本記事では、HubSpotが提供する最新のAI機能、特にRAG(検索拡張生成)、AIエージェントによるチャットボットの構築に焦点を当てて掘り下げていきます。これらの技術がHubSpotとどのように組み合わされ、皆さんの顧客対応や業務効率化にどのように貢献できるのか、具体的な機能や活用事例、そして導入のポイントを、弊社の知見も交えながら分かりやすく解説します。
このAI時代、HubSpotを使いこなす皆さんが、AIを味方につけてビジネスをさらに加速させるためのヒントを、ぜひ見つけてください。
HubSpotは、複数のAIエージェントや様々な機能を備えたAIツール群「Breeze」を提供しています。Breezeは、業務をアシストする「Breeze Copilot」、自動化を実現する「Breeze Agents」、データを拡充する「Breeze Intelligence」などで構成されており、顧客に対応するチームが必要とする全てのAIツールがHubSpotプラットフォーム上に集約されています。
Breeze Copilotは、皆さんの日々の業務を効率化するための無料のAIアシスタントです。具体例は以下になります。
Breeze Copilotは、CRMデータと連携することで、よりパーソナライズされた結果を提供します。
Breeze Agentsは、特定のタスクを自動的に実行するAIエージェントです。HubSpotのBreeze Agentsには、本記事で紹介するAI顧客対応エージェントとAIナレッジベースエージェントがあり、これらはカスタマーサービスの効率化と品質向上において重要な役割を果たします。その他、見込み客の特定を自動化する「案件創出Agent」や、コンテンツ作成プロセスを自動化する「コンテンツAgent」なども登場しています。
HubSpotでは、Breeze顧客対応エージェントやBreeze Intelligenceなどの一部のAI機能にHubSpotクレジットという従量課金モデルを採用しています。
皆さんの会社独自のルール、過去の顧客とのやり取り、製品仕様書、社内マニュアル… こうした「自社データ」は、一般的なAIモデルは学習していません。だからこそ、自社のビジネスに特化した精度の高い回答をAIにさせるためには、RAG(検索拡張生成)という技術が不可欠になります。
RAG(Retrieval-Augmented Generation)は、「情報を検索(Retrieval)」してから、「回答を生成(Generation)」する際に、その検索結果を「拡張(Augmented)」して使う仕組みです。
従来のLLM(大規模言語モデル)は、学習済みの静的なデータしか利用できませんでした。そのため、最新の情報や特定の分野の専門知識、あるいは皆さんの会社の独自の情報を回答に反映させることが難しかったのです。RAGは、この課題を克服するために生まれました。
RAGの基本的なプロセス:
このプロセスにより、LLMは学習データにない情報や最新情報を参照して回答できるようになり、回答の正確性や信頼性が向上します。また、AIが事実に基づかない情報を生成してしまう「ハルシネーション」のリスクを大幅に低減する効果も期待できます。RAGを導入したシステムは、従来のLLMと比較して出力精度を最大13%向上させ、さらに運用コストをトークンあたり20%削減できるという報告もあります。
HubSpotでRAGを構築する際、どのように進めるのでしょうか? 基本的には、AIに参照させたいデータをHubSpot内に格納し、それをAIに学習させる(トレーニングする)という流れになります。
HubSpotのAI機能(特にAI顧客対応エージェントなど)は、以下の様々なデータソースを読み込んでトレーニングできます。
現状ではNotionやGoogleドライブに直接連携する機能はありませんが、PDF化してファイルとしてインプットすれば遜色なくデータとして活用可能です。
HubSpotでのRAG構築は、比較的スムーズに行えるように設計されています。
HubSpotは、このようなRAGの構築をService Hubの顧客対応エージェント機能を通じて実現しています。当初はService Hub Professional/Enterpriseエディションの機能でしたが、現在はHubSpotクレジットを消費することでMarketing Hub, Sales Hub, Content Hub, Operations HubのProfessional/Enterpriseエディションでも利用可能になっています。
また、HubSpotのAPIを活用することで、開発者はさらに広範なHubSpotデータ(コンタクト、企業、取引、チケット、フォーム、CMSコンテンツなど)をRAGシステムに連携させ、より高度でカスタムなAIソリューションを構築することも可能です。
AIエージェントは、ユーザーに代わって自律的にタスクを実行するAIです。HubSpotには、顧客対応を革新する強力なAIエージェントが搭載されています。
AI顧客対応エージェントは、HubSpotのカスタマープラットフォーム上で顧客からの問い合わせに対応するAIです。RAGの仕組みを活用し、HubSpotの顧客データベース、ナレッジベース、過去の対話ログを参照して回答します。
どんなことができる?
AI顧客対応エージェントは、カスタマーサービスの体制を大幅に強化します。多くの問い合わせにAIが自動で対応することで、人間の担当者はより複雑で価値の高い業務に集中できるようになります。
HubSpotのデータによると、AI顧客対応エージェントを導入したチームは、チケット解決速度が6%向上し、AIによる会話解決率は8%以上(トップチームでは90%に達する)を達成しています。海外向けモバイルゲームを提供するXeopleの事例では、AI顧客対応エージェント導入後、73%の顧客が満足したと報告されています。これは、AIエージェントが多言語対応や専門知識の課題を解決し、少人数でのグローバル対応を可能にした成果と言えます。
AI顧客対応エージェントのパフォーマンスは、HubSpotのレポート機能で追跡できます。解決されたコミュニケーション数、人間への引き継ぎ数、未回答の質問数などが確認でき、知識のギャップを特定して改善に繋げられます。
AIナレッジベースエージェントは、AI顧客対応エージェントと連携し、サポートの現場からセルフサービス用のナレッジコンテンツを自動で作成・更新してくれるAIエージェントです。
※ 現在はベータ版の段階で、日本語対応がうまくできていないため、本格的な活用は今後に期待という形になるかと思います。
このエージェントの最大の特徴は、解決済みのサポートチケットや顧客とのやり取りを分析し、そこから包括的なヘルプ記事の下書きを自動で作成できる点です。これにより、1つひとつの顧客コミュニケーションがナレッジベースの構築・強化に繋がります。
AIナレッジベースエージェントは、顧客対応エージェントが回答できなかった質問(ナレッジギャップ)を特定する機能も持っています。特定されたナレッジギャップに基づいて、必要な記事コンテンツを自動生成したり、手動で記事を作成してナレッジベースを補強したりすることが推奨されています。
AIが生成した記事は、公開前に人間がレビュー、編集、承認できるため、品質やブランドボイスを確実に守ることができます。手動でのナレッジベース管理から解放され、確認と調整だけで公開できるため、運用工数を大幅に削減できます。
皆さんもウェブサイトなどで一度は目にしたことがあるでしょう、AIチャットボット。テキストで質問すると、AIが自動で回答してくれる便利な機能です。HubSpotのAI顧客対応エージェントは、このチャットボットとして顧客対応に活用できます。
HubSpotのAIチャットボット(AI顧客対応エージェントをウェブチャットに配置した形態)は、単にFAQを返すだけでなく、HubSpot内に格納されたナレッジベースや自社独自の情報を参照して回答することができます。これにより、ウェブ上に公開されていない会社の情報(施設情報、企業情報、商品情報、取引情報など)に関する顧客の疑問にも回答できるようになります。
チャットボットの回答精度は、どのような情報を参照できるかに大きく依存します。HubSpotのAIチャットボットは、RAGの仕組みを通じて、HubSpot内のナレッジベース記事、ウェブサイトページ、PDFファイル、公開URLといった多様なコンテンツソースを「ナレッジ」としてインプットすることで、回答能力を高めています。
AIチャットボットは、様々な顧客対応シーンで活用できます。
さらに、HubSpotのAIチャットボットを経由した問い合わせは、Google ChatやSlackに自動で通知されるよう設定できるなど、既存のワークフローとの連携も容易です。
HubSpot以外にもRAG対応ツールはございますので、おすすめのツールを合わせてご紹介させていただき、ユースケースの比較をできればと思っております。
活用シーン | 適したツール | 理由 |
---|---|---|
社内情報・複数ツール連携RAG | ・Notion ・GenSpark |
Notion /Googleドライブ/Sharepointなどの内部データベースを参照し、効率的に活用可能 |
Webリサーチ準備・市場調査 |
・Gemini |
Google を軸とした内部情報とWEB情報のリサーチを含めて総合的に出力可能 |
顧客対応(チャット、問い合わせ) | ・HubSpot AIエージェント (顧客対応Agent) |
HubSpotの ナレッジベース連携+24時間対応のエージェントbotを 即座に構築可能/ メール対応可 |
Notion内のワークスペース内のノートやドキュメントを横断検索し、要約やQ&Aを行えます。公式サイトによれば、ワークスペースや連携アプリをまたいで最新情報を取得し、必要な回答を導き出せると説明されています。例えば、社内マニュアルや仕様書をNotionにまとめておけば、Notion AIに質問するだけで該当ページを提示しながら要点をまとめてくれるため、社内ナレッジ検索や議事録作成に有効です。
Genspark社のAIツールは、GmailやGoogleカレンダー、Googleドライブ、Notionなど多様なソースと連携して自動化を実現します。たとえば「AI Secretary」機能ではメール整理やスケジュール調整を一括実行でき、必要な資料や連絡先を自動抽出して対応するため、営業準備やリサーチ作業を大幅に効率化できます。
Googleによる研究支援ツールです。NotebookLMは、ユーザーが選択したGoogleドキュメントやスライドを基に要約や質疑応答、アイデア生成を行います。他にも、Google WorkspaceのGeminiはGoogleドライブと統合されており、長文ドキュメントやフォルダ全体を要約したり、複数ファイルから情報を総合的に抽出して回答することができます。たとえばGeminiを使えば、「XXXの資料のXXを要約してください」などと聞くだけで、ドライブ内の該当資料を検索し主要ポイントを抽出してくれます。
HubSpot AIやRAGの導入は、多くのメリットをもたらしますが、いくつかの注意点と成功のためのポイントがあります。
RAGの回答精度は、参照するデータの質に直接依存します。不正確な情報や古い情報がナレッジソースに含まれていると、AIも誤った回答を生成する可能性があります。
AIが社内データや顧客情報といった機密情報にアクセスする場合、セキュリティは極めて重要です。情報漏洩や不正利用のリスクを最小限に抑える必要があります。
RAGやAIエージェントシステムは、一度構築すれば終わりではありません。参照データの更新、モデルの評価・改善、システムのスケーリングなど、継続的な運用とメンテナンスが必要です。特にデータの自動更新パイプラインがない場合、手動での更新作業に工数がかかる可能性があります。
AI技術は急速に進化しており、自社にとって何が最適かを見極めるためには、**PoC(概念実証)**を実施し、小さく始めることが推奨されています。
AI技術は日進月歩で進化しており、HubSpot AIもその最前線にいます。AIエージェント、RAG、AIチャットボットの未来は、私たちの想像を超えるビジネスの可能性を秘めています。
ガートナーは、2028年までにエンタープライズソフトウェアアプリケーションの33%がエージェントAIを搭載し、日々の業務決定の少なくとも15%がAIエージェントによって行われると予測しています。また、2029年までにカスタマーサービスの問題の80%がAIエージェントによって自律的に解決され、運用コストが30%削減されるとも予測しています。
参考リンク:ガートナー、2029年までにエージェント型AIが顧客の問題の80%を解決すると予測
これは、AIエージェントが単に指示されたタスクを実行するだけでなく、状況を判断し、自ら計画を立て、複数のツールを連携させながら目標達成に向けて行動する、より自律的でプロアクティブな存在になることを意味します。顧客サービスでは、顧客が問題を抱える前にAIが課題を特定し、解決策を提示する「予防的サポート」が実現するかもしれません。
RAG技術は、テキスト情報だけでなく、画像、音声、動画といったマルチモーダルな情報源を参照できるようになるなど、さらに進化を遂げると考えられます。これにより、AIはより豊かなコンテキストを理解し、より正確で包括的な回答を生成できるようになります。また、検索アルゴリズムも高度化し、ユーザーの意図をより深く理解した上で、最適な情報を引き出す能力が向上するでしょう。
将来のAIチャットボットは、より人間らしい自然な会話能力を持ち、顧客の感情や意図を深く理解できるようになります。単なる情報提供だけでなく、顧客の購買履歴や行動パターンに基づいた超パーソナライズされた提案を行ったり、複雑な問題解決を支援したりするようになります。また、HubSpot CRMとの連携がさらに深まり、チャットボットが顧客との対話を通じて得た情報をCRMにリアルタイムで反映し、営業やマーケティング活動にシームレスに繋げる役割を担うでしょう。
※ 実際に個人のパーソナリティ等を含めたインプットを大量にしたAIで、個人の思考をおおよそ再現する、という研究もあるので、それを顧客向けに提供するという可能性も今後は出てくるのではないかと思っております。
HubSpot AIは、顧客対応エージェントとナレッジベースを組み合わせたRAG(検索拡張生成)によって自社や外部WebデータをAIが活用できるようになり、AIエージェントが顧客対応や業務の自動化を担う実例も増えてきています。
AIチャットボットも、RAGによる知識武装によって、よくある質問への対応だけでなく、皆さんの会社独自の情報に基づいた高精度な回答を提供できるようになり、顧客満足度向上と問い合わせ削減に貢献します。
ぜひ一度ご利用を検討いただいてもよいかと思っております。もし詳細な構築や拡張性を持たせた設計をされたい企業様がいればお気軽にお問い合わせくださいませ。