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CRM × 受発注管理の連携設計|BtoB取引のデジタル化と顧客データの統合

作成者: 今枝 拓海|1970/01/01 0:00:00

 

「受注はCRMに記録しているのに、発注管理はExcelの別ファイルで行っている」「営業が受注した案件の納品状況がわからず、顧客に聞かれても即答できない」——BtoBの受発注プロセスとCRMが分断されていることで、こうした問題に悩む企業は少なくありません。

CRM × 受発注管理の連携とは、CRMの顧客・取引データと受発注プロセス(見積→受注→発注→納品→検収)を統合的に設計し、営業からバックオフィスまで一気通貫でデータが流れる仕組みを構築するアプローチです。

この記事では、BtoB取引の受発注プロセスをCRMと連携させる設計パターンから、具体的な実装方法、そしてよくある失敗パターンまでを解説します。


この記事でわかること

  • CRM × 受発注連携の基本概念と必要性
  • BtoB受発注プロセスのデジタル化がもたらすビジネスインパクト
  • 受発注とCRMを統合する設計フレームワーク
  • CRM/HubSpotでの実装方法
  • 注意点とよくある失敗パターン
  • 段階的な導入ステップ

CRM × 受発注管理の連携とは?

CRM × 受発注管理の連携とは、営業が管理する顧客・商談データと、バックオフィスが管理する受発注・納品・検収データを、一つのデータフローとして設計・統合することです。

従来のBtoB企業では、営業プロセス(リード獲得→商談→受注)と業務プロセス(受注→発注→納品→検収→請求)が別々のシステムで管理されていることが一般的です。営業はCRMやSFA、バックオフィスはERP(基幹システム)やExcel/スプレッドシートでそれぞれ独立して管理しているケースが多いかなと思います。

この分断を解消し、受注した案件がシームレスに発注・納品・検収のフローへとつながり、その進捗を営業もリアルタイムに把握できる状態を作ることが、CRM × 受発注連携の目的です。


なぜBtoB受発注のデジタル化が重要なのか

手作業によるボトルネックの解消

多くのBtoB企業では、受注後の業務プロセスに手作業が多く残っています。

業務 手作業のケース 問題点
受注伝達 営業がメールやチャットで事務に連絡 伝達漏れ、情報の欠落
発注書作成 Excelテンプレートに手入力 転記ミス、最新テンプレ不明
納期管理 スプレッドシートで個別管理 ステータス更新漏れ
検収確認 メールで個別確認 確認漏れ、対応遅延
在庫確認 電話やメールで都度確認 即時回答不可、二重受注リスク

スプレッドシートで結構管理されている企業様が多いかなと思いますが、こうした手作業はデータ量が増えるほど限界が見えてきます。特に月間の取引件数が50件を超えるあたりから、手動管理のリスクとコストが急増します。

営業とバックオフィスの情報分断の解消

営業が顧客から「あの案件、いつ納品されますか?」と聞かれた際、受発注の情報がCRMから見えなければ、営業はバックオフィスに確認を取る必要があります。この「確認のための確認」が日常的に発生すると、営業の生産性が下がるだけでなく、顧客体験も低下します。

CRMに受発注の進捗が連携されていれば、営業は顧客の問い合わせに即座に回答でき、プロアクティブな対応も可能になります。

経営の意思決定に必要なデータの統合

受注データと発注データが分断されていると、「売上は立つが、原価(外注費・仕入れ)がいくらかかるのか」を横断的に把握できません。CRMの受注データと発注データが統合されていれば、案件別の粗利をリアルタイムに確認でき、より正確な経営判断が可能になります。


受発注とCRMを統合する設計フレームワーク

全体フロー設計

BtoBの受発注プロセスとCRMの連携は、以下のフローで設計します。

[営業プロセス(CRM)]         [業務プロセス(受発注管理)]
リード獲得
    ↓
商談管理
    ↓
見積作成 ←→ 見積承認
    ↓
受注 ─────────────→ 発注処理
                              ↓
                           納品管理
                              ↓
請求処理 ←──────── 検収完了
    ↓
入金管理

ここでポイントになってくるのが、「受注」から「発注処理」への自動連携と、「検収完了」から「請求処理」へのフィードバックです。この2つの接続ポイントを自動化することで、全体フローが一気通貫で流れるようになります。

データモデル設計

CRMと受発注管理を連携するためのデータモデルは、以下のオブジェクトで構成します。

オブジェクト 役割 主要プロパティ
会社 取引先(顧客・仕入先) 会社名、業種、取引区分
コンタクト 顧客の担当者 氏名、役職、部署
取引(受注) 営業の受注案件 受注金額、受注日、支払条件
発注(カスタムオブジェクト) 仕入先への発注案件 発注金額、発注先、納期
納品(カスタムオブジェクト) 納品の管理 納品日、数量、検収状況

取引(受注)と発注を関連付けることで、1つの受注案件に対して複数の発注が紐づく1対多の構造を表現できます。例えば、顧客に対してシステム開発を受注した場合、開発の外注先A社への発注とインフラの仕入先B社への発注を、それぞれ独立した発注レコードとして管理できます。

受発注ステータス管理の設計

受発注の進捗管理には、パイプライン型のステータス管理が有効です。

受注パイプライン:

見積作成 → 見積提出 → 受注内示 → 契約締結 → 納品中 → 検収完了 → 請求済み

発注パイプライン:

発注準備 → 発注済み → 納品待ち → 検品中 → 受入完了 → 支払処理中 → 支払完了

各ステージに必須プロパティを設定し、ステージ移行時にデータの入力を強制することで、データ品質を担保します。これはCRMのパイプライン設計と同じ考え方です。


CRM/HubSpotでの実装・運用

カスタムオブジェクトによる発注管理

HubSpotのEnterpriseプランでは、カスタムオブジェクトを作成して発注管理を実装できます。

「発注」カスタムオブジェクトの設計例:

プロパティ名 タイプ 説明
発注番号 テキスト(ユニーク) 発注を一意に識別するID
発注先 会社オブジェクトとの関連 仕入先の会社レコード
発注金額 通貨 発注金額
発注日 日付 発注の実行日
納期 日付 納品予定日
ステータス ドロップダウン 発注済み/納品待ち/検品中/完了
関連取引 取引との関連 受注案件との紐づけ

このカスタムオブジェクトを取引(受注)と関連付けることで、受注案件と発注案件が紐づいた状態で管理できます。

ワークフローによる自動化

受発注のフローを効率化するワークフローの設計例です。

  • 受注→発注自動起票: 取引のステージが「契約締結」に移行した時点で、発注カスタムオブジェクトのレコードを自動作成し、購買担当にタスクを自動割当
  • 納期アラート: 発注の納期の3営業日前に、購買担当と営業担当にリマインダー通知
  • 検収完了→請求トリガー: 納品カスタムオブジェクトのステータスが「検収完了」に変わったら、経理チームに請求タスクを自動作成
  • 粗利計算: 受注金額と発注金額の差額を自動計算し、取引レコードの「粗利」プロパティに反映

ダッシュボードによる可視化

経営判断に必要な指標をダッシュボードで可視化します。

  • 案件別粗利一覧: 受注金額 - 発注金額の差額を案件ごとに表示
  • 発注状況サマリー: 発注済み/納品待ち/検品中のステータス別件数と金額
  • 納期遅延アラート: 納期を過ぎても完了していない発注案件の一覧
  • 仕入先別発注実績: 仕入先ごとの発注金額・件数の推移

営業会議用と経営会議用でダッシュボードを分けて構築すると、各シーンで必要な情報に集中できます。

iPaaS連携による外部システムとの接続

HubSpotだけで受発注管理を完結できないケースでは、既存の受発注管理システムやERPとの連携が必要です。

連携パターン 具体例 推奨連携方法
CRM → ERP 受注データをERPの受注伝票に連携 iPaaS(Zapier/Make)
ERP → CRM 納品ステータスをCRMに同期 iPaaS or API
CRM → 在庫管理 受注時に在庫引当を自動チェック API連携
CRM → 会計ソフト 検収完了→請求書自動発行 iPaaS(Yoom推奨)

日系のSaaSツール(kintone、クラウドサインなど)との連携が多い場合は、Yoomが使いやすいかなと思います。


注意点・よくある失敗パターン

失敗1:受注データと発注データのマスターが曖昧

「同じ案件の情報がCRMにも受発注システムにもある」状態で、どちらが正(マスター)かが定義されていないと、データの不整合が発生します。原則として、顧客・商談情報のマスターはCRM、発注・在庫情報のマスターはERPまたは受発注管理システムとし、連携の方向を明確にしましょう。

失敗2:すべての発注パターンを一度にシステム化しようとする

BtoB企業の発注パターンは多岐にわたります(定型発注、スポット発注、外注、仕入れなど)。すべてを一度にシステム化しようとすると、設計が複雑になり、導入が遅延します。まずは売上・発注金額のボリュームが大きい主要パターンから着手し、スモールスタートで進めるのが推奨です。

失敗3:現場の運用を考慮しない設計

システム上は美しい連携フローを設計しても、現場の担当者が使いこなせなければ意味がありません。特に「入力項目が多すぎる」「承認フローが煩雑」といった問題は、現場の負担増とデータ品質低下を招きます。項目は最小限に絞り、必須項目も本当に必要なものだけに限定する設計哲学が大事です。

正直な限界

HubSpotは営業・マーケティングのCRMとしては非常に強力ですが、本格的な受発注管理(在庫管理、ロット管理、製造指示など)の機能は備えていません。製造業や卸売業のような複雑な受発注業務には、専用のERPや受発注管理システムが必要です。HubSpotはあくまで「顧客接点のハブ」として、受発注の進捗を営業が把握するための「窓口」として活用するのが適切な位置づけです。


まとめ

CRM × 受発注管理の連携は、以下のステップで段階的に構築していくのが現実的です。

  1. 現在の受発注プロセスを可視化し、手作業のボトルネックを特定する
  2. CRM上で受注パイプラインのステージ定義を整備する
  3. カスタムオブジェクトで発注管理の基本構造を設計する
  4. ワークフローで受注→発注の自動連携を実装する
  5. ダッシュボードで案件別粗利と発注状況を可視化する
  6. 必要に応じてiPaaS/APIで外部システムとの連携を追加する

まずは「受注データと発注データを同じ画面で確認できる状態」を最初のゴールとして設定し、そこから段階的に自動化を進めていただければなと思います。営業とバックオフィスの情報分断が解消されるだけでも、顧客対応のスピードと経営判断の精度は大きく向上します。

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よくある質問(FAQ)

Q1. 受発注管理をCRMで行うか、専用ツールで行うかの判断基準は?

月間の取引件数が100件以下で、発注パターンがシンプル(外注費の管理中心)であれば、CRMのカスタムオブジェクトで十分対応できます。一方、在庫管理やロット管理が必要な場合、月間取引件数が数百件を超える場合は、専用の受発注管理システムやERPとの連携を検討すべきです。

Q2. HubSpotのカスタムオブジェクトは何個まで作成できますか?

Enterpriseプランでは最大10個のカスタムオブジェクトを作成できます。受発注管理では「発注」と「納品」で2個を使用するのが一般的です。残りの枠は、請求管理や在庫管理など、将来的な拡張に使えます。

Q3. SalesforceのCPQやERP連携機能と比較すると、HubSpotの受発注管理はどうですか?

Salesforceにはより高度なCPQ(Configure, Price, Quote)やERP連携の仕組みがあり、大規模なBtoB企業の複雑な受発注管理に対応できます。HubSpotはその点ではシンプルですが、カスタムオブジェクトとワークフローの組み合わせで中小企業の受発注管理には十分に対応できます。Salesforce経験者の方は、カスタムオブジェクトの考え方がSalesforceのカスタムオブジェクトとほぼ同じですので、スムーズに移行できるかなと思います。

Q4. 外注管理(業務委託先への発注管理)もCRMで管理できますか?

はい、カスタムオブジェクトで「発注」レコードを作成し、会社オブジェクトを「顧客」と「仕入先/外注先」の両方の役割で使うことで管理可能です。取引区分プロパティで「顧客」「仕入先」を区別し、ビューでフィルタリングする設計が実務的です。