「HubSpotに入力したデータを、またSlackで共有して、さらにfreeeに手入力している」「ツールは増えたのに業務は楽にならない。むしろ情報が分散して管理が煩雑になった」——SaaSの導入が進む一方で、ツール間のデータ連携に課題を感じている企業は増えています。
iPaaS(Integration Platform as a Service)やAPI連携を活用すれば、CRMを中心とした統合業務基盤を構築し、ツール間のデータを自動的に同期できます。手動でのデータ転記をなくし、すべてのツールが「つながった状態」で動く仕組みを設計することが、結構ミソになってくるポイントです。
この記事では、iPaaS/API連携の基本概念から、CRMを中心としたツール連携の設計パターン、そして具体的な導入ステップまでを解説します。
iPaaS(Integration Platform as a Service) とは、複数のクラウドサービスをノーコード/ローコードで接続し、データの同期や業務の自動化を実現するプラットフォームです。代表的なサービスとして、Zapier、Make(旧Integromat)、Yoomなどがあります。
API連携とは、ソフトウェア同士がデータをやり取りするための仕組み(Application Programming Interface)を使って、ツール間を直接プログラムで接続する方法です。iPaaSがノーコードで簡単に連携できるのに対し、API連携は開発リソースが必要ですが、より柔軟で高度なカスタマイズが可能です。
| 比較項目 | iPaaS | API連携(カスタム開発) |
|---|---|---|
| 導入難易度 | 低い(ノーコード) | 高い(開発スキル必要) |
| カスタマイズ性 | 中程度 | 高い |
| 初期コスト | 月額数千〜数万円 | 開発費用50万〜数百万円 |
| 運用保守 | iPaaS側で管理 | 自社で保守が必要 |
| 適するケース | 標準的な連携パターン | 複雑な業務ロジック |
企業がSaaSを導入する際、個別最適でツールを選んだ結果、ツール間でデータが分断される「サイロ化」が起きます。CRMに顧客情報、会計ソフトに請求データ、プロジェクト管理ツールにタスク情報、チャットツールにコミュニケーション履歴——と、顧客に関するデータがバラバラに存在する状態です。
スプレッドシートで管理している場合だと、手動で各ツールからデータを集めて突合するという作業が発生します。これは「情報が分散するんですけども全部HubSpotに入っていれば、過去のやり取りとかっていうのが一覧で確認できる」という一元管理の価値を、ツール連携によって実現する発想です。
すべてのツールを1つにまとめるのは現実的ではありません。会計はfreee、コミュニケーションはSlack、プロジェクト管理はNotionなど、各領域に強いツールを使い分けるのが合理的です。
そのうえで、CRM(HubSpot)を「顧客データのハブ」として位置づけ、他のツールとデータを双方向で同期する設計が効果的です。顧客に関する情報はすべてCRMに集約され、各ツールからCRMのデータを参照・更新できる状態を作ります。
Slack(通知・コミュニケーション)
↕
freee(会計)↔ HubSpot CRM(顧客データのハブ)↔ Notion(ナレッジ)
↕
Zoom / Google Meet(ミーティング)
↕
クラウドサイン(契約管理)
特定のイベント(データの作成・更新・削除)が発生した時点で、即座に他のツールにデータを連携するパターンです。
ユースケース例:
このパターンは即時性が求められるケースに適しています。iPaaSの「トリガー→アクション」の基本構造で実装できるため、最もスタンダードな連携パターンです。
一定間隔でデータを一括同期するパターンです。リアルタイム性は不要だが、データの整合性を保ちたいケースに適しています。
ユースケース例:
2つのシステム間でデータを双方向に同期し、常に同じ状態を保つパターンです。
ユースケース例:
双方向同期は「どちらが正(マスター)か」の定義が結構ミソになってくるところです。同じフィールドを両方から更新可能にすると、データの衝突が発生します。「会社情報のマスターはCRM、会計情報のマスターはfreee」のように、項目単位でマスターを定義するのがベストプラクティスです。
HubSpotはApp Marketplaceに1,700以上のアプリ連携が用意されています。まずはネイティブ連携で対応できるかを確認し、対応できない場合にiPaaSやカスタムAPI連携を検討するのが効率的です。
| 連携先 | ネイティブ連携の可否 | 主な機能 |
|---|---|---|
| Slack | あり | 通知・タスク作成・チャンネル連携 |
| Zoom / Google Meet | あり | ミーティングリンク・録画・AI議事録 |
| Salesforce | あり | 双方向データ同期 |
| Google Workspace | あり | カレンダー・メール・ドキュメント |
| freee | あり(Syncアプリ) | 取引先・請求書データ同期 |
| Notion | なし(iPaaS必要) | ナレッジ・タスク連携 |
| クラウドサイン | なし(iPaaS必要) | 契約書データ連携 |
| kintone | なし(iPaaS必要) | 業務アプリデータ連携 |
iPaaSの選定で重要なのは、「どのサービスに接続したいか」と「どの程度の複雑さが必要か」の2軸です。
| iPaaS | 強み | 弱み | 料金目安 |
|---|---|---|---|
| Zapier | グローバルで7,000以上のアプリ対応。英語圏ツールに強い | 日本語UIなし。複雑なフローは高額 | 月$20〜 |
| Make(旧Integromat) | 視覚的なフロー設計。複雑な分岐に強い | 学習コストがやや高い | 月$9〜 |
| Yoom | 日系SaaS(kintone, チャットワーク, クラウドサイン等)に強い | グローバルツールの対応が限定的 | 月¥5,000〜 |
HubSpotと直でNotionやクラウドサインとはつなげられないケースでも、iPaaSを使うことで連携が結構円滑にできたりします。日本企業の場合、国内SaaSとの連携が多いのであればYoom、グローバルツール中心であればZapierかMakeがおすすめです。
HubSpotのData Hub(旧Operations Hub)を活用すると、iPaaSを使わなくてもカスタムコード(Node.js / Python)で直接外部APIを呼び出す連携が可能です。ワークフローの中に「カスタムコードアクション」を組み込むことで、HubSpotの中だけで連携ロジックを完結できます。
Data Hubが有効なケース:
ただし、カスタムコードの保守には開発スキルが必要です。シンプルな連携はiPaaS、複雑な処理はData Hubのカスタムコードという使い分けが現実的かなと思います。
すべての連携を一度に構築するのは非現実的です。以下の順序で段階的に構築することを推奨します。
「とりあえずZapierを契約して、思いついたものを連携していく」というアプローチは、連携フローの乱立を招きます。誰が・どの連携を・なぜ作ったのかが管理できなくなり、1つの変更が他の連携に波及する「スパゲッティ連携」状態になります。まず連携の全体像を設計し、マスターデータの定義を明確にしてから実装に入りましょう。
同じデータを複数のツールで更新可能にすると、データの衝突が起きます。例えば、HubSpotとfreeeの両方で取引先の住所を更新できる場合、「どちらが正しいか」の判断ができなくなります。必ず項目ごとに「マスターはどちらか」「データの更新方向はどちらか」を定義してください。
API連携やiPaaSの自動化は、外部サービスの障害やデータ形式の不一致で失敗することがあります。エラーが発生した場合の通知先、リトライのルール、手動での回復手順を事前に定義しておくことが重要です。
iPaaSは連携の「タスク数」に応じて課金されるモデルが多いです。データ量が増えるとタスク数も急増し、想定外の月額コストが発生することがあります。導入前にデータ量を見積もり、料金シミュレーションを行いましょう。
iPaaS/API連携による統合業務基盤の構築は、以下のフローで段階的に進めるのが実践的です。
まずは自社のツール間で「手動転記」が発生している箇所をリストアップするところから始めていただければなと思います。その手動転記を1つずつ自動化していくことで、統合業務基盤は着実に構築されていきます。
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シンプルなツール間連携(通知、データ転記など)はiPaaSが適しています。複雑な計算ロジックや、大量データの一括処理が必要な場合はData Hubのカスタムコードが有効です。多くの企業では、両方を組み合わせて使うのが最も効率的です。
連携フロー数とタスク数によりますが、中小企業の場合、月1〜3万円程度が目安です。ただし、データ量が多い場合は月5〜10万円を超えることもあります。iPaaSの費用を「手動転記にかかっている人件費」と比較して投資判断するのが良いかなと思います。
SalesforceをSFA、HubSpotをMAとして併用するケースでは、HubSpotのネイティブ連携機能でコンタクト・取引の双方向同期が可能です。「MAとSFA切り分けても大丈夫」な設計が実現できます。ただし、同期ルール(どのフィールドをどちらが上書きするか)は事前に詳細に定義する必要があります。
iPaaSの連携フローは、連携先のAPIアップデートや仕様変更により動作しなくなることがあります。月1回は連携フローの動作確認を行い、エラーログをチェックすることを推奨します。また、四半期に1回は連携フロー全体を棚卸しし、不要な連携を整理するのが良い運用習慣です。