SaaSコスト最適化とは、企業が利用する複数のSaaSツールの利用状況・重複・契約条件を定期的に見直し、不要なコストを削減しながら必要な投資を維持する取り組みです。多くの企業で「使っていないアカウント」「機能が重複するツール」「過剰な契約プラン」が放置されており、SaaS費用の平均25〜30%は最適化の余地があるとされています。
DX推進の流れに乗って次々とSaaSを導入した結果、気がつけば月額のサブスクリプション費用が膨れ上がっている――こうした状況は多くの中小企業で見られます。
Gartnerのレポートによれば、企業のSaaS支出は年平均15%の割合で増加しています。しかし、その中には「契約したが使われていないツール」「機能が重複する複数のツール」「必要以上に高いプランで契約しているツール」が含まれているケースがほとんどです。
本記事では、増え続けるSaaS利用料を合理的に見直すための5つのポイントを解説します。
SaaSの導入障壁が低いがゆえに、各部門がIT部門を通さずに独自にツールを契約するケースが多発します。マーケティング部門がMAツールを導入し、営業部門が別の名刺管理ツールを契約し、カスタマーサポートがまた別のチケット管理ツールを使う。結果として、顧客データが3つのツールに分散し、それぞれの月額費用が積み重なります。
この「シャドーIT」問題は中小企業ほど深刻です。IT管理の専任者がいない企業では、全社でどのSaaSにいくら支払っているか、正確に把握できていないことが珍しくありません。
SaaSのアカウント管理は、人事異動や退職のタイミングでの見直しが漏れがちです。退職した社員のアカウントが数ヶ月間有効なままで課金が続いている、というケースは非常に多い。
Productivの調査によれば、企業のSaaSライセンスの約30%が「未使用またはほとんど使われていない」状態にあります。
SaaS導入時に「まずは上位プランで試して、不要なら下げよう」と契約したまま、ダウングレードを忘れるケースも多い。月額数千円の差でも、5ツール × 12ヶ月で考えれば数十万円の無駄になります。
また、年間契約で割引を受けるために上位プランで年払いしたが、実際にはその機能をほとんど使っていないというパターンもあります。
最初のステップは「今、自社で何のSaaSにいくら支払っているか」を可視化することです。
棚卸しの方法は以下の通りです。
リストアップしたら、各ツールについて「月額費用」「利用者数」「実際のログイン頻度」「代替ツールの有無」を整理します。
SaaSの選定基準については「SaaS選定チェックリスト」で詳しく解説しています。
棚卸しの結果、3ヶ月以上ログインしていないアカウントがあれば、まずそのユーザーに必要かどうかを確認します。不要であれば解約します。
特にユーザー単位で課金されるSaaS(Slack有料プラン、HubSpot有料シート、Zoom有料ライセンスなど)では、未使用アカウントの解約だけで月額数万円の削減が可能です。
StartLinkでも、AI活用の最適化に伴い複数のAIツールをClaudeに集約し、不要なサブスクリプションを全解約しました。AI利用料を月額35,000円のClaude MAX一本に統合することで、コストを削減しながらAI活用の質を向上させています。
SaaSの重複は、最も見落とされがちなコスト要因です。典型的な重複パターンを紹介します。
| 重複パターン | よくある組み合わせ | 統合先の候補 |
|---|---|---|
| CRM × 名刺管理 × メール配信 | Salesforce + Sansan + Mailchimp | HubSpot(CRM+MA一体型) |
| プロジェクト管理 × タスク管理 | Backlog + Trello + Asana | いずれか1つに統合 |
| ビデオ会議 × ウェビナー | Zoom + Teams + Google Meet | 社内標準を1つに決定 |
| チャット × メール × CRM通知 | Slack + Gmail + 各ツール通知 | Slackを通知ハブに統一 |
HubSpotはCRM・MA・営業支援・カスタマーサービスを1つのプラットフォームに統合しているため、複数のポイントソリューションをHubSpotに集約することで大幅なコスト削減と業務効率化が実現できます。
各SaaSの契約プランが「実際の利用状況に見合っているか」を確認します。
確認すべきポイントは以下の通りです。
多くのSaaSでは年払いにすると10〜20%の割引が適用されます。継続利用が確定しているツールは年払いに切り替えるだけでコストを削減できます。
SaaSコストの最適化は一度やって終わりではありません。四半期に一度の定期レビューを組み込むことで、コスト膨張を継続的に防ぎます。
レビューの際に確認する項目は以下の通りです。
LINEとヤフーの統合に伴い、LINEヤフーは両社で重複していた社内ツールの統合を大規模に実施しました。コミュニケーションツール、プロジェクト管理ツール、人事管理システムなど、重複するSaaSを整理統合し、ITコストの大幅な削減と業務効率の向上を同時に実現しています。
メルカリは急成長に伴いSaaS数が膨らんだ経験から、IT資産管理プラットフォームを導入してSaaSの利用状況を一元管理する体制を構築しました。未使用ライセンスの自動検出と解約プロセスを仕組み化し、コスト削減と同時にセキュリティリスクの低減も実現しています。
HubSpotは中小企業のSaaS統合の軸として特に効果的です。従来、CRM(Salesforce)+ MA(Mailchimp)+ チャットボット(Intercom)+ フォーム(Typeform)を別々に契約していた企業がHubSpotに統合するケースが増えています。
4ツールの月額合計が15万円以上だったコストが、HubSpotのProfessionalプランで月額10万円以下に収まるケースもあります。加えて、ツール間のデータ連携の手間がなくなるため、運用工数の削減効果も大きいです。
SaaSのコスト最適化は「不要な支出を削る」ことであり、「必要な投資まで削る」ことではありません。営業活動の効率を上げるCRMの有料機能や、マーケティングの成果を最大化するMAツールは、ROIが見合っている限り維持すべきです。
削るべきは「使っていないツール・アカウント・機能」です。
ツールAからツールBへの切り替えは、月額費用だけで比較してはいけません。データ移行の工数、社員の再トレーニングコスト、移行期間中の生産性低下なども考慮して、トータルコストで判断します。
コスト削減のために無料ツールに切り替えた結果、セキュリティレベルが低下するケースがあります。顧客データを扱うツールについては、SOC 2やISO 27001などのセキュリティ認証を持つサービスを選定してください。
SaaS費用の適正水準は業種・規模によって異なりますが、一般的な目安は以下の通りです。
| 企業規模 | SaaS費用の売上比率(目安) |
|---|---|
| 10名以下 | 売上の2〜4% |
| 10〜50名 | 売上の3〜5% |
| 50〜200名 | 売上の4〜7% |
この範囲を大幅に超えている場合は、過剰投資の可能性があります。まずは棚卸しから始めて、適正水準を目指しましょう。
SaaS利用料のコスト最適化は、「棚卸し → 未使用アカウント解約 → ツール統合 → プラン適正化 → 定期レビュー」の5ステップで進めます。多くの企業でSaaS費用の25〜30%は最適化の余地があり、年間で数十万〜数百万円のコスト削減が可能です。
特に、複数のポイントソリューションをHubSpotのようなオールインワンプラットフォームに統合することで、コスト削減と業務効率化の両方を実現できます。まずは自社のSaaS利用状況の棚卸しから始めてみてください。
CRMへの統合を検討されている方は「CRM導入完全ガイド」もご参考ください。
四半期に一度の定期レビューをお勧めします。最低でも半年に一度は実施してください。新しいSaaSの導入や人事異動のタイミングでも随時見直すことが重要です。
初期段階であれば可能です。HubSpotの無料CRMやSlackの無料プランなど、基本機能は無料で使えるSaaSは多数あります。ただし、事業成長に伴い有料プランの機能が必要になるタイミングが来るため、「コストゼロ」にこだわるより「投資対効果」で判断することを推奨します。
継続利用が確実なツールは年払いが有利です。多くのSaaSで年払い時に10〜20%の割引が適用されます。ただし、導入直後のツールや利用を検討中のツールは、まず月払いで試して効果を確認してから年払いに切り替えるのが安全です。
ほとんどのSaaSはCSVエクスポート機能を備えています。移行先のツールのCSVインポート機能を使えば、基本的なデータ移行は対応可能です。HubSpotへの移行の場合、インポートウィザードが用意されており、移行手順もドキュメント化されています。
SaaS導入の承認プロセスを明文化し、一定金額以上の契約にはIT担当者の承認を必須にする運用が効果的です。加えて、既存ツールで代替できないか事前に確認するチェックリストを設けることで、重複導入を防げます。