拠 | 人が定義したルール | AIが学習したパターン |
| 透明性 | 高い(ルールが明確) | 低い(ブラックボックス的) |
| メンテナンス | ルールの定期見直しが必要 | AIが自動で更新 |
| 精度 | ルール設計者のスキルに依存 | データ量に依存 |
| 柔軟性 | ビジネス要件を直接反映可能 | 過去データに基づくため、新規事業には不向き |
実務上は、手動スコアを「ベースライン」として使いつつ、予測スコアを「セカンドオピニオン」として参照するという使い方が効果的です。手動スコアが高いのに予測スコアが低い場合は、スコアリングルールの見直しが必要かもしれません。逆に、手動スコアが低いのに予測スコアが高い場合は、ルールでは捉えきれていない購買シグナルがある可能性があります。
スコアリングの最大の目的は、「営業がフォローすべきリードを特定する」ことです。そのためには、スコアが一定の閾値に達したリードを自動的にMQL(マーケティング認定リード)に変換し、営業チームに通知する仕組みを構築する必要があります。
HubSpotのワークフローを使えば、この流れを完全に自動化できます。
ワークフローの設定例
スコアリングは営業への引き渡しだけでなく、ナーチャリング施策の出し分けにも活用できます。
| スコア帯 | ステージ | 施策 |
|---|---|---|
| 0〜20 | コールド | 認知系コンテンツ(ブログ記事、業界レポート)を配信 |
| 21〜40 | ウォーム | 検討系コンテンツ(ホワイトペーパー、ウェビナー案内)を配信 |
| 41〜60 | ホット(MQL) | 営業に引き渡し + 事例・デモ案内を配信 |
| 61以上 | ベリーホット | 即時営業アプローチ + 個別提案の準備 |
このように、スコアに応じてコンテンツの内容や配信頻度を変えることで、リードのステージに合った適切な情報提供が可能になります。
見落としがちですが、スコアのリセット条件も設計しておく必要があります。
例えば、一度MQLになったコンタクトが営業のフォローの結果「今はタイミングではない」と判断された場合、スコアをリセットしてナーチャリングに戻すフローが必要です。
HubSpotのワークフローで以下のようなリセット処理を組むことができます。
このサイクルを回すことで、「一度MQLになったけど商談にならなかったリード」が放置されるのを防げます。
リードスコアリングは「一度設定して終わり」ではありません。市場環境の変化、製品ラインナップの変更、ターゲット層の拡大などに応じて、スコアリングモデルも継続的に見直す必要があります。
理想的には、四半期に一度はスコアリングモデルの検証を行うことをおすすめします。
方法1: 成約率の比較
スコア帯ごとの成約率を算出し、「スコアが高いリードほど成約率が高い」という相関が成り立っているかを確認します。
| スコア帯 | リード数 | 成約数 | 成約率 |
|---|---|---|---|
| 0〜20 | 200 | 2 | 1.0% |
| 21〜40 | 150 | 8 | 5.3% |
| 41〜60 | 80 | 12 | 15.0% |
| 61以上 | 30 | 15 | 50.0% |
このような右肩上がりの相関が見られれば、スコアリングモデルは適切に機能しています。逆に、スコア帯によって成約率の逆転が起きている場合は、配点の見直しが必要です。
方法2: 偽陽性・偽陰性の分析
この分析を行うことで、スコアリングモデルの精度を継続的に改善できます。
方法3: 営業チームへのフィードバック収集
定量的な分析だけでなく、営業チームからの定性的なフィードバックも重要です。
こうしたフィードバックを定期的に収集し、スコアリングモデルに反映していきましょう。
スコアリングモデルの改善は、以下のPDCAサイクルで回していくのが効果的です。
Plan(計画): 現行モデルの課題を特定し、改善仮説を立てる
Do(実行): 配点の調整、新しい基準の追加、不要な基準の削除を実施
Check(検証): 変更後のスコアリング結果を分析し、成約率との相関を確認
Act(改善): 検証結果をもとにさらなる調整を行う
最初のスコアリングモデルはあくまで「仮説」です。運用データが蓄積されるにつれて精度が上がっていくものなので、最初から完璧を目指す必要はありません。まずはシンプルなモデルから始めて、段階的に精緻化していくアプローチをおすすめします。
スコアリング基準を細かく設定しすぎると、メンテナンスが大変になるだけでなく、各基準の影響度が薄まってスコアの差がつきにくくなります。
対策: まずは5〜10個程度のコア基準に絞り、運用しながら必要に応じて追加する。「この基準を入れることでスコアリングの精度が本当に上がるか?」を常に自問しましょう。
前述の通り、マイナススコアがないと、ターゲット外のコンタクトのスコアも際限なく上がっていきます。
対策: 必ずネガティブスコアを設定する。特に「ターゲット外の役職」「フリーメールアドレス」「非アクティブ期間」のマイナススコアは必須です。
マーケティング部門だけでスコアリングモデルを設計すると、営業の実感と乖離したモデルになりがちです。
対策: スコアリングモデルの設計段階から営業チームを巻き込む。特に「どんなリードが商談しやすいか」「どんな行動をしたリードは確度が高いか」という営業の肌感覚は、スコアリング設計の重要なインプットです。
MQLの閾値が高すぎると、営業に渡されるリードが少なすぎて機会損失が発生します。逆に低すぎると、質の低いリードが大量に渡されて営業の生産性が下がります。
対策: 最初は中間的な閾値を設定し、MQLの成約率と件数のバランスを見ながら調整する。目安として、MQLからの商談化率が20〜30%程度になる閾値が適切と言われています。
ビジネス環境やターゲット層は変化するのに、スコアリングモデルだけが最初のまま固定されているケースは少なくありません。
対策: 四半期に一度の定期レビューをカレンダーに入れておく。スコアリングモデルのオーナー(責任者)を明確にし、継続的な改善が回る体制を構築する。
Enterpriseプランでは、デフォルトの「HubSpotスコア」に加えて、カスタムスコアプロパティを作成できます。これにより、以下のような複数モデルの並行運用が可能になります。
スコアリングは個々のコンタクト(人)に対してスコアを付与しますが、BtoBでは企業単位での評価も重要です。
HubSpotのABM機能と組み合わせることで、以下のような多層的な評価が可能になります。
「企業としてはICPに合致しており(Tier 1)、その企業内に複数のMQLがいる」という状況が最も成約確度が高いと言えるでしょう。
HubSpotのリードスコアリングは、マーケティングと営業の連携を強化し、限られたリソースを最も確度の高いリードに集中させるための仕組みです。
本記事の要点を振り返ります。
最初から完璧なスコアリングモデルを作る必要はありません。まずはシンプルな基準で運用を始め、データとフィードバックをもとに継続的に改善していくことが成功の秘訣です。
手動スコアリング(ルールベース)であれば、特にデータ量の制約はありません。スコアリング基準を定義すれば、新規リードにもすぐにスコアが付与されます。一方、予測リードスコアリング(AI)の場合は、過去の取引データ(成約と失注の両方)が数十件以上蓄積されていることが目安です。データが少ないとAIモデルの精度が低くなるため、まずは手動スコアリングで運用しながらデータを蓄積し、十分なデータ量が確保できた段階で予測スコアリングを併用するのがおすすめです。
スコアリングルールを変更すると、既存のコンタクトのスコアも新しいルールに基づいて再計算されます。つまり、過去にスコアが高かったコンタクトでも、新しいルールではスコアが下がる可能性があります。大幅なルール変更を行う場合は、事前に影響範囲を確認し、ワークフロー(MQL判定や営業通知など)への影響も考慮したうえで変更を行ってください。
はい、大きく異なります。BtoBでは企業属性(従業員数、業種、売上規模)が重要なスコアリング基準になるのに対し、BtoCでは個人属性(年齢、性別、居住地)やEC上の行動(カート投入、商品閲覧回数)が中心になります。また、BtoBは購買サイクルが長いため、長期間にわたるエンゲージメント(ウェビナー参加、複数回のサイト訪問など)がスコアリングに反映されるべきです。BtoCは購買サイクルが短いため、直近の行動により大きな配点をするのが一般的です。
一概にどちらが優れているとは言えません。予測スコアリングはAIが大量のデータからパターンを見つけるため、人間が見落としがちな相関関係を発見できる強みがあります。一方で、新しい製品ラインや未開拓のセグメントに対しては、過去データがないためAIの予測精度が下がります。手動スコアリングは、ビジネスの知見を直接ルールに反映できるため、データが少ない状況やビジネス要件が変化した直後に強みを発揮します。両方を併用し、乖離が大きいリードについて個別に分析するのが最も効果的なアプローチです。
基本的なスコアリングの仕組み(属性スコアと行動スコアの組み合わせ)はどのMAツールでも共通しています。HubSpotのスコアリングの特徴は、CRMとマーケティングオートメーションが一体化しているため、営業のアクティビティデータ(メール返信、電話、ミーティング)もスコアリングに反映しやすい点です。また、HubSpotの予測リードスコアリングはCRMの取引データと直接連動しており、成約実績に基づいた予測が可能です。Marketoなどの場合、CRM(Salesforce等)との連携設定が別途必要になりますが、HubSpotではCRMが同一プラットフォーム上にあるため、設定の手間が少なくなっています。