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CRMデータ移行の完全マニュアル|既存システムからの安全な移行手順とチェックリスト

作成者: |2026/02/24 2:18:55

「CRMの乗り換えが決まったが、数万件の顧客データをどう移行すればいいのかわからない」

「Excelの顧客リストをCRMにインポートしたら、文字化けと重複データだらけになった」

「旧CRMと新CRMの項目が合わず、データマッピングの設計で完全に手が止まっている」

——CRMデータ移行は、導入プロジェクトにおいて最も技術的で、かつ最も失敗リスクの高いフェーズです。

顧客データはビジネスの生命線です。移行に失敗すれば、顧客情報の消失、重複データの大量発生、営業活動の停滞といった深刻な被害が生じます。しかし、多くの企業がデータ移行を「CSVでエクスポートしてインポートすれば終わる」と軽視し、本番移行後に問題が噴出するケースが後を絶ちません。

本記事では、CRMデータ移行の全工程を、移行元別(Excel、旧CRM、基幹システム)のパターンに分けて徹底解説します。データマッピング設計書のテンプレート、移行前後のデータ検証手順、並行運用期間の管理方法まで、情報システム部門や導入担当者がそのまま使える実践マニュアルです。

この記事でわかること

  • CRMデータ移行の全体プロセスと各フェーズの具体的なタスク
  • 移行元別(Excel・旧CRM・基幹システム)のデータ移行パターンと注意点
  • データマッピング設計書の作成方法とテンプレート
  • データクレンジングの具体的な手順とチェックリスト
  • 並行運用期間の管理方法と切替判断基準
  • 移行後のデータ検証手順と品質保証のポイント

CRMデータ移行の全体プロセス|6つのフェーズ

CRM設定画面の例:データインポートとプロパティ設定(出典:HubSpot)

移行プロジェクトの全体像

CRMデータ移行は、単なる「データのコピー」ではなく、6つのフェーズで構成されるプロジェクトです。

フェーズ 内容 標準期間 主な成果物
Phase 1:計画策定 移行方針、スコープ、体制の決定 1〜2週間 移行計画書
Phase 2:データ棚卸し 移行対象データの洗い出しと現状把握 1〜2週間 データ棚卸し一覧表
Phase 3:データマッピング 移行元と移行先の項目対応付け 1〜2週間 データマッピング設計書
Phase 4:データクレンジング 重複削除、表記統一、欠損補完 2〜4週間 クレンジング済みデータ
Phase 5:テスト移行・検証 一部データで試験移行、問題点の洗い出し 1〜2週間 テスト移行報告書
Phase 6:本番移行・並行運用 全データの移行、旧システムとの並行運用 2〜4週間 移行完了報告書

移行規模別のスケジュール目安

移行規模 レコード数 移行元 標準期間
小規模 〜5,000件 Excel 3〜4週間
中規模 5,000〜50,000件 旧CRM 6〜8週間
大規模 50,000件以上 基幹システム+複数ソース 10〜16週間

移行プロジェクトの体制

役割 責務 必要スキル
移行PM 全体管理、スケジュール管理、リスク管理 プロジェクト管理、CRM知識
データアーキテクト データマッピング設計、変換ルール策定 データベース設計、ETL知識
データクレンジング担当 データ品質の改善、名寄せ処理 Excel/データ操作スキル
業務部門代表 データの正確性確認、業務要件の提供 業務知識、顧客理解
CRMベンダー/パートナー 技術支援、インポート設定、動作検証 CRM製品の専門知識

Phase 1-2:計画策定とデータ棚卸し

移行計画で決めるべき5つの事項

データ移行プロジェクトの開始時に、以下の5項目を明確にします。

1. 移行対象の範囲(スコープ)

全データを移行するのか、直近の取引データのみに絞るのかを決定します。

移行方針 メリット デメリット 推奨ケース
全件移行 過去の取引履歴を完全に保持 クレンジング工数が大きい 法的保存義務があるデータ
期間限定移行 工数削減、クリーンな状態でスタート 過去データが参照できない 古いデータの利用頻度が低い場合
段階移行 リスク分散、段階的に品質を確認 並行運用期間が長くなる 大規模データ、複数ソース

2. 移行タイミング

業務への影響を最小化するため、移行タイミングを慎重に選びます。月末・期末・繁忙期は避け、週末や連休を活用するのが一般的です。

3. ダウンタイムの許容範囲

旧システムの停止が許容される時間を事前に確認します。ダウンタイムをゼロにしたい場合は、並行運用方式を選択する必要があります。

4. ロールバック計画

本番移行が失敗した場合に旧システムに戻す手順を事前に策定しておきます。ロールバック計画がないまま移行を実行するのは、パラシュートなしでスカイダイビングをするようなものです。

5. 成功基準の定義

移行完了の判断基準を数値で定義します。例えば「移行対象レコードの99.5%以上が正常にインポートされること」「移行後のデータ不整合が0.1%未満であること」などです。

データ棚卸しの実施方法

移行対象データの棚卸しでは、以下の情報を一覧化します。

棚卸し項目 確認内容 記録例
データソース どのシステム/ファイルにデータがあるか 営業部Excel、旧CRM、名刺管理
オブジェクト種別 コンタクト、企業、取引、活動などの種別 コンタクト30,000件、企業8,000件
項目数 各オブジェクトのフィールド数 コンタクト:45項目、企業:28項目
データ品質 欠損率、重複率、最終更新日 電話番号欠損率35%、重複率12%
データ形式 CSV、Excel、API、データベースダンプ Excel(.xlsx)、CSV(UTF-8)
データ量 件数、ファイルサイズ 30,000件、約150MB

Phase 3:データマッピング設計

データマッピングとは

データマッピングとは、移行元の各項目が移行先CRMのどの項目に対応するかを定義する作業です。CRMデータ移行の品質を左右する最重要プロセスです。

データマッピング設計書のテンプレート

以下のフォーマットでデータマッピング設計書を作成します。

# 移行元項目名 移行元データ型 移行先項目名 移行先データ型 変換ルール 備考
1 会社名 テキスト Company Name テキスト 前後の空白除去 必須項目
2 担当者名 テキスト Contact Name テキスト 姓・名に分割 CRM側は姓名別
3 TEL テキスト Phone 電話番号型 ハイフン統一 形式変換が必要
4 メアド テキスト Email メール型 小文字統一 必須項目
5 売上ランク A/B/C Lead Score 数値型 A→100, B→50, C→10 型変換が必要
6 最終訪問日 日付(和暦) Last Activity 日付(西暦) 和暦→西暦変換 形式変換が必要
7 備考 テキスト Description テキスト そのまま移行 文字数制限に注意
8 担当営業 テキスト Owner ユーザーID 名前→ID変換 マスタ突合が必要

マッピングで頻出する課題と対処法

課題 対処法
1対多のマッピング 「住所」→「都道府県」「市区町村」「番地」 プログラムまたはExcel関数で分割ルールを策定
多対1のマッピング 「メモ1」「メモ2」→「備考」 区切り文字(改行等)で結合するルールを定義
該当項目なし 移行先CRMに対応項目がない カスタム項目を追加するか移行対象外とするか協議
データ型の不一致 テキスト↔数値、和暦↔西暦 変換ルールをマッピング設計書に明記しテスト検証

Phase 4:データクレンジング

CRM設定画面の例:データインポートとプロパティ設定(出典:HubSpot)

データクレンジングの重要性

「Garbage in, garbage out」——汚いデータを新CRMに移行すれば、新CRMも汚いデータで汚染されます。移行前のデータクレンジングは、CRMデータ移行の成功率を決定的に左右します。

データクレンジング チェックリスト

以下のチェックリストに基づいてクレンジングを実施します。

表記統一

  • [ ] 会社名の表記統一(株式会社/(株)/㈱ → ルール策定)
  • [ ] 人名の表記統一(全角/半角、スペースあり/なし)
  • [ ] 電話番号のフォーマット統一(03-xxxx-xxxx 形式に統一)
  • [ ] メールアドレスの小文字統一
  • [ ] 住所の表記統一(都道府県の省略なし、番地の数字形式統一)
  • [ ] 全角・半角の統一(英数字は半角に統一)

重複排除(名寄せ)

  • [ ] 会社名+電話番号での重複チェック
  • [ ] メールアドレスでの重複チェック
  • [ ] 会社名の表記ゆれを考慮したファジーマッチング
  • [ ] 重複レコードの統合ルール策定(どちらのデータを残すか)
  • [ ] 統合後のデータ検証

データ品質チェック

  • [ ] 必須項目の欠損チェック(メールアドレス、電話番号等)
  • [ ] メールアドレスの形式チェック(@の有無、ドメインの有効性)
  • [ ] 電話番号の桁数チェック
  • [ ] 日付データの整合性チェック(未来日付、明らかに古い日付)
  • [ ] 退職者・異動者のデータ更新
  • [ ] 倒産・合併企業のデータ更新

不要データの除外

  • [ ] テストデータの削除
  • [ ] 明らかに古い(5年以上更新なし等)データの除外判断
  • [ ] 個人情報保護法に基づく保持期限切れデータの削除
  • [ ] 利用目的外のデータの除外

名寄せ(重複排除)の具体的手順

名寄せは、データクレンジングの中でも最も工数がかかり、かつ最も重要な作業です。3ステップで進めます。

ステップ1: 完全一致の重複排除 ——メールアドレスや電話番号など、一意性の高い項目で完全一致するレコードを検出し統合します。

ステップ2: 類似一致の重複排除 ——会社名の表記ゆれ(「株式会社ABC」と「(株)ABC」等)を検出するため、法人格の除去、全角半角統一、スペース除去、カタカナ変換などの前処理を行い、類似レコードを検出します。

ステップ3: 手動確認 ——自動処理で統合してよいか判断が難しいレコード(同名の別企業等)は、業務担当者による手動確認を行います。

移行元別のデータ移行パターン

パターン1: Excelからの移行

Excelからのデータ移行は、最も一般的なパターンです。

特有の課題:

課題 内容 対処法
シートの分散 部門・担当者ごとに別ファイル 統合前にフォーマット統一
列構造の不統一 ファイルごとに列の順序や名前が異なる マスターフォーマットを策定して統一
自由入力のカオス 備考欄に構造化されていない情報 移行可能な情報を抽出するルール策定
数式・参照の消失 Excel固有の数式が値として固定 エクスポート前に「値のみ貼り付け」
日付形式の混在 和暦/西暦、yyyy/mm/dd/mm-dd等の混在 統一フォーマットに変換
文字コードの問題 Shift-JIS/UTF-8の不一致で文字化け UTF-8(BOM付き)で保存し直し

Excel移行の推奨手順:

  1. 全Excelファイルを収集し、一覧化する
  2. マスターフォーマット(統一テンプレート)を策定する
  3. 各ファイルのデータをマスターフォーマットに転記・統合する
  4. データクレンジングを実施する
  5. CSVファイル(UTF-8)としてエクスポートする
  6. CRMのインポート機能でテスト移行する
  7. 検証後、本番移行を実施する

パターン2: 旧CRMからの移行

旧CRMから新CRMへの乗り換えは、データ量が多く、項目構造も複雑になりがちです。

特有の課題:

課題 内容 対処法
オブジェクト構造の違い CRM間でデータ構造が異なる マッピング設計で吸収
リレーション(関連)の移行 コンタクト↔企業↔取引の紐付け ID体系の変換ルール策定
カスタム項目の移行 旧CRMのカスタム項目→新CRMへの対応 新CRM側でカスタム項目を事前作成
活動履歴の移行 メール・電話・訪問等の活動ログ 移行可否を事前確認(移行不可の場合あり)
添付ファイルの移行 提案書、契約書等の添付ファイル ファイルサイズ・形式の互換性確認

旧CRM移行の推奨手順:

  1. 旧CRMのデータエクスポート機能を確認する(エクスポート可能な範囲・形式)
  2. エクスポートデータの構造を分析する
  3. 新CRMの項目構造とマッピング設計を行う
  4. リレーション(紐付け)の移行方法を決定する
  5. テスト移行を実施し、リレーションの整合性を検証する
  6. 本番移行を実施する
  7. 旧CRMとの並行運用期間を設ける

パターン3: 基幹システム(ERP等)からの移行・連携

基幹システムからのデータ移行は、最も複雑で慎重な対応が求められます。

特有の課題:

課題 内容 対処法
データ量が膨大 数十万〜数百万レコード バッチ処理で段階的に移行
基幹システムの稼働継続 基幹系は停止できない APIまたはETLツールで連携
マスタデータの整合性 商品マスタ、顧客マスタの一致 マスタ同期の仕組みを構築
トランザクションデータ 受発注・請求等の取引データ CRMに移行する範囲を明確に限定
セキュリティ要件 個人情報・機密情報の取り扱い 暗号化、アクセス制御の確認

基幹システムとの連携では、「移行」(一度きりのデータコピー)ではなく「連携」(継続的なデータ同期)が必要になるケースが多いです。API連携やETLツール(データ統合ツール)の活用を検討してください。

Phase 5-6:テスト移行・本番移行・並行運用

テスト移行の実施方法

本番移行の前に、必ずテスト移行を実施します。テスト移行では、移行対象データの10〜20%を使って試験的に移行し、問題点を洗い出します。

テスト移行のチェックポイント:

チェック項目 確認内容 判定基準
レコード数の一致 移行元と移行先のレコード数が一致するか 差異0%が理想、0.5%以内を許容
項目値の正確性 各項目のデータが正しく変換されているか サンプル100件で全件一致
リレーションの整合性 コンタクト↔企業↔取引の紐付けが正しいか サンプル50件で全件一致
文字化けの有無 日本語、特殊文字が正しく表示されるか 文字化け0件
日付の正確性 日付データが正しく変換されているか サンプル50件で全件一致
ファイルの整合性 添付ファイルが正しく移行されているか サンプル20件で全件確認

本番移行の実施手順

テスト移行で問題がないことを確認したら、本番移行を実施します。

本番移行の当日手順:

  1. 移行前バックアップ:旧システムの全データバックアップを取得
  2. 旧システムの入力停止:移行中のデータ変更を防止するため、旧システムへの入力を停止
  3. データエクスポート:旧システムから最新データをエクスポート
  4. 最終クレンジング:エクスポート後の差分データをクレンジング
  5. インポート実行:新CRMにデータをインポート
  6. 移行後検証:レコード数、項目値、リレーションの検証
  7. 関係者への通知:移行完了と新CRM利用開始の連絡

並行運用期間の管理

本番移行後、2〜4週間は旧システムと新CRMを並行運用することを推奨します。並行運用中のルールは、「入力は新CRMに行い、旧システムは参照のみ」が基本です。切替判断基準は「データ不整合ゼロ、業務に支障なし、ユーザーからの問題報告なし」の3条件です。旧システムのデータは移行時点のスナップショットとして凍結し、新CRMに登録された新規データは旧システムには反映しない方針で運用します。

移行後のデータ検証と品質保証

移行後に実施すべき3段階の検証

段階 時期 検証内容 判定基準
第1段階:定量検証 移行当日 レコード数突合、必須項目の充填率、重複チェック 差異0.1%以内、欠損率1%以内
第2段階:定性検証 移行後1週間 項目値の正確性、リレーションの紐付け確認、活動履歴の参照確認 サンプル100件中エラー0件
第3段階:業務検証 移行後2〜4週間 日常業務の再現、レポート値の突合、ユーザーフィードバック 業務が滞りなく実行可能

まとめ

CRMデータ移行は、計画・棚卸し・マッピング・クレンジング・テスト・本番の6フェーズで構成されるプロジェクトです。成功のカギは以下の6点に集約されます。

  • データマッピング設計書を移行プロジェクトの中核成果物として丁寧に作成する
  • データクレンジングに全工程の30〜40%の工数を割り当てる——ここを省略すると新CRMが「汚いデータの倉庫」になる
  • テスト移行を必ず実施し、本番移行前に問題を洗い出す
  • 並行運用期間(2〜4週間)を設け、段階的に新CRMへ切り替える
  • 移行元別(Excel・旧CRM・基幹システム)の特有の課題を理解し、適切な対処法を事前に策定する
  • 移行後の3段階検証(定量・定性・業務)で品質を保証する

CRMデータ移行は地道な作業の連続ですが、ここでの品質が新CRMの活用成果を決定的に左右します。「急がば回れ」の精神で、確実に進めてください。

よくある質問(FAQ)

Q. CRMデータ移行にどのくらいの期間がかかりますか?

Excelからの小規模移行(5,000件以下)であれば3〜4週間、旧CRMからの中規模移行(数万件)であれば6〜8週間が目安です。基幹システムを含む大規模移行では10〜16週間を見込んでください。ただし、データクレンジングの工数は、移行元データの品質に大きく左右されます。データの状態が悪い場合は、さらに時間がかかります。

Q. データ移行で最も失敗しやすいポイントはどこですか?

最も多い失敗は「データクレンジングの不足」です。旧データの重複、表記ゆれ、欠損をそのまま新CRMにインポートし、移行後に大量の品質問題が発生するケースが後を絶ちません。全工程の30〜40%の工数をクレンジングに割り当てることを推奨します。次に多いのは「リレーション(紐付け)の移行漏れ」です。コンタクトと企業の紐付けが切れてしまうと、営業現場で重大な混乱が生じます。

Q. 旧CRMの活動履歴(メール・電話の記録)は移行できますか?

CRM製品によって対応が異なります。多くのCRMはコンタクト・企業・取引のデータはCSVでエクスポート・インポートできますが、活動履歴(メール送受信ログ、電話記録、商談メモ等)の移行は制限がある場合があります。移行先CRMのインポート機能で活動履歴がサポートされているか、事前に確認してください。サポートされていない場合は、旧CRMを参照用として一定期間残す運用が現実的です。

Q. 移行中に営業活動を止めなければなりませんか?

完全に止める必要はありませんが、本番移行のタイミング(数時間〜1日程度)は旧システムへの入力を停止することが望ましいです。入力を止めずに移行を行うと、移行中に更新されたデータが反映されず、データの不整合が生じます。並行運用方式を採用し、移行完了後は「入力は新CRM、参照は旧システムも可」というルールで運用する方法が推奨です。

Q. 自社でデータ移行を行うべきか、外部パートナーに依頼すべきですか?

Excelからの小規模移行(5,000件以下)であれば、CRMのインポート機能を使って自社で対応可能です。一方、旧CRMからの乗り換えや基幹システムとの連携を伴う中〜大規模移行は、外部パートナーの支援を推奨します。特にデータマッピング設計とリレーションの移行は専門知識が必要で、経験のないメンバーだけで進めると手戻りが多発します。

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